カンフー・キラー

放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 8/17 (Sun), 8/18/2008 (Mon) 22:00-0:00

製作: RHIエンタテインメント、リユニオン・ピクチュアズ

製作: マシュウ・オコーナー、マイケル・オコーナー、シャン・タム

監督: フィリップ・スピンク

脚本: ジャクリーン・フェザー、ジョン・マンデル

撮影: マン-チン・ング

編集: マイク・バナス

音楽: ジム・ガットリッジ

美術/衣装: トマス・チョン

出演: クレイン (デイヴィッド・キャラダイン)、ジェイン (ダリル・ハンナ)、チェン・ペイ-ペイ (メイリン)、ユー・ベン・リム (ベイ)、アンヤ (ルー)


物語: 人里離れた僧院で自己を鍛錬しながら暮らしている僧侶たちを軍賊が襲う。多勢に無勢でカンフーの達人クレインも捕まり、胸に弓を放たれる。手当ての甲斐あって一命をとりとめたクレインは復讐を誓う。敵を追って訪れた上海で、クレインはクラブで歌っているシンガーのジェインの知己を得る。彼女は軍関係の秘密研究のために上海にいる兄の消息を追ってきていたのだった。クレインはそのクラブで僧院を襲った男と出会う‥‥


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実はスパイクTVの「カンフー・キラー」と、その2週間後に放送されるABCファミリーの「サムライ・ガール (Samurai Girl)」のどちらを見ようかちょっと迷ったのだ。両者ともアジアのエキゾティシズムを前面に打ち出したアクション映画で、しかも何を血迷ったかカンフーやらニンジャやらサムライやらが画面に溢れ出る。前者は20世紀中頃の中国が舞台だが、後者は現代のアメリカを舞台にニンジャが日常生活に出没するトンでも番組であるらしく、それぞれに興味をそそられた。


しかも両者ともこれがTV映画どころかミニシリーズなのだ。「カンフー・キラー」が4時間、「サムライ・ガール」は6時間番組で、番組自体に興味を惹かれないわけではないが、それでも正直言って、たぶんどこかでカン違いしているに違いない番組に10時間も消費する気には到底なれない。私だって暇じゃないのだ。


どちらかというと最初は、日系の子が主人公という設定で (演じている子は日系ではない)、ちょっとした間違い探しも楽しめるに違いない「サムライ・ガール」の方により惹かれていたのだが、主演がデイヴィッド・キャラダイン、共演がダリル・ハンナという「キル・ビル」の黄金ペアが租界時代の上海を舞台に所狭しと暴れまくるという「カンフー・キラー」にも、後ろ髪を引かれるものがあるのであった。


さらに、ターゲット視聴者を男性のみに絞り、専らお笑い、アクション、SF系番組が編成を占めるスパイクTVで放送される「カンフー・キラー」は、家族向け、端的に言ってティーンエイジャーの女の子が主要視聴者のABCファミリーが放送する「サムライ・ガール」より、よりアクションが横溢して、私のような中年男性でも楽しめるような気がする。


などなどとつらつら思っていたら、たまたまニューヨーク・タイムズに「カンフー・キラー」評が載っていた。こういう場合、評が載るということだけでもなかなか大したことだ。多くの場合、こういう、エンタテインメントに徹して質の方は無視したような番組は、大概マスコミ、特にタイムズのようなインテリ層が読む媒体からは無視されるのが普通だ。それでもいくらタイムズといえども、キャラダイン、ハンナという「キル・ビル」の悪役コンビがまたカンフー番組に出るという磁力にはあらがえなかったものと見える。私もそうだったわけだし。


で、そのタイムズ評による番組の要約はこうだ。「共産主義以前の1920年代中国。東方の謎に彩られた王権。大きな傷跡を持つ僧侶と鞭を使う奴隷商人。美しく危険な、たぶんレズビアンの脇役。かつて奴隷で今は微かな衣装をまとい、罠にかかった男たちを殺す湖畔のサイレン。そしてデイヴィッド・キャラダインが竹笛を吹く。」


いや、これは見たくなる。こいつはそそる。なんか、キャラダインが竹笛を吹く、なんてのはいいね。情景が目に浮かぶ。その上ダリル・ハンナがラウンジ・シンガーだ。彼女が片目に眼帯をして歌ってくれたりなぞしたら申し分ないんだが、それではシンガーとしては採用されないだろうからそこは譲歩しよう。彼女は吹き替えじゃなく実際に歌っているようで、タイムズは「勇敢にも」と評していた。いずれにしてもこれは確かに食指が動く。


というわけで結局見てしまった。結論から言うと、それなりに見ている間は面白く、見て損した、とか時間を返してくれ、なんてネガティヴな意見を持つわけではないが、だからといってもちろん見なくても日常生活にまったく支障はない。第一この番組、恩師を殺されたカンフーの使い手の復讐譚だと思っていたら、その話自体は第1話で完結し、第2話はほとんど新しい展開を見せる。2時間ものとして企画したら4時間にしてくれと言われ、それではと製作したのが「カンフー・キラー」という印象が濃厚だ。むろんだからといってそれを批難する気もないのだが、しかし、4時間ものなら普通、4時間かけて解決する一つの事件を用意しそうな気もする。


で後半引っ張る事件はというと、幼い時クレインと一緒に僧院で修行していたものの、その気性の荒さから院を追われるように逃げ出し、今では鞭使いの奴隷商人として巷から恐れられているベイとクレインの絡みが軸となる。クレインの愛弟子の恋人がベイにさらわれたことからクレインら一行は彼女を奪回しに出発する。そして当然クライマックスはクレインとベイの一騎打ちという展開だ。


キャラダインは当年とって71歳だそうだが、一応難しい部分を除き、生身でアクションをこなす。動きが遅い部分はカットの連続と、何が映っているかよくわからないアップでごまかしているのだが、それでもとろいと感じさせるのはいたしかたない。それでも頑張っている方だろう。むしろそのために、悠揚迫らぬ動きで悪人どもを手玉にとる達人、みたいな印象も確かにある。私見ではキャラダインより半回りほど若いアクション・スターのハリソン・フォードが見せるアクションよりも、キャラダインのアクションの方が、まだこなれているというか無理がない気がする。カンフー・アクションはやはり型だからな。昔とった杵柄だろう。


ついフォードと比較してしまったが、フォードを思い出したのには理由がある。大戦前の上海租界、キャバレー、なんていうと、どうしても「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 (Indiana Jones and The Temple of Doom)」を思い出してしまうからだ。おまけに「カンフー・キラー」の悪役ベイは鞭を使う。これまたインディ・ジョーンズの得意技だ。キャバレーの歌姫を演じるハンナと「魔宮の伝説」のキャプショウなんて対比もある。というわけでかなり類似して連想するものがあるのだった。


キャラダイン以外では、宿命のライヴァル、ベイを演じるユー・ベン・リムも悪くないが、私が気に入ったのは、そのベイの忠実な配下ルーを演じるアンヤだ。細面の美人で、かすかにゲイの気があるという役どころで、台湾では既にかなり人気のあるアクション系の女優らしい。昔の白土三平の描く忍者系マンガに出てくるような切れのある美人とでも言えばいいか。それなのにわりあいハンサムのボスにはなびかず、レズビアンというのがまたそそるものがある。だからこそ男のボスの下でも問題なくやっていけるのかもしれない。


そんなわけで「カンフー・キラー」、特に擁護する理由はないのにもかかわらず、最後まで見てしまったのだった。惜しむらくはハンナの活躍する部分が後半ほとんどなくなってしまい、前半部分で彼女が請け負っていた? 逆受けする部分が後半消滅してしまったことだが、しょうがあるまい。また同様の内容の次作が作られたら、その時を期待することにしよう。見たいような見たくないような。







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Kung Fu Killer


カンフー・キラー   ★★1/2

 
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