1980年代後半ブルックリン。ボビー (ホアキン・フェニックス) は人気クラブのマネージャーで当然のようにドラッグもたしなんでいたが、実の父のバート (ロバート・デュヴォール) は警察署長、兄のジョー (マーク・ウォールバーグ) もまた将来を嘱望されている刑事だった。ジョーらは最近台頭してきたロシアン・ギャングを一網打尽にする計画を練っていたが、逆にある夜、ジョーは自宅前で撃たれて入院する。ボビーは兄や父のために囮捜査に協力する決心をするが‥‥


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近年、なぜだか同時期に似たような作品が公開されるということがよくあるが、この、80年代ニューヨークを舞台に警察機構とギャングが対立する「アンダーカヴァー (ウイ・オウン・ザ・ナイト)」が公開されてほとんど時を置かずして今度はリドリー・スコットがラッセル・クロウとデンゼル・ワシントンを起用してやはりニューヨークを舞台に警察とギャングの対立を描く、「アメリカン・ギャングスター」が公開されている。


たとえば昨年、「イリュージョニスト」と「ザ・プレステージ」が同時期に公開された時は、私は「イリュージョニスト」だけ見て「ザ・プレステージ」は見ていないが、「ハリウッドランド」「ブラック・ダリア」がやはり同時期に公開された時は、両方とも見ている。「プレステージ」だって面白そうだったんだが、この辺の、どれを見てどれを見ないというのは、公開時期の限られている生ものとしての映画に相対している時は、ほとんどその時の気分次第だ。


「プレステージ」だって公開時期が半年早いか半年遅かったりしたら、絶対見ていたに決まっている。結局「プレステージ」はその後ペイTVのシネマックスでやっている時見たが、やはり面白いじゃないかと思った。各スタジオも、そりゃあそれぞれ思惑があって一度決めた公開予定日を簡単に移動できなかったりもするだろうが、こういうことがあまり重なると、観客冥利というよりは観客離れを起こすことにしかならないような気もするんだが。


さて「ウイ・オウン・ザ・ナイト」だが、80年代末期の、ロシアン・ギャングが台頭してきた時代のブルックリンを舞台に描くアクション・ドラマだ。父が警察署長、兄ジョーがやはり刑事という家庭に育った主人公のボビーは、しかし彼だけはそういう環境に反抗するように流行りのクラブのマネージャーという地位に収まり、ドラッグにも手を出し、ギャングと繋がりもあった。しかしジョーたちはギャングたちの排除を図っており、そのギャングたちのたむろするボビーのクラブは目の上のたんこぶだった。ある時ジョーらは抜き打ちでクラブを急襲、その報復にジョーは撃たれる。家庭愛に目覚めたボビーは、自ら志願して囮捜査を買って出る。そして‥‥というのが主要な展開だ。


一応ビリング的には主演はボビーを演じるホアキン・フェニックスとその兄ジョーを演じるマーク・ウォールバーグということになるんだろうが、実質上の主演はどう見てもフェニックスだ。警官一家に生まれたボビーは、いわゆる一人だけ毛色の違うブラック・シープで、よりにもよってその警察機構からは睨まれているクラブのマネージャーに収まり、当然のようにドラッグをたしなめば裏の世界にも片足突っ込んでいる。このことがジョーや父のバートにいい心証を与えるわけがなかった。そのボビーが、ジョーが撃たれたことからほとんどこれまでの生活から180度異なる意見を持つようになる。しかしそのことは一方でガール・フレンドのアマダ (エヴァ・メンデス。かなりいい味出している) と疎遠になっていくことも意味していた‥‥


この展開で私が連想したのは、「ゴッド・ファーザー」だ。「ゴッド・ファーザー」で主人公マイケルおよびファミリーの立場をまったく逆転すると、かなり今回の設定に近くなる。ギャングのコルレオーネ・ファミリーが警察一家のグラシンスキー・ファミリーになり、コルレオーネ家でファミリーに馴染めずにいた真面目なマイケルとグラシンスキー家で浮いていたやくざなボビーが交錯する。その二人が身内の危機をきっかけにファミリーに戻ってきて今度はその軸となるという物語の骨格がそっくりだ。そして今やコルレオーネ家の長となったマイケルについていけず、妻のケイが去っていくように、ボビーのガール・フレンドであるアマダも去っていく。一度に二つのことを掛け持つことができない人間が一つのことに入れ込むと、どうしてもどちらかを犠牲にせざるを得ない。


そして「ゴッド・ファーザー」を強く連想させるのが,中盤、ファミリーのために役に立とうと決心したボビー (マイケル) が、単身、危険を顧みずに敵の陣地に乗り込むという展開で,当然危険だから彼らは周りの者には知らせずに、一部の仲間の手引きによってそれを実行する。「ゴッド・ファーザー」ではマイケルはなんとか敵対するギャングのボスの眉間に銃弾を撃ち込んで無事帰還できたが、「ウイ・オウン・ザ・ナイト」ではボビーは無傷ではいられない。


「ゴッド・ファーザー」でもこのシーンは緊迫感溢れる印象的なシーンとなっていたが、「ウイ・オウン・ザ・ナイト」でももちろん非常にスリリングなシーンを提供している。特にそれに続くアクション・シークエンスはかなり強烈だ。そしてその後、ボビーと父のバートとの結びつきが強まるところも,これまた「ゴッド・ファーザー」を連想させる。さらにその後も「ゴッド・ファーザー」からの引用や影響を連想させるところはままあるのだが、これ以上のネタバレは控えた方がいいだろう。


監督は「リトル・オデッサ」のジェイムズ・グレイで、「オデッサ」以降聞いたことがないと思っていたら、2000年に「裏切り者 (The Yard)」という作品を撮っていた。まったく聞いたことがないぞ。しかもこちらもウォールバーグとフェニックス主演だった。しかも共演はシャーリーズ・セロン、ジェームズ・カーン、フェイ・ダナウェイ、エレン・バースティンという布陣で,なんだ,これ。こういう面々がいてまったく耳にしたことがなくすぐにぽしゃったのか。本当に公開されたのか。しかもカーンが出てるなんて、グレイが「ゴッド・ファーザー」に影響されているのは間違いないようだ。


ここまでグレイは自分の出身地であるマンハッタンの東側、ブルックリンとクイーンズで話を撮っている。「オデッサ」がブルックリンのブライトン・ビーチで、「裏切り者」がクイーンズの列車操車場、そして「ナイト」ではまたブライトン・ビーチに戻ってきた。グレイ自身がロシア移民の子孫だそうだから、現実にロシア移民が多く住んでいるブライトン・ビーチが舞台になりやすいのはわかる。実はロシア移民はクイーンズでは,私が住んでいるフォレスト・ヒルズにも多い。どちらかというと金を持っているロシア系移民がフォレスト・ヒルズに多く,金を持ってない者がブライトン・ビーチに流れやすいという微妙な差はあり、実際、以前ブライトン・ビーチに行った時は,柄が悪いという印象を受けた。


もちろんそのことが「リトル・オデッサ」や「ナイト」では魅力となっており、たとえば基本的に町の美観を損ねるため条例によって洗濯物を敷地内に干すことが禁じられているニューヨークで,「オデッサ」で干された洗濯物を使って印象的なシーンを撮ることができたのは、そこがブライトン・ビーチだったからこそだ。フォレスト・ヒルズはブルックリンのロシア人街とはまた雰囲気が違うが,道を歩いていて普通にロシア語が聞こえる。ガーデンと呼ばれる住宅街は,サブウェイで行けるニューヨーク近郊では一、二を争う高級住宅街で、それなりに絵になる。今度はこの辺を使ってロシア人末裔だか金持ちの移民だかギャングだかを登場させてなんか作ってもらえると、非常に楽しみなんだが。







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We Own the Night   アンダーカヴァー (ウイ・オウン・ザ・ナイト)  (2007年10月)

 
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