CODA


コーダ あいのうた  (2022年2月)

知らなかったが、「コーダ」はリメイク作品なのだそうだ。2014年のフランス映画「エール! (La Famille Bélier)」は、「The Bélier Family」という英題もついているので、英国やオーストラリア等の英語圏でも公開されてはいるようだが、アメリカでは未公開だ。現在でもアメリカではストリーミングでも提供されていない。 

 

知る人ぞ知るという感じの作品だったのだろうが、だからこそアメリカでリメイクが製作されたとも言える。というか、これをアメリカでリメイクしたら成功すると考えた製作サイドが、リメイク権を買った「エール!」のアメリカ公開を禁じたというのが本当のところのような気がする。 

 

基本、ほとんど同じ作品のようだが、リメイクに当たっての最も大きな改変は、主人公一家の職業だ。オリジナルでは酪農を営む主人公一家が、「コーダ」では漁業に従事している。洋上ではどんな大声で歌を歌っても誰からも文句を言われることはない。その開放感も、逆に耳が聞こえないために海の上では危険度が高いことも共にストーリーに組み込んでおり、この改変はなかなかうまい。 

 

アメリカ版タイトルの「コーダ (CODA)」は、当然歌が好きな主人公ルビーに合わせた音楽用語で、結末部を意味する。楽譜でよく目にする、あれだ。とてっきり思っていた。そしたらそうではなく、CODAとは、Child of Deaf Adults のアクロニムで、やはりルビーを示唆しているが、意図する経緯は違う。しかし、映画の作り手としては、聾唖者の子供としてのルビーとしてだけでなく、音楽用語としてのコーダも掛けているに違いない。 

 

聾唖というと、思い出すのは聾唖者に音が聞こえるようにするコクリア・インプラントという機器を埋め込むことの是非をとらえたドキュメンタリー、「サウンド・アンド・フューリー (Sound and Fury)」だ。この作品に登場する二組の聾唖の夫婦は、共に子どもたちにコクリア・インプラントを装着させるかで悩んでいる。子どもも聾唖だが、音が聞こえるというメリットを与えてやりたいという気持ちと、そうすることによって自分たちと子供の間に溝ができる恐怖もある。 

 

「コーダ」では、主人公のルビーは聴覚に障害はなく、聾唖の家族と外界とのパイプとして機能している。つまり子供の耳が聞こえることが家族のためになっており、それを考えると、やはり家族の中に健常者がいることは生活をスムーズに運ぶことに貢献するように見える。一方で、そのためやはりルビーは、外の世界に出たいと思う気持ちが強い。歌という才能もある。 

 

聾唖の家庭に歌が好きで才能もある子供がいるというのが作品の肝で、無音であることと音があることの拮抗がドラマになる。多くのシーンで登場人物が手話で会話するため、その時の絵が無音になる。そのため、逆に音を効果的に使えるし、家族の中で一人声を発するルビーの存在が際立つ。声を出すだけでなく、歌を歌うからなおさらだ。音がないことは、視覚を、つまりアクションを強調することにもなる。作り手としては、どのように音を提出するかで色々と悩んで楽しんだに違いない。 

 

先頃、深夜トークのNBCの「トゥナイト (Tonight)」を見ていたら、ゲストにルビーを演じているエミリア・ジョーンズが出ていて、ホストのジミー・ファロンと話していた。「コーダ」ではまるっきり化粧っ気のない高校生だったので、最初彼女だと気づかず、てっきりゾーイ・デシャネルの新作映画の公開に合わせてのゲスト出演かなと思っていた。ティーンエイジャーはあっという間に成長する。 


 










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マサチューセッツの海沿いの町で暮らす高校生のルビー・ロッシ (エミリア・ジョーンズ) は、聾唖の家に生まれ、ルビー以外、両親のフランク (トロイ・コッツァー) とジャッキー (マーリー・マトリン)、兄のレオ (ダニエル・デュラント) は聾唖だ。フランクとレオは二人で船を持ち、漁をして生計を立てており、ルビーもその手助けをしていた。学校では引っ込み思案のルビーだったが、音楽教師に歌の才能を見出され、ボストンの音楽学校のオーディションを受けるよう薦められる。しかしロッシ家でただ一人言葉で他者とコミュニケイションをとることのできるルビーは、常にその存在を必要とされており、必要なレッスンを受けるのもままならなかった。ルビーは自分の夢と家族との間で揺れる‥‥ 


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