Bethlehem


ベツレヘム  (2014年3月)

実はこの映画、見に行く当日までまったく知らなかった。予告編を見たこともなければ、聞いたこともなかった。それでタイトルを見て、あれ、と思った。初耳だ。ここまで完全にまったく何も聞いたことがないというのも滅多にない。


しかもタイトルを見ると外国語映画くさく、当然中東が舞台っぽい。その上、上映しているのがニュージャージーのわりとお金持ちが住んでいる地域で、ということはたぶんユダヤ人も多いに違いない。ということは、これはまずイスラエル映画だな。


とまず見当をつけて調べ始めると、ビンゴ、ずばりイスラエル映画で、危惧していた聖書映画でもなく、現代が舞台のポリティカル・スリラーということが知れる。世界で最も歴史ある、戦争と確執の発祥の地とも言えるこの場所でできるポリティカル・スリラーが面白くないわけがないというのは、既にショウタイムがリメイクした「ホームランド (Homeland)」のオリジナルを製作したという事実が証明している。クルマで一時間弱くらいかかるが、ちょっと遠征してみるのも悪くないかもしれない。


話はアラブの少年たちが、防弾ヴェストを着て実弾を発射するという、危険極まりない肝試しをしようとするシーンから始まる。その標的になろうとするサンファーの兄イブラヒムは、アラブからは英雄視されていたが、当然の如く敵対するイスラエルからは要注意人物として扱われている。サンファーの父も以前イスラエルに捕えられていたことがあり、その時、父の釈放の代わりに情報を提供するようにラジがサンファーに持ちかけたのだ。


イスラエルとしてはサンファーを通じてすぐにでもイブラヒムを捕えたかったが、サンファーの身の安全を考えるラジは思い切った手を打つことができず、上司を苛つかせる。一方サンファーは、パレスチナ内部でも意見の分かれる、武力抗争に訴える急進的一派とも繋がりがあった。そこから得た金を秘密裏にイブラヒムに渡しているだけでなく、さらにイスラエルに情報を与えていたとなると、そうなった端緒が父を救い出すためという大義があっても、はっきり言ってバレたら殺されかねない。映画はそういうストレスフルな状況に置かれている二人と、彼らを取り巻く状況を描く。それにしてもなんとまあタフな環境か。


ベツレヘムだとかエルサレムだとか、あの辺の実際の状況は、たまさか小競り合いがあってニューズになる時くらいしか目にする機会はなく、正直言って詳しい現況はよくわからない。元々複雑な歴史がある上に、20世紀後半にさらにこじれたため、もう、本当によくわからない。


地図の上で見ると、イスラエルとパレスチナ自治区との境界がエルサレムを真っ二つに分断しており、ベツレヘムはすぐその下、パレスチナ自治区にある。一応外国だから、イスラエルとベツレヘムを行き来するには、パスポートを持って検問を通る必要がある。また、パレスチナ自治区下にあっても、イスラエルによる実効支配が利いている場所もあるそうだから、もう、やはり部外者には何がなんだかよくわからない。


映画を見るとそういう、同じ場所に二つの国が混在しているという現状が、100%ではなくても理解できる。イスラエル軍は、だいたい地元の感情を慮りながら、このくらいはいいだろう、これはやばいと判断しながらパレスチナ側に足を踏み入れる。パレスチナ側も、最初は黙認していたものが、段々イスラエル側の行動が目につき始めると、石を投げて追い出しにかかる。これがこじれたりすると銃撃になって世界の人々が知ることになったりするわけだが、世界が知らない局所的な小競り合いは、それこそ山のように、日常茶飯で起こっているだろうというのはわかる。そんなとこに住んでいたら、ストレスで痩せ細ってしまいそうだが、そこで生まれ育った者にとってはそれが日常だから、事実に対処しながら、処世術を身につけて生きていくしかない。


因みにこの項を書くのに、地理を理解しておこうと思ってグーグルとBingの地図を見てみた。あの辺は政治的な絡みが大きく、境界線が意図的に曖昧だったりするから、一つの地図を見ただけでは正しい知識は得られないだろうと思ったからだが、そしたらBingでは、Bethlehemと入れたら、ニュージャージーのベツレヘム・タウンシップという町が現れ、それじゃないと「タウンシップ」を消して再度リターンを押したら、今度はペンシルヴァニア州ベツレヘムという町が現れた。たぶん私の位置情報を考慮して、勝手にまずはアメリカのベツレヘムから探し始めたのだろう。しかしなあ、ベツレヘムといったらふつう人が真っ先に思い浮かべるのはこのベツレヘムだろうし、もしアメリカのベツレヘムのことを調べたいなら、ベツレヘム・タウンシップ、あるいはベツレヘム、PAとして検索すると思う。小さな親切大きなお世話という言葉が頭をよぎったのだった。











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ラジ (ツァヒ・ハレヴィ) はイスラエルの対テロリスト・ユニットに所属するエージェントで、パレスチナ人の少年サンファー (シャディ・マーリ) を情報屋として仕立て上げ、情報を提供させていた。サンファーの兄イブラヒム (ヒシャム・スリマン) はイスラエルに頑強に抵抗する英雄視されているレジスタンスで、サンファーを情報屋として囲うのはイスラエルにとって大きな利があった。しかし妻や娘がいても息子や兄弟のいないラジは、次第にサンファーを情報屋としてではなく、それ以上の身近な存在として感じるようになる。一方サンファーは裏でラジと通じていながらも、レジスタンス運動に本腰を入れるようになる。ラジもサンファーもお互いの組織の中で、微妙な綱渡りを迫られる‥‥


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