放送局: NBC

放送日: 5/31/2006 (Wed) 7:00-10:00 (ケイティ・コーリックの最後のエピソード)

プレミア放送日: 1952

ホスト: ケイティ・コーリック、マット・ロウアー

共同ホスト: アン・カリー

天気予報: アル・ローカー


内容: 今秋からCBSの「イヴニング・ニューズ」のアンカーに就任するケイティ・コーリックがホストを担当する最後の「トゥデイ」。


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昨年、3大ネットワークの主要ニューズ・アンカーが全員辞めるか鬼籍に入り、一斉に新旧交替時期に入ったことは記憶にも新しい。しかも一昨年12月に自ら辞めると発表して退陣したNBCの「ナイトリー・ニューズ」のトム・ブロコウを別にすると、そのほとんどが本人の意に沿わないか時宜を得ない交替で、少なからずなんらかの遺恨を残す形となった。


さらにそういう風にして生まれ変わった番組が、ではニューズ界に新風を巻き起こしたかというと、それも心もとないものでしかなかった。CBSの「イヴニング・ニューズ」のダン・ラザーの後継者は1年以上も決まらず、暫定ホストのボブ・シーファーがそのまま定着するんではと思われた。ピーター・ジェニングス亡き後のABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト」は、ボブ・ウッドラフとエリザベス・ヴァーガスの共同ホストという新形態で番組が始まったとたん、ウッドラフが戦地負傷、ヴァーガスも懐妊が発覚して二人とも番組を続けていくことが難しくなり、今ではチャールズ・ギブソンが正式にまた新しいホストとして就任している。


深夜ニューズの「ナイトライン」も、テッド・コッペルの後をマーティン・バシア、シンシア・マクファデン、テリー・モランの3人が共同でホストを勤めるという変則的形態でスタートしたが、こちらの方も成績としてはそれほど芳しいわけではない。人々がまずニューズに求めているものが正確かつ迅速な内容であり、それをまとめるキャスターへの信頼である時、キャスターを何人も揃えることは、報道番組においては特に求められているものではないということを証明することにしかならなかった。


こういうネットワーク情勢を睨みながら虎視眈々と機会を窺っていたのがCBSである。昨年、ラザーの「イヴニング・ニューズ」が最終回を迎えた時、CBSは明らかにその時の主流だった共同ホスト案に傾いており、焦らずにラザー後の人選を進めるという態度をとっていた。一方、その時、既に女性アンカーという案が浮上していたのも確かで、一人アンカーにせよ二人以上の複数アンカーを起用するにせよ、一人は女性にするというアイディアが支持を得ていた。そしてその時新しいアンカー候補の最右翼として挙げられていたのが、NBCの朝の最強ニューズ/ヴァラエティ番組「トゥデイ」ホストのケイティ・コーリックだった。


こういう噂というか内部事情はどうしても外に漏れるもので、CBS幹部もコーリック自身も口を閉ざしていたとはいえ、CBSがコーリックに打診を重ねていたのは、もはや昨秋には業界内では公然の秘密となっていた。そしてネットワークのワールド・ニューズのメイン・キャスターになることがニューズ・キャスターとしてのキャリアの頂上であることが事実である以上、もしコーリックが自分のキャリアをできるところまで昇りつめて行きたいと考えているなら、コーリックはこのオファーを受けるだろうと見られていた。


もちろん自分のキャリア以外にも私生活やその他の色々な事情があるから、必ずしもコーリックがこのオファーに飛びつくとは限らないし、もし複数アンカーの一人となるなら、この話のうまみはかなり薄まってしまう。しかし、もし一人で「イヴニング・ニューズ」を任せられるとなるなら、コーリックは7:3、あるいは8:2くらいの確率で受けるだろうと見られていた。ネットワークのワールド・ニューズで女性一人でアンカーを務める最初の人物として、歴史に名を残すのだ。これに心を動かさずしてなんのためのキャリアか。後はそのことを発表する時宜の問題だ。コーリックのNBCとの契約は今年5月をもって切れる。飛ぶ鳥後を濁さずNBCを後にするためには、3月か、遅くとも4月にはコーリックの口からなんらかの声明が飛び出すはずだ。果たしてコーリックはCBSからのオファーを受けたのか蹴ったのか。


コーリックが「トゥデイ」を辞めてCBSに移ると発表したのは、4月5日の番組内であった。多少は驚いた視聴者もいたかもしれないが、少なくとも業界内における反応は、やっぱり、というものであった。それよりも私が驚いたのは、コーリックがCBS移籍を発表したその翌日、メイン・ホストを引き抜かれたNBCが、「トゥデイ」のコーリックの後釜としてメレディス・ヴィエイラと契約したと発表したことにあった。なんだなんだなんだ、こいつら、コーリックは辞めるものとして既に対応策を打ってあったのか。コーリックはコーリックで「トゥデイ」ホストを務めながらCBSと契約を煮詰め、NBCはNBCで表面上はコーリックといい関係を保っておきながら、次のホストを探していたわけか。


ヴィエイラは、ABCの朝のヴァラエティ・ショウ「ザ・ヴュウ (The View)」の共同ホストを担当している一人である。ABCの大御所女性キャスターだったバーバラ・ウォルターズが中心となって97年から始まっている番組で、ウォルターズ、ヴィエイラの他に、現在では元検察官のスター・ジョーンズ、コメディアンのジョーイ・ベアー、そしてエリザベス・ハッセルベックが共同ホストを務めている。


ハッセルベックは、この名だとどこの誰だかわかる者はほとんどいまいと思うが、結婚前のフィラースキという珍しい旧姓を用いると、アメリカTV好きなら、もしかして引っかかるものがあるかもしれない。そう、あのCBSの「サバイバー」第2弾、「オーストラリアン・アウトバック」に出ていたシューズ・デザイナーのエリザベスが、現在「ヴュウ」で共同ホストを担当しているのだ。


「ヴュウ」は「トゥデイ」のような報道色は微塵もなく、もっぱら女性パーソナリティだけによる肩の凝らないおしゃべり番組として機能している。話題が硬い話に寄る時もないことはないが、1930年代生まれのウォルターズ、40年代生まれのベアー、50年代生まれのヴィエイラ、60年代生まれのジョーンズ、70年代生まれのハッセルベックと、氏も育ちも世代も異なる女性陣が赤裸々に語る本音というのが番組テーマである以上、だいたい身近な話題に終始することがほとんどだ。私のような中年世代に突入している成人男性にとっては、特に興味が持てるわけではない話題が続いたりしてずっと見ているにはちょっとつらかったりするが、逆に面白いと思う男性視聴者もいないこともないだろう。その「ヴュウ」で、話をまとめたり仲裁したりするのが最もうまかったという印象があるのが、ヴィエイラだ。


それだけでなく、ヴィエイラはさらに、一時社会現象になるまで流行ったクイズ番組、「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア」のシンジケーション版でもホストを担当している。つまり、彼女の顔は既に全国区であり、コーリックほどではなくても、アメリカにおいて彼女の顔を知らない視聴者はほとんどいない。いざコーリックの後任としてヴィエイラの名が挙がった時、誰もがああと納得したのも当然といえば当然だった。


そのヴィエイラの談話が後に発表になっているが、それによるとNBC社長のジェフ・ズーカーがヴィエイラにコンタクトをとってきたのは昨年の10月のことであったらしい。とはいってもその時はヴィエイラはABCアンカーの一人に過ぎず、ズーカーとおおっぴらに会うことはできなかった。そのためズーカーはヴィエイラが出勤する際に運転手つきの車を用意して、二人はマンハッタンに向かう車の中で、ほんの数分間話し合った。その時にズーカーはヴィエイラに対し、コーリックは辞める可能性が大きい、あんたは「トゥデイ」のホストに興味はあるかと打診してきたそうだ。つまり、その時点で既にNBCはコーリックが辞めた場合の対応策を考えており、各々が水面下で動きながら、お互いの腹の探り合いをしていた。


こういう事前の動きがあったからこそ、コーリックが辞める発表をした時も即座にNBCは対応できたのであり、ついでに言うと、「ヴュウ」ですら、ヴィエイラが辞めた場合の対応を考えていた。だからこそヴィエイラが番組を去ると告げた後に、こちらも即座にヴィエイラの後任としてロージー・オドネルを迎えることを発表することができたのだ。もしオドネルがその時なんかの番組のホストだったりしたら、またその後任を探さなければならず、アメリカTV界の女性ホストの堂々巡りが果てもなく続いていたところである。いずれにしても、昨年からのこの辺の水面下の交渉や腹の探り合いはほとんどスパイ合戦並みで、まったく映画になりそう、いや、下手なフィクションより現実の方がよほど意外性があって面白いと思ったりした。


さて、「トゥデイ」はアメリカの朝のニューズ/ヴァラエティを代表する番組である。そもそもの始まりは1952年にまで遡る、アメリカTV界屈指の長寿番組だ。前掲の「ナイトリー・ニューズ」のブロコウ、「ヴュウ」のウォルターズを筆頭に、ブライアント・ガンベル、ジェイン・ポーリー、コニー・チャン、フィル・ドナヒュー等、錚々たる面々がこの番組のホストやインタヴュウアーを務め、次のステップに進んでいった。これだけの歴史があると、新進ホスト/アナウンサー/インタヴュウアー養成機関として果たした役割も、他の番組と較べて桁違いという印象がある。


コーリックが何代目かの「トゥデイ」ホストとして迎えられたのは1991年のことであり、1995年に「GMA」に代わって視聴率トップになって以来、その後10年間、現在までその座を譲ったことは一度もない。「トゥデイ」を今のような人気番組に押し上げた功績は誰の目から見てもコーリックのものであり、コーリックと「トゥデイ」という二つの固有名詞は常にセットとしてとらえられている。愛嬌のある可愛い顔と視聴者寄りの暖かい視点、時に発する鋭い舌鋒が持ち味で、彼女の顔を見て一日を始めるという視聴者は多かったはずだ。因みにコーリックの本当のファースト・ネイムはキャサリンだが、「トゥデイ」ホスト就任を機にケイティと呼称を変えている。


「トゥデイ」は長年朝7時から9時までの生番組であったが、2000年から7時から10時まで3時間番組となった。当然人気を最大限に活用しようと考えたのだろう。とはいえ、普通に働いている成人男性にとっては、平日朝の番組を見る時間なんかほとんどない。そのため、私がコーリックを最もよく覚えているのは、数年前にNBCが早朝ニューズ/ヴァラエティの「トゥデイ」と深夜トークの「トゥナイト」のホストを交代してみようと画策したスタントにおいて、コーリックが「トゥナイト」のホストを担当したエピソードであったりする。


現在、視聴率では「トゥデイ」の下に僅差でABCの「グッド・モーニング・アメリカ (GMA)」が続き、かなり離れてCBSの「ジ・アーリー・ショウ (The Early Show)」がいる。昨年、一時「GMA」が「トゥデイ」との差を詰めてきて、すわ逆転かと業界から注目されていたが、結局追いつくには至らなかった。ABCのニューズ部門が現在ごたごた続きで、「GMA」ホストのチャールズ・ギブソンを夕方からの「ワールド・ニューズ・トゥナイト」に移動せざるを得なくなったため、今しばらくは「トゥデイ」は安泰と思われる。問題はやはりヴィエイラが新ホストに就任する今秋以降だろう。「アーリー・ショウ」の場合、ほとんど「トゥデイ」と「GMA」の視聴率争いに参加させてもらえず、いつも蚊帳の外という印象がある。現在この「アーリー・ショウ」で中心的ホストを担当しているのが、「ビッグ・ブラザー」のジュリー・チェンだ。


さて、そのコーリックがホストを担当する最後の日である5月31日の「トゥデイ」は、3時間の放送枠のほとんどがコーリック絡みの内容であった。いきなり共同ホストのマット・ロウアーが番組開始早々ティッシュの箱を取り出すと、これはあんたのためではなく、私が使うんだとギャグを飛ばす。その後も、曰くコーリックが取材したベストのレポート、コーリックが行ったベストのインタヴュウ、あの人は今、コーリックへのヴィデオ・レター、コーリックの髪型の変遷等々、コーリック絡みのセグメントが延々と続き、その他には天気予報と交通情報、本当にこれだけは外せないといった大きな事件の報道が僅かに挟まるに過ぎない。


しかも最後とあって「トゥデイ」を放送するロックフェラー・センターのスタジオの外にもステージを組み、トニー・ベネットやその他の面々がやってきて歌を披露。コーリックはその度にスタジオの外に出たりまた中に入ったり、シャンパンを開けて乾杯したり花火が上がったり握手して回ったりと忙しい。この日の「トゥデイ」の印象はとにかく「忙しない」で、なんか録画してあったものを見ているだけで疲れた。コーリックは思ったよりもさばさばとした顔で、たぶん気持ちはもう今秋に飛んでいるんだろう。また、それはそれとして、昂揚感もあるだろうが精神的なプレッシャーもかかるだろうと思われるのに、最近のコーリックはどう見ても太った。もしかするとストレスがかかると食うタイプなのかもしれない。


一方、これだけでは片手落ちだからと、ヴィエイラがホストを担当する最後の回の「ヴュウ」も見てみようと思ったんだが、こちらの方はコーリックほど派手に喧伝されているわけではなく、そろそろかなと思っていた矢先の6月12日に、その前の週の金曜、6月9日放送分がヴィエイラが登場する最後の回だったということを知った。なんてこった、コーリックに較べるとほとんど誰も騒がないので、気づかないで見逃してしまった。番組としても別に大したことはせず、同僚ホストたちが、新天地でも頑張ってねみたいな感じでハグして終わり、というさっぱりしたものだったらしい。ま、こういう派手さがなく、何事も堅実にまとめるところがヴィエイラの持ち味でもある。たぶん本人が大騒ぎするのを嫌ったんではないかという気がする。


もちろん、こういったホストの持ち味というものは新天地でも現れてくるはずだ。中高齢者以上に人気があり、老人ネットワークと陰口を叩かれるCBSが咽喉から手が出るほど欲しかったのが若者層に人気のあるパーソナリティで、だからこそコーリックに白羽の矢が立った。57年生まれのコーリックは、すぐに50歳に手が届くとはいえ、74歳のラザーからは二回り以上若い。一方、そのコーリックよりも4つ歳上のヴィエイラが新ホストとなる「トゥデイ」は、安定感は増すかもしれないが、これまで番組が若い視聴者層に人気があったところの理由は薄まってしまう。そしてヴィエイラの後に収まったオドネルは、いったいどういう色を番組に吹き込むのか。それぞれが新天地で新ホストとなって放送が始まるのは9月からだ。その時を楽しみに待とう。



追記:

私がこの項を書いてアップしようとした6月下旬、いきなりラザーのCBS退社というニューズが飛び込んできた。退陣ではない、退社である。CBSを辞めるのだ。つまり、今後我々がCBS番組でラザーの顔を見る可能性はまるっきりゼロになるということだ。一昨年のブッシュ兵役偽造疑惑スキャンダルの時、番組プロデューサーが何人も辞めているのにその張本人のラザーが辞めずにそれからしばらく踏ん張っていたが、そのことに違和感、不信感を持った視聴者は多かった。私だってそうだ。そしてやはりCBS内部でもラザーに対する風当たりは強かったらしい。結局最終的にその半年後、ラザーも「イヴニング・ニューズ」を降りたわけだが、それでもまだラザーに対する不信感を払拭するには至らなかったということだろう。ラザーはここのところ、CBSに出社しても仕事がなく、かといって何か新しい仕事が与えられるわけでもなかった。本人はそのことを潔しとせず、CBSを辞める決心をしたらしい。


しかし、それを言うならば、ラザーは一昨年、ブッシュ疑惑での自分のミスが明るみに出た時点で潔く自分の失敗を認め、視聴者に謝罪するべきだった。あの時に思い切り視聴者に植えつけた不信の種を、今、自分の手で刈りとらざるを得なくなったという気がする。誰だってミスはする。要はその時にとる態度こそがその人の本当の姿を見せる。いかにも自分には責任はないと言わんばかりの態度をとり続けたラザーの振る舞いは、一流のニューズ・アンカーにあるまじきものだった。たぶん視聴者はずっとそのことを忘れない。CBSの同僚にとってはなおさらだろう。あんたのおかげで何人もの首が飛んだのに、その原因がのうのうと現職に留まるというのは、許せるものではなかったに違いない。結局、遺恨は残り、最終的にラザーは番組だけでなく、CBSまで辞めざるを得なくなった。


この展開は、この9月から「イヴニング・ニューズ」ホストに収まるコーリックに対し、更なるプレッシャーと大きな期待がかかることを意味する。実際、既に「イヴニング・ニューズ」は、ここんところ視聴率は上向きなのだ。既に1年以上も暫定ホストという不安定状態にいる報道番組が成績を伸ばすというのは、常識ではまったく考えられることではない。9月からのコーリックのホストに期待する視聴者が、ほとんど前倒しで今からチャンネルを合わせていると考える以外、理由のつけようがない。期待感だけで、3大ネットワークで万年最下位だった番組が、いきなり2位のABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト (WNT)」を抜いてしまったのだ。もちろん最近の「WNT」が問題だらけという事情もあるが、やはりそれだけではないだろう。ますます今秋のネットワークのニューズ番組から目が離せなくなった。






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