放送局: FOX
プレミア放送日: 1/3/2005 (Mon) 20:00-21:30
製作: 10バイ10エンタテインメント、ハロック・ヒーリー・エンタテインメント
製作総指揮: スコット・ハロック、ケヴィン・ヒーリー、ケン・モック
ホスト: フィノラ・ヒューズ
出演: T. J. マイヤーズ
内容: 生後すぐ養子に出され、今では成長した女性が、何人もの中年男性の中から自分の本当の父親を当てるリアリティ・ショウ。
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いやあ、またまた出ました出ました。毎年、年頭になると、今年はいったいFOXはどんな俗悪リアリティ・ショウで我々視聴者を楽しませ、唖然とさせてくれるのかと、実は結構期待して待っていたりするんだが、今年もまたその期待は裏切られることはなかった。これって、やっぱりギルティ・プレジャーだな。
今回FOXが送り出したリアリティ・ショウ「フーズ・ユア・ダディ?」は、やむにやまれぬ事情から30年前に生後6週間で養子に出された女性が、実の親 (ここでは父親のみだが) を探し当てるという番組だ。ただそれだけでも結構のドラマを提供できるんだろうが、そこはFOXである。もちろん単なる実父探しドラマになんかならない。ちゃんと一捻りも二捻りも加えている。
FOXは既にその女性T. J. マイヤーズの父親を探し出している。DNAテストで最終的な確認も済んでいる。そしてどうしたかというと、その男性を他の7人の同年代の男性の間に割り込ませ、勝ち抜き形式でT. J.に自分の本当に父親を当てさせようというのだ。もしずばりT. J. が実の父が誰だか当てることができれば10万ドル、もし当てることができなければ、T. J. を騙して父親だと思わせるのに成功した男がその金を獲得する。そのため男たちはあの手この手でT. J.に自分が父なんだと思わせようと画策する。いや、もう、そういうのを勝ち抜きにしたり賞金をかけたりするこの下衆根性がたまらない。
だいたい、もし娘が自分を認めきれなかった場合、その父は自分の実の娘を目の前にしながらただ黙って去らなければならないのか。T. J.はT. J.で、もし父親当てに失敗した場合、もう二度と父親には会えないってか? 無理無理、無理がありすぎのこの設定、とにかく人の心を弄ぼうとするこの根性、あまりにもいびつで醜悪なこの番組製作の姿勢、いや、やっぱり嬉しくなってしまう。こうなりゃ最後の最後まで気を抜かずにT. J.にもがんばってもらいたい。
番組はまず、途中で一次足切りが行われる。T. J.がまず8人の中から自分の父の可能性があると思う者4人を選び出す。もしその中に実際に父が入っていた場合、T. J. はその4人と共に次のステージに進むが、もしT. J. が間違った選択をして彼女が選んだ4人の中に実の父がいなかった場合、賞金が10万ドルから75,000ドルに落とされ、そして改めて実の父が入っている4人を対象に第2ラウンドに進む。もし4人の中に父が入ってなかった場合、それ以上番組を進めようがないからだ。
T. J. は肌の色や顔の輪郭、第一印象や喋り方笑い方ユーモアのセンス、ものの考え方からさらには食い物の好物まで、あらゆる要素を考慮して自分の父親ではないと思われる者をふるいにかける。もちろんポイントは、それらの趣味や嗜好、外見が、自分のそれと似通っていることだ。なんてったって実の血が繋がった親子なんだから、たとえある程度育ちの段階で環境に影響されるとはいえ、同じ遺伝子を持つ本質はほとんど同じのはず。食い入るように8人の男性をとらえたヴィデオの映像を見続けるT. J.。失敗は許されない。
そしてT. J.は見事に最初のふるい分けに正答し、彼女が選んだ4人の中に実の父がいることがホストのヒューズによって知らされる。そして翌日、その4人がさらに二人ずつに分けられる。もちろんT. J.は自分の父がいる方を正しく答えなければならない。そしてT. J.は今回も見事に正答、勝負 (と言うのか?) はついに最後の二人に絞られる。
そして最後、T. J.は洋館のドアの前に立つ。そのドアの向こうには本当のT. J.の父親が立っている。その見えない父に向かって、T. J.は涙ながらに高らかに宣言する。私の本当の父親は‥‥きっとチャーリーに違いない。そしてドアが開き、向こう側から姿を現した男性は‥‥チャーリーだった。見事T. J.は8人の男性の中から自分の本当の父親を選び出したのだ。涙に濡れて抱き合う二人。
もちろんFOXはそこで番組を終えることなく、番組の舞台となったその洋館に、チャーリーの現在の娘3人も招いている。チャーリーの娘たちにとっては、いきなり30女のお姉さんができ、T. J.にとっても、いきなりティーンエイジャーの妹が3人もできたわけで、皆表面上は抱き合って喜んでいたりしていたわけだが、ことはそう簡単には運ばないだろう。人間の感情がそう簡単に割り切れるわけがない。難しいのはこれからだ。
さらにはT. J.を生んだ後、チャーリーと別れたT. J.の実の母親まで登場した。しかしなあ、ここまでやってしまうと、感涙どころか人間関係混乱の極みにならないかあ。今のチャーリーの3人の娘の立場から言うと、いきなり新しいねーちゃんができたと思ったら、次はとーちゃんの昔の奥さんが現れた。ティーンエイジャーのハートにはインパクト強すぎやしねーか。だいたい、そう言えばT. J.は父親だけを探していたのであって、母の方はどうでもよかったのか。そういえばチャーリーの今の奥さんはどうした、と、やはり、なんだかヘンだぞこの番組、と思える突っ込みどころだらけだ。
だいたい、そもそもT. J.の場合、育ての親からおまえは養子なんだと言われて育ってきて、最初から自分が養子であることを知っており、それでも生みの親が誰だか知らなかったということは、たぶん、養子縁組の段階で、生みの親は今後T. J.の前に姿を現さないとかという類いのことを約束した書類にサインしたであろうことは想像に難くない。だからこそT. J.はこれまで自分の実の親が誰だか知らなかったのだ。
そりゃあ、そうは言ってもそこは人の情、親からしたら自分の子がどう育ったか知りたいのは山々だろうし、子供から見ても、自分が捨てられたという意識があるなら恨み半分、そうでなくともやはり一目自分の本当の親を見てみたいという気持ちは当然あるだろう。とはいえ、それがTVがお膳立てをした途端、すぐ自分の本当の親や子と対面がかなうことになったら、それまで実の親と同等の気持ちで子を育ててきた育ての親の立場や気持ちはどうなる? この番組で本当にわりを食ったと感じるのはT. J.の育ての親であることは間違いない。
生まれて初めて本当の親子対面でT. J.とチャーリーが感激して涙を流すのは大いにわかるが、しかし、たぶんやるせない気持ちだろうT. J.の育ての親の気持ちをまるで無視して強引に感動の涙に持っていこうとするこの下世話で低俗で醜悪な番組製作の姿勢、これこそがFOXリアリティ・ショウである。とはいっても、そこは人間の感情を弄ぶことに長けているFOX、実は私も感動の対面の瞬間に、思わずつられて涙がこぼれそうになったことを告白しておかなくてはなるまい。ああ、いまいましい。
この番組、当然のことだが真面目に養子縁組をサポートする代表的な団体、エヴァン・B・ドナルドソン養子縁組協会、アメリカ児童福祉協会、児童保護基金や北米児童養子縁組評議会等からことごとく放送反対運動を起こされた。当然だろう。このような真面目にグラス・ルーツでこつこつと最善の養子縁組と取り結ぼうと活動している者たちにとって、このような番組は諸悪の根源以外の何ものでもあるまい。それなのにこの番組、FOXはなんとシリーズ化を考えていたらしいのだ。いやあ、FOXってば、本当にやってくれるよなあ。
しかし残念ながらと言うべきか、当然だがと言うべきか、「フーズ・ユア・ダディ?」は雀の涙程度の視聴率しか獲得することができず、FOXは即座にシリーズ化を断念した。既にあと5本は収録を終えていたということだが、いくらなんでも視聴率も稼げない番組でチャンネル・ボイコット運動を起こされてしまったりしたら踏んだり蹴ったりだ。というわけで、既に収録済みの5本が将来日の目を見る可能性はまったくあるまい。
しかし、本当のことを言うと、毎年毎年くだらないことの極みを推し進めていくFOXリアリティ・ショウは、いったんはまると、次どういう番組を編成してくるかどうしても気になってしまうのもまた事実だ。悪口を言いつつも、来年も思わず期待しちゃうのである。それにしても新年が始まってからたった3日目にして、既に今年のワースト番組のナンバー・ワンはこれで決まりだなと思える番組を放送してしまうFOXってやっぱりすごい。