Honeyland


ハニーランド  永遠の谷  (2020年4月)

「ハニーランド」は、今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞と長編国際映画賞 (旧外国語映画賞) の2部門にノミネートされていたので、気になっていた。アカデミー賞では今年、ポン・ジュノの「パラサイト (Parasite)」が史上初、国際映画賞と作品賞を同時受賞して話題になったが、両部門にノミネートされること自体は、過去にもあった。しかし、ドキュメンタリーと国際映画の両賞に同時ノミネートされた例というのは、かつてない。話としてもとてもできがいいんだろうと思っていた。(因みにドキュメンタリー賞は「アメリカン・ファクトリー (Amerian Factory)」が受賞したため、「ハニーランド」は無冠に終わっている。) 

 

とはいえ、やはりドキュメンタリーということで、後回しにしているうちに公開が終わってしまった。近年、技術の進歩によりヴィデオカメラ撮影でもスクリーンに上映しても高画質の映像が見れるというのはわかってはいても、それでもこれまでの癖というか、やはり本質的にドキュメンタリーはTV向きという偏見がまだ根強く身体の中に残っていて、つい映画館で見る場合はドキュメンタリーは後回しになってしまう。 

 

それで今回、huluで提供されているのを見つけて早速見てみたわけだが、昨年のアカデミー賞ドキュメンタリー賞受賞作の「フリー・ソロ (Free Solo)」をTVで見た時とまったく同じ印象を受けた。すなわち、これ、映画館で大きなスクリーンで見た方がよかった、というものだ。 

 

舞台は北マケドニアで、隣接するギリシアと北マケドニアの不仲はよく知られているし、お隣りのコソボはいまだに独立問題が続いている。要するに政情が不安定で、決して裕福とは言えない地域だ。「ハニーランド」は、そういう国の山間部で、年老いた母の面倒を見ながら養蜂で糊口を凌いでいる一人の女性ハティツェをとらえる。遠くの蜂の巣まで蜂蜜を採りに行くために山、というか高原を一人歩くハディツェをとらえるロング・ショットは、これはスクリーンで見た方が臨場感溢れたに違いない。 

 

養蜂といっても、ハティツェの場合、箱や巣を用いてビジネスというかシスティマティックに養蜂を行っているわけではない。ハチが巣を作った所に出かけ、そこで蓄えられた蜂蜜をとってくるだけだ。感覚としてはハチからお裾分けを頂くという感じで、蜂蜜を収穫する時も半分だけで、後は残しておく。また後でもらいに来るからでもある。そうやって自然のままのハティツェの蜂蜜は、味もよさそうで、市場に持っていくとそこそこの値段で売れる。 

 

私は甘党でもあり、料理でも結構よく蜂蜜を使う。特に今はコロナウイルス対策のために自宅待機が続いていて始終家にいるため、朝食を手軽にオートミールやシリアル、グラノラで済ますことが多く、それに蜂蜜をかけて頂くというのが、近頃の定番だ。 

 

おかげで最近、蜂蜜の使用量が増えた。以前からよく蜂蜜を買っていると自分でも思っていたのに、さらに増えた。一方、質のいい蜂蜜は安くない。オーガニックの蜂蜜は、正直言って、高い。それでスーパーとかに行くと、よくついでに蜂蜜コーナーに行って商品を比較してみたりしているのだが、それで気づいたことに、蜂蜜は中東から東ヨーロッパにかけてが原産地であることが多いというのがある。もちろん地産地消でアメリカでも生産販売されているが、比較的手に入れやすい値段の蜂蜜は、圧倒的に東ヨーロッパ圏原産が多い。 

 

私はごく一般的なとろりとした蜂蜜だけでなく、ほとんど固形状の蜂蜜も好みで、常に両方の種類が家にある。見てみると、今あるのは白っぽいほぼ固形の蜂蜜がヴァージニア州産で、とろりとしたやつがべラルス産だ。その前のやつは確かトルコ産だったし、その前にはウクライナ産というのもあった。やっぱりあの辺だ。 

 

蜂の巣、ハニカム入りの蜂蜜というのがあるが、あれは高い。いかにも蜂蜜の本体という感じでおいしそうに見えるが、食べてみると、それ自体は特においしいとか味があるという感じはしない。単に食感を優先させるというか、いかにも蜂蜜を食っているという満足感はあっても、料理に使う時はむしろ邪魔だ。しかし蜂蜜を収穫する時は、やはりハディツェも蜂の巣ごととっている。その方が蜂蜜だけをとるよりとりやすいし、高く売れるからでもあるだろう。 

 

何かで読んだのだが、この世で蜂蜜とオリーヴ・オイルほど紛いものが多いものはないらしい。蜂蜜は、他の安い原料を用いて簡単に偽造でき、オリーヴ・オイルも、安いものをエキストラ・ヴァージン・オリーヴ・オイルと偽って販売する悪徳商人が後を絶たないということだ。これらはちょっと舐めただけではわからないため、模造品が横行する。ハディツェが遠い道のりを歩き、ほとんど崖下に落ちそうになりながら集めた蜂蜜が、安易な模造品と同じ値段で売られる。 

 

ハディツェは、近くに越してきた流れ者的なお隣りさん家族のために、蜂の巣のありかを教え、蜂蜜のとり方を教える。しかし強欲なお隣りさんは、ハディツェが大事にしている蜂の巣ごと、木の枝から切り落として売ってしまう。ハディツェは収入源の大半を失い、今後の生活の見通しが立たない。 

 

さらに病床の母が帰らぬ人となる。ハディツェはこの世に一人ぼっちで、収入の当てはない。見てると、どうやら母は土葬したようだ。たぶん棺桶を作る余裕はなかっただろう。ハディツェ一人で墓を掘ったか、もしかしたらこの時ばかりは撮影隊が墓掘りに協力したのかもしれない。 











< previous                                      HOME

北マケドニアの山間地。養蜂で糊口をしのぐ初老の女性ハティツェ・ムラトヴァは、病いで動けない年老いた母の面倒を見ながら、他に誰も住む者のない村で二人だけで暮らしていた。その村へ、いずこからかトレーラーに乗って、牛追いの7人家族が越してくる。彼らはハティツェの手引きで養蜂の仕方を学び、そして蜂蜜が高値で売れることを知ると、貪欲さを増してくる。ある日ハティツェがいない時を見計って、彼女の蜂が巣を作っている枝木を切り取って、根こそぎ持って行ってしまう‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system