ルイジアナの大学で神秘現象を研究しているキャサリン (ヒラリー・スワンク) の元にダグ (デイヴィッド・モリッシー) がやってきて調査を依頼する。その町では川が血の色に染まり、男がいきなりミイラ化して死に、謎の疫病で家畜が凶暴化するなど、原因不明の不可解な現象が相次ぎ、住民は震え上がっていた。キャサリンは助手のベン (アイドリス・エルバ) を連れて現地に赴くが‥‥


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ヒラリー・スワンクとハリー・ベリーは、出演作にムラのある女優という点で甲乙つけ難い。二人ともオスカー女優であり、スワンクに至っては2度もオスカーを受賞するほどのできを示す時があるかと思えば、信じられないようなマイナー作品や、明らかにこれは失敗したなと思えるような作品にも出ていたりする。だいたいある程度のキャリアを積んだ俳優の出る作品、特にオスカー・レヴェルの俳優が出る作品となれば、そのことがある程度の質を保証するので、見る作品を選ぶ時の指針の一つになったりするのだが、スワンクやベリーにはそれが当てはまらない。


その二人の最新作、「ザ・リーピング」と「パーフェクト・ストレンジャー」というハリウッド大作が、現在、同時期に公開され、揃ってけちょんけちょんに貶されているのを見ると、また揃って同じことを、と思わざるを得ない。だいたいオスカーを獲得するほどの俳優ともなれば、かなり出演作の選択が利き、インディ作品で自分が本当にやりたい役を演じ、ハリウッド大作で金を稼ぐ、みたいな感じでキャリアを構築していく者が多い。実際、スワンクもベリーもそういう仕事の仕方をしていたりするのだが、しかし、その選択の基準に頭をひねってしまうのが彼女らの特徴だ。


特にスワンクにはその印象が強く、こないだ深夜、いつものようにインディ映画専門のサンダンス・チャンネル (IFCだったかもしれない) を垂れ流しにして時々ちらちらと横目で見ながら、しこしことコンピュータに向かって書きものをしていた。そしたら、明らかにどこから見てもインディ作品という金があまりかかっている節のない作品の、どこぞの田舎町のコンヴィニの店員という役で、スワンクが出ていた。あまりにも意外だったので本当にスワンクかと何度も目を凝らしてじっとTV画面を見たのだが、何度見てもやっぱりスワンクだ。今とそれほど顔が変わらないからどう考えても「ボーイズ・ドント・クライ」以降の作品に違いないが、それにしてもこれまで一度も聞いたことがなく、まず劇場公開していないのは間違いないこんなマイナーな作品に出てるわけ、と、かなり意外だった。


その作品、「11:14」は色んな複数のストーリーが有機的に繋がっていくという、なにやらポール・ハギスの「クラッシュ」を思わせるタイプの作品で、実際、IMDBで調べてみたら多くの者が「クラッシュ」とこの作品を比較して発言していた。「クラッシュ」を金をかけずにアメリカの田舎町で製作してみたらこうなりましたという感じなのだが、そういう作品に、主演級ではなく、カメオ出演というほど一瞬の役でもなく、ヘンに中途半端な小粒な役で出ているスワンクを見るのは、やはり意外というしかない。これだけしか出番がないと、スワンクが出ているからという理由で客も呼べないだろう。なんでたったこれっぽっちの役にわざわざあんたが出てるわけ?


最近の出演作を見ても、昨年の「ブラック・ダリア」が特によかったとも思えないし、熱血教師に扮した年初公開の「フリーダム・ライターズ」も、こちらがティーンエイジャーならまだしも、やはり特に見たいと思わせるものではなかった。これが例えば、スワンクがお手本にしていると言っているメリル・ストリープが同様に教師に扮した「ミュージック・オブ・ザ・ハート」だと、それなりに見所があるように見えるのに、「フリーダム・ライターズ」だと今イチそそられない。いずれにしても短期間に出演作が相次いでおり、仕事が途切れないのはめでたい話ではある。


そう思っていたスワンクが、今度は返す刀で、一見してハリウッドのかなり金をかけた大作「リーピング」に出ている。しかもなにやらとにかく視覚的に金だけはかけて中身は二の次的な、製作費一級、内容B級ホラーというありがちな匂いがぷんぷんしている。実はこういうのも私は嫌いではないのだが、とはいえ、色んな役に挑戦しているとか、役幅広いと言えば聞こえはいいかもしれないが、節操ないとも言いたくなってしまうところが、今いちスワンク、成功してないぞと思えてしまう所以でもある。


「リーピング」は、かなりホラー色の入ったアクション大作である。ルイジアナ州の山間の小さな田舎町で、説明不能の不可解な現象が次々と起こる。大学でそういう奇跡に関係した不思議な出来事を研究しているキャサリン (スワンク) に原因究明の依頼がされる‥‥というのが発端だ。キャサリンも昔は神を信じていたが、夫と娘を亡くして以来、逆になまじっかインチキな奇跡もどき現象に対しては徹底してそれを糾弾する立場をとっていた。


作品としてはそのキャサリン、その助手のベン (アイドリス・エルバ)、そしてキャサリンの過去を知る僧職のコスティガン (スティーヴン・レイ) の3人がメイン・キャラクターで、それにキャサリンに調査を依頼してきた町の男ダグ (デイヴィッド・モリッシー) が絡むという展開。特に主人公のキャサリンの場合、夫と娘を亡くした過去も書き込んで役に厚みをつけようとしたのはよくわかるが、それがあまりにも中途半端でほとんど話としてはなんの役にも立っていないというのがまず弱い。ベンだって昔なにか辛い過去があったというのはよくわかるが、思わせぶりだけで終わってしまう。コスティガンに至っては、ただキャサリンになにか凶兆が見えると脅えるだけの存在でしかなく、それを大真面目にやるもんだから、むしろギャグに近くなってしまっている。


要するにキャラクターの過去を書き込むなら、ちゃんとしっかり書き込んでもらいたかった。1時間半という作品の長さはB級映画としては適度であり、それはそれで悪くないが、しかしこれだけ金をつぎ込んで中途半端な印象を残すくらいならば、本当にちゃんとキャサリンやベンの過去も書き込んで、2時間のちゃんとした作品にしてくれればよかったのにと思う。一応起承転結つけて、これまたB級ホラー的な落とし方まで見せるサーヴィスぶりなのだが、「オーメン」や「エクソシスト」を目指してなり損ねた作品という印象は拭い難い。


一方でヴィジュアルやサウンド・エフェクツにはかなり金はかかっているため、その分では結構楽しめる。特に今回楽しめるのがサウンドであり、いつもと違う劇場で見たためか、そこはステレオ・サラウンドが強烈で、見せ場になるとほとんど前からも後ろからも身体が震えるほどのサラウンド音響効果で脅しにかかってくる。椅子までびりびりと震えるくらいで、ほとんどディズニー・ランドのライドに乗っている感覚に近く、それはそれで楽しめたことは確かだ。ちょっと趣旨は違うかもしれないけど。


主演のスワンク以外では、キャサリンと対になる準主演は、ベンではなく、調査の話を持ってきた素性の知れないダグで、デイヴィッド・モリッシーが演じている。「すべてはその朝始まった (Derailed)」や「氷の微笑2 (Basic Instinct 2)」みたいな大きくこけた作品に出ているため特に知られているというわけではないが、一昨年のBBCアメリカの「ヴィヴァ・ブラックプール (Viva Blackpool)」はアメリカでもかなり注目された。「ヴィヴァ・ブラックプール」は舞台をアメリカに移してのリメイクが決まっている。やはり今んとこモリッシーの代表作というと、これだろう。ベンに扮するエルバは、今ならHBOの「ザ・ワイヤー」で最も知られていると言える。


演出のスティーヴン・ホプキンスは、最近ではHBOのTV映画「ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方 (The Life and Death of Peter Sellers)」みたいな佳作を撮っているし、映画のTV化ということでまったく期待していなかったUSAのミニシリーズ「トラフィック」も意外によかった。ところがSFやアクションが入ると、今回や「ロスト・イン・スペース」、「ブローン・アウェイ」みたいな失敗作も撮っている。とはいえ、実は私は今回同様「ロスト・イン・スペース」は嫌いじゃないし、ジェフ・ブリッジスに見得を張らせすぎた「ブローン・アウェイ」も失敗したとはいえ、捨て難いものがあった。それに今回の「リーピング」といい、捨て難いものを感じさせる失敗作専門の演出家なんて形容詞が定着してしまったらまずいだろうにと、他人事ながら心配させる。


ここまで金をかけ、オスカー女優まで持ってきて、たぶん誰も誉めないだろう「リーピング」ではあるが、こういう作品は私は嫌いじゃない。こういうのにこれだけ金をかけられるというのは、たぶんハリウッド以外じゃ世界中のどこでもできないだろう。視覚重視中身なし、それもいいじゃないかと思わず開き直らせるだけのヴィジュアルはそれなりにあったと思う。あの血で赤く染まった川なんて、CGというよりも本当に赤いインクを流したんじゃないのと思え、どうすんの、これ、どうやってまた綺麗にするの、環境汚染問題、最近声かまびすしいけど問題にならない? とよけいな心配までしてしまうのだった。ルイジアナだから誰も気にしないとか?







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The Reaping    ザ・リーピング  (2007年4月)

 
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