My Big Fat Greek Wedding

マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング  (2002年9月)

「マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング」は、今夏のアメリカ映画界の最大の番狂わせ、と言うか、最も意外なヒットとなった。新規公開映画というのは、公開初週に最も稼ぎ、その後興行成績は漸減していくというのが普通である。それが「マイ‥‥ウェディング」の場合、既に公開されて20週間にもなるのに、いまだにしぶとく人気を保っている。というか、毎週毎週観客動員数を増やしているという、記録破りの真っ最中だ。公開後15週目で初めて興行成績のベスト・テン入りを果たし、先週は公開20週目にしてついに第2位にまで浮上した。公開20週目にして最高の成績である。ここまで尋常じゃない記録を打ち立てた映画を見過ごす手はあるまい。


ギリシア系移民の父母を持つトゥーラは、男の子に縁のないまま30歳になってしまった。トゥーラはシカゴで家業のギリシア・レストランを手伝っていたが、一計を案じて母と叔母を抱き込み、頑固な父の説得に成功して、叔母の経営する旅行代理店で働き始める。そしてついにトゥーラにもボーイフレンドができ、二人は結婚を意識するようになるが、しかし、父はギリシア系はギリシア系の人間と結婚するものと決め込んでおり、二人の交際は前途多難だった。果たして二人は無事結婚できるのか‥‥


「マイ‥‥ウェディング」が公開当初、興行成績のベスト・テンにもまるでかすらなかったのは、もちろんこれがインディ映画であり、ハリウッド大作のように全米で2,000から3,000スクリーンで一挙上映という、ハリウッドのメイジャー・スタジオがとる拡大公開政策がとれなかったためである。「マイ‥‥ウェディング」の公開初週の公開スクリーン数はたったの100館で、口コミで人気が広まるに連れて、段々上映劇場数も増えていった。


それにしてもこれだけしぶとく人気を保っている映画というのは、最近見たことがない。だいたいいつまでも延々と劇場にかかっている作品というのは、えてして少ない劇場でかかり、口コミで段々噂が広まっていくタイプで、どうしてもハリウッド大作というよりはインディ映画になる。今年そういった感じでロング・ランをしていた作品には「ナイン・クイーンズ」「チョコレート」があり、昨年では「メメント」「アザーズ」等があったが、やはり全部インディ系の作品だ。それに「アザーズ」だって、公開後しばらくして興行成績を上げていったとはいっても、それでもベストの成績は公開後2か月目で、今回のように公開後5か月もしてから最高の成績を獲得するなんてのは、ちょっと聞いたことがない。


いったい何がここまで噂が噂を呼んで人が集まるのか。もちろん最大の理由は今夏、よくできたロマンティック・コメディが他に見当たらなかったからということになろう。昨年のテロ以降、TVでは人々が安心して見れるコメディ人気が再燃し、「フレンズ」が圧倒的に人気のある番組として復活したのだが、企画から製作、公開まで時間のかかる映画では、そういう作品がすぐに劇場にかかるということはなかった。ただでさえその手の作品が少なかった今夏に突如現れた「マイ‥‥ウェディング」は、人々が待望していた作品だったのだ。


もちろんだからといって、質が悪ければここまで人が入るわけはない。それだけでなく、ちゃんとポイントを押さえ、ハート・ウォーミングで安心して楽しめる作品であったからこそここまでヒットしたわけであって、やはり作品のできを第一に誉めるべきだろう。正直に言うと、「マイ‥‥ウェディング」で描かれる内容や演出は、これまでどこかで見たことのあるようなシーンばかりで、特にこれがいいとか、感心したとかいうようなことはなかった。ニューヨーク・タイムズが、よくできたシットコムをそのまま映画にしたような作品と言っていたが、言い得て妙で、確かにその通りなのだ。タイムズはどちらかと言うと、誉めているのではなく、やや皮肉気味にそう言っていたのだが、私も同様の感触を受けた。「フレンズ」と、「ウィル&グレイス」、それに「ダーマ&グレッグ」あたりのできのよかったエピソードをかけ合わせると、「マイ‥‥ウェディング」になりそうである。しかし、確かによくできており、わかっちゃいるけど笑わされるという感じで、確実にツボは押さえている。口コミで人が増えるのも、やはりよくわかるのだ。


特にこの作品は、ギリシア系移民という、どちらかと言うとアメリカでもマイナーな部類に入る人々が主人公だ。ギリシア系というのはまったく白人とは言えない民族であり、今、アメリカと敵対しているアラブにも近い。そういう人々による、人生を肯定する大らかなコメディというのも受けた要因の一つであるような気がする。ギリシア系の特徴の一つとして、集まり事があると一族郎党が勢揃いし、飲めや歌えやの大騒ぎになり、勧められた酒は断れず、一気飲みを強制させられる。もちろん結婚式ともなると一生に一度の大事だから、名古屋の結婚式もかくやの一大イヴェントになる。なんだ、ギリシアって日本とそっくりじゃん。と思ったのは、実は日本人の私だけではなくて、実はうちもそうだ、うちもそうだという人々がアメリカ中から名乗りを上げた。そういう人たちが結構多かったわけで、彼らを巻き込むことによって、この映画は大きく成功したのだ。


私が以前よく見ていたABCの刑事ドラマの「NYPDブルー」の初期の方で、主人公のアンディ (デニス・フランツ) が惚れる女性地方検事のシルヴィア (シャロン・ローレンス) がギリシア系という設定となっており、そのためアンディがシルヴィアの親族と顔を合わすと、どうしても酒を勧められる。ところがアンディはアル中であって、禁酒中の身だ。しかし場の雰囲気もあり、一杯くらいならいいだろうと酒を口にしたアンディがまたアル中への道を転がり落ちていくという展開が、番組の大きな軸になっていた。「マイ‥‥ウェディング」を見ていて、私はふとこの話を思い出した。ギリシア系って本当にそうなんだな。


私の住むクイーンズにはアストリアという、ギリシア系移民の多い地区がある。わりと日本人も住んでおり、結構その辺まで足を伸ばす機会も多いのだが、そうすると、その辺で外食ということになると、どうしてもギリシア・レストランということになる。それで感じたのだが、ギリシア料理は魚貝類を使う料理が多い。タコなんて、アメリカに住んでてジャパニーズ・レストランとギリシア・レストラン以外では食ったことがない。つまり、わりと日本人の味覚と共通する部分が多いのだ。うーん、やはりこの映画、結構身近に感じる。


また、タイトルとの類似もあって思い出すのが、やはり同様に、数年前に限定公開ながらしぶとく長い間人気を保っていた「フォー・ウェディング」である。そういえば今現在、ミラ・ナイールの「モンスーン・ウェディング」も公開されており、わりと好評だ。インディ映画でなくても、「ベスト・フレンズ・ウェディング」なんてのもあったし、ウェディングというのがタイトルにつくと、わりと高い確率でヒットしているような気がする。実際結婚式というのはその性質上、ドラマになりやすいし、やはり、特に女性観客の動員が見込めるんだろう。


一つ気になったのが、主人公トゥーラの父はギリシア正教を頑固に信じており、イアンがギリシア正教に改宗しなければ結婚を認めないと言い張る。それに負けてイアンは30歳にもなってバプティズムを受けるわけだが、私は、うーん、なぜここまで親に迎合しなければならないのか、見ていて不思議だった。宗教って思い込みだから、信じ込んでいる人には何を言っても効き目はない。だからこそ宗教絡みで戦争も起きるわけだが、困るよねえ。


主人公のトゥーラを演じるニア・ヴァルダロスは脚本も書いており、ギリシア系の名前から見ても、自分の経験を基に描いてあるのが知れる。キャシー・ナジミーに結構似ている。恋人のイアンを演じるのはジョン・コルベット。最初、彼を知っているが、どこで見たのかどうしても思い出せなくて、家に帰ってIMDBをチェックして、やっと「たどりつけばアラスカ (Northern Exposure)」のクリスだったことに気がついた。いや、懐かしいなあ。彼はどことなくエドワード・バーンズに印象が似ている。HBOの「Sex and the City」の先シーズンにもサラ・ジェシカ・パーカーと絡む役で出ていたようだが、そちらの方は最近全然見てなかったので、すごく久し振りに見たという感じがする。監督のジョー・ズウィックはこれまでTVのシットコムを専門に演出してきた人間である由。プロデューサーの中には、トム・ハンクスの名も上がっている。







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