Lady Bird


レディ・バード  (2017年11月)

あらあらあら、という感じだ。先週、インディ映画っぽい小品の「 聖なる鹿殺し ザ・キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア (The Killing of a Sacred Deer)」と「サバービコン (Suburbicon)」のどちらを見るか決めかねて「ザ・キリング‥‥」にしたのは、「サバービコン」は、コーエン兄弟脚本、ジョージ・クルーニー演出、マット・デイモン主演というビッグ・ネイムのためにしばらくは公開されるだろうと踏んだためで、それよりは明らかに通好みっぽい「ザ・キリング‥‥」を先に見といた方がいいだろうと判断したからだ。


そしたら、今週末の上映予定をチェックしたところ、「サバービコン」がない。どこでもやっていない。綺麗さっぱり消えている。特に評がいいわけではないことは知っていたが、それでも、コーエン、クルーニー、デイモンだ、これだけのメンツが揃ってさすがに一週上映しただけでは終わりにはならんだろと高を括っていたのだが、あにはからんや世の中の人にはまったくアピールしていなかったらしい。半径50マイル圏内から跡形もなく消え去っていた。これが「マイティ・ソー バトルロイヤル (Thor: Ragnarok)」と「ジャスティス・リーグ (Justice League)」が同時公開されていることによる弊害なのだとしたら、やっぱりスーパーヒーローものはもういいかなと思ってしまう。


いずれにせよそういうわけで、今週は「レディ・バード」だ。2000年代初頭の西海岸の町サクラメントで、家族と一緒に住む高校生の主人公レディ・バードことクリスティンの日常を描く。


クリスティンに扮しているのはシアーシャ・ローナンで、一昨年の「ブルックリン (Brooklyn)」では20代前半だったのに、今回はティーンエイジャーと若返ってしまった。しかし確かに「ブルックリン」では20歳ちょっとに見え、「レディ・バード」では高校生に見える。実際には彼女は1994年生まれだから、「ブルックリン」撮影時にはちょうど20歳前後で問題ないが、20歳越えしてから高校生に扮する「レディ・バード」でも違和感ない。2014年の「グランド・ブダペスト・ホテル (The Grand Budapest Hotel)」の後「ブルックリン」を見た時は、いきなり大人になったなと思い、次は今度はさらに色気を増すかと思ったら、逆に年齢を逆行だ。それだってすごいっちゃあすごい。


また、「ブルックリン」ではどちらかというとおくての女の子だったのが、「レディ・バード」では何にでも積極的な活発な女の子だ。これだけのキャラクターのギャップがあって、しかもやはりどちらも地ですらあるように感じさせる。演技力あるんだなと思わせる。


実は正直言うと、私はこれくらいの年頃の子が苦手だ。ガキ扱いすると怒るくせに、間違いを正すとすぐ拗ねる。持っている話題や考えていることが違うために、話をしてもまったく噛み合わないし楽しくない。これは男女問わずそうだが、女の子は特にそうだ。


そういう子が二人以上になると、足し算どころか掛け算もしくは累乗でうるさくなる。「レディ・バード」のクリスティンは、そういう、私が最も苦手とする、やたらと口うるさくて早口でおしゃべりで、そして自意識過剰で身勝手だ。多かれ少なかれこのくらいの歳の子は、そのくらいの歳だった頃の私自身を含め身勝手で自己中なものだが、しかしクリスティンはひどい。


冒頭のシーンではクルマの中で母親と口喧嘩して、気に入らなくて発作的に走っているクルマの中から跳び降りる。手首を折るが、運が悪ければあの世行きだった。親がつけた名前が気に入らなくて自分で勝手にレディ・バードと改名し、それで通す。見ていると確かに母親は口うるさ過ぎる、これでは家を出たくもなると思うが、この母にしてこの子ありという点も否めず、どっちもどっちだ。


規則の厳しいはずのカソリック系の学校でもがかなり好き放題という感じだ。親友がいるのにちょっと気になる金持ちの女の子がいると、親友の気持ちなんか考えずに新しい子と付き合いだす。親には内緒で地元ではなくニューヨークの大学に進学しようとして画策するが、まあそれは私もやったか。


そういう性格が災いしてか、どうも男運はよくない。最初に勢いこんでゲットしたボーイフレンドのダニーは、実はゲイだったし、次のボーイフレンドと初めてHして、相手は実は初めてじゃなかったと知ると怒る。唯一彼女もそんなに性格悪くないと思わせるのは、ダニーが実はゲイで、カミングアウトで悩んでいるのを慰める時だ。一方自分がゲイということを自覚しているのに隠れ蓑で女性と付き合ってみたりするこの男もこの男だ。演じているのはルーカス・ヘッジスで、そういや彼は「マンチェスター・バイ・ザ・シー (Manchester by the Sea)」でも今風のさばさばした女の子との付き合い方をしていた。


クリスティンの2番目のボーイフレンドになるカイル (ティモテ・シャラメ) も、実は真面目にクリスティンのことを考えている節はないし、同様に新しい友人になるジェナも、まぶだちという感じはしない。要するにそういう人との付き合い方が今風ということか。といっても時代設定は2002年だ。現代の若者はさらにドライになっているかもしれない。


一方で感心するのはそういう役でありながら、だからといってではクリスティンに反感持ってしまうかというとそうでもないことで、これはある程度ローナンの魅力と演技力に拠っている。これが下手な女優だったら、単純に反感だけが募るところだ。今のガキどもはもう、と思いながら、結構感情移入させられる。


演出はこの作品が単独での初監督作となる女優のグレタ・ガーウィグで、1983年サクラメント生まれで、本名はクリスティンで、カソリックの学校に通った由。要するに「レディ・バード」はほぼガーウィグの体験を基にしているドキュドラマと言っていい。ところどこらやたらと痛い描写がリアルだなと思ったら、実体験だったからだな。



追記 (2017年12月)

こないだCBSの深夜トーク「ザ・レイト・ショウ (The Late Show)」を見ていたら、ゲストにガーウィグが出ていて、当然誰もが彼女の体験を基にしていると思った主人公クリスティンが、実は本人とは真逆のキャラクターで、映画はまったく想像の産物というようなことを言っていた。それもありか。










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2002年サクラメント。カソリックの学校に通う進取の気性に富む高校生クリスティン (シアーシャ・ローナン) はありきたりな自分の名前に飽きたらず、自分で自分自身をレディ・バードと呼んでいた。夢と希望と行動力に溢れるクリスティンにとって、サクラメントという町は田舎くさく感じられてしょうがない。駅の反対側は高級住宅街でハイソな人々が住んでいるが、自分たちはどう見ても裕福ではなく、較べたくなくても較べてしまう。父のラリー (トレイシー・レッツ) は優しいが、小うるさい母マリオン (ローリー・メトカーフ) は何を言っても反対してくるので鬱陶しい。親友は体重過多のジュリー (ビーニー・フェルドスタイン) だが、自分も金持ちの振りして上流階級のジェナ (オディア・ラッシュ) とも付き合ってみたりもする。もちろん男の子も気なる。目下気になっているのは、演劇のクラスで一緒のダニー (ルーカス・ヘッジス) だ‥‥


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