Eighth Grade


エイス・グレイド  (2018年8月)

ティーンエイジャー時代をアメリカで過ごしたことがあるわけでもなく、子供がいるわけでもなくアメリカの教育システムに疎い私の場合、エイス・グレイド、8年生というのは、単純にファースト・グレイドから数えて8年目、つまり日本でいうと中学2年に当たるものだとばかり思っていた。 

 

しかし映画を見ていると、主人公ケイラは、エイス・グレイドなのにミドル・スクールを卒業間近と言っている。ミドル・スクールはジュニア・ハイ・スクール=中学であり、当然卒業はナインス・グレイドだろうと思っていたので、よくわからなくて調べてみたところ、ミドル・スクールとジュニア・ハイは必ずしも同じではなかった。 

 

ミドル・スクールはシックスス・グレイドからエイス・グレイドまでで、ジュニア・ハイならもう一年あるところを、ミドル・スクールでは卒業してすぐハイ・スクールに行ってしまう。一方ジュニア・ハイを卒業した者はハイ・スクールではなくシニア・ハイ・スクールに進む。ハイ・スクールは4年、シニア・ハイ・スクールは3年制なので、両方とも卒業する時には帳尻が合う。広いアメリカでは自治体によって、こういう風にシステムが微妙に違ったりする。しかしまあ大勢に影響はない。 

 

一方、システムとしては最終的に差はなくとも、実際の生徒となると話は別だ。エレメンタリー・スクールからミドル・スクール、ミドル・スクールからハイ・スクールと進む時に、ほぼその人の一生を決めるに近い大きな転換期を迎える。これは日本だろうとアメリカだろうが同じだ。周りの環境が一変し、付き合う友だちが変わる。それはたぶん一生後を引く。 

 

日本に中学デビュー、高校デビューという言葉があるように、アメリカだってエレメンタリー-ミドル-ハイと学校が変わる時は、新しく変わった自分を見せたいと、一念発起して自己啓発に励んだり背伸びしたりする者は多い。「エイス・グレイド」の主人公ケイラもそうだ。あと僅かでハイ・スクールに進むというこの時、下手に後悔したり無念を残して前に進みたくはない。ケイラの思いは千々に乱れる。 

 

正直に言うと、この時分の子、特に女の子は、私が最も苦手とするタイプだ。中途半端な自我と愛想と背伸びと媚びが一緒くたになって、辟易する。見た目には可愛い子を遠巻きに見ているだけならまだしも、会話しようとかコミュニケイションをとろうとかはまったく思わない。 

 

これからまだ少しは成長しているに違いない年頃の子を描いた「レディ・バード (Lady Bird)」ですら、何、このジコチュー女と思った私が、またよりにもよってなんでこれよりさらに扱い難いに違いない13歳の女の子が主人公の「エイス・グレイド」を見ようと思ったか。大きな理由の一つは評がよかったからなのだが、先週先々週とハリウッド・アクションが続いてここらでインディ作品を見たいと思ったこともある。しかし実際にこれを見ようと決断した最大の理由は、私が映画を見に出かけようとした時に、単純に「エイス・グレイド」の上映開始時間が私のスケジュールにぴったりと合ったからだ。一日をロスなく使える、これだ、と思った。 

 

そしてやっぱり、いらいらさせられることになった。なんでまたこの時分の女の子ってのはここまで身勝手で社会のことをまったく理解していないんだ、と、結局また「レディ・バード」を見た時と同じような感想を持った。男の子だろうが女の子だろうが、この年頃の子がそういうものだということはわかる。私だってその時代を経験済みだ。とはいえ、まったく自分のことしか考えていない人間に感情移入はし辛い。 

 

冒頭、ケイラは自分のポッドキャストを収録中に、何度も自分は引っ込み思案の女の子だと思われているが実はそうじゃないんだということを口にする。これを見て私は、ドナルド・トランプを連想した。トランプも何かアナウンスすることがあると、だいたい、嘘や自分が信じてないことに限って同じ発言を繰り返す。トランプが繰り返し発言をした場合、それはまず100%嘘だ。それと同じことをケイラもしている。彼女が自分は本当は引っ込み思案じゃないんだ、ただ積極的に行動する理由を見つけられないだけと弁明する時、それは実は本当はやはり自分は臆病だと告白していることに他ならない。 

 

そういう自己欺瞞自己憐憫はこの時代特有の病気とも青春とも言え、誰もが通る道だと慰めてやりたい気分にならないこともないが、しかし、畢竟この手の問題は自分自身が一人で解決して乗り越えていくしかないものであり、そういう赤の他人の悶々したものを見たいとは、やはり私は思わない。勝手にしてくれ、というのが正直な気持ちだ。正直な気持ちなんだよ。 











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エイス・グレイダーのケイラ (エルシー・フィッシャー) は、シングル・ファーザーの父マーク (ジョシュ・ハミルトン) と一緒に一軒家に住んでいる。ミドル・スクール卒業を目前に控えたケイラには、後悔ややり残したことがあるという思いを禁じ得なかった。ある時、学校の人気者ケネディの母がケイラを目ざとく見つけ、チャリティでマークから受けた恩返しとしてケイラをプール・パーティに誘う。乗り気のしないケイラだったが、マークの勧めもあり、行く決意をする。ほとんど着替えるのにパニック・アタックに襲われながらプール・サイドに行くと、そこにはケイラの片思いの相手エイデンがいた‥‥ 


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