放送局: CBS

最終回プレミア放送日: 8/27/2004 (Fri) 0:35-1:35

製作: ワールドワイド・パンツ

ホスト: クレイグ・キルボーン


内容: 5年間続いた深夜トーク・ショウ「レイト・レイト・ショウ」の最終回。


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上で「レイト・レイト・ショウ」の最終回と書いたが、それは正しくない。「レイト・レイト・ショウ」のクレイグ・キルボーンがホストを担当する最後のエピソードという言い方が正しい。なぜならば、「レイト・レイト・ショウ」自体は、今後もキルボーンが降りた後にホストを交代して続いていくからだ。つまり、あくまでも「レイト・レイト・ショウ・ウィズ・クレイグ・キルボーン」の最終回なのだ。


現在、CBSの深夜トークは、午後11時35分からデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」、零時35分からクレイグ・キルボーンがホストの「レイト・レイト・ショウ」が編成されている。レターマンはNBCからCBSに移って「レイト・ショウ」のホストを担当するようになってから既に11年が経っているが、キルボーンの「レイト・レイト・ショウ」は99年開始だから、まだ正味5年しか経っていない。


元々キルボーンは、ESPNを代表するスポーツ・ニューズ、「スポーツセンター (SportsCenter)」のアンカーを担当していた。ハンサムで長身、スポーツを嗜み、喋りもうまくユーモアのセンスもあるとなれば、世の女性だけでなく、TV局だってほっておかない。結局キルボーンは96年から、コメディ・セントラルが放送を開始した新トーク・ショウ「ザ・デイリー・ショウ (The Daily Show)」のホストに抜擢される。そう、現在、ジョン・スチュワートが2代目ホストとして、エミー賞総なめのアメリカを代表するトーク・ショウに育て上げた「デイリー・ショウ」の初代ホストが、誰あろうキルボーンなのだ。キルボーンはさらに、この「デイリー・ショウ」を見たCBSに引き抜かれ、「レイト・レイト・ショウ」ホストを担当することになる。


この辺りのキルボーンは、まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いで出世街道を上っていったという印象がある。アメリカでニューズ・アンカーやトーク・ショウのホストを生業としている者にとって、最終的な出世の頂点は、ネットワークが編成する番組でホスト/アンカーを担当することにある。その後は、そのホスト業を何十年続けていくことができるかで自分の能力を世に知らしめるしかない。当時、ケーブルのニューズ番組から自分の番組を持ち、さらにネットワーク番組でのホストととんとん拍子に出世街道を登りつめたキルボーンが、どんなに注目され、期待されていたかがわかる。


実際私もここんとこ数年にわたって、深夜のルーティーンと言えば、その日の気分によってレターマンの「レイト・ショウ」かNBCのジェイ・レノの「トゥナイト」のどちらかを見た後、「レイト・ショウ」を見た後なら、そのまま後番組のキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」を続けて見ることが多かった。少なくともキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」が始まった頃は、裏番組のコナン・オブライエンがホストのNBCの「レイト・ナイト」より、「レイト・レイト・ショウ」の方がまだ面白かったと思う。


ただし、さすがに十何年もホストを担当しているとオブライエンもツボを心得たようで、「レイト・ナイト」も昔のような、あまりにも笑えないための痛々しさはなくなり、一応、安心して見れる番組に成長した。「レイト・ナイト」が始まった当時は他に若者向けの対抗番組がなかったから、皆どんなに面白くないと思っていてもこれしか見る番組がなく、しょうがないから見ていたという者が多かったというのもあろう。CBSもABCも裏番組に同様の深夜トークを編成し、さらにはケーブル・チャンネルも深夜トークを編成している現在、もし昔のままの「レイト・ナイト」が、今、新番組として始まったら、一と月と経たないうちにキャンセルされるのがオチだ。


しかし最近ではそれも微妙で、オブライエンの「レイト・ナイト」は一応見れる番組に成長したが、一方、わりと鳴り物入りで始まったという印象のあるキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」は、別に特に可もなく不可もなくといった印象のまま続いただけでなく、最近でははっきり言ってあまり面白くないと感じるようになった。「レイト・ナイト」の方が視聴率が高いのは、その辺のことを雄弁に物語っていると言える。


CBSでキルボーンがホストに座る前、実はトム・スナイダーがホストを担当していた「レイト・レイト・ショウ」があることはあった。しかし、はっきり言ってこの時の「レイト・レイト・ショウ」はインタヴュウ番組といった印象が強く、どちらかというとCNNの「ラリー・キング・ライヴ」でも見ているかのような感覚に近かったから、一概に較べるわけにも行くまい。米ネットワークの深夜トーク番組において、CBSの「レイト・ショウ」-「レイト・レイト・ショウ」、NBCの「トゥナイト」-「レイト・ナイト」という四天王体制が確立したのは、「レイト・レイト・ショウ」のホストにキルボーンが座った99年以降なのだ。


そして今年8月、キルボーンは、ちょっと人気の点では「レイト・ナイト」に劣るとはいえ、まだまだ本人がやると言えばCBSも当然後押ししただろうと思える「レイト・レイト・ショウ」のホストの契約を更新せず、番組を降りると宣言した。たぶん、本人が飽きたんだろう。ここまで順調にキャリアを上ってきたキルボーンであるが、最近はどうしても低迷しているという感は拭えなかったし、それは番組、特に番組に呼ばれるゲストの面々を見れば一目瞭然だ。どうしても「レイト・レイト・ショウ」に登場するゲストはAクラスとは言えない者の方が多く、時々まったく知らない人間がゲストとして呼ばれたりしている。知られていない人間をセレブリティとは呼べまい。つまり、最近の「レイト・レイト・ショウ」は、鳴かず飛ばずといった感が強かった。


それでも、最終回のゲストとして呼ばれた面々は、いきなり番組冒頭でハリウッドの伝説的プロデューサーのロバート・エヴァンスが登場、その他にウィル・フェレル、ヴィンス・ヴォーン、アダム・ウエスト (初代「バットマン」!!!!)、また、この部分は放送されなかったがマーリー・マトリンも現れたそうで、一応そこそこのメンツは揃えたとは言えるかもしれない。しかしそれだって、もしレノの「トゥナイト」が明日最終回を迎えるとなれば、ゲストには当然アーノルド・シュワルツネッガーやトム・クルーズやジュリア・ロバーツが喜んで現れるのは間違いないことを思えば、やはりまだ見劣りがする。


中味としては、だいたいどの深夜トークも一つや二つは面白くないコーナーを持っているものだが、私がこれは面白くないなあと思っていたのが、「5つのクエスチョン」コーナーである。ゲストに対して本当にくだらない質問をするのだが、これなんか惰性でやっているコーナーの最たるもので、ほとんど面白いと思っている者はいないだろう。同様にレターマンの「レイト・ショウ」の「トップ・テン・リスト」のコーナーも、私にはほとんど惰性でやっているようにしか見えず、面白くない時の方が多いからやめればいいのにと思うんだが、たぶん、面白い面白くないにかかわらず、こういう一度定着してしまったものは視聴者が反射的に思い出す番組の顔みたいなものになっちゃっているから、やめるにやめられないということもあるかもしれない。


ところで、番組最終回ということで、キルボーンはスタジオにお酒を用意して、それをちびちびなめながらホストをしていたのだが、そのスコッチ、マッカランを、実はお恥ずかしいことに私はこれまで知らなかった。25年もので250ドルもするんだと言っていたので、へええと思っていたら、その後でゲストとして登場したヴォーンが、なんと桐箱ビロード張りのような恭しい箱に入った同じくマッカランの、今度は60年物を持ってきた。あの梱包を見ただけで値段は1,000ドルは下るまいと思わせる荘厳さで、私はいつもはほとんどビールばかりで酒には詳しくないのだが、ちょっと味見してみたいと思ってしまった。ヴォーンとキルボーンはたいそう仲がいいようで、ヴォーンはキルボーンの「レイト・レイト・ショウ」のプレミア・エピソードでもゲストとして招かれている。今回は番組の最後ということで、ヴォーンはベイスボールのバットを持ってセットの背景を叩き壊すことまでしていた。


さて、現在、キルボーンなき後の「レイト・レイト・ショウ」は、少しの間再放送を行った後、ゲスト・ホストという形で色々なメンツに少しずつホストを受け持たせて放送は続いている。最初のホストがABCの「ドリュウ・ケリー・ショウ」のドリュウ・ケリーで、その後、「サタデイ・ナイト・ライヴ」のアナ・ギャステヤーやその他の面々が交代交代でゲストを担当している。中にはどこの誰だかまったく知らない者もおり、よく聞くと番組の台本作家の一人だったりする。とにかくCBSはこれという次のホストが決まるまで、手を変え品を変え一時的なゲスト・ホストで凌いでいくようだ。


こないだ見た回では「X-ファイルズ」のデイヴィッド・デュカヴニーがホストで、ゲストとしてこないだエミー賞のホストを担当していたゲイリー・シャンドリングが出ていた。これは、HBOでシャンドリングが主演していた架空のトーク・ショウを舞台とするコメディ「ザ・ラリー・サンダース・ショウ (The Larry Sanders Show)」を知っている者なら、シチュエイションだけで思わずにやりとするに違いない。「ラリー・サンダース」ではシャンドリングがホスト役なのだが、それにデュカヴニーが本人としてゲスト出演したこともあるのだ。今回はまったくそれを逆にしてみせたわけで、なかなか洒落っ気がある。


さて、そういうゲストを担当した者の中で、次期「レイト・レイト・ショウ」ホストの本命は、今のところマイケル・イアン・ブラックだそうだ。名前を聞いてすぐ顔を思い浮かべることのできる者はかなりのアメリカTV通と言えるが、「エド」で、ボウリング場の従業員フィリップを演じていた彼だ。最近なら「アイ・ラヴ70s」や「80s」等のVH1の音楽/カルチャー回顧番組のレギュラー・コメンテイターみたいな感じになっていたから、アメリカに住んでいるならそれで顔を覚えた者も多いかもしれない。


しかしブラックは、5年前のキルボーンの時に較べ、今一つ知名度に欠ける。ちょっと地味すぎるんじゃないかと思っていたが、どうもCBSが考えているのは今現在の知名度ではなく、今後、長い間にわたって番組を成功に導いてくれることのできる人材、というのがまず第一のポイントらしい。考えればオブライエンが「レイト・ナイト」のホストに抜擢された時も、既に彼を知っていたのは、ごく一部の人間に限られていた。コメディアン上がりとかで一時的に座を盛り上げたり、時として観客を爆笑させたりすることのできる人間というのは、探せば掃いて捨てるほどいる。しかしここで求められているのは、面白くない時もあるが面白い時は派手に面白いキャラクターではなく、今後何十年にわたり、いつどんな時でも水準のギャグを保てるプロフェッショナルなのだ。キルボーンのように、既に名前が売れていればいいというもんでもない。


実は、そのキルボーンの後釜に座るホストに、一時、かなりの信憑性のある噂として流れたのが、誰あろうオブライエンその人だった。これは考えれば理にかなっている。既に知名度があるだけでなく、ホストとしての実績もあるオブライエンを「レイト・レイト・ショウ」ホストに据えつけることができれば、CBSとしては願ったりかなったりだ。実際の話、10年前にCBSがしたことが、当時NBCで「レイト・ナイト」のホストだったデイヴィッド・レターマンを引き抜いて、「レイト・ショウ」のホストにすることだった。CBSが同じことをまたしないとは限らない。


この話に戦々恐々としたのがNBCであったことは想像に難くない。せっかくここまで辛抱に辛抱を重ねてオブライエンの「レイト・ナイト」を育て上げてきたのに、もしかしたら、またとんびにあぶらげさらわれるかもしれない。NBCが慌てふためいたのは間違いない。その結果NBCが採った方策が、今のうちにオブライエンにレノ引退後の「トゥナイト」のホストの座を確約しておくという、途方もないものだった。


いったい、レノの「トゥナイト」は今が一番油がのっている時で、彼の歳を考えると、まだまだあと少なくとも15年はやれる。しかし、CBSは今、「レイト・レイト・ショウ」の後釜を探している。そしてオブライエンのNBCとの契約は、来年12月で切れる。もしその時にオブライエンを間違いなく獲得できるのなら、それまでは「レイト・レイト・ショウ」は、臨時のホストをずっと続けていてもかまわないとCBSが考える可能性は非常に高い。それくらい安定した深夜トークのホストというのは得難い存在なのだ。


その結果NBCは、レノの引退を多少早めることになっても、次期「トゥナイト」のホストを確約しておくことでオブライエンをNBCに引き止めておくことに全力を注いだ。それが2009年の「トゥナイト」のレノの引退、および代わってオブライエンが新しく「トゥナイト」ホストに就くという発表だった。これによってCBSはオブライエン獲得を断念せざるを得なくなり、現時点では、「レイト・レイト・ショウ」でブラックが次期ホストとなる確率はかなり高いと見られている。


いずれにしても、自分の実力とは関係ないところでキャリアの幅を狭められたレノの心中はいかばかりかと思わざるを得ないが、これがアメリカのTV界というものだ。実際、ネットワークがコマーシャル収入で得る番組当たりの利益率は、プライムタイムの番組よりも深夜トークの方が圧倒的に高い。金を持っている若い層が見ているため、番組スポンサーが挙って金を出すからだ。そのため、NBCはなにがなんでもオブライエンをCBSに引き抜かれるわけにはいかなかった。いずれにしても今回のNBCの決断が正しかったかどうかを見極めるには、オブライエンが「トゥナイト」のホストに座る5年後まで待たなければならない。





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Late Late Show with Craig Kilborn

レイト・レイト・ショウ・ウィズ・クレイグ・キルボーン   ★★1/2

 
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