The Vampire Diaries  ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ

放送局: CW

プレミア放送日: 9/10/2009 (Thu) 20:00-21:00

製作: アウターバンクス・エンタテインメント、アロイ・エンタテインメント・グループ、CBS TV

製作総指揮: レスリー・モーゲンスタイン、ボブ・レヴィ、ケヴィン・ウィリアムソン

クリエイター/脚本: ケヴィン・ウィリアムソン、ジュリー・プレック

監督: マルコス・シーガ

撮影: ラムジー・ニッケル

美術: ジリアン・スコット

出演: ニーナ・ドブレフ (エレイナ・ギルバート)、ポール・ウェスリー (ステファン・サルヴァトーレ)、イアン・ソマーホールダー (デイモン・サルヴァトーレ)、スティーヴン・R.・マックイーン (ジェレミー・ギルバート)、サラ・カニング (ジェナ・ソマーズ)、カテリーナ・グレアム (ボニー・ベネット)、キャンディス・アコラ (キャロライン・フォーブス)、ザック・ローリグ (マット・ドノヴァン)、ケイラ・ユーウェル (ヴィッキ・ドノヴァン)、マイケル・トレヴィノ (タイラー・ロックウッド)


物語: エレイナとジェレミーの姉弟は事故で両親を亡くし、叔母のサラの助けを借りながら高校に通わなければならなかった。エレイナの親友のボニーは何かと親身に相談に乗ってくれるが、それでも心の穴を埋めるには至らなかった。ジェレミーはドラッグに手を出し、恋焦がれるヴィッキに折りにつけ接近を試みるが、ヴィッキはつれなかった。

そんな時、彼らの通う高校に転入生が入ってくる。元々はこの辺の生まれだというステファンにエレイナは心惹かれるものを感じる。しかしステファンは、実はヴァンパイアだった。しかも彼の弟のデイモンはステファンと違って人間と共生しようとははなから考えておらず、ヴィッキをその毒牙にかける‥‥


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それにしても近年のこのヴァンパイア・ブームはなんなんだろう。むろん昔からヴァンパイア映画、ヴァンパイアTVというのはあったし、近年でもUPN/WBの「バッフィ ザ・ヴァンパイア・スレイヤー (Buffy the Vampire Slayer)」という人気番組もあった。しかし一昨年の「トワイライト (Twilight)」に端を発するヴァンパイア・ブームは、ティーンエイジャーのそれも女の子を中心に異常とも言えるくらいの盛り上がりを見せている。


実は近年のヴァンパイア・ブームは「トワイライト」に端を発すると書いたが、それは間違いではないが、正確とも言えない。だいたいいつの時代にでもヴァンパイアものというのはあるもんだし、TV界だけでも、「トワイライト」に先立つ1年前に、CBSの「ムーンライト (Moonlight)」というヴァンパイアものがあった。1シーズン限りで姿を消したが、それでもこのジャンルが好きな者は熱心に見ていた。


番組が目に見える形で成功しなかったのは、最近のヴァンパイアものに欠かせない要素である若くて見てくれのいい男性ヴァンパイアではなく、完全に大人のヴァンパイアを造形してしまったために (主演は最近「ホワイトアウト (Whiteout)」にも出ていたアレックス・オロークリン)、ティーンエイジャーの女の子が見てくれなかったことにあると思う。番組が主として歳の行った者が見ているCBSで放送されていたことも痛かった。それが昨年、HBOが「トゥルー・ブラッド (True Blood)」の放送を始め、そして「トワイライト」が公開されるに及んで、いきなりヴァンパイアものが大ブレイクした。


「トゥルー・ブラッド」はシャーレイン・ハリス原作の人気シリーズの映像化で、主演がアナ・パクインとスティーヴン・モイヤーという具合に、ちゃんと見てくれのいい若い主人公を揃えた。製作は「シックス・フィート・アンダー (Six Feet Under)」のアラン・ボールだ。因みにパクインはここでは相手の考えていることが読みとれる能力を持っている女性という設定だが、これって彼女が「X-メン (X-Men)」で演じていた、相手の力を吸いとって自分のものにしてしまうという能力にかなり近い。そういう役回りのようだ。


この、「トゥルー・ブラッド」と「トワイライト」の相似は改めていちいち指摘するまでもないだろう。どちらも何百歳も歳のいっている男性ヴァンパイアが主人公なのに、それでも見かけは20代で、しかもハンサムだ。そのヴァンパイアに人間の女性が恋をする。当然報われない恋だ。ついでに言うとこういう番組の骨格は、「バッフィ」から何も変わっていない。


それにしてもなんで、女性のヴァンパイアに若い男性が恋するという逆の構図にはならないのか。まず第一に、どうしても何百歳の女性ヴァンパイアだと、美形のヴァンパイアというものに抵抗感を持ちやすいというのはあるかもしれない。男のヴァンパイアだと、それが経験を積んだ危険な魅力という風に転化させることが可能だが、女性ヴァンパイアだと、どうしてもほうきに乗った魔女みたいなものを想像しがちになる。


そしてどちらかというとこれが最も大きな理由だと思うが、この手の番組作品を見たり読んだりするのは、得てして女性読者/視聴者に限られるということがある。自分をかなわぬ恋に苦悩する悲劇のヒロインに見立て、主人公の若くて美しい女性に同一化して作品を楽しむのだ。歳をとらないという永遠性、血を吸うという行為に一種の耽美的なものも見出せる。一方、この種の作品が好きという男性にはあまりお目にかかったことがない。


むろん「ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ」も当然この轍を踏んでいる。主人公のエレイナと弟のジェレミーは事故で両親を亡くし、二人ともまだその傷から癒えていない。そこに現れるのが、齢うん百歳のヴァンパイア、ステファンだ。エレイナとステファンは最初に会った時からお互い相通じるものを感じるが、しかし彼はヴァンパイアだった。彼は隠れて人の生き血を吸うのではなく、人間と共生できる道を模索していたのだが、しかし、そこへ人間を餌としてしか見ていない弟のデイモンが姿を現す‥‥というのが番組第1回だ。


話が逸れるが、血を吸うといえば「トゥルー・ブラッド」では、この設定に独自のひねりがある。近い将来、日本の技術力によってほとんど完璧な人工血液が製造されるようになり、ヴァンパイアが人を襲う必要がなくなって、アンダーグラウンドに隠れている理由がなくなるのだ。ヴァンパイアが人間と共生とは言わないまでも普通に人々のいるところに姿を見せ、バーで血液を注文して飲んでいるというような描写が斬新だった。あまりにも堂々とやるので納得させられた。


それが「ヴァンパイア・ダイアリーズ」の場合、最初ヴァンパイアのステファンが姿を現すのは、高校の転入生としてだ。何百歳のヴァンパイアが10代か20代にしか見えないハンサム・ガイであるというのはまだ譲歩しよう。しかし、それがなぜいきなり高校に転入してきて高校生として通学しないといけないのかは、まったくもってわけがわからないし納得できない。たぶんいつまでも外観の変わらないヴァンパイアは、数年で通学できなくなるに決まっているのに。あるいは、ちゃんと卒業して職に就くってか。


我々には既に「バッフィ」があるので、高校を舞台とするヴァンパイアものをなんとなく考えもせずに受け入れてしまいそうになるが、しかし今さらまた同じ設定を受け入れろと言われても、既に時代は違う。ティーンエイジャーの女の子でなければもうここで躓いてしまう。いったい、なんで何百歳のヴァンパイアが高校に通学しなければならないのか。私はステファンが校長室で編入手続きをするという描写に呆気にとられた。


さらに驚愕ものはその後で、主人公エレイナは、自分の鬱屈した気持ちを日記に綴るのだが、それと呼応してステファンも自分の来し方を記し行く末を案じる日記を書いているのだ。日記を書く内省型のヴァンパイアってか! 思わず噴き出してしまった。これってギャグじゃないんだろ? そうか、だから「ヴァンパイア・ダイアリーズ」だったのか。ヴァンパイアのことを書くダイアリーではなく、ヴァンパイアもダイアリーを書いているからダイアリーが複数形になっていたのかとようやく合点が行った。


思えば、かなり昔「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア (Interview with the Vampire)」を見た時、ラスト、復活したトム・クルーズ演じるヴァンパイアのレスタートが「既にもう気分がいいぜ」とかいうようなセリフを呟くのを聞いて劇場で爆笑した経験があるのだが、その時、私の前に座っていた男が、笑いを止められない私の方に振り返って怪訝そうに見ていたのを思い出す。どうやら私の笑いのツボは一般的なところからはずれているようだと認めざるを得ないが、しかし、内省型のヴァンパイアってどこか矛盾を孕んでるんじゃないかという気がする。でも、うーん、だからこそそこにロマンや感傷、悲劇が宿るというのも確かに言えるか。


とまあちょっと腑に落ちない点を挙げてはみたけれども、だからといって番組が面白くないわけじゃない。お約束はお約束として受け入れればそれなりに楽しめる。たぶんティーンエイジャーの女の子がヒーロー・ヴァンパイアに憧れるように、私にとってもヒロインとなる人間の女の子を見るのは楽しい。今回そのヒロイン役に抜擢されたのはニーナ・ドブレフで、アメリカではカナダ産のティーン向けドラマ「デグラッシ (Degrassi)」で知られている。とはいえ私が彼女を発見したのはMTVのTVミュージカル映画「ジ・アメリカン・モール (The American Mall)」で、この子、わりといけると思っていたらやっぱり出てきた。


一方、「トワイライト」のロバート・パッティンソンといい、「トゥルー・ブラッド」のスティーヴン・モイヤーといい、「ヴァンパイア・ダイアリーズ」のポール・ウェスリーといい、ヒーロー役のヴァンパイアは、ハンサムではあるが、皆わりと濃い系だ。これが一昔前なら、もっと美形という点に重点を置いたキャスティングをされたと思うが、現在はたぶん危険な香りのする雰囲気に重点が置かれるようだ。「ヴァンパイア・ダイアリーズ」では、むしろウェスリー扮する主人公ステファンの弟デイモンを演じるイアン・ソマーホールダーの方が正統派の美形で、10年前に番組を製作していたら、この兄弟のキャスティングはまったく正反対になったろう。


CWが今秋放送を開始した新番組は、この「ヴァンパイア・ダイアリーズ」を含め、かつてのFOXの人気番組だった「メルローズ・プレイス (Melrose Place)」のリメイク、NYのモデルの生態を描く「ザ・ビューティフル・ライフ (The Beautiful Life)」(既にキャンセル済み) と、ティーンの女の子向けの番組が並ぶ。これら以外にも現在CWで放送されている番組というと、「ゴシップ・ガール (Gossip Girl)」、「ワン・ツリー・ヒル (One Tree Hill)」、「90210」、「スーパーナチュラル (Supernatural)」、「ヤング・スーパーマン (Smallville)」等、徹底して若い女の子向けだ。


昨シーズンまで放送されていた、WBとUPNが合併してCWとなる前の名残だった「エヴリバディ・ヘイツ・クリス (Everybody Hates Chris)」みたいな黒人向けシットコムも消え、今、私が曲がりなりにも時々はチャンネルを合わせる番組は、勝ち抜きリアリティの「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル (America’s Next Top Model)」くらいになってしまった。CWは徹底しておっさんはお呼びでないチャンネル化している。








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ザ・ヴァンパイア・ダイアリーズ   ★★1/2

 
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