Black Crab


ブラック・クラブ  (2022年5月)

だいたい、雪山を舞台とするアクションや戦争ものは面白いと相場が決まっている。それでも、スキーを履いて雪山を滑降するなんてシーンは定番だが、アイス・スケートで凍った海上を目的地まで疾走してする戦争アクションなんて、これまで見たことがない。湖の上を対岸まで滑るというわけではない。氷結した海の上を、何十kmも目的地に向かってひたすら滑走するのだ。もちろん、氷が割れれば海面下に落ちて、かなりの確率で死ぬ。 

 

連想するのはかつてヒストリー・チャンネルが放送した「アイス・ロード・トラッカー (Ice Road Trucker)」、並びにそのアクション・ドラマ化と言える「アイス・ロード (The Ice Road)」だ。「ブラック・クラブ」は移動手段をトラックの代わりにアイス・スケートによる人力にして同様のシチュエイションを構築してみたという感じだ。 邦題のカタカナ読みだと「Black Club」を想像しそうだが、タイトルが意味するものは「Black Crab」、「黒い蟹」だ。

 

「アイス・ロード」の場合は重い荷物を長距離運ばなければならないのでトラックになるが、「ブラック・クラブ」では軽いものを敵に見つからないように運ぶ必要があるので、アイス・スケートになる。「アイス・ロード」では時にトラックに故障が起きたり不具合があったりして、その度にタイヤの下の氷がぴきぴき言ってぞくぞくさせる。 

 

「ブラック・クラブ」は人力なのでエンジン音も振動もないが、故障というよりも体力の消耗、もしくは足まめが潰れたりして滑れなくなる。トラックの故障は原因がわかれば直せるだろうが、動かなくなった足は回復に時間がかかるだろう。いずれにしても、両方とも常に足元の氷が割れる危険性と隣り合わせだ。 

 

それよりも何よりも、「ブラック・クラブ」は、人が夜の凍った海上をアイス・スケートを履いて徒党を組んで滑走していくという絵がキモだ。シャッ、シャッというスケートが氷を噛む音が響く。戦時の機密の物資輸送をまさか夜中に人が海上をアイス・スケートを履いて遂行しているとは誰も思うまい。皆そう思っているからこそ作戦に価値がある。一晩中走り続けることはさすがにできないだろうが、それでもスピードに乗ればかなりの距離を稼げるだろう。 

 

舞台は近未来の北欧で、内戦だかで荒れた国は、まるで爆撃を受けた現在のウクライナ東部と見紛うような様相を帯びている。一人独裁者がいれば、世界はいつでもこんな風になる可能性があるんだなと思わされる。 

 

主人公キャロリンに扮するのはノオミ・ラパスで、今やスカンジナヴィア・アクションには欠かせない。この任務のためにスカウトされ最初は断るものの、かつて誘拐された娘が生きて捕らえられており、その娘と再会できる可能性を示唆されたために任務を引き受ける。しかしティームを指揮するリーダーは、最初、キャロリンを司令室に移送する途中、わざと別の場所に置き去りにするなど、信用が置けない。他にも寄せ集めのティームは、ほぼ素人や胡散臭い者が揃っており、皆目的を同じにする一丸とは到底言えなかった‥‥という、当然の仲間割れや疑惑を含めた展開を見せる。雪山アクションも面白いが、氷海アクションもなかなか行ける。しかしこれって、撮るの結構大変だったろう。 


 










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近未来、戦争が勃発した北欧、戦火から逃れようと娘を連れてクルマで脱出しようとしたキャロリン (ノオミ・ラパス) は、しかし途中、軍人に娘を連れ去られる。数年後の冬、キャロリンは元軍人という経歴から、秘密任務にスカウトされる。それは戦争を終わらせることのできるある重要な機材を他の選抜された軍人と共に、とある研究施設に届けるというものだった。そこは海に突き出た半島の突端にあり、極秘任務で追跡を避けるため、キャロリンたちはアイス・スケートを履いて、凍った海の上を滑走して深夜行動しなければならなかった‥‥ 


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