放送局: FX

プレミア放送日: 3/28/2006 (Tue) 22:00-23:05

製作: リージェンシーTV、パライア、サラバンデ・プロダクションズ、FOX TV

製作総指揮: ギャヴァン・ポロン、デイヴィッド・マンソン、ノーマン・モリル

製作: ペニー・アダムズ、ヴィヴィアン・キャノン

クリエイター/脚本: ノーマン・モリル

監督: ポール・マグイガン

撮影: ピーター・ソヴァ

美術: ローレンス・ベネット

編集: ポール・トレホ

音楽: リチャード・マーヴィン、ジョン・ヴァン・トンゲレン

出演: アンドレ・ブロウアー (ニック・アトウォーター)、メイ・ホイットマン (タミ)、クリフトン・コリンズJr. (ジャック)、マリク・ヨバ (エルモ)、ヤンシー・エリアス (ゴボ)、ウィル・ユン・リー (ヴィンセント)、ダイナ・メイヤー (ワンダ)、リンダ・ハミルトン (ロセリン)、クレイン・クロウフォード (イジー)


物語: プロの泥棒のニックは仲間をまとめ、旧正月のチャイニーズのお祭り騒ぎの真っ最中に、銀行の金庫を破って大量の宝石と紙幣を手に入れるが、しかしその金は、チャイニーズ・マフィアの金だった。ニックらは、次の仕事として政府相手に4,000万ドルを強奪するという計画を持っていたが、チャイニーズ・マフィアの刺客がニックらの跡を執拗に追う。一方、私生活においてはニックは義理の娘タミの教育問題に手を焼いていた。タミはうすうすとニックの仕事に感づき始めており、母が事故で死亡したことから情緒不安定になった彼女の行動は、段々ニックの手に負えなくなってくる‥‥


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近年、FXが放送するドラマはかなり話題性が高い。2002年の「ザ・シールド」に端を発し、「ニップ/タック」「レスキュー・ミー」「オーヴァー・ゼア」と、話題性だけではなく、質の点でもかなりのレヴェルに達している。さらにドキュメンタリー/リアリティでも、「30デイズ」「ブラック.ホワイト.」と、評判の番組に事欠かない。


HBOの「シックス・フィート・アンダー」や「セックス・アンド・ザ・シティ」が終わり、「ザ・ソプラノズ」は最終シーズンが放送中の現在、FXのドラマ群は既にケーブルTVでは随一という印象がある。HBOと同じペイTVでは、ショウタイムの「ハフ (Huff)」や「ウィーズ (Weeds)」なんてそれなりに話題になった番組もあるが、小粒という印象は否めない。FXと同じ土俵のベイシック・ケーブル・チャンネルでも、大手のUSAやTNTに「モンク」や「ザ・クローザー (The Closer)」という人気番組があることはあるが、後が続かない。やはりFXの優位は歴然としている。


そのFXが今回編成する「シーフ」は、これまでのFX番組群にも増してエッジィな題材や描写で、さらに話題になった。政府相手に大金強奪を企む泥棒一味を描くこの番組、一味を束ねるその首謀者を演じるのがアンドレ・ブロウアーというところで、既に、お、これは、という気にさせる。


ブロウアーはTV界のデンゼル・ワシントンとでも言うべき存在で、黒人俳優としてその演技力は群を抜いている。ブロウアーの名を聞いて誰でも真っ先に思い出すのは、NBCの「ホミサイド」だろうが、実際この番組でのブロウアーの存在は、他を圧していたと言ってもいい。他のヴェテラン/実力俳優に囲まれながら、よくも悪くもブロウアーだけ別の次元で演技していたという印象があった。


「ホミサイド」後はそれほど役に恵まれず、ABCの短命に終わった「ギデオンズ・クロッシング (Gideon's Crossing)」で医者に扮していたのが印象に残っているくらいだ。とはいえ今年から昨年にかけて、話題作に連続して出て一気に知名度を上げたテレンス・ハワードよりも、実力という点では上回るというのが私の印象だ。彼の持つ超シリアスな存在感は、その他大勢の役者陣と確実に一線を画しており、余人の追随を許さないという気がする。


要するに、彼のそういう持ち味が、これまで刑事や医者という、いわゆる責任が付随する職業の役柄に向かわせていた。それなのに、よりにもよって今回彼が演じるのは、これまでと正反対の泥棒だ。これまでの十八番だった、悪を取り締まり正義に準じていたのとはまったく180度異なる役柄で、いったいどうやっているのか非常に気になる。つまり、その時点である程度視聴者の興味を惹くことに成功していると言える。


しかし、よく考えたら泥棒だろうがギャングだろうが複数で仕事をしている場合、そこで統率をとる人間が必要になるのは当たり前の話で、カリスマがあったり責任感がある人間が頭を務めるのは、それが正義の側であろうと悪の側であろうと変わりない。むしろ独善的ではいられないだけ、ギャングのボスであることが、警察署長であるよりもより大きな統率力やカリスマを必要とされると言ってもいいかもしれない。「ソプラノズ」が面白いのは、なんといってもその辺に理由がある。


実際「シーフ」でも、仲間割れしたり抜け駆けしたりしようとする一癖も二癖もある奴らを束ねることは、なまじっかの膂力ではできない。こんな奴らを束ねて、さらに法の裏をかいて自分の思い通りに行動させることができる力があるのなら、普通にビジネスを起こした方が何倍も簡単に富を得ることができるだろにとすら思う。そして案の定というか、ブロウアーがそういう悪の首謀者という役にかなりはまっている。当然といえば当然なのかもしれない。


ブロウアーの下で働く仲間たちも曲者揃いで、というか、そいつらを演じる役者も曲者揃いだ。ガボを演じるヤンシー・エリアスは、NBCのミニシリーズ「キングピン (Kingpin)」で、ラテン系マフィアのボスを演じていたし、いかにも小物ヅラしたジャック役のクリフトン・コリンズJr.は、昨年の「カポーティ」の死刑囚だった。「ヘンリー」のマイケル・ローカーなんてのもいる。


最初かなりすっぴんで登場して歳とったなと思わせるのはリンダ・ハミルトンで、しかもあっけなく殺されてしまう。そのチャイニーズ・マフィアの刺客として登場するウィル・ユン・リーは、「ダイ・アナザー・デイ」や「ロウ&オーダー」では日本のヤクザ役を演じるなど、いつの間にか悪役の方が多くなっているが、どっちかっつうと線が細い。そのためか冷酷な暗殺者ながら結核 (死語?) かなんかで血を吐きながらブロウアーたちを追ったりして、やけに哀愁漂ったりしている。


さらにブロウアー演じるニックには、妻と彼女の連れ子のティーンエイジャーのタミという義理の娘がいるのだが、その妻が事故で死亡してしまったために、ニックとタミとの間がぎくしゃくしてしまう。ただでさえ黒人のニック、白人のタミという外見上の決定的な違いがあるのに、間に立っていた母親という緩衝地帯がなくなってしまうと、両者のエゴは直接ぶつかり合ってしまう。ニックは自分が本当は何をしているかをタミに知らせてはいないが、タミはうすうすとニックがやばいことに手を出していることに感づいている。それなのにニックは責任感もあってタミにやたらと口出しし、タミは当然それが気に入らない。こいつ、誰かに似ているよなあと思いながら見ていたのだが、「エクソシスト」に出ていたリンダ・ブレアそっくりなのだと気づいた。


等々、よくもこれだけ詰め込みましたねというくらいサブ・エピソードてんこ盛りなのだが、しかし、別に消化不良という風にもならずちゃんと面白く見せるのは、やはり作り手と演じ手のレヴェルの高さだろう。FXはまたやった。「レスキュー・ミー」の新シーズンもそろそろ始まるし、これじゃちょっとネットワークのドラマ・シリーズが霞んじゃうなと思ってしまう。






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Thief


シーフ   ★★★1/2

 
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