キラ・セジウィック主演の刑事ドラマ「ザ・クローザー (The Closer)」は、TNTを代表する人気ドラマというよりも、全ケーブル・ドラマを代表する、最も人気のあるドラマだった。本人がやろうと思えばまだまだ続けられたはずだが、この辺が潮時だと思ったのだろう、セジウィックは今季限りで番組を降りることを表明、「クローザー」は最終回を迎えることになった。
とはいえ、これだけ人気のある金のなる木をむざむざ終わらせるのも惜しい。というわけでTNTおよび番組プロデューサーは、セジウィックなしで、その他のキャラクターをそのまま残したまま、新しい番組を構築するスピンオフ製作を考えた。それが「メイジャー・クライムズ」だ。
いったいこれが、主要キャラクターがいなくなっただけの「クローザー」なのか、あるいはまったく別番組になったのか。番組タイトルの「クローザー」とは、すなわちセジウィック演じる主人公のブレンダのことを指しているのだから、確かに彼女のいなくなった番組は、「クローザー」ではないだろう。しかし、セジウィック以外はほとんど登場人物はそのまま、重大犯罪課という舞台設定も同じまま引き継ぐのだ。それは同じ番組とは言わないか?
そのセジウィックに代わる主役という大任を引き受けるのは、「クローザー」で、直感型のブレンダとは対極にいるルール重視のお役所人タイプのシャロン・レイダー役で登場していたメアリ・マクドネルだ。 つまり他のメンツは一緒でも、主人公の役柄自体はがらりと変わる。ブレンダは他に取り換えの利かないワン・アンド・オンリーのキャラクターだったから、 いっそまったく逆のタイプの主人公にしてしまえという発想は悪くない、というか、それしかないと思う。ただし、それが成功するかどうかは別問題だ。
「クローザー」最終回ではブレンダは宿敵のストローと相見え、ついに彼を逮捕する。最終回の進行は、いつものテンポに較べ、忙しない、急ぎ過ぎという印象を受けるが、まあストローとはなんらかの決着をつけないといけなかったろうから、しょうがあるまい。昇進のために重大犯罪課を去るブレンダは、最後、整理した荷物を持ってエレヴェイタに乗るところで番組は終わる。
この最後のシーンは、エレヴェイタに乗り込んだブレンダが、斜め下を向いてなにやらにやりと笑みを浮かべ、そこで幕となる。たぶん思い出し笑いというか、何事かをやり遂げた自分自身への賞賛の笑みというか、演出家がやりたいことはなんとなくわからないではなかったが、しかし、なぜ横を向いて笑う、みたいな印象を受けるのも確かで、一緒に最終回を見ていたうちの女房は、正直に意味のわからない演出、と異議を唱えていた。まあ確かに、私も一瞬違和感持った。
話は逸れるが、ストローを演じているビリー・バークは、「クローザー」が終わった翌月から始まった、電力のなくなった世界を描くJ. J. エイブラムス製作のNBCのSFドラマ「レヴォリューション (Revolution)」で、主人公を演じている。ほとんど間髪を入れずに新しい番組で主演、しかも舞台は30年先の未来で、連続強姦殺人魔が今度は人類の唯一の希望かよ、といささか驚きを禁じ得ないのだった。
閑話休題。そしてブレンダは去り、9時枠の「クローザー」最終回の直後の10時枠から始まったのが、「メイジャー・クライムズ」だ。ストロー逮捕の重要な鍵となった目撃者の少年ラスティは、母親がいないためブレンダの家に一時的に引き取られていたのだが、ブレンダが引っ越してしまったため居場所がなくなってしまう。彼は重要な証人なのでいなくなられると困る。それでレイダーが母親を探してやることを条件に引き止めている。
キャラクターだけでなく、話自体もそのまま「クローザー」から続いているとは思わなかった。とはいえ第1話の最後で、実はレイダーは少年の母の名前すら知らなくて、母親探しにまったく着手していないことがばれる。要するに忙しくてそれどころじゃなかったためだが、この先も道は平坦とは言い難い。
また、レイダーが新しいオフィスに越してきてブレンダが使っていたデスクの引き出しを開けると、そこには慌ただしく移動して出て行ったブレンダが溜めてそのままになっていたキャンディ類がごっそりとそのままになっている、なんて芸コマの演出もある。ブレンダがいないことを視聴者に再確認させると共にその違和感をやわらげ、視聴者をすんなり新しい番組に移行させるための方便だろう。
一方、「メイジャー・クライムズ」ではいなくなったのはブレンダだけではなく、実はブレンダの片腕だったゲイブリエル (コリー・レイノルズ) もいない。ブレンダが彼は使えると今回の昇進に際して一緒に連れて行ってしまったからだ。また、J・K・シモンズ演じるポープもいなくなった。
しかしそれ以外では、ほとんどそのまま「クローザー」の布陣が残っている。確かに、一見しての絵は「クローザー」そのままなのだ。番組オープニングのタイトル・クレジットもまったく「クローザー」そのままで、はて、今、タイトルに「The Closer」と出たっけ、それとも「Major Crimes」って書いてあったっけ、と一瞬戸惑う。
その「メジャー・クライムス」、第1回は冒頭いきなりど派手などんぱち射撃で始まる。視聴者の興味を引っ張るために、かなり力入れているなという感じだ。そこで捕らえた犯罪一味の一人が、よりにもよってパトカーの中にいる時に射殺される。ルール重視、効率重視のレイダーの指揮の下では、すぐさま重要な証言を得ることに重点を置くため、署に容疑者を連れて行く時間を惜しんで尋問に入るからだ。事件を早期解決するために、犯罪者が罪を認めて証言するなら、司法取引によって罪を軽くしてやる。
もちろん叩き上げ、現場で経験を積んだ重大犯罪課のほとんどの者たち、なかんずく強面のプロヴェンザはそのやり方が気に入らない。犯罪者は絞め上げて自白させ、その罪に見合うだけの刑罰を課すべきなのだ。さらにブレンダが去った後、チーフになるのは自分だと思っていたから、なおさらレイダーを敵視する。ブレンダもそうだったが、レイダーも最初はほとんど四面楚歌の状態からチームの信頼を得ないといけない。女はつらい。
結局、うーん、「クローザー」の後を継ぐのはやっぱりなかなか難しいよなと思いながら見始めたのだが、最後はそれなりに番組に引き込まれて見ていた。レイダーはまったくブレンダとは人種が違い、番組はまったく「クローザー」ではないのだが、それはそれでうまくツボを抑えているとは言える。さすがに「クローザー」と同じ者たちが番組を作っているだけのことはある、というのが偽らざる印象だ。マクドネルがセジウィックに伍する強い印象を与えるキャラクターを構築でき得るかというと、ハードルは高いと思うが、しかし「クローザー」ではない新しい番組を構築できるかというと、それは充分可能と断言できる。