まだ公開が続いている「ブラックパンサー (Black Panther)」を筆頭に、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー (Avengers: Infinity War)」、「デッドプール2 (Deadpool 2)」、「ハン・ソロ (Solo)」と、マーヴェル・コミックス主体のスーパーヒーロー/アンチヒーローものが続々と公開されているのだが、いかんせん食指が動かない。さすがにこれだけ数があってスーパーヒーロー叩き売り状態が続くと、飽きる。 
 
「スター・ウォーズ (Star Wars)」外伝の「ソロ」は、前回の「最後のジェダイ (The Last Jedi)」に痛く感心したこともあって、これは見てもいいかなと思っているのだが、見てもいいと見たいとは別問題で、やはり足が動かない。そういう風に感じているのは私だけではないのは、既に「スター・ウォーズ」フランチャイズで最初の失敗作という烙印を捺された「ソロ」の興行の失敗が証明している。評は決して悪いものではなかった「ソロ」が成功しなかったのは、人々が飽き始めているからということ以外、理由を考えられない。このままだと遅かれ早かれマーヴェルもDCも、同様の道をたどるのは避けられないと、私は思う。 
 
というわけで、今週はほとんど反動的に、まったく対極的な、超インディ色満載の「ビースト」を選ぶ。とにかく、気分的にSFやCGを見る気にまったくなれなかったのだ。 
 
英国南部の、そこそこ富裕層が暮らしていそうな海沿いの町で、バスガイドのモルは、家族と一緒に暮らしている。ガイドの仕事は臨時収入になりこそすれ、特に家計の足しになっているようでもない。たぶん彼女一人が働かなくても食っていくだけの金は家にはあるんだろう。 
 
とはいえモルは一人で家を出て暮らしていけるほど恵まれているわけでもなく、結果として常になんか言葉にならない鬱屈を胸に抱えている。自分の誕生パーティというのに最も楽しんでないのは自分自身で、モルは衝動的に家を出て、バーで初対面の男と酒を飲んで浜に降り、危うくレイプされそうになる。 
 
そこに現れてモルを助けたのがパスカルで、一見ほとんどホームレスで危ない雰囲気を撒き散らすパスカルに、モルはどんどん惹かれていく。一方、この地域では女性の連続殺人事件が起きており、犯人はまだ捕まっていなかった。刑事のモルの兄は、パスカルこそ最重要容疑者であることをモルに告げる。果たしてパスカルは犯人なのか‥‥ 
 
モルは一見内向的な女性だが、激しやすい一面も持っている。学校時代虐められた経験があり、激昂して反射的に相手の女の子の頬っぺたにハサミを突き立てたことがある。彼女がどうやら定職らしきものを持たずいまだに箱入りのままなのは、どうやらそういう過去の行状や性向と関係がありそうだ。 

 

しかしそのことは逆に内側に感情を溜め込むことにもなり、それははけ口を求めていた。そこに現れたのがパスカルであり、彼と一緒にいることで彼女は自分自身でいられる。とはいえ、パスカルが本当に連続殺人鬼だったらという疑惑は消えたわけではない。私は本当にパスカルを愛しているのか、パスカルは私を愛してくれているのか。モルの心の中に別の葛藤が生まれる。 

 

(注)  以下、ネタバレ。 

 

実は最後まで、シリアル・キラーがパスカルだったのかは明らかにされない。モルはそう思い込んでしまったようだが、それが事実であると観客に提示されるわけではない。あるいは、モルがシリアル・キラーがパスカルだったと思っていれば重要なのはそのことであり、本当にそうだったかは問題にされない。物事の認識や正邪は見る人の視点によると言っているようだが、そのことは元々は自分に非のあることではなかっただろうとはいえ、思い込みによって人を刺したことのあるモルが常に被害者であるのではなく、一瞬にして加害者の側にも立てると言っているようだ。結局、最後までパスカルが本当にシリアル・キラーだったのかそうでなかったのか明らかにされないこのもやもや感、曖昧さ、すべてが割り切れるわけではないという現実の見方が、いかにもインディ映画と思わせる。 

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英国南部の海岸沿いの町に住むモル (ジェシー・バックリー) は、二十代で親と同居し、観光バスガイドの仕事をしていたが、日々鬱屈しているものを抱えていた。自分の誕生パーティでも気分は晴れず、モルは抜け出してバーで酒を飲み、知り合った男と波打ち際に出て危うくレイプされそうになり、そこを見知らぬ若い男に助けられる。その男パスカル (ジョニー・フリン) は違法でウサギ猟をしており、不穏な空気を醸し出していたが、モルはパスカルに惹かれるのを抑え切れない。折りしもその地方では殺人事件が連続して起きており、パスカルがそれに関係しているのではという危惧もあった‥‥

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