20/20: リヴィング・ウィズ・マイケル・ジャクソン

放送局: ABC

プレミア放送日: 2/6/2003 (Thu) 20:00-22:30


プライムタイム: ザ・メニー・フェイシズ・オブ・マイケル・ジャクソン

放送局: ABC

プレミア放送日: 2/17/2003 (Mon) 20:00-21:00


デイトライン: マイケル・ジャクソン・アンマスクト

放送局: NBC

プレミア放送日: 2/17/2003 (Thu) 21:00-23:00


マイケル・ジャクソン・テイク2: ジ・インタヴュウ・ゼイ・ウドゥント・ショウ・ユー

放送局: FOX

プレミア放送日: 2/20/2003 (Thu) 20:00-22:00


マイケル・ジャクソンズ・プライヴェイト・ホーム・ムーヴィーズ

放送局: FOX

プレミア放送日: 4/24/2003 (Thu) 20:00-22:00


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いくらアメリカで話題になった番組といえども、既に日本でも放送された番組について書くことはちと躊躇ったのだが、アメリカで放送されたマイケル・ジャクソン関係番組のすべてが日本でも放送されたわけではないし、その辺の経緯を書き留めておくことは、後々このマイケル・ジャクソン騒動を思い返す時に役立つかもと考えた。


アメリカにおけるこの騒ぎは、英国で放送され、かの地でワールド・カップの視聴率も真っ青というほどの視聴率を上げたとされる、ジャーナリスト、マーティン・バシアがマイケルに8か月間つきっきりで撮影した、「リヴィング・ウィズ・マイケル・ジャクソン」のアメリカでの放映権を、ABCが600万ドルで買い取ったところから始まる。この番組は、老舗報道番組 (アメリカではニューズ・マガジンと呼ばれる) の「20/20」枠内で、バーバラ・ウォルターズをホストにして放送された。


まず、これが不思議である。オリジナルでも誰かがホストで進行役を受け持ったのかは知らないが、別にウォルターズはアメリカではよく知られているパーソナリティとはいえ、わざわざアメリカでの放送に際して、誰かがホスト役を務める必要がある番組ではまったくなかった。「20/20」というブランド名を冠する必要があったとも思えない。はっきり言ってウォルターズは邪魔だった。そういうよけいな部分を付け足したせいもあってか、番組は2時間を超えてしまい、当初8時から10時までの特別枠での放送だったはずが、結局、その日の「20/20」は前代未聞の3時間枠で放送され、マイケルを特集した部分だけを見ても、終わったのは既に10時半近かった。


実はこの特番、当初は「20/20」の定時枠である金曜夜に放送が予定されていた。因みに木曜夜に編成されていたのは、「N.T.S.B.: The Crash of Flight 323」というマンディ・パティンキン主演のTV映画で、その内容は、旅客機が墜落した事件を追う米国運輸安全委員会 (NTSB) の活躍を描くというものだった。ところが周知のように、その直前の週に、スペース・シャトル・チャレンジャーが落ちた。ABCはその直後に、飛行機墜落事故をテーマとしたTV映画を放送するわけにも行かず、結局放送は棚上げになった。そのため急遽、翌金曜に予定されていた「リヴィング・ウィズ・MJ」の放送を早め、「NTSB」の方は無期限延期となったものである。金曜には、通常通りの番組 (つまり再放送番組のオン・パレードだ) が編成された。「NTSB」の方は、3月下旬現在、まだ放送の目途は立っていない。


この、「リヴィング・ウィズ・MJ」のぎりぎりの時点での放送日時変更は、ABCにとっても大きな賭けだったはずだ。なんせ、チャレンジャーが落ちたのが土曜、放送日程の変更が正式に決まったのが月曜日で、既に番宣は金曜放送として出回っている。とはいえ、番組の放送自体が決まったのもわりと直前のことで、英国でのこの番組の大成功を見たABCが、旬の冷めないうちにと、急遽編成が決まったものだ。そのため「リヴィング・ウィズ・MJ」という番組自体は、週刊のTVガイドにも間に合わなくて載っていなかった。元々載っていなかったものを一日くらい移動してもかまうまいという考えが働いたのかもしれない。


しかし、木曜のこの時間帯の他のネットワークの裏番組には、NBCの「フレンズ」があるなど、金曜より競争が激しい。本当に、なぜ、わざわざ直前になって放送を早めたのか、何が決定要因になったのかは、ちょっとわからない。こういう、真面目なというよりは娯楽色の強い番組は、できればチャレンジャー事故関係ニュースが一段落してからの方がいいのではと普通は考えるはずなのだが。いずれにしても、番組は放送自体が急に本決まりになった上に、その日程もすぐに変更を強いられてしまったため、視聴者は、「MJ」がいつ放送されるのか、本当に直前になるまでわからなかったのだ。


それなのに、その「リヴィング・ウィズ・MJ」が叩き出した、誰もが唖然とした驚異的な視聴率の高さは、マイケル・ジャクソンという人間に対し、誰もが圧倒的な見世物的な興味をそそられていたことを如実に証明した。私のようにTV番組情報を飯の種にしている人間でも、情報が二転三転したためいったいいつ放送されるのか当日になるまで確信が持てなかった番組を、全米で2,700万人もの人間がいちいち情報を追っかけ、当日のTV情報をチェックしてまでチャンネルを合わせて見たのである。マイケル・ジャクソン恐るべし。


しかし、今回のイヴェントとしてのマイケル騒動は、実は、この「リヴィング・ウィズ・MJ」が放送された直後から面白くなったと言える。元々この番組とは関係ないところで、NBCの報道番組「デイトライン」は、マイケル特集を予定していた。最近崩れていく顔が人々の噂になり、ドイツにまで行って自分の子をホテルの窓からぶら下げてスキャンダルになったりと、何かと話題の尽きない人間であるだけに、「MJ」とは別にネットワークが独自の企画を立てていたとしても、何の不思議もない。元々マイケルに人々をTVの前に呼ぶことのできるネイム・ヴァリュウのあったことは、一昨年、マイケルのワンマン・ショウを中継したCBSの「マイケル・ジャクソン: サーティース・アニヴァーサリー・セレブレイション」が例外的に高い視聴率を叩き出したことで、既に誰もが理解してはいた。ただ、ここまで人々がマイケルの話に飢えていたのだとは、誰も思っていなかったのだ。


しかし、「MJ」の盛り上がり方は、これを放送したABCの、希望的観測すら軽く超えるものだった。こういう記録を打ち立てられては、他のネットワークも指をくわえて黙って見ているわけには行かない。うちもとっととこのブームに乗らなくてはと、慌ててマイケル特番製作に走り回った。最も漁夫の利を得たのは、FOXだったろう。なにせマイケル本人が、「MJ」に対抗して、弁明のために自分が所有するヴィデオを公開するという、その放映権を獲得したのだ。これはおいしい。FOXは全ネットワークによる入札で500万ドルという最高額を提示、放映権を獲得した。この番組、「マイケル・ジャクソン: テイク2」は、「MJ」放送の2週間後に放送された。


そしてその2本の番組の間に、前出の「デイトライン: マイケル・ジャクソン・アンマスクト」が編成され、それに対抗したABCがわざわざまた「MJ」の再放送を裏番組として充て、ついでにこれまでのフッテージを使ってさらに新しいマイケル特集の「プライムタイム: ザ・メニー・フェイシズ・オブ・マイケル・ジャクソン」を直前を付け加えるなど、3時間のマイケル特番を組んで、「デイトライン」潰しに出た。「デイトライン」は当初1時間番組の予定だったが、ABCに対抗するため番組を2時間枠に延長、さらに翌火曜に再放送もしている。


もちろんCBSも黙って見ているわけがなく、「60ミニッツ」のエド・ブラッドリーが直接マイケルの住むネヴァーランドに出向いて出演交渉を行ったそうだが、門前払いを食らったそうである。可哀想だが、当然だろう。ケーブルではVH1を中心にマイケル特番が組まれた。VH1は「MJ」の再放送権を事前に獲得していたために、「MJ」を繰り返し放送するマラソン「MJ」まで行ってしまった。そんなこんなで2月6日から2週間の間に、ネットワークで10時間、ケーブルでも約10時間におよぶマイケル関係の特番が編成されたのであった。この数字は、多分ネットワークがチャレンジャー事故関連に割いたニュース報道の時間よりも多いだろう。


番組別に見ると、最も面白かったのが一番最初に放送された「リヴィング・ウィズ・MJ」であったということは論をまたない。バシアにほとんど騙されて、黙っていりゃいいものをよけいなことまで口走り、金遣いの荒さを露呈し、自分の性癖や小児愛好家であることまで自らばらしてしまうマイケル。彼は基本的に正直なようだが、それなのに、顔の整形に関しては世界中の誰もが知っているのに2度しか整形してないと、誰もがはっきりとわかる嘘をつく。それらをまたなんとかごまかそうと言いつくろうマイケル。なんて可哀想なスーパースター。


ただし、これらの内容も、編集の技術によって、とにかくマイケルを小児愛好家の変態と視聴者に思わせるように仕向けたバシアの思惑の成果であったということは、後にFOXが放送した「テイク2」で判明した。もちろん視聴者がそう思い込んでしまう素地は既にできてはいたが。バシア自身も「プライムタイム」に登場して撮影時の話を述べていたが、しかし、この男がジャーナリストとして信頼に足る男ではないことも、今では世界中の人間の知るところとなった。はっきり言ってこの男とスターの私生活を覗き見しようとするパパラッチの間には大差はない。自分が言わんとしていることのある程度の強調は、主張を明確にするためにも必要だとは思うが、バシアのしたことは強調ではなく、マイケルの信頼を悪用した歪曲である。こんなジャーナリストの風上にも置けない奴に騙されたマイケルが、とても可哀想に思えてくる。


「マイケル・ジャクソン・アンマスクト」と「ザ・メニー・フェイシズ・オブ・マイケル・ジャクソン」は、はっきり言って両者はほとんど同じ番組である。似たような近親者にインタヴュウして、マイケルの実像を探るという同じ方法論を用いている上に、両方とも整形外科医に意見を訊いて、いったいどことどことどこを整形したのか、なんてまったく同じことをやっていた。結局、直接本人に話を訊くことができないからこういう作りにならざるを得ないのだが、こう持って回ったような作りでは、「リヴィング・ウィズ・MJ」のようなインパクトを視聴者に与えることは到底できない。多分整形した回数は少なくとも50回以上とする医者の意見とかは面白かったが、その辺止まりである。


私は基本的にマイケルが好きである。彼のダンスは今見ても依然世界の一流だと思うし、彼の性癖はともかく、マイケルが世界の音楽界に与えた影響は、誰も無視することはできないだろう。「スリラー」の影響を受けていないアーティストはこの世にはいない。たとえ変態であることが明らかにされても、多分ハリウッドには彼よりも変態だが、うまくごまかして、仮面を被って生活している奴がいっぱいいる。マイケルの場合、ヘンに正直なので、その辺のごまかし方が下手なのだ。


それまで多少の問題があったとはしても、何の過不足もなく好きなように生活してきたのに、いきなりマスコミに自分の私生活に押し入られ、その最も尋常じゃないところだけにフォーカスを当てられ、叩かれて右往左往しているマイケルを見るのは、可哀想の一言に尽きる。スーパースターとして何でも手に入る金と名声の代償がそれなら、スーパースターになんかならなくてもよかったと思ったことはないのだろうか。しかし、44歳にもなって、さも当然のように永遠に生きたいとか、いつまでもピーターパンのままでいたいと平気で口にするマイケル‥‥やっぱり彼の頭の中は謎だ。



追記 (4/03):

その常軌を逸した言動が世界中のファンやパパラッチを喜ばせ? ているマイケル・ジャクソン、2月はその彼の私生活を明るみに出したドキュメンタリー、「リヴィング・ウィズ・マイケル・ジャクソン (LWMJ)」が世界中の話題をさらい、ある意味で不変の人気を証明した。しかし、フリークス扱いされたマスコミの取り扱い方に本人が痛く不満だったのは当然で、マイケルは「LWMJ」放送直後に、自分でも撮影していた「LWMJ」未放送フッテージを「ジ・インタヴュウ・ゼイ・ウドゥント・ショウ・ユー」という番組名でFOXから放送、失地回復に努めた。


しかしそれでも満足していなかったのは明らかで、さらに今回、過去のホーム・ヴィデオまで持ち出してきて、自分がいかに普通の成人男子であるかということの宣伝に力を注いだ。それがこの「マイケル・ジャクソンズ・プライヴェイト・ホーム・ムーヴィーズ」である。この番組、タイトルがすべてを物語っているように、ただ本当にマイケルの過去の自分ちのホーム・ヴィデオを公開しただけのもので、しかも自分で自分が見せたい部分だけをセレクトしているフッテージに、他人の眼から見て面白いものがあるわけがない。


人々がマイケルに期待しているのは、それこそ普通でない、何をしでかすかわからないマイケルなのだ。それなのに、マイケルといえどもごくごく普通の家庭のそれとほとんど変わらない (そりゃあ彼の環境は特殊ではあるが) ホーム・ヴィデオを見せられても、そんなのが面白いわけがない。だいたい、クソ面白くもない家族自慢や子供自慢を見せられる他人の家のホーム・ヴィデオほど退屈な映像はないのだ。


というわけでこの番組、最初から最後まで、ただただつまらないホーム・ヴィデオの2時間の垂れ流しで終わってしまった。バックで当時の状況を説明しているマイケルのヴォイス・オーヴァーが、これまたわざとらしい。マイケルのミュージック・ヴィデオの撮影時のフッテージなんかは、音楽的見地から見ればそれなりの意味はあるかとも思うが、いまさらマイケルのこんな普通のヴィデオなんか見る気になんかならないというのが、私を含めたすべての視聴者の本音だろう。








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