アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 6. 「ゲーム・オブ・スローンズ」最終回と大作番組の終焉 


今後も金をかけたSF大作シリーズは製作されるだろうが、HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ (Game of Thrones (GOT))」のような、新エピソードが毎週放送される、従来の放送スタイルでの大作は、たぶんGOTで打ち止めだろうという意見は多い。 Netflixの登場以来、人々はもし見たい番組があると、次週まで待つという悠長な待つ態度をとれない。 

 

月曜の朝、オフィスに出勤した社員が、ウォーター・クーラーの前で「昨日のxxx見た?」とおしゃべりする機会を提供する番組というのは近年減ってきているが、GOTがその最後の番組になるかもしれない。 

 

既に人々はNetflixの番組一括提供スタイルに慣れてしまっているし、通常放送番組も、放送時に視聴するのではなく、DVR録画したものを後で自分の都合のいい時に見るという見方が定着している。GOTは古きよき大型TV番組の最後の番組となる可能性は高い。 




  1. 7.  「ジェパディ」の復権    


今季、長寿クイズ・ショウの「ジェパディ (Jeopardy)」が注目された理由は、二つある。一つはホストのアレックス・トレベックがステージ4の膵臓ガンに侵されていることを告白、闘病しながらホストを続けたこと、並びに記録を塗り替えたコンテスタント、ジェイムズ・ホルツハウアーの登場だ。 

 

ホルツハウアーは現役のプロのギャンブラーで、まるでギャンブルするかのようにクイズに挑戦、番組1エピソード当たりの獲得賞金額を自身で何度も塗り替え、瞬く間に金持ちになった。「ジェパディ」は、普通、掛け金の低い問題から徐々に掛け金の高い問題へと進行していくが、それがいきなり最初の問題で最大掛け金の問題を選んでいいとは、誰も露ほども思わなかった。それが許されると思っていなかった者の方が多いに違いない。 

 

ホルツハウアーはケン・ジェニングスの持つ最多連勝記録には及ばなかったものの、獲得賞金額ではジェニングスを抜き、ブラッド・ラターに次ぐ歴代2位に浮上した。いきなりホルツハウアーが第一問で、パネルの上の方の掛け金の低い問題をすっ飛ばして一番下の問題を選んだ時、ほとんどの視聴者は目から鱗の経験をした。私もあんぐり口を開けてTV画面を凝視した。そんなことができたのか。 

 

さらに「ジェパディ」は、全米が注目していたホルツハウアー快進撃において、渦中のホルツハウアーが負ける回のクリップが事前に漏れて、SNSで拡散してしまったことでも話題を提供した。ゲーム・ショウで勝ち続けているコンテスタントがいつ負けるのかまた勝つのかというのが最大の焦点である時、翌月曜に負けるというリークが最大の不祥事であることは言うまでもない。ただし、これを製作のソニーの意図的なパブリシティと見る向きもある。意図的ではなくても、この時の視聴率を見るに、リークが番組としてはプラスに作用したことは明らかだ。一視聴者としては、事前に結果がわかっているリアリティ・ショウなんてあまり見る気にならないが。 




  1. 8.  「チェルノブイリ」と「ザ・ホット・ゾーン」    

 

HBOの「チェルノブイリ (Chernobyl)」とナショナル・ジオグラフィックの「ザ・ホット・ゾーン (The Hot Zone)」という2本の終末ミニシリーズ、特に「ザ・ホット・ゾーン」は、今となってみると、先見の明があったというか、かなり時宜を得た番組だった。 

 

「チェルノブイリ」はもちろんチェルノブイリ原発事故のドキュドラマで、HBOの視聴率記録を塗り替えた上、エミー賞でもリミテッド・シリーズ賞を獲得するなど話題になった。一方、「ホット・ゾーン」はエボラ出血熱蔓延の危機を描く番組で、「チェルノブイリ」ほど話題になったわけではないが、放送の半年後には人類は番組に描かれたことに優るとも劣らぬ未曾有の事態を経験する。時宜的にはこちらの方こそ注目に値した。 

 

「チェルノブイリ」は結局人間自身の愚かさで人類が死滅する可能性を示唆したわけだが、「ホット・ゾーン」が描いたウイルス蔓延には、人知が追いつく猶予がない。人類はこれまで好き勝手し放題にやってきたことのしっぺ返しを、今、自然から食らっているという感じがする。 




  1. 9.  コンマリ、お前もか   

 

「KonMari - 人生がときめく片づけの魔法 (Tidying Up with Marie Kondo)」に代表される今年初頭のアメリカにおけるコンマリ・ブームは目を見張らせるものがあったが、それを覆すというか、それ以上にショッキングだったと言えるのが、コンマリ・ブランドのコンマリ・グッズの販売開始だ。 

 

なんとなればどのようにものを捨てるかという方法論で一世を風靡したコンマリが、よりにもよってものを売りつけて持ちものを増やさせるという。こんなことがあっていいのか、裏切られたと感じた視聴者は、かなりの数に上ったと思う。 

 

もちろん、質のいい製品を少しだけ持って長く使うという発想が悪いわけはないが、しかし、それがものを捨てさせた後に来るというのは、いかにも悪徳商人的で収まりが悪かった。今年後半、あのコンマリ・ブームがいったいなんだったかのかというくらい冷めてしまったのは、かなりの部分コンマリ・グッズの販売が人々に嫌気を感じさせてしまったからだろう。 




  1. 10.  ホールマーク・チャンネルの醜態 


ホールマークといえば人が連想するのはグリーティング・カードで、要するにそういういかにも伝統を重んじる、しきたりというか習慣にのっとったビジネスを展開している。そのホールマークが提供するホールマーク・チャンネルの番組は、ハッピーエンドを基調とした、よくも悪くも画一的な番組主体だが、それが保守的な視聴者層にアピールしているのは言わずもがなだ。 

 

ところが今冬 、ホールマークが稼ぎ時のホリデイ・シーズンに投入したコマーシャルに、女性のゲイのカップルが結婚式でキスするというシーンがあったために、保守視聴者層が激怒した。ニューヨークに住んでいると今さら何としか思えないが、しかし今でも、中南部の田舎に行くと、アメリカでもゲイは差別の対象になる。 

 

それで保守的な団体がホールマーク不買不視聴運動を起こし、慌てたホールマークはコマーシャルを削除、今度はそれに、何、あんたと反応したLGBT団体が抗議した。結局ホールマークは、今の時代では同性婚を認めない方がおかしいと判断したようで、再度コマーシャルは復活した。賭けてもいいが、ホールマークにだってカミングアウトしてなくともゲイの社員はいると思う。 




番外: GOTのスターバックス 


上でも書いたHBOの「ゲーム・オブ・スローンズ (GOT)」は、最終シーズンは人気沸騰してファンがありとあらゆる話の展開予想や映像上のあら探しに熱中した。その最たるものが、テーブルの上のスターバックス・コーヒーだ。いったい、いつの時代のどういう世界かもよくわからないファンタジー世界のテーブルの上に、ある時誰かが飲み忘れたスターバックス・コーヒーのカップが置き忘れられていた。 

 

これがファンの心理を刺激し、放送翌日のネットの話題を独占、カップにありとあらゆる文言が書かれた画像がネット上を飛び交うGOTいじりが横行した。ただし、私がこの話を聞いて再放送を録画して画面を確認した時には既にスターバックスのカップは跡形もなく消えていたから、HBOも電光石火で事態に対応したものと思われる。果たして登場人物の誰が飲んだスターバックスだったのかそれとも撮影スタッフのものだったのか。確かにちょっと想像力を刺激されるちょんぼだったとは言える。 


追記:

後日、渦中の人であったエミリア・クラークがNBCの深夜トーク「トゥナイト (Tonight)」にゲスト出演、ホストのジミー・ファロンに対し、カップはヴァリス役のコンリース・ヒルのもので、彼から事実を告白されたことを明かした。すぐに明らかにしなかったのは、クラークが下手人という噂が既にSNSで拡散していたからで、言うに言えなかったという。一方HBOは、昨夜のエピソードのラテはミスだった、クラーク演じるデナーリスがオーダーしたのはハーブ・ティだったという釈明を発表、なかなか洒落たところを見せた。







 










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2019年アメリカTV界10大ニュース。その2

 
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