放送局: トリオ

プレミア放送日: 9/2/2003 (Tue) 21:00-22:00

製作: MGM

製作総指揮: ブルース・パルトロウ、ロバート・パーム

監督: キャシー・ベイツ

出演: イーディ・ファルコ (マージ・ガンダーソン)、ブルース・ボーン (ルー)、マット・マロイ、ロンディ・リード、ジョフリー・ナウフツ、ロバート・ジョイ


内容: 1997年に企画されたTV版「ファーゴ」の未放送のパイロット。


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前回見た「L.A. コンフィデンシャル」の未放送パイロットに次いで、その翌日に放送されたのが、この「ファーゴ」の未放送パイロットだ。他にもいくつか面白そうなのはあるのだが、ダントツに面白そうなこの2本を続けて放送したのは、当然これで視聴者の気を惹こうという腹だろう。


で、ついでだからこの「パイロット・シーズン」で放送された、未放送パイロットの内容を下に挙げておく。「L.A. コンフィデンシャル」や「ファーゴ」だけでなく、「ダイナー」(なっつかしー!) をリメイクしたTVシリーズが企画されていたことも初めて知った。


「ビート・コップス (Beat Cops)」(2002) NYPDを舞台とするコメディ。出演: サム・シーダー、ジョン・ベンジャミン

「L.A. コンフィデンシャル (L.A. Confidential)」(2000) 同名映画のリメイク。出演: キーファー・サザーランド

「ファーゴ (Fargo)」(1997) 同名映画のリメイク。出演: イーディ・ファルコ

「ディア・ダイアリー (Dear Diary)」(1996) 同名短編映画のリメイク。出演: ビビ・ニューワース

「シック・イン・ザ・ヘッド (Sick in the Head)」(1999) スクリュウボール・コメディ。出演: ケヴィン・コリガン

「リライト・フォー・マーダー (Rewrite for Murder)」(1991) 女流ミステリ作家と元詐欺師。出演: パム・ドーバー、ジョージ・クルーニー

「サヴェジ (Savage)」(1973) TVのニューズ・マガジンを舞台に描く。出演: マーティン・ランドー、バーバラ・ベイン。プレミア監督: スティーヴン・スピルバーグ

「ダイナー (Diner)」(1983) 同名映画のリメイク。出演: ジェイムス・スペイダー、マイケル・マドセン、ポール・ライザー

「ブラック・バート (Black Bart)」(1975) 「ブレージングサドル」のリメイク。出演: ルイズ・ゴゼットJr.


まあ、玉石混淆という感じもしないでもなく、この全部が放送すらされずにキャンセルされたということは、玉石混淆どころか石だらけという感もなきにしもあらずだが、それでも、やはり「L.A. コンフィデンシャル」と「ファーゴ」を筆頭に、興味を惹かれる番組もないことはない。「リライト・フォー・マーダー」に主演しているのは、「ER」でブレイクする前のジョージ・クルーニーだし、「サヴェジ」の演出は、その前年に「激突!」を撮って名前が知られるようになったばかりのスティーヴン・スピルバーグだ。そういえば「激突!」も、元はと言えばTV映画であったものをできがよかったために劇場公開になったものだった。


「ダイナー」に出ているのも、まだまだブレイクするにはほど遠いジェイムス・スペイダーに、マイケル・マドセンで、スペイダーは現在、ABCの「ザ・プラクティス」に出演中だし、マドセンはタランティーノの「キル・ビル」に出ている。ライザーはこの後にヘレン・ハントと組む「マッド・アバウト・ユー」でブレイクするんだなあと、やはりなかなかのメンツだ。「ブラック・バート」のゴセットJr.だって、アカデミー賞受賞男優だ。


また、上記リストの半分以上を、話題になった映画のリメイクが占めていることも興味深い。つまり、映画が受けたのでTVでのリメイク企画が考えられたが、でき上がってきたものは視聴に耐えるものではなかったのだ。元々、オリジナルのできがよかったからこそリメイクが考えられたのであり、その時点でできのいいオリジナルに対抗するのは至難の業であることを肝に銘じておく必要があったかとも思うのだが、この映画をTVシリーズ化し、人気が出たらと思うと、とにかく気持ちがはやるようだ。


で、「ファーゴ」である。素人考えでは、これこそリメイクは難しいのではないかという気がする。あの、コーエン兄弟独特のオフ・ビートのユーモアが、果たしてTV向きだと言えるだろうか。それよりも何よりも、あの感じをTVで出せるものなのだろうか。


その難関に挑んでいるのが、主演イーディ・ファルコ、製作ブルース・パルトロウ、プレミア監督キャシー・ベイツというなかなかの布陣である。ファルコは「ザ・ソプラノズ」での連続エミー賞主演女優賞受賞という看板でもわかる通り、現在、アメリカTV界では最も実力派として知られている。グウィネスの父であり、近年物故したブルース・パルトロウも、映画界でこそあまり知られていないが、TV界では堅実な演出家としてつとに知られているし、ベイツが近年、女優業よりも演出家として注目を集めているのも、これまた周知の事実だ。


実は私は、99年にベイツの初めての2時間ドラマの監督作「ハメット&へルマン (Dash & Lilly)」を見た時に、それほど感心しなかった。というか、これじゃダメだと思った。しかしベイツはそれからも順調に監督作を増やし、今では中堅の演出家としての地位を確立している。「ハメット&へルマン」では、初めての長編ということで力みすぎたんだろう。実際、「ファーゴ」では、オリジナルに極めて近いテンポを維持し、オフ・ビートのユーモアを絡ませ、なかなかよく仕上がっている。というか、積極的によくできていると言って差し支えないと思う。


前回「L.A. コンフィデンシャル」を見た時は、一度も放送しないでお蔵入りするほど悪くはないと思ったが、今回の「ファーゴ」は、それよりもできはいいと思った。「ファーゴ」がこういう感じで小さな画面にもマッチするのは驚きだ。考えるに、TVでは「ファーゴ」ではないが、これまでにも「たどりつけばアラスカ (Northern Exposure)」だとか、「ピケット・フェンス (Picket Fences)」だとか、かなりオフ・ビートのユーモアを前面に押し出して成功した番組はこれまでにもあった。「ファーゴ」がTVに合うかどうかという疑問は、杞憂に過ぎなかったようだ。


しかし、では、本、役者、演出、三位一体でほとんど貶すポイントが見つからず、私の眼から見ると上出来のTV版「ファーゴ」が、なぜ一度も放送すらされずにキャンセルされるはめになったのか。その理由を考えるのは難しい。やはりネットワークが、これはオフ・ビートに過ぎて、多くの視聴者を獲得するという点では不向きだと考えたからだとしか思えない。それともう一つ、これは多分そうじゃないかと想像するしかないのだが、登場人物の、あの話し言葉のアクセントである。


本当にどれくらいああなのかは、そこに行ったことがないので知る由もないが、「ファーゴ」の登場人物は、ああいう間の抜けた喋り方をする。映画でもTVでもそうだ。で、第三者、特に外国人である私から見ると、ふうん、そんなもんかで済んでしまう話が、そこに住む人にとっては、微妙なアクセントの違いが、耐えられないものになったりする。アメリカ映画に出てくる日本人を見て、違う、本当の日本人はあんな喋り方なぞしないといらいらしたりするのと同じだ。それと同じ伝で、ファルコの話す言葉が、微妙に現地の言葉になりきっていないということをどこかで読んだ。現地に伝手があったり、行ったことがあるとか、知っている者にとっては、それだけでも大きなマイナス材料になっただろうというのは確かにある。現在、誰もが一目置く演技派最右翼のファルコであるが、さすがに慣れない言葉を喋るのは難しかったようだ。


しかし、それでも、はっきり言って貶す材料はそれくらいしか見つからない。最初こそ、「ザ・ソプラノズ」の、「Oz」の強面ファルコが、「ファーゴ」のフランシス・マクドーマンドが演じたあの役をやるのか、でっかいお腹を抱え、微妙に脱力を誘うああいう喋り方でえっちらこっちら歩き回るのか、なんて想像もできなかったが、見てるうちにそれも慣れた。「ザ・ソプラノズ」と「Oz」を知らなかったら、まったく気にもならなかったろう。とはいえ、この番組が製作された97年は、オリジナル「ファーゴ」公開の翌年に当たり、逆にその時点では、まだ強力に印象を残していたであろうマクドーマンド演じるマージと較べて違和感を持ったということは考えられる。


TV版「ファーゴ」は、最後、パトロールの途中産気づいたマージが、無事掘っ立て小屋の中で出産するシーンで幕を閉じる。同僚のルーが手を貸し、産まれてきた子はまだへその緒をぐるぐる巻いているというヘンにリアリスティックな描写で、そのシーンを、あとから駆けつけてきたマージの夫が、なぜだか小屋の中へは入らずに、窓ガラスの外から食い入るように見つめているという、やはり映画同様に人を食った、よくはわからないが、それでもなにやら印象的なエンディングで終わる。今後、乳飲み子を抱えたマージがどのように警察捜査を進めていくか、非常に先行きが楽しみに思える終わり方だったのだが、それっきりになってしまった。ま、そのおかげで今、ファルコが登場する「ザ・ソプラノズ」が見れるわけだし、しょうがないと言えばしょうがない。








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Fargo

ファーゴ   ★★★

 
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