放送局: トリオ

プレミア放送日: 9/1/2003 (Mon) 22:00-23:00

製作: リージェンシーTV、ワーナー・ブラザースTV

脚本: ワロン・グリーン

監督: エリック・ラネンヴィル

出演: キーファー・サザーランド、ジョシュ・ホプキンス、デイヴィッド・コンラッド、プルーイット・ヴィンス、メリッサ・ジョージ、トム・ノウイッキ、エリック・ロバーツ


内容: 2000年に企画されたTV版「L.A. コンフィデンシャル」の未放送のパイロット。


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トリオは昨シーズン、「ブリリアント・バット・キャンセルド (Brilliant But Cancelled)」というドキュメンタリー・シリーズを放送した。これは、これまでに放送されたアメリカにおけるTVシリーズの中から、わりと批評家受けはよかったり、評価されたりしたけれども、視聴者にそっぽを向かれ、視聴率を獲得することができず、結果、ネットワークからキャンセルされ、消えていった番組を特集したものだ。


この企画はなかなか注目され、それまではまだ弱小TVチャンネルで、ほとんど誰も見ていなかったトリオの名を売るのに大いに役立った。それに気をよくしたトリオは、今年も似たような企画を立てた。「ブリリアント・バット・キャンセルド: パイロット・シーズン」と題された新企画は、しかし、タイトルこそ似ているが、今度は、「できはいいけど人気が出なくてキャンセルされた番組」ではなく、あからさまに「できが悪かったために一度も放送されることなくお蔵入りになった番組」のパイロットを放送しようというものだ。


その意味では、これらの番組は、元からまったく「ブリリアント」なんかじゃなかったわけで、大いにタイトルに偽りがあるところだ。本当なら「バッド・アンド・キャンセルド (Bad and Cancelled)」というタイトルになるべきだろう。しかし、看板に偽りあっても、それでも許してしまおうと思えるのは、そういう、名前だけは知っているけど放送されなかった番組を、ドキュメンタリー番組の中でただ紹介するだけでなく、番組そのものを持ってきて放送してしまおうという姿勢にある。これは面白そうだ。


アメリカのドラマ/シットコムは、新番組製作時に、パイロットと呼ばれる試作的な意味合いを兼ねたエピソードを撮る場合が多い。力の入ったドラマの場合だと、2時間番組として、それだけで1本の独立したTV映画としても通用する番組を製作する。このパイロットを見てネットワーク幹部は今後のその番組の行く末を占ったり、あるいは派手に大型番組として番宣して話題性を高めるのだ。もしできが悪くて、これはシリーズとして使えないと思うと、本当にTV映画として放送して、あとはそれっきりということにしてしまうこともある。


さらに、これはとんでもない番組を製作してしまった、完全に失敗したと思った場合、稀にではあるが、パイロットすら放送せず、番組そのものをお蔵入りさせてしまう場合がある。要するに、今回の「ブリリアント・バット・キャンセルド: パイロット・シーズン」は、その手の、放送すらされなかったお蔵入り番組パイロットをどこかからか見つけ出して放送してしまおうというものだ。


この手のやつで私が最も強く記憶している番組は、4年前にFOXが放送を予定していた「マンチェスター・プレップ (Manchester Prep)」こと「クルーエル・インテンションズ2」だ。この番組、サラ・ミシェル・ゲラーやライアン・フィリップらを一躍スターダムに押し上げた「クルーエル・インテンションズ」の続編としてTVシリーズ化されたものだが、そのパイロットのできがあまりにも常軌を逸したものであったために、TV映画としてすら放送されることなくお蔵入りになったという強烈な番組だった (その後、番組はひっそりと別チャンネルでTV映画として放送された。)


こういう、ネットワークが隠そうとした番組であればあるほど見たいと思うのは、人間心理の常だろう。人様に見せるのがはばかれるほどできの悪い番組、しかし、その番組には結構の名前の売れた俳優が出ていたりするのだ。この手のパイロットを放送してくれるというなら、それは喜んで見たいと思う。


ただ、このパイロットというシステムも、最近はそれほど聞かなくなった。もちろん現在でも、新番組の最初のエピソードはパイロットと呼ばれたりするが、昔ならパイロットというとすぐ連想した2時間パイロットが、最近ではそれほど製作されなくなってきた。なんといっても2時間番組を作るのは金と時間がかかりすぎ、それが失敗作だった場合には大きな損失となる。おかげで近年、2時間パイロットというシステムは廃れつつある。代わって、逆に2時間のTV映画を製作して、評判がよかった時にシリーズ化するという可能性を残して番組を製作するようになった。こういう、シリーズ化する可能性のある単発番組は、バック・ドア・パイロット (裏口パイロット) と呼ばれる。最近ではNBCが放送したTV映画の「ハンター (Hunter)」が好評だったため、シリーズ化したという例がある。


ちょっと脱線したが、その手の、一度も放送されずにキャンセルされた番組のパイロットを集めた「パイロット・シーズン」で、フィーチャーされている番組の初っ端にいきなり登場したのが、この「L.A. コンフィデンシャル」だ。もちろん元ネタはカーティス・ハンソン監督、ラッセル・クロウとガイ・ピアースを一躍スターダムに押し上げた、映画版「L.A. コンフィデンシャル」である。TVシリーズでは、映画の主人公と言えるクロウとピアースが演じた両刑事の代わりに、どちらかというと狂言回し的な役で強く印象を残した、ケヴィン・スペイシー演じるヴェテラン刑事ジャックを主人公とし、それをキーファー・サザーランドが演じている。


で、その他の配役なのだが‥‥実は、最初それがよくわからなくて苦労した。試作されたパイロットの放送であり、一応、番組の冒頭には出演者の名前は出てくるのだが、本当なら本放送された場合に画面に現れるはずの、プロデューサーや撮影、その他の主要な関係者の名前がまだ挿入されていない。出演者以外では、なぜだか脚本とその回の監督の名だけはチェックすることができたが、それっきりなのだ。そして通常、番組の最後に現れるはずの、延々と続くはずのクレジットがまったくなく、正式な番組として放送されなかったためにネットワークも関係者の名を記したプレス・リリースを製作してないため、関係者の詳細や略歴を調べる伝手がない。IMDBは、放送されなかった番組はリストアップしていないのだ。だもんで、当然主人公のサザーランドと、ハリウッドの大立者を演じるエリック・ロバーツ、女優の卵として登場するメリッサ・ジョージくらいなら知っているが、あとは演じる役者をほとんどと言っていいほど知らないという羽目に陥った。


特にクロウが演じたバドを演じる役者と、ピアースが演じたエドムンド役の役者が、初めて見る顔で、バド役を演じたのがジョシュ・ホプキンス、エドムンドがデイヴィッド・コンラッドであるということを確認するのに、だいぶネットを探索しなければならなかった。ついでに、これまで色んなところで顔を見た記憶はあるが、名前は知らなかったはげのおっさんが、プルーイット・テイラー・ヴィンスという名の役者であることを発見したりもした (映画ではデニー・デヴィートが演じていたタブロイド紙経営のシドを演じている。) 名前を知らない役者をチェックするのは疲れる。


で、肝心の内容なのだが、パイロットすら放送されずにお蔵入りになったにしては、別にそこまで悪いというわけではないんでないの、というのが率直な感想だ。サザーランドは父のドナルド共々、別に昔から演技力で持っているというタイプではない。よくできたと思える作品に出ていても、くだらないとしか思えない作品であっても、いつもとりたてて感心もしないが、貶すほどでもない、という感じがつきまとうが、この番組においてもそれは例外ではない。スペイシーと較べると、明らかに存在感という点では見劣りするが、ここでは主人公として画面を占める割合も多く、結果として、特にマイナスの印象を受けるわけではない。


50年代のLAの街並みも、TVにしてはよく撮れていると思うし、特に演出家の力が弱いとも、脚本が書けてないとも、俳優がなってないとも思わない。要するに、別に積極的に貶すようなところがすぐに見えるわけではない。その意味ではキャンセルされて当然の「クルーエル・インテンションズ2」と異なり、いったいどういう理由でこの番組がパイロットすら放送されずにお蔵入りになったのかを判断するのは難しい。


まず第一に考えられるのが、ストーリーがわかりにくいというのはあるかと思う。映画はジェイムズ・エルロイ原作の込み入ったストーリーを思い切って簡潔にして、主要な人間関係に焦点を絞ったのがよかったという話を聞いたことがあるが、TVだと、人気が出ればどこまでもどんどん続いていけるので、わかりにくい点はいつでも後で説明することができる。そのため、今回はわかりやすさという点には留意しなかったような印象を受ける。しかし、だからといってこの番組だけが特にわかりにくいとはまったく思わない。他にもストーリーがわかりにくい番組はいっぱいある。


まずそれが第一で、次に、もしかしたらこれが最も大きな理由ではなかったかと邪推するのだが、映画でのクロウと、TVでホプキンスが演じたバド役、さらにピアースとコンラッドのエドムンド役の差、実はこれが最も引っかかったのではなかろうか。主人公としてほぼ出ずっぱりのサザーランドは、とりたててマイナス印象は受けないが、バドを演じるホプキンスは、はっきり言って違和感がある。映画でのバドは熱血刑事として、クロウにどんぴしゃりの配役だったが、TVでは、ややひねくれた感じのするホプキンスは、ちょっと、あれ、なんか違うなという感じがする。


もしかするとこちらの方が原作に近いのかもしれないが (私は原作は読んでない)、いずれにしても映画でクロウが構築してしまったバドから距離がありすぎ、どうしても感情移入できない。ホプキンスは、刑事というよりも悪役、それも癖のある犯罪者の方がはまりそうだ。それに較べるとエドムンドを演じたコンラッドはピアースと同系統で演じており、別に悪くないと思うのだが、映画でははっきり言って主人公としてとらえられるバドの印象がまったく異なってしまったことが、ネットワークの判断に大きく影響したのではないかという気がする。


それともう一つ考えられるのが、キム・ベイシンガーの不在である。映画でのベイシンガーは、この上ないくらいのはまり役で、ああいう成熟した色気を持つ女優は、TV界では探しにくい。というわけでもなかろうが、TV版では、ベイシンガーの代わりに、スターを夢見る新人女優役として、メリッサ・ジョージを起用している。無論ジョージも悪い俳優ではないが、ここは映画でのベイシンガーと較べてしまっては分が悪いだろう。特にジョージが演じるのは、駆け出し女優としてまだ演技のイロハもわかってないという素人くさい役どころであるだけに、ベイシンガーとはまるで勝負にならない。


まあ、そんなこんなで、結局TV版「L.A. コンフィデンシャル」は、陽の目を見ることなくお蔵入りになった。それでも、サザーランドは翌年から、現在人気ドラマとして確立しているFOXの「24」に主演しているし、ジョージも、その後ABCの「シーヴス (Thieves)」という失敗作こそありはしたが、現在ではジェニファー・ガーナーの同僚として「エイリアス (Alias)」にレギュラー出演している。コンラッドとホプキンスの名は残念ながらほとんど聞かないが、番組がキャンセルされたことが、必ずしも関係したすべての俳優にマイナスになっているわけではない。ま、そういうこともある。







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L.A. Confidential

L.A. コンフィデンシャル   ★★★1/2

 
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