Judy


ジュディ 虹の彼方に  (2019年10月)

知らぬ者のないジュディ・ガーランドであるが、いかんせん私の世代は、全盛時代を知らない。だいたい、人がガーランドの名を聞いてほとんど反射的に思い出すのは、多くの場合、子役時代の「オズの魔法使い (The Wizard of Oz)」だろう。既に遠く80年も前の作品だ。 

 

他によく聞く話として、成長してからのタバコ、アルコール、ドラッグの常用、何度かの結婚離婚再婚、それに伴う勝ち組負け組への往復、極端な体重の増減、そして何度も人々から忘れ去られそうになりながら、また一線にカムバックしてくるという、ある意味シンデレラ・ストーリーの体現で、要するにガーランドはハリウッドを代表する女優でありシンガーだった。 

 

この身上というか癖は娘のライザ・ミネリにも受け継がれており、彼女も若くして成功していながら男運がなく、時々ゴシップでデブデブになった姿がすっぱ抜かれるが、次に公的に人前に現れる時はちゃんと痩せているという、やはりガーランドの娘なんだなと思わせた。 

 

こないだFXのミニシリーズ「フォッシ/ヴァードン (Fosse/Verdon)」を見ていたら、主人公のボブ・フォッシががライザ・ミネリ主演の「キャバレー (Cabaret)」を準備しているという時間軸から話が始まっていた。要するにこちらも1968年で、期せずして「ジュディ」も「フォッシ/ヴァードン」も同じ時間を中心に始まっている。つまりジュディにしてもライザにしても、1968年は人生の大きな転換期だった。「ジュディ」では、その「キャバレー」も含め、人気がうなぎ上りのライザが出てきて、落ち目のガーランドとの対比を際立たせる。 

 

上に書いたようにガーランドは何度も一線から退いたように見えながら、その都度カムバックしてきた。2001年にABCがミニシリーズとして製作した「ジュディ・ガーランド物語 (Life with Judy Garland)」は、そうやって復活してきたガーランドが、コンサートで満場の喝采を浴びるシーンで幕になっていた。 

 

今回の「ジュディ」は、その最後のカムバックである、ロンドン公演を軸に描く。この時のガーランドの言動はたぶん本人にも予測不能で、圧倒的カリスマでステージを成功させる時もあれば、時間に遅れたり歌詞を忘れたりして観客から野次られ、途中でステージを降りる時もあった。結局5回目の結婚も思ったようには行かず、翌1969年、ガーランドは睡眠薬の大量摂取が原因で死ぬ。波乱万丈の人生を送ったようでいて、まだたったの47歳でしかなかった。 

 

ガーランド本人の何度ものカムバックは充分ドラマティックだが、実は今回はガーランドに扮するルネ・ゼルウェガーの変貌も大いに耳目を集めた。 

 

ゼルウェガーというと、印象は、ふっくらぽっちゃりとした可愛い系、実は裏で何か企んでいそうでもある小悪魔、という辺りが相場だと思う。「ブリジット・ジョーンズの日記 (Bridget Jones’s Diary)」は、そういうゼルウェガーの魅力がはまってヒットした。 

 

ところが今春、ゼルウェガーが出演したNetflixの「ホワット/イフ (What/If)」の予告編が公開されると、内容よりもゼルウェガーの変貌ぶりに注目が集まり、大きな話題になった。「ブリジット・ジョーンズ」シリーズの最新作「ダメな私の最後のモテ期 (Bridget Jones’s Baby)」からそんなに時間も経っていないのに、なによりもまず痩せて、顔がまるで別人みたいになった。言われなければ誰もゼルウェガーだとは気づかないだろうと思えるほどの変貌で、体重も落として、ふっくらとした以前のイメージは跡形もなくなった。 

 

あまりにも短期間で変わった上、顔がなんか作りものくさくなって、整形手術を受けたのはたぶん間違いないと思われる。たぶん彼女が自分自身のイメージを投影していたのはブリジット・ジョーンズではなく、大衆から愛され飽きられ、その度に復活してきたジュディ・ガーランドだったのだろう。いずれにしてもそのため、実際に晩年のガーランドに似てなくもない。さらにゼルウェガーは、歌も吹き替えではなく、自分自身で歌っている。ガーランドの歌をガーランドが歌ったように歌うというだけでも大したものだ。ただし、それでも、ガーランド本人の歌の方がやはりうまいと思ってしまうのではあるが。 

 











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1968年。かつて絶大なる人気を誇ったジュディ・ガーランド (ルネ・ゼルウェガー) も今では忘れられた存在となり、娘ローナ、息子ジョーイと共に地方の小さな劇場でどさ回りをする日々が続いていた。彼女のために常に部屋が用意されていたホテルからも拒絶され、ジュディは離婚していた3番目の夫のシドニー・ラフト (ルーファス・シーウェル) を頼らざるを得なくなる。英国ではまだジュディ人気は健在で、ジュディは英国公演をOKする。ドラッグを常用するジュディは公演直前にもドラッグに手を出してしまうが、それでもショウは大成功し、ジュディはまたもや時の人となる。TV番組の話もあり、さらに新しい恋人もできてジュディはまたスポットライトを浴びるが、しかしそれでも、アルコールとドラッグを手放すことはなかった‥‥  


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