Whale Wars/ホエール・ウォーズ (クジラ戦争)

放送局: AP (アニマル・プラネット)

プレミア放送日: 11/7/2008 (Fri) 21:00-22:00

製作: RIVRメディア

製作総指揮: ディー・ハスラム、ロバート。ランドグレン、リズ・ブロンスタイン、ダン・ストーン

出演: ポール・ワトソン、シャノン・マン、ベンジャミン・ポッツ、キム・マッコイ、ピーター・ハマーステッド、クリス・オールトマン


内容: 急進的環境保護・捕鯨反対団体のシー・シェパードが日本の捕鯨業に対し、徹底的に邪魔をする様をとらえるリアリティ・ドキュメンタリー。


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最近、事ある毎にTVで日本の話題を見聞きする。番組が日本を舞台としていたり、あるいは日本産番組をアメリカでリメイクしたりとかしているからだ。今年だけでもABCの「ワイプアウト」やFOXの「ホール・イン・ザ・ウォール」のような日本産番組のリメイクやお手本にした番組が何本もあったし、NBCの「リップスティック・ジャングル」、ABCの「アイ・サヴァイヴド・ア・ジャパニーズ・ゲーム・ショウ」、ABCファミリーの「サムライ・ガール」、MTVの「パリス・ヒルトンズ・マイ・ニューBFF」みたいに日本に行ったり日本を舞台にしたり、あるいは日本に行ったふりをして製作した番組もあった。


つい最近もニコロデオンの人気番組「アイカーリー (iCarly)」で、主人公カーリーら一行が学校で製作している番組が表彰されることになり、日本に派遣されるというテーマでスピンオフTV映画を製作放送していた。本当に日本にまで行って撮影しているのか、まだ日本ではそれほど知名度がある番組とも思えないのにと興味をそそられたのでちょっとチャンネルを合わせてみたのだが、案の定ハリウッドから一歩も外に出ずにスタジオ撮影で日本に行ったことにしていた。


むろんこういうのは、それはそれで日本がどういう風に認識あるいは誤解されているかを実地に教えてくれるまたとない機会なので、実は日本がヘンに紹介されていればいるほど面白かったりする。「アイカーリー」では、誤解から主人公一行が招待されているとは知らずに会場のセキュリティ (もちろん日本人で英語は話せないという設定) が一行の会場入りを阻む丁々発止の小競り合いを描くのだが、そこで主人公一行の一人が丁寧に自己紹介しているつもりで、セキュリティに向かってヘタクソな日本語で唯一知っている「お前の母ちゃんでべそ」と言うシーンがあり、私は思わず噴き出してしまった。


誰が書いたセリフか知らないが、そりゃ死語だ、死語。この10年くらいその言い回しを聞いた記憶はない。これを書いた脚本家は日本人であったとしても50代以上なのは間違いあるまい。しかし、まったく日本語をしゃべれないアメリカ人ティーンエイジャーがいきなり「お前の母ちゃんでべそ」と言う意外性はかなりいけていた。こういうのがあるから日本テーマの番組を探し出して見るのはやめられない。


いずれにしてもこのように、最近日本が絡む番組を見る機会が多い。むろん昔から日本が様々な番組内で言及されたり登場する機会はあったが、最近はその頻度が非常に高い。アメリカTV界が番組のネタ切れになったかあるいは日本に新しい可能性を見出したか、たまたま偶然か、色々理由はあるだろう。しかし今回、アニマル・プラネットが放送した「ホエール・ウォーズ」は、日本を身近に感じるにせよ敵視するにせよ、さらに一段階先に進んだという印象を受ける。


「ホエール・ウォーズ」は日本の捕鯨業に反対する急進的環境保護グループのシー・シェパード (Sea Shepherd) が、徹底してその邪魔をしてやろうという様をとらえるリアリティ・ドキュメンタリーだ。シー・シェパード主宰者はポール・ワトソンという人物で、世界的に有名な環境保護団体グリーンピースの創設者の一人でもある。しかし急進的意見の持ち主で、自説を主張するためには実力行使も辞さないという姿勢はグリーンピース内でも浮いてしまい、結局ワトソンは自分が作ったそのグリーンピースから追放される。


たとえば捕鯨反対を主張していながら、その捕鯨現場でただプラカードを持って反対を表明するだけで何もせずに見ているだけなのは意気地なしのすることだというワトソンの主張には一理ないこともないが、しかし、そこで実力行使のサボタージュ行動に出るか出ないかは、政治的駆け引きや大人の外交が関係してくるところであり、それをまったく無視していきなり喧嘩をふっかけるのは、ガキの行動以外の何物でもない。ワトソンがグリーンピースを追放されたのも当然だと思うが、しかし、そういう単純に1+1=2的なものの考え方をするワトソンの直截さに感銘を受けたり惹かれたりする者がいるのもまたわからないではない。


ワトソンはそういうヴォランティアと共に捕鯨反対船スティーヴ・アーウィン号に乗り組んで南極に出発、日本の捕鯨船団に接触して実力行使で捕鯨阻止を図る。その一部始終をとらえたのが「ホエール・ウォーズ」だ。ところで彼の船の名はスティーヴ・アーウィン号というのだが、最初番組内でスティーヴ・アーウィンがなんたらかーたらといきなり言及された時は文脈がつかめず、何を言っているのかわからなかった。もちろんスティーヴ・アーウィンというのは、昨年海でエイの尾に心臓を一と突きされて死亡したオーストラリアのクロコダイル・ハンターこと野生動物専門家のアーウィンのことで、船は彼の名を頂戴しているわけだ。アーウィンも捕鯨活動に反対していたようだが、しかしワトソンみたいな武力行使も是認していたのだろうか。


一応日本の捕鯨はクジラの生態を調べるという目的があり、何頭までは捕獲可という基準内で国際的にも認められている。しかしワトソンはそんなの嘘っぱちだとして聞く耳持たず、徹底阻止の姿勢を緩めない。実際の話、渋谷にはクジラを食わせる店があり、私もクジラの刺身を食ったことがあるのだが、あれはあれで結構うまい。しかし食用としての捕鯨が禁じられているのなら、なぜクジラの刺身が食えたかは疑問ではある。法の抜け道みたいなものがあるのかもしれない。私としては、絶滅するほど獲らないのなら捕鯨に反対する理由はまったくなく、むしろ定期的にクジラ食いたいと思うし、長年生業として捕鯨に携わってきた者から見ると、なんで今さらクジラ獲っちゃいけないんだ、上から勝手にお達しあったり毛唐がいきなり邪魔しに来たり、なんなんだお前らと頭に来るのは間違いないだろう。


実際、日本人の目から見ると、ワトソンの主張にはかなり無理があるような気がする。彼の言い分は、絶滅しようとしている種を捕獲するのはもってのほかという点に集約できる。特にクジラが哺乳類であり、ホエール・ウォッチングという言葉があるようにたぶん実際に泳いでいるクジラには圧倒的な美しさや力強さがある点が、保護しなくてはという気にさせるのだと思う。


しかし絶滅する心配がないのなら、それはディア・ハンティングや渡り鳥の捕獲やその他の漁業と根本的なところで代わることはない。クジラよりもっと人間に近い陸棲哺乳類の牛や豚をほとんど大量生産で消費していることを思えば、なぜクジラにそこまでこだわるのかよくわからない。やはり絶滅する可能性の有無がポイントだと思うが、しかし、クジラの個体数は現在では一定数が保たれていると聞いた。それともこれは嘘っぱちの情報か。


印象としては、極東の小さな一島国でしかない日本の船が南極まで出張ってきてクジラを獲って帰ることが気に入らない、欧米人の縄張り意識が捕鯨を邪魔させるという感じが強い。絶滅させないように日本の捕鯨船が調査をしているのはある程度は紛れもない事実であると思われるのに、なぜここまで熱心に他人の仕事の邪魔をするのかよくわからない。もし乱獲で絶滅するのなら、クジラはとうに絶滅していておかしくないと思う。ワトソンはわざわざ南極まで来て人の仕事の邪魔するくらいなら、自分の国でマクドナルド反対運動を起こすべきではないのか。


ワトソンの行動を見て連想するのは、やはり同様に絶滅するのしないのといって個人で勝手にグリズリー保護運動を展開し、個体数はちゃんと維持されているんだとして当局から煙たがられた挙げ句、結局その飢えたグリズリーに襲われて食べられたティモシー・トレッドウェルをとらえたヴェルナー・ヘルツォークの「グリズリー・マン」だ。要するにワトソンがしていることも、そういう独りよがりの自己満足という印象を拭い得ない。


というように、私自身の個人的意見ではワトソンのしていることはまったく理屈の通らないガキの言動に過ぎない。しかしその行動をカメラが追ってTV番組とした場合、彼の理不尽な行動に予測がつかず、あっと思えることを平気でしてしまうが故に、通常のドラマがは提供できない予測不能の面白さを提供することに成功している。リアリティ/ドキュメンタリーとして見ると、番組としては最近では断トツに面白い番組となっているのだ。


まず、広い大海原で、どうやって日本の捕鯨船団の位置を確認するかもわからないまま、何か月も無駄骨を折って海の上を彷徨い続けるだけという可能性もあるのに、普通は船を出航させたりはしないだろう。思い余った挙げ句、かつての盟友、今は敵という間柄のグリーンピースに情報を求めて電話をかけても切られてしまう。この準備の悪さはどうだ。何十人ものヴォランティアが、何か月も船の上で文字通りただ働きになってしまう。


そのヴォランティアは、当然ヴォランティアだからしてほとんどの者は船で働いた経験などない。出港してしばらくすると、あっちこっちで船酔いゲーゲー状態だ。この状態では日本の捕鯨船に遭遇しても使い物になるまい。船戴のヘリコプタを飛ばして様子を見ようとすると、素人パイロットがプロペラを傷つけてしまい、長距離飛行が不可能になってしまう。捕鯨船を見つけた時に接近して示威行動をする小型船デルタ号を海上に降ろして実地訓練する際には、操作ミスでデルタ号を転覆させる始末だ。乗り組んでいた3人は全員海に放り出され、慌てて救助したはいいものの、運が悪ければ死んでいた。南極の海なのだ。


「アメリカズ・タフスト・ジョブス」で、こちらはアラスカの海でカニ漁の最中にもう少しで海に落ちてしまうところだった参加者がいた。こちらは寒水用のライフ・ヴェストなど着込んでおらず、落ちたらまず確実に死を意味していた。それに較べれば寒さに震えていても無事助けられたシー・シェパードのヴォランティアはラッキーだったと言える。しかし、いずれにしても本当にこの手際の悪さはなんだ。訓練ではなくて実際に捕鯨船を見つけた時にこんなでは、示威活動どころか自分たちに怪我人を出して自滅するだけだろう。こんなんでこいつら、本当に無事日本船団を見つけて所期の目的を達成することができるのか。


しかし匿名の情報提供等もあり、ついにスティーヴ・アーウィンは日本捕鯨船団を視野にとらえる。よくもまあこんな僥倖 (日本船団にとっては不運) が起きたものだ。今度は無事デルタ号を着水させ、捕鯨船第二勇新丸の前に回り込ませる。そこでロープをくくりつけた浮きを海に投げ入れ、勇新丸のスクリューに絡ませることで推進力を奪う目論見だ。しかしそんなこと、本当にやっていいのか。明らかに海事法違反というか、そこまでやっちゃったら犯罪だろう。それとも彼らにとってはこれは自分たちに大義名分のある戦争行為なのか。


この作戦は失敗するも、勇新丸に近づいたデルタ号の乗組員は、おそろしく腐臭があるという自作手榴弾を勇新丸甲板に向かって投げつける。何発かは無事的中し、これであいつらはしばらくは激しい臭さに悩まされるとにんまり。そして極めつけは、捕鯨反対の声明文を持たせられた者が、シー・ジャック並みに勇新丸に飛び乗り、声明文を勇新丸船長に手渡すという示威行動だ。ここまで来ると完全に他国籍船舶への違法侵入という犯罪行為だ。アーウィン号乗組員の面々ですらそう思っており、さすがにこの任務に率先して志願する者はいない。シー・シェパード内部にすらこれはやり過ぎと反対を表明する者もいるが、ワトソンは独断でそれを押し切り、乗組員の中から二人を指名する。


これがかなりヤバい任務ということは彼らだって承知しており、緊張は隠せない。パスポート持ったかと訊かれるのだが、当然勇新丸で拘束されたら裁判沙汰、運が悪ければ長期勾留もしくは刑務所入りの可能性はかなり高い。後日身分を証明するためにパスポートは必要になるだろう。これで彼らも晴れて国際犯罪者だ。そしてその任務を帯びた二人は無事デルタ号から勇新丸に飛び乗ることに成功するが、即座に勇新丸乗員に取り押さえられ、最初はデッキのパイプに縛りつけられる。二人はその後、上部デッキに移動させられて激昂している様子の (当然だ) 勇新丸船長と対面する。あんたら、海に放り出されなくて本当にラッキーだったよ。この一部始終はデルタ号およびヘリコプタからカメラによって収められ、世界中のニューズ配信社に提供された。完全に悪者扱いの日本は政府が対応に追われる。ワトソンの目論見は見事に成功したと言ってもいいだろう。


番組はこの後もほとんど行き当たりばったりで実力行使に出るワトソンとシー・シェパードの面々、そしてはらわた煮えくり返り状態に違いない日本捕鯨船団乗組員との丁々発止のやり取りをとらえる。正直言って、どう見てもガキの理屈以上のもので動いているとは思えないワトソンには開いた口が塞がらないが、おかげで日本捕鯨船団には悪いが、番組がこの先何が起きるかわからないスリルとサスペンスを醸成していることも確かだ。


もしカメラが日本船団にも乗り込み、両方の視点から捕鯨という問題に焦点を当てることができたなら、フェアで包括的なドキュメンタリーを製作できたことだろう。しかし、これは最初からフェアなぞ求めていないリアリティ・ショウであって、第一目的はなによりもまずエンタテインメント性にある。そして、実際番組はこの種の番組としては一級の面白さを提供しているのも確かなのだ。日本船団には気の毒と言うしかないが、しかし一視聴者としては、ワトソンおよびシー・シェパードの言語道断の一挙手一投足から目がはなせない。








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ホエール・ウォーズ   ★★★1/2

 
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