放送局: IFC

プレミア放送日: 9/7/07 (Fri) 21:00-22:30

製作: ジャイヴ・レコーズ、ゾンバ・フィルムス、ファジー・バニー・フィルムス

製作総指揮: R. ケリー、バリー・ワイス

監督: R. ケリー、ジム・スウォフィールド

脚本/音楽: R. ケリー

撮影: デイヴィッド・ヘニングス

美術: トビー・コーベット

出演: R. ケリー (シルヴェスタ)、キャット・ウィルソン (グウェンドリン)、ローランド・ボイス (ルーファス)、ルシェイ・トムリンソン (キャシー)、マリク・ミドルトン (チャック)、マイケル・ウィリアムス (ジェイムズ)、ドレヴォン・クックス (ビッグ・マン)、レベッカ・フィールド (ブリジット)、エリック・レイン (トゥワン)


物語: シルヴェスタは一夜の浮気をして、不覚にも相手のキャシーのうちで眠り込んで夜を明かしてしまう。キャシーの夫のルーファスが帰ってきたためシルヴェスタはクローゼットの中に隠れるが、見つかってしまい、激昂したルーファスと言い合ううちに、ルーファスはそれならオレも秘密をさらけ出そうと言ってその部屋に呼んだ恋人は、男のチャックだった。一方、自宅に電話したシルヴェスタは妻のグウェンの態度がおかしいために嫌な予感がして事態をほっておいて自宅に急行するが、案の定グウェンの浮気の跡を発見してしまう。そこへ二人の様子を見にやってきたのは先ほどスピード違反でシルヴェスタに切符を切った警官で、彼こそがグウェンの浮気相手だった‥‥


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「トラップト・イン・ザ・クローゼット」はカルトだ。紛れもなく、こういうのをカルトというんだと思う。どこからどう見てもメインストリームとは言い難いキッチュな匂いが充満しており、万人に好まれるとは到底思えないが、それでも好きなやつはとことん好きだ。では、いったい「クローゼット」のどこがどうカルトなのか。


「クローゼット」は、R&BアーティストのR. ケリーが製作監督主演歌と、3足どころか4足のわらじをはいて作った、いわば長尺ミュージック・ヴィデオといえば最も体裁を伝えやすい。実際、そのそもそもの始まりは音楽であり、ケリーのアルバム「TP.3リローデッド (TP3 Reloaded)」の中に、ほとんどボーナス・トラックのような形で4、5分ずつのチャプター (曲) が5本収められている。そのミュージック・ヴィデオがこの「クローゼット」だ。


しかし、そのミュージック・ヴィデオ集はすぐにその枠から逸脱し始める。もともと一つのストーリー・ラインにのっとって作られていたこれらのヴィデオは、一つ一つが意外なドラマとクリフハンガー (続きもので次回に続くはらはらさせる幕切れ) で彩られ、瞬く間にファンを獲得した。もちろんR&Bというジャンルの音楽/ヴィデオでもあり、知らない者も多かったが (実を言うと私も知らなかった)、熱狂的なファンもいた。「クローゼット」はその後、アルバムとは無関係に続編が製作され、それらは主としてインターネットで提供され、着実にはまるファンを増やしていった。


「クローゼット」は、その最初の12話がいわば第1シーズン、もしくは通しで見て1本のTV映画のような体裁を成している。そして今回、次シーズンの第13話から22話までが1本のDVDにまとめられ、発売された。これを機にインディペンデント映画専門のIFCが、1-12話を通しで放送した。これまで作品に親しんできた者も、DVDでなければ大半は画面が小さいか接続が途切れなく完璧とは言い難い環境でしか見れなかったはずだから、やはり大画面で綺麗な画像/音響でスムーズに見れるTV放送はありがたい。一般消費者が全員光ファイバーでネットに接続しているわけではないのだ。


「クローゼット」は、浮気相手の高層アパートで寝込んでしまい、翌朝目を覚ましたところ、当の浮気相手の夫が帰宅してくるというにっちもさっちも行かない状況に追い込まれた主人公シルヴェスタと、その周りの世界を描く話だ。なんといっても最大の特色は、すべての登場人物のセリフおよび状況説明が歌として提供されるところにあり、その全部をケリー一人が担当している。一つの歌として提供されているからして、自分以外のどの登場人物のセリフをケリーが歌っても、最初はともかくすぐに慣れ、特に違和感はない。登場人物が叫んでいるところなんかは、後ろでかすかに聞こえたりもする。つまりこれはミュージカルであり、ソープ・オペラでもある。そのため「クローゼット」は、「ヒップ・ホペラ (Hip-Hopera: Hip-Hop + Operaの造語)」と呼ばれていたりもする。


とはいえもちろん一般的な視聴者にとっては、ソープ・オペラというのは見るに値しない。暇つぶしにすらならず、こんなの見るくらいなら寝てた方がましとしか思わないだろう。ところが、これがグラミー受賞シンガーのケリーの歌と、いくらなんでもこんなのありかと思わせるストーリー・ラインに乗っかると、これが滅法面白いのだ。ストーリーなんて、なんでもありのソープですらここまでやるかと思われるご都合主義と言語道断のこじつけ無理筋なんだが、それを大まじのケリーにシルキー・ヴォイスで歌われると、まったく次元の違うソープ・ドラマを提供してくれ、思わず身を乗り入れて見てしまう。一般視聴者にとってソープとはチープなギャグ以外の何ものでもないが、それをとことんまで突きつめたのが「クローゼット」なのだ。


そもそもの番組の第1回では、浮気先で目を覚ましたシルヴェスタ (ケリー) が、夫のルーファスが帰ってきたから隠れてと浮気相手のキャシーに言われ、慌ててクローゼットの中に隠れる。キャシーの行動に不審を感じたルーファスは家探しを始め、バス・ルームを覗き、ベッドの下を覗き込み、そして段々シルヴェスタの隠れているクローゼットに近づいてくる。そしてクローゼットのドアに手をかけ‥‥というのが第1回のあらすじ。もろ定石通りだが、ルーファスが段々クローゼットに近づいてくるというシーンを、その中にいるシルヴェスタが状況を説明する歌を歌って盛り上げるのがなんともおかしい。


第2回ではシルヴェスタがクローゼットの中にいるのを見つかり、妻キャシーの秘密を暴いたルーファスが、ではオレの秘密もばらしてあげようと恋人に電話をかけ、相手がドアを開けて入ってくる、と、そいつは男でルーファスはゲイだった、というその瞬間、ばばーんとまた音楽が高まり、次回に続くとなる (もちろん今回の放送ではそれらは全部連続で放送されているが、最初はそこで続くとなったわけだ。) もう、なんというか、ここまででかなり笑える。第3回は状況に煮詰まったシルヴェスタが自宅に電話をかけると、それをとったのは妻のグウェンではなく、聞こえてきたのは男の声だった、そこで音楽がまたばばーん。


第4回ではシルヴェスタはキャシー、ルーファス、その恋人のチャックを残して自宅に帰るが、妻のグウェンの様子がどうもおかしい。いきなり帰ってきたばかりのシルヴェスタにセックスをせがんでくるのだがあまりものハードさに、ちょっとたんまとベッドを降りる、その時にめくったシーツの下から出てきたのは‥‥自分が使った覚えのないコンドームの袋だった。そして当然の如く音楽がばーん、画面が凍りついてまた次回となる。シルヴェスタがコンドームの袋を見つけた瞬間にケリーが「オー、マイ・ゴッド、ア・ラバー (Oh my God, a rubber)」(ラバー、ゴムというのはもちろんコンドームのことだ) と歌うと、最後の「ラバー」という部分がエコーが効いて繰り返されるのがこれまたおかしい。この部分の歌詞は、ほとんど流行語になっている。


あっちでもこっちでも登場人物は皆浮気して関係は乱れに乱れており、さらにグウェンの浮気の相手はシルヴェスタが急いで帰る時にスピード違反で切符を切ったその警官のジェイムズだったことも知れる。ジェイムズは虫の知らせでグウェンの様子を見に戻り、そこで揉めているシルヴェスタとグウェンを発見、銃を抜いてシルヴェスタを威嚇しようとして揉め、発砲、そこへ遊びに来ていたグウェンのいとこのトゥワンに傷を負わせる (あんなに揉めていたのに騒ぎも知らずにおまえはいったいそれまでどこにいたんだ。)


そんなこんな色々な悶着の後、カメラはシルヴェスタの一人称の視点を捨て、今度は自宅に帰るジェイムズに密着する。すると当然の如くジェイムズの妻のブリジット (初めて登場する白人だ) もまた男を家に引き込んでいた。もちろんそうだろうとこちらも思っており、ほとんどお約束のようなもんだが、この辺りからカメラはシルヴェスタの視点ではなくなっているから、ケリーが彼はこう言った彼女はこう言った、なんていかにもその場に居合わせているかのように歌うのはおかしい。で、どうするかというと、第三者としてのケリーがジェイムズの家のクローゼットの中にいて、葉巻を吸いながら状況を説明しているというなんとも面妖なシチュエイションになる。


そしてジェイムズもまたブリジットの様子がおかしいと家探しを始め、テーブルの上に食べかけのチェリー・パイがあることに気づく。しかしブリジットはチェリー・アレルギーなのだ! ジェイムズはブリジットを押しのけ、シンクの下のキャビネットを開ける‥‥と、そこでまた言語道断なことに再々度画面はフリーズし、第三者として状況を説明するケリーがいきなりクローゼットを開けて中から出てきて、ここで映画をいったん停めろ、なぜならこれからオレが言うことは驚天動地の事実だからだと解説し出す (歌い出す。) さあ大変なことになった、なぜならシンクの下に隠れていたのは‥‥小人だったのだ。最後の「小人 (midget)」という単語が何度もリフレインされ、「ミジェット‥‥」と繰り返される毎にケリーは再度クローゼットの中に舞い戻り、そしてゆるゆるとまたクローゼットのドアが閉まる‥‥もう、爆笑である。


事態はさらに紛糾し、グウェンとも知己の関係であったブリジットは彼女に電話し、グウェンの要請でシルヴェスタとトゥワンが救援に駆けつける。しかしブリジットにはまだ秘密があった。彼女は妊娠しており、その子の父親はジェイムズではなく小人のビッグ・マンであると告白する。またもや画面が凍りつき、クローゼットの中からケリーが出てきて「ブリジットの子の親は‥‥」と歌う。今度はその横でケリー自身の演じているシルヴェスタも画面の中に映っており、要するに一人二役だ。いずれにしても、子の親が小人なんだってよ、まったく、と頭を振るケリーがおかしい。おまえがこのストーリーを自分で考えて自分で歌って演じているんだろうが、と、とにかく笑える。いや、TVを見てこんなに腹を抱えて笑ったのは、コメディ・セントラルの「シャペルズ・ショウ」を見て以来か。


ありとあらゆるソープの定石をパロりまくる「クローゼット」がカルト的人気を博しているのも当然と言えよう。ソープ自体が何でもありだから、そのパロディである「クローゼット」が何でもありなのも当然だ。私は第2シーズン、というか第13話以降は見てないのだが、第1シーズンに輪をかけて言語道断の展開になるらしい。しかし、正直言うと、私は既に彼らの人間関係を追えていない。こないだニューヨーク・タイムズを見ていたら「クローゼット」の人間関係チャートがカラーで出ていたから、一般視聴者が私同様、登場人物の関係を完全に把握しているわけではないことは明らかだ。しかしそれなのにまだこれからも話は紛糾するのか。頭がくらくらする。


実は現在ケリーは実生活でチャイルド・ポルノ関連、端的に言って子供とセックスしたとして告訴されており、裁判が進行中だ。「クローゼット」や本業の音楽活動でよりも、そちらでの方が注目され話題になっているのがちっとばかし悲しい。「クローゼット」で婚姻関係無視して浮気しまくってたと思ったら、実生活ではロリータかよ。とはいえ、彼の音楽的才能はやはり大したものだよなと「クローゼット」を見ていると思わざるを得ない。そういうロリータにも手を出すようなやつだからこそ「クローゼット」も作れたのか。世の中まったくままならない。






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Trapped in the Closet


トラップト・イン・ザ・クローゼット   ★★★1/2

 
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