フォージド・イン・ファイア   Forged in Fire

放送局: ヒストリー

プレミア放送日: 6/22/2015 (Mon) 22:00-23:00

製作: アウトポスト・エンタテインメント

製作総指揮: スティーヴ・アッシャー、ジョディ・フリン、デイヴィッド・ジョージ

ホスト: ウィル・ウィリス

ジャッジ: J. ニールソン、ダグ・マーケイダ、デイヴィッド・ベイカー


内容: ブラックスミス (鍛冶職人)、ブレイドスミス (刃物職人) による刀剣類製造勝ち抜きリアリティ。


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Forged in Fire


フォージド・イン・ファイア  ★★1/2

近年のクリエイティヴ系の勝ち抜きリアリティ・ショウは、百花繚乱の様相を呈している。元はと言えば、この種の勝敗を決めるリアリティをアメリカに持ち込んだのは、フジの「料理の鉄人 (Iron Chef)」が端緒だと思うが、今では様々に分化、枝分かれした勝ち抜きリアリティ・ショウが、アメリカのTV界を席巻している。


「アイアン・シェフ」以降、当初はクッキング系勝ち抜きリアリティが数多く編成され、それからファッション、デザイン系のリアリティが多く製作された。その後ジャンルは細分化し、モノ、アートを作るあらゆるクリエイティヴ系の勝ち抜きリアリティが編成されている。


最近でも、ボディ・ペインティングの「スキン・ウォーズ (Skin Wars)」(GSN)、家具を製作する「フレイムワーク (Framework)」(スパイク)、「エレンズ・デザイン・チャレンジ (Ellen's Design Challenge)」(HGTV)、ストリート・アートの「ストリート・アート・スロウダウン (Street Art Throwdown)」(オキシジェン)、産業廃棄物を有効再利用する「トラッシュフォーマーズ (Trashformers)」(FYI) 等の番組が編成されている。その最新の例が、「フォージド・イン・ファイア」だ。


「フォージド・イン・ファイア」は、読んで字の如く、火でモノを鍛えて作り上げる職人たちの腕を競う勝ち抜きリアリティだ。この分野は専門色が強いため、1シーズンをかけて様々な課題を課して一人ずつ落としていって最後に優勝者を決めるのではなく、各エピソード毎に4人の挑戦者を集め、三つの課題を通して一人ずつ篩いにかけ、回毎に勝者を決める。毎回の賞金は1万ドル。


番組第1回の最初の課題はナイフ・ブレイド。渡された素材を使って、セレーションと呼ばれる鋸刃をつける長さも厳密に決められている。これを3時間で仕上げる。参加者の一人は、ブレイドの強度を叩いて試している最中に刃先が折れてしまい、万事休す。


2番目の課題は、自分が製作したナイフにハンドル・柄をつけるというもの。これも制限時間が3時間。でき上がったナイフは、実際に使ってみて性能を試される。見かけの玲瓏さだけでない。実用に耐えてこそのナイフの価値なのだ。ドラム缶に腰だめでナイフを突き刺す。するとスパッと穴が開いて中の液体が漏れ出す。一発でドラム缶に鋭い穴を開けることができたナイフや、せいぜい切っ先が小さな穴を開けるに留まったナイフがあるなど、結構歴然と差が出る。その後、垂れ下がったぶっといロープを試し切る。これは鍛えている最中に刀身にひびが入ってしまい、折れる可能性が強く、ドラム缶に突き刺す試技をキャンセルされた参加者が落ちた。


最期まで残った二人が製作するのは、サムライ・スウォード、つまり日本刀だ。実は私がこの番組に興味を惹かれたのも、番宣で日本刀を作るというのを見たからで、アメリカ人による日本刀製作か、と興味が湧いた。


日本刀の場合、鍛えるのに時間がかかるため、これまでのように数時間で製作というわけにはいかない。それで二人は自分の家に帰され、自分の器材・設備を好きなように使って5日間で日本刀を完成させる。


ただし、二人とも日本刀を打つのは初めてで、ある程度手探りでの製作になるのは避けられない。私のイメージでは焼いて真っ赤になった刀身を人がとんかちでとんかんとんかんというものだが、もちろん現代では電動のハンマーがあり、それを使っても構わない。


また、これだけ刀身が長いと、問題になるのはバランスだと思うが、二人共でき上がった日本刀はどう見ても刀身に較べて柄の部分が短い。あれでは刀を構えられまい。やたら切っ先が角々していたり鍔がなかったり、もちろん鞘まで用意するなんて時間的にもっての外なのだが、個人的にこれだけはダメだよと思ったのが、柄を革巻きにしてしまったもので、いや、これは違う、他のなんちゃってカン違いはともかく、柄を革で巻いただけというのはダメだ、テニスのラケットじゃないんだから、ここはやはり革を張った後に糸で巻いてもらいたかった。


日本刀の試技は、ジャッジの一人、ダグ・マーケイダが担当する。日本刀でサーモンをぶった切る時も一刀両断で、素人目にも腰が入って力強い。さらに鎧を着たマネキン相手の日本刀の試技では、鎧の隙間から抉るように突き刺したかと思ったら、今度は横に回って、鎧で覆われていない脇腹の肝臓辺りから思い切り突き上げた。その後鎧を外し、実際に刀の切っ先が内臓を貫いているかまで確認する。要するに、これ、本気で人を殺す時の急所を狙ってやっている。


見ていて思わず、ぐっとした。私が口にするよりも早く、一緒に見ていた女房が、これ、放送してもいいの? と言った。本気で人の殺し方を教えているようなものだ。私もまったく同様の疑問を持った。ちょっと、これ、エンタテインメントというよりは、どっちかっつうとISISの戦闘員勧誘ヴィデオみたいでちょっと怖い。なんでもマーケイダは武器を使ったコンバット・スペシャリストだそうで、要するに軍人とは別の意味での殺人マシーンだ。道理で、というか、こういう人とは近づきになりたくない。


そして日本刀を使った最後のテストは、万力に挟んで刃をこちら側に向けた日本刀に向け、銃弾を発射する。さすがに、銃か、それは無理だろう。いくらちゃんと鍛えた日本刀でも、銃弾にはかなうまい、折れちゃうよ、と思っていたら、なんと、刀に向かって発射された銃弾は、真っ二つに割れて後ろに被弾した。刀は、刃は少しは削られたかもしれないが、折れずに残った。二本とも。すげえ。銃弾を真っ二つにするってか。本気で感心した。


二本ともなかなかのできだったのだが、勝ったのは痩せる前のピーター・ジャクソンみたいな体重過多のおっさん。アメリカにはこういう感じの職人が結構どこにでもいる。もう一人の方は、刀身に焼きを入れて水で冷やす段階でひびが入ってしまい、一からやり直さなければならなくなってしまったことが大きいだろう。あれでだいぶディテールにかける時間を割かれたはずだ。その差が出たという感じ。


日本刀に限らず、切れる刃物の重要性は調理では言うまでもない。私はキッチンに立つ機会が多いので、包丁も数年前にそれまで使っていたステンレス製のものから変えて、菊一の包丁を手に入れて使っている。初めて使った時、これまでとは次元の違う切れ味に、気を抜くとあっという間に指を切り落としそうだと、思わず背筋に冷たいものが走った。うーん、なんか、刃物って奥が深い、と、久し振りに手入れを怠っていた包丁を研ぎながら、思うところがあるのだった。










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