Blood Dolphins    ブラッド・ドルフィンズ
放送局: AP (アニマル・プラネット)

プレミア放送日: 8/27/2010 (Fri) 23:00-0:00

製作: ベイロック・メディア、クリエイティヴ・ディファレンスズ

製作総指揮: エリク・ネルソン、リンカーン・オバーリー、デイヴ・ハーディング

製作: ピーター・ハンコフ、リチャード・オバーリー

ナレーション: フィッシャー・スティーヴンス

出演: リチャード・オバーリー、リンカーン・オバーリー


内容: 今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門賞を獲得した「ザ・コーヴ (The Cove)」の中心人物であったリチャード・オバーリーの現在の活動をとらえるリアリティ/ドキュメンタリー。


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アニマル・プラネット (AP) は日本人には耳の痛いチャンネルだ。ここで最も人気のある番組の一つは、日本の捕鯨禁止を旗印に掲げる急進的活動家ポール・ワトソンと、彼が率いるシー・シェパードの行動を追う「ホエール・ウォーズ (Whale Wars)」だ。それに今回新たに加わる新番組が、イルカ保護運動を推進するリチャード (リック)・オバーリーの活動を追うリアリティ/ドキュメンタリー、「ブラッド・ドルフィンズ」だ。


かつてのTVの人気番組「わんぱくフリッパー (Flipper)」でイルカの調教師をしていたリックは、引退後イルカの保護に目覚め、現在ではその活動に忙しい。映画「ザ・コーヴ」は、その彼が和歌山の太地町におけるイルカ漁に反対する様をとらえたドキュメンタリーだった。


アメリカには動物愛護に力を入れる者も多く、特にハリウッドの知識人に支持された結果、「コーヴ」はアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を獲得した。もちろんアカデミー賞を獲得すれば、知名度は一気に世界区になる。NBCの「ヒーローズ (Heroes)」に出演して人気の出たヘイデン・パネッティーアも太地でイルカ漁反対の実力行使行動に出て日本の警察に逮捕されるなどのニューズになり、Taijiという地名は、動物愛護団体から敵視される代表的な固有名詞になった。


「ブラッド・ドルフィンズ」は、「コーヴ」後の太地に再度訪れるリックと息子のリンカーンたちをとらえる番組だ。もっとも、イルカの保護が主眼のリックは、世界中のイルカ漁に反対している。そのため、特に太地一か所にこだわることなく、イルカ漁やイルカの取引、売買があると、世界中どこにでも行って反対運動や保護活動を行う。


実際、一応第1シーズンとされる3回シリーズで、最も力点が置かれているのは大地のイルカ漁ではなく、実はソロモン諸島のイルカの闇取り引きの方だ。大地には、またイルカ漁のシーズンとなったため、現状を視察再確認のために出向いたという印象の方が強い。「コーヴ」の世界的ヒットによって大地が注目されているため、番組としては話題性を高めるために太地篇を第1回に持ってきたが、焦点はあくまでも第2回、第3回でとらえられているソロモン諸島のイルカ取り引きの方にある。とはいっても、日本人としてはやはり気になるのは、太地に乗り込むリックたちをとらえた第1回の方だ。


これが「ホエール・ウォーズ」の場合だと、主人公ポール・ワトソンの行動はほとんど子供の自己満足の域を出ず、そのためアメリカでも彼の言動ははっきり言って嘲笑の対象だったりする。コメディ・セントラルの「サウス・パーク (South Park)」での徹底的にバカにした描かれ方を見ても、アメリカにおける彼の受け止められ方がわかる。つまり、彼に本気で肩入れする知識者、有識者はほとんどいない。


ところがリックは、どう見てもまともな人物だ。息子のリンカーンは時に実力行使に出るが、リックは紳士であり、話をさせても筋道を通した話し方をする。人道的に訴える上、彼には「フリッパー」という強い情動的背景もある。要するに、説得力がある。しかもカメラにとらえられたイルカ漁の模様は、やはり一般人には残酷と映るだろう。


リックは今回さらに太地にプレッシャーをかけるためにどうするべきかと頭を巡らせた挙げ句、日本を相手にする場合、ガイアツが最も効果的という情報を得る。力で圧倒しようとするのではなく、自分がそこに乗り込んで世界の目を向けさせることで、内外のメディアの注目を得、諸外国からプレッシャーをかけることが最も有効だと判断する。日本人は外圧に弱いということが一般レヴェルにまで浸透している。それにしてもガイアツって英語になってたのか。


実際、そうやって大地入りしたリックをマスコミが追うことで内外の目が太地を向き、太地ではイルカ漁を延期せざるを得なくなる。結局太地の人々はリックらが太地を離れた後でイルカ漁を敢行するが、それでも、例年に較べると規模の小さなものにならざるを得なかった。状況は、太地の人にとってかなり不利だ。


私としては両方の言い分とももっともだと思う。リックが人道的にイルカ捕殺に反対するのもわかるし、一方で長年の歴史のあるイルカ漁で飯を食ってきた人たちに対して、いきなりイルカ漁をやめろとも言えない。そんなことより自分の足元を見ろ、あれだけ大量の牛や豚や鶏を大量生産殺戮しているのはどこのどっちだと言いたくなるだろう。スペインの闘牛は明らかにイルカ漁より非人道的だと思えるが、それはいいのか。イルカ漁をしているのは日本でも太地だけじゃないだろうし、なぜオレたちだけこうも叩かれなきゃいけないと思うのは当然だ。


ただし、こないだニューズになった、LAでクジラの肉を食わせるという日本レストランに潜入取材した「コーヴ」の製作者の一人 (リックたちとは関係ない) がそのことをすっぱ抜いて、店を閉店に追い込んだという話は、どっちも気に入らない。少なくともアメリカではクジラの肉を食わせるのは違法であり、それが気に入ろうが気に入るまいが、郷に入っては郷に従うしかないだろう。嫌ならアメリカでの営業は断念するか、客としてクジラ肉が食べたいなら日本に帰って食えばいい。だからクジラの肉を出すレストランも気に入らなければ、そのことを潜入取材ですっぱ抜いて、「コーヴ」を撮った時より興奮した、と得意気に語るちくり屋もなんだか気に入らない。お前ら同じレヴェル、と思ってしまう。


だいたい、前世紀の初頭までは、アメリカでもクジラ漁は盛んだった。ニュー・イングランドの漁業では主要産業と言ってもいいくらい盛んだったらしい。第一、クジラ漁なくしてメルヴィルの「白鯨 (Moby Dick)」もまたなかったのだ。私はこのことをPBSが放送した「イントゥ・ザ・ディープ: アメリカ、ホエーリング&ザ・ワールド (Into the Deep: America, Whaling & the World)」で知った。アメリカではたとえばクジラを捕るのは悪いという意見が主流になると、必ずその反対の意見に耳を傾けたり、暴走に歯止めをかけようとする意見がどこかから出てくる。何やかや言ってもアメリカのいいところはそこであり、その点は見習うべきと思う。


「ブラッド・ドルフィンズ」では、リックはかつてはやはりイルカ漁をしていたが、今ではイルカを観光資源として共存している静岡県富戸を訪れる。太地もそうなって欲しいと言うが、しかし言うは易く行うは難い事業だろう。太地では外圧に反発して、こうなったら意地でもイルカ漁を続けると思っている漁師がいてもおかしくない。ワトソンの場合は、お前そのうち南洋上で座礁してそのまま海の藻屑になってクジラの餌になって本懐を遂げてくれと思うが、リックにはなあ、多少はシンパシーを感じてしまう。私も「フリッパー」を見て育った世代なのだ。リックたちはまた来年太地を再再訪すると思うが、その時事態はどう変わっているのだろうか。








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ブラッド・ドルフィンズ   ★★1/2

 
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