The Oscar Nominated Short Films Live Action 2021


2021年アカデミー賞実写短編作品賞ノミネート作品  (2021年5月)

パンデミックのせいで家見が主体になるなど映画の視聴スタイルが大きく影響を受けたけれども、なかでも最も影響を受けたのが短編視聴だ。私は近年、アカデミー賞の短編部門にノミネートされる作品の視聴を楽しみにしているけれども、家見の場合、何本もの作品を一気に視聴しなければならないという足枷がない。 

 

もちろんいっぺんに全部見てもいいのだが、私が短編をチェックし始めた段階では、まだノミネートされた短編が一つの作品としてまとまって提供されているわけではなかった。それでも今の時代、一編ずつ探し出して見ようと思えばできないこともない。 

 

調べてみると、プラットフォームこそ違え、ノミネートされている5本の作品は全部ストリーミングでも見れることがわかった。例えば、「ザ・プレゼント」と「トゥ・ディスタント・ストレンジャーズ」はNetflixで見れるし、「ホワイト・アイ」はHBO Maxで見れる。「ザ・レター・ルーム」は登録しているニューズレター経由でVimeoで見れ、「フィーリング・スルー」はYouTubeで提供されていたなど、今手持ちのストリーミング・サーヴィスを利用して、全作品余分な出費なしで見れた。短編だから1作毎に10ドルずつ出す気にはなれないが、しかし彼らの今後のために数ドルくらいなら出すのに吝かではないのだが。 

 

いずれにしてもそんなわけで、私が作品を見た順番と、実際に一編にまとめられた作品での順番は異なる。私は「フィーリング・スルー」、「ホワイト・アイ」、「ザ・レター・ルーム」、「トゥ・ディスタント・ストレンジャーズ」、「ザ・プレゼント」の順で見たわけだが、その順番に別に意図はなく、たまたまその時見やすかった作品から見ただけだ。 

 

一方現実にまとめられた作品では、どうやら「ザ・プレゼント」、「フィーリング・スルー」、「トゥ・ディスタント・ストレンジャーズ」、「ホワイト・アイ」、「ザ・レター・ルーム」の順に組まれているようだ。私は一時、どういう理由で順番が組まれているのか調べてみたことがあるのだが結局わからず、今でもわからないままだ。ググってもわからない。タイトルのアルファベット順でもないし監督順でも国名順でもない。そもそも納得の行く理由なんてあるのだろうか。 

 

とまれ今年の作品は、一見して人種問題やヘイト問題を描く作品が多いことに気づく。特に今回の短編賞がいつになく時宜に合ったものとなったのは、「ザ・プレゼント」、「ホワイト・アイ」の2本がイスラエルの現在の問題を描いている上に、実際に5月にイスラエル-パレスチナの小競り合い、というかロケット弾を撃ち込みあう戦争が勃発してしまったことにある。まるで予言していたみたいだ。元々短編は製作された時の世状を色濃く反映しているものだが、それがもろに出たという感じだ。 

 

ただし、パレスチナ側から見た「ザ・プレゼント」とイスラエル側から移民問題を描いた「ホワイト・アイ」では、その肌触りが違うのはもちろんだ。妻へのプレゼントを買うために男と娘がパレスチナ側からイスラエルが仕切るチェック・ポイントを通ってイスラエルに買い出しに行く「ザ・プレゼント」と、盗まれた自転車がアフリカからの違法入国者に買われていたのを見つける「ホワイト・アイ」とでは、立ち位置がまったく違う。要するに、現在国としては、イスラエルが圧倒的に力を持っていることがよくわかる。 

 

その他、「フィーリング・スルー」は、深夜のニューヨークを舞台にホームレスの黒人青年と聾唖の中年白人男の交流を描く。最近のニューヨークで特にサブウェイ構内でホームレスによる暴力事件が頻発していることを考えると、心暖まる作品に仕上げたこの作品がほとんどファンタジーにすら思えるが、一方で時宜をとらえていると言えないこともない。 

 

同じくニューヨークが舞台の「トゥ・ディスタント・ストレンジャーズ」は、黒人に偏見を持っている白人警官に撃たれて殺されるという黒人青年が何度も同じ経験を繰り返すというもので、これこそファンタジーというかSFだ。この手のループものは近年、SFの枠を超えて様々なジャンルに拡散している。ジョージ・フロイド裁判が結審した現在、イスラエル-パレスチナ戦争が勃発するまでは、この作品こそ時代を代表するという感触が強かった。現実のオスカーもこの作品がとったわけだが、もし投票が戦争勃発後だったら、「ザ・プレゼント」が受賞した可能性が高いと思う。 

 

「ザ・レター・ルーム」は、唯一知られた俳優のオスカー・アイザックが主演している。ついでに言うと、昨年末の「ファースト・カウ (First Cow)」でもちょっとだけ出てきて印象を残したアリア・ショウカットが、ここでも死刑囚の身重の妻役で出てきて視覚的な印象を残す。アイザックが扮するのは、死刑囚が外部と交わす手紙をチェックするレター・ルームの検閲官で、やはりある意味差別問題を描いていると言えないこともない。 

 

個人的に私が最も気に入ったのは「ホワイト・アイ」で、内容もそうだが、技術的により気に入った。というのもこの作品、21分を1シーン1ショットで撮っているのだ。たぶん技術的に、ギミックやCGの助けを借りずに本当に1シーン1ショットで撮れるぎりぎりの線だと思う。実際に工場の者や警察がああいう反応をとるかという気もしないではないが、CGや爆発等のスペシャル・エフェクツがなくてもエキサイトメントは撮れるということを証明した。 

 

ところで、実は今年の短編賞で期待していた作品に、ペドロ・アルモドバル監督、ティルダ・スウィントン主演の「ザ・ヒューマン・ヴォイス (The Human Voice)」がある。わりと業界の話題になっていたので当然ノミネートされるもんだと思いきや、逸してしまった。 

 

そうなるとよけい見たくなるのは人情というもので、探してみると、HBO Maxで見れることが判明した。しかし、しかしだ、私んちは先頃、契約しているTV/ブロードバンド/電話サーヴィスのヴェライゾンの日中のネット接続のスピードが極端に遅くなる事態が何度も発生した。特に現在家で仕事をしていて、常時会社のサーヴァーにアクセスしている女房の仕事に影響が出るくらいとろい事態に何度も陥ったため、業を煮やした女房の意見を聞き入れ、ヴェライゾンからコムキャストにサーヴィスを替えた (「ホワイト・アイ」を見た後だ。) 

 

要するに「ザ・ヒューマン・ヴォイス」を見るためには、キャンセルしたばかりのそのHBOに追加料金を払ってまた加入し直さなければならない。さすがに業腹で、今のところ「ザ・ヒューマン・ヴォイス」は棚上げ中だ。さて、どうしよう。 

 


 










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「ザ・プレゼント (The Present)」ファラ・ナブルシ監督 (パレスチナ) 25 min 

ウエスト・バンクに住むパレスチナ人の男は、娘を連れてイスラエル側に妻へのプレゼントを買い出しに行くが‥‥ 

 

「フィーリング・スルー (Feeling Through)」ダグ・ローランド監督 (USA) 19 min 

深夜のニューヨークで若い黒人のホームレスの男が、中年の聾唖の男と出会う。 

 

「トゥ・ディスタント・ストレンジャーズ (Two Distant Strangers)」トレイヴォン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー監督 (USA) 25 min 

白人警官に撃たれた黒人青年が、タイム・トラヴェルで何度も同じ経験を繰り返す。 

 

「ホワイト・アイ (White Eye)」トマー・シャシャン監督 (イスラエル) 21 min 

若い男が盗まれた自分の自転車を街頭で見つける。しかしその自転車は泥棒によって赤の他人に売られた後だった。 

 

「ザ・レター・ルーム (The Letter Room)」エリヴァイラ・リンド監督 (USA) 33 min 

刑務所で勤務している職員が、レター・ルームに配属になる。彼は囚人に送られてくる手紙、送る手紙のそれぞれに目を通して、問題がないかを確かめる必要があった。 


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