放送局: ニコロデオン

プレミア放送日: 3/3/2006 (Mon) 11:30-12:00

製作: リトル・エアプレイン・プロダクションズ

製作総指揮: ジョシュ・セリグ

製作: トーン・サイン

監督: ジェニファー・オックスリー

音楽: ラリー・ホックマン

声: ソフィー・ザムチック (リニー)、ティアラ・ダン (タック)、ダニカ・リー (ミン-ミン)


物語: モルモットのリニー、カメのタック、アヒルの子のミン-ミンは、小学校で飼われているペットたちだが、それは世を忍ぶ仮の姿、仲間の動物たちが危険に陥って助けを求めてくると、3匹力を合わせて救助に全力を尽くすのだった‥‥


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子供向け番組を揃えるニコロデオンは、そのなかでも特に幼児を対象に絞った一連の番組を、ニックJr.番組と称して提供している。教育的見地も配慮した番組であることが特徴で、子に安心して見せられる番組ということで親にも人気が高い。就学前の子がいる家庭で、ニックJr.番組として最も知られている「ブルーズ・クルーズ (Blue's Clues)」を知らない親はまずいないだろう。


それ以外にも運動の促進と健全な食生活の習慣がテーマ! という「レイジー・タウン (Lazy Town)」もなかなかキッチュな味があって、たまたまチャンネル・サーフをしていてこの番組に当たったりすると、ついつい見てしまうことがある。が、ニックJr.番組として私にとって最もヒットだったのは、一昨年から始まっている「ザ・バックヤーディガンズ (The Backyardigans)」だ。


「バックヤーディガンズ」は、ペンギンのパブロ、ムースのタイロン、カバのタッシャ、カンガルーのオースティン、謎の動物のユニーカという5匹の動物によるCGアニメーション・ミュージカルというけったいな番組で、ついつい見てしまうという点では、こちらの方が「レイジー・タウン」よりも圧倒的に癖になる。


よくわからない動物たちが最初から最後までずっと歌を歌っているというシチュエイションは、大人でさえついつい見てしまうのだから、子供たちにもかなりアピールするだろうというのは想像に難くない。しかし、その「バックヤーディガンズ」も、今回の「ワンダー・ペッツ!」にはまた一歩譲ってしまう。なんとなれば「ワンダー・ペッツ!」は、子供向け教育オペラ番組という、思わず、何、それといってしまう類いの番組だからだ。


「ワンダー・ペッツ!」の主人公は、モルモットのリニー、カメのタック、アヒルの雛のミン-ミンの3人組だ (正確には3匹組と言うのだろうが、擬人化してあるので、ここでは便宜上3人組とする。) その3人はたぶん、小学校の教室で生徒たちが世話をするペットとして飼われている。しかし生徒たちがそれぞれ下校した後、残った彼らには、世界中の様々な場所で今まさに危険な状態にさらされようとしている仲間たちからのSOSに応えるという、重要な使命が待っているのだ。


例えば、漁師のかけた網に絡まったイルカからのSOSが届くと、3人はそれぞれ秘密の抜け穴からかごや水槽を抜け出し、空飛ぶ円盤のごときものに乗ってどこにだろうと駆けつける。なぜだか連絡を受ける受信機がどう見ても糸電話にしか見えないのに、どこからでもかかってくるのは不思議だし、時には宇宙からも電話がかかってくるのだが、それを不思議と思う子供はいないのだろう。


さて、イルカを助けに駆けつけたワンダー・ペッツの3人組だが、いかんせん身体が小さく、力のない彼らにとっては、簡単に網は破れない。そこで知恵を巡らせ、通りがかったカジキマグロの先っぽののこぎり状の口ばしで網を破ってイルカを逃がしてあげる。別のエピソードは、宇宙に送られたチンパンジーが乗る宇宙船に隕石がぶつかろうとしているのを、皆で協力して間一髪で助けるという話で、要するに一人一人は小さいけれども、皆で力を合わせればできないことはないという教訓を、オペラ的節回しで歌いながら物語るのである。


まずはその絵柄なのだが、適度に実写的な主人公たちのイメージは、特に可愛いとはいうのとは違うような気がする。リーダー格のモルモットのリニーはそれなりに愛嬌を感じるが、わりと口ばしのでかいミン-ミンが特に飛行帽を被ると生意気くさいし、ベレー帽のようなものを被っているカメのタックは、かなりヘンと思いこそすれ、あまり愛着は湧かない。そういった登場人物が、いわゆる「サウス・パーク」的な切り貼りアニメーション的コマ落としのような感じでヨタヨタすいすいと動き回るのだが、やはりこれは可愛いというよりも、キッチュで味があるという感じに近い。


一方の音楽であるが、本当にこいつらはオペラを歌うのかと思っていたら、特にドミンゴとかパヴァロッティみたいな、本当にオペラオペラした曲ではないが、それでも確かにクラシック的な曲調で、いかにもマンガチックな声だとはいえ、オペラと言われると納得してしまう。特にそれ風なのが終始バックに通奏低音のように流れているホーンの音で、しかもホルンのようなブッ、ブッという図太い音が通しで被さると、いかにもクラシック、みたいな感じがすごくする。歌っている内容は、みんなで力を合わせてチームワーク、みたいな歌詞ばっかりなんだが。


さて、では、それでこの番組、子供をクラシックに目覚めさせるよすがとなるかという点については、私としてはなんとも言えない。どっちかっつうとポップス/ブロードウェイ・ミュージカル的な面がある「バックヤーディガンズ」に較べると、確かに「ワンダー・ペッツ!」はクラシック寄りではあるが、演奏はともかく歌だけを聴いていると、やはり子供の歌という感じで、これを聴いて子供がクラシックはいいねと思うかは、実はかなり疑問だったりする。もちろん、音楽を楽しむという点においては議論の余地はないと思うが、うーん、オペラねえ、難しいかも、と思ってしまうのだ。むしろオペラという点よりも、話の教訓的意味合いの方が頭に残る。それともそれは私が既に成人している大人だからで、子供にとってはそうでもないのか。


ニコロデオンで現在最も人気のある番組は、誰がどこから見ても「スポンジボブ・スクエアパンツ (SpongeBob SquarePants)」であるわけだが、これはもちろん、子供だけではなく、大人も見ているからこそこれだけの人気がある。ニックJr.の番組だと、幼児が対象になってしまうからさすがに大人がずっと見続けるのはつらいという気がしないでもないが、「バックヤーディガンズ」や「ワンダー・ペッツ!」なら、自分一人で見ている大人がいてもおかしくないと思う。とはいえ、「ブルーズ・クルーズ」を子供が一緒でない時に見る大人はほとんどいないに違いない。


考えたらこれらの番組だけでなく、公共放送のPBSでもその種の番組はある。たとえば、大人はABCや簡単な足し算引き算とかを教える「セサミ・ストリート」は見ないと思うが、完全に就学前の幼児を対象にした「テレタビーズ」や「ブーバー」をよく見るという大人がいてもおかしくはない。これらの番組は、理解というよりも情緒や情動といった本能的な側面に訴えかけてくるからで、こういう人間の本質的な面においては、子供も大人も変わらない。だから大人が見ても面白いと思ったりする。


同様に、大人でも楽しめる「ワンダー・ペッツ!」も、そのうち隠れ大人ファンがついて意外なヒット番組にならないこともないと思ったりもするのだが、しかし、もしかしてそう思っているのは私だけかもしれない。確かにいい歳した大人が、子供もいないのに夜中に一人で録画してあった「ワンダー・ペッツ!」を見ていたりしたら、結構不気味かも、となんとはなしに考えてしまうのであった。  





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Wonder Pets!


ワンダー・ペッツ!   ★★★

 
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