What Would Brian Boitano Make?   ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・メイク?

放送局: フード・ネットワーク

プレミア放送日: 8/23/2009 (Sun) 13:00-13:30

製作: コンセントリク・エンタテインメント

製作総指揮: クレイグ・アンダーソン

ホスト: ブライアン・ボイタノ


内容: 元フィギュア・スケート・オリンピック・チャンプのブライアン・ボイタノがホストのクッキング・ショウ。


_______________________________________________________________


時々、意外という以外反応のしようがないTV番組が、ひょんなところからいきなり現れてあっと言わされることがある。この「ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・メイク?」は、まさしくそういう例の筆頭に挙げられる番組だ。


ブライアン・ボイタノという名前を聞いてすぐに反応できるのは、まず第一にフィギュア・スケートのファンであること、第二に現在、少なくとも30歳以上になっている者に限られるだろう。いくらフィギュア・スケートのファンでも、浅田真央と同時代のファンにボイタノといっても、何のことやらさっぱりわかるまい。それって魚の一種ですかと訊き返されるのがオチなような気がする。


しかし昔からのフィギュア・スケートのファンにとっては、ボイタノとブライアン・オーサーという二人のブライアンが優勝を争い、「バトル・オブ・ブライアン」と称された1988年のカルガリ冬季五輪は、かなり強く印象に残る事件だったと言っていい。この時にボイタノがフリーで滑ったナポレオンは、彼の全演技歴の中でもベストと言えるできだった。


かなり生え際が後退している今からでは想像しにくいが、ボイタノは当時かなり見栄っ張りというか、気障ったらしい芸風? だった。スプレッド・イーグルやフライング・スピンとかいかにもという感じだったが、片手を上げながらのトリプル・ルッツなんてほとんどボイタノの専売で、きざーとは思いつつも、まあ、これを毎回決められるのはこの男以外にはいるまいと思わせるものがあった。


一方のオーサーは、同じカナディアンのカート・ブラウニングがそうであったように、どちらかというとスケーティングよりはジャンピング重視、テクニカル・メリットで稼ぐ方だったが、そういうものにありがちの、大舞台に弱いという弱点があった。フリー対決は誰が勝ってもおかしくなかったが、結局判定は5-4のこれ以上ないくらいの僅差でボイタノに軍配が上がった。また、女子フィギュアでもカタリーナ・ヴィットとデビ・トーマスの「カルメン対決」、表彰台は逃したものの世界にそのジャンプ力を印象づけた伊藤みどりの活躍等、カルガリは印象に残るシーンが多かった。


フィギュア・スケートは、その他の冬季スポーツ同様、基本的にアスリートはアマチュアが主体だ。むろんプロもあるが、五輪と世界選手権がスポーツとしての頂点と見られる限り、やはり世間の注目はアマチュアの方に向かう。プロに転向したと聞いたボイタノは、現在では冬季にフィギュアの特番等で見る機会がたまにあるくらいだった。


そのボイタノの名が一時的に復活したのは、ブライアン・ボイタノとイエス・キリスト、それにサンタ・クロースが血みどろの戦いを繰り広げるという、かのコメディ・セントラルの人気番組「サウス・パーク (South Park)」のそもそものオリジナル・パロディ版にて、一躍ボイタノの名がクロース・アップされた90年代後半のことだ。要するに昔から気障ったらしいボイタノは、パロディのネタにしたくなるような部分を持っていた。


そして今回、まったく意外なところでボイタノという名前に再度遭遇した。それが「ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・メイク?」だ。このタイトル、もちろん「サウス・パーク」でパロディ・ネタにされた時の主題歌、「ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・ドゥ? (What Would Brian Boitano Do?)」を下敷きにしているのは言うまでもない。「メイク」は「ドゥ」の返歌であるわけだ。


しかもこの番組、よりにもよって食専門のニッチ・チャンネル、フード・ネットワークの新クッキング番組だ。そしてボイタノは番組のホストを担当するという。思わず自分の目を疑ってしまった。これって同姓同名の赤の他人なんじゃないのかと最初は思った。ボイタノという名字はそう多いものではあるまいが、皆無というわけでもあるまい。しかしその写真を見てみると、禿げかかってはいるが、やはりあのボイタノではないか。


今さら私が言うまでもないことだが、男子フィギュア・スケーターは圧倒的にゲイが多い。かなりナルちゃんが入るのは、スポーツの特質上仕方がないだろう。ゲイが多くなるのも当然だ。特にアメリカのフィギュア界は、昔からゲイのスケーターとストレートのスケーターが争うという構図が多く、それは綿々と現在のジョニー・ウィアーとエヴァン・ライサチェクとのライヴァル関係にも引き継がれている (ウィアーってまだカミング・アウトしていなかったんだっけ?)


そしてそういうナルちゃんたちに共通していることだが、彼らはまず、ほとんどの場合において食通だったりする。考えたら、元フィギュア・スケーターという肩書きを持つ者がクッキング・ショウでホストを担当するというのは、特に不思議でもなんでもないのかもしれない。


「メイク」はボイタノがサンフランシスコの自宅でホーム・パーティを開き、友人知人をもてなすという趣旨で様々な料理を作る。つまり、ほとんどは主菜というよりはオードブル的なものだ。番組オープニングでは、ちゃんとカルガリで優勝した時のシーンが一瞬挟まる。人がボイタノを最もよく覚えているシーンは紛れもなくこれだろうから、まあ当然の選択だ。さらっと現在スケーティングをしているシーンも挟まったりする。しかし現在の後退した髪の毛と20年前とでは雲泥の差だ。オープニング・クレジットでは、そのボイタノが下唇の下にちょび髭 (付け髭?) を生やしてさもその筋の食通面するというカットも挟まる。思えばナポレオンから遠いところまで来たもんだ。


番組第1回では、ボイタノがシングルで子持ちの男性の友人のためにホーム・パーティを開くというもので、その友人のために色んなところに話をつけ、延べ20人ばかりのシングルの妙齢の女性を自宅に招く。男性はボイタノとその友人のみだ。これでやに下がらない男はいないと思うが (実際友人はそうだ)、その女性たちの間に挟まれて別に心ときめく様子もないボイタノもやはりゲイだったか。でも、彼もカミング・アウトしたという話は聞いてないが? オーサーですらカミング・アウト済みだというのに。いずれにしても、一人で住んでいるのかは知らないがなかなか大きな一軒家で羨ましい限りだ。2階のパーティ・ルームというかリヴィングだけで私んち全部合わせたくらいの広さがあるんではないか。


実は正直言って、まあ、いくらグルメとはいえアスリートの手すさびみたいなものだろうと高をくくって見始めたのは事実だ。実際、ボイタノの包丁さばきはプロのクッキング・ショウを見慣れた者の目にとってはいささかぎこちないと言わざるを得ない。ピスタチオを包丁で細かく砕くという段では、彼はこういう細かい作業は苦手だとか言って、スタッフの者が出てきてボイタノの代わりにざくざく包丁を振るわせられていた。その他も、ちょっとした手際がいかにもうまい素人の域を出るものではなく、慣れてないなと思わせる。


一方、ではそのできあがった料理はというと、これが意外にうまそうなのだ。因みに番組第1回でボイタノが作ったのは、カニとアヴォカドのクロスティーニ (Crab and Avocado Crostini)、サンドライド・トマトとゴート・チーズの串刺し (Sun-Dried Tomato and Goat Cheese Skewers)、スパイシー・ソーセージのポレンタに赤ピーマンの薬味載せ (Polenta with Spicy Sausage and Red Pepper Relish)、カプチーノ・パンナ・コッタ (Cappuccino Panna Cotta)。ドリンクのパッション・フルーツとマンゴーのマートニー (Passion Fruit and Mango Mar-Tony) というのは、友人の名がトニーだったため、マーティニとトニーの名をかけている。


例えば上でちょっと出たピスタチオというのは、サンドライド・トマトとゴート・チーズの串刺しで使われるのだが、まずゴート・チーズを丸めてそれに細かく砕いたピスタチオをまぶす。それだけで、確かに、お、なんかうまそうだと思わせる。一方瓶詰めのサンドライド・トマトはオイル分を切って二つに折ってフレッシュ・ベイジルを挟み、両者を串で刺して供する。簡単といえば簡単な料理で、火も使わない。基本的に作る人の腕も味にはそれほど関係しないだろうと思う。


それをボイタノが作ると、まずいちいちきちんとチーズを切る。チーズがナイフにくっつかないようにと、わざわざカップに入ったお湯をそばに用意して、一と切り毎にナイフを浸ける。どうせ切ったチーズはすぐにくるくると手の平で丸めてしまうのにだ。見ながら、私ならナイフ自体使わないで手で千切って丸めて終わりだなと思ってしまう。他方、基本的に簡単な料理であるため、チーズを丸めるのではなく、型などで例えば星型などにして切ったら、さぞパーティ向きになっていいのではなんて思ったりもする。


ポイントは、これなら私もすぐ家で実践できると思える料理であることだ。実際、うちには先週買い出しした、瓶詰めではなく乾燥のサンドライド・トマトがまだ一袋分丸々ある。ゴート・チーズではないが、よりくせのないモツァレラのまだ封を切ってないやつがある。ベイジルは使い切ったばかりだが、代わりといってはなんだがコリアンのスーパーで買った日本のより強いシソがかなり残っており、代用できるだろう。ピスタチオもある。微妙にボイタノが使っているオリジナルとは異なる食材ばかりだが、それはそれでうまそうなのが作れそうだ、これは作らない手はないと思ってしまう。


これ以外の料理も、基本的にそれほど手間はかからない。というか、料理好きの人間なら、でき上がったものを見ただけでかなりの部分作り方を予想できると思う。とはいえ、その組み合わせは独自であり、意外にボイタノ、見直したというのが正直なところだ。まだカメラ慣れしてないし、包丁さばきも素人の域を出てないし、ギャグやユーモアはかなりの部分外していると思わざるを得ないのだが、ポイントとなる料理という点では、思ったより使えそうだ。あとは、ボイタノの引き出しの数がどれだけあるかにかかっていると言える。それが充分あれば、番組は今後も続いていけるかもしれない。








< previous                                    HOME

 

What Would Brian Boitano Make?


ホワット・ウッド・ブライアン・ボイタノ・メイク?   ★★1/2

 
inserted by FC2 system