放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 7/22/07 (Sun) 21:00-23:00

製作: ライオンズゲイト、マンデヴィル

製作総指揮: ジェイムズ・デモナコ、デイヴィッド・ホーバーマン、トッド・リーバーマン

共同製作総指揮/監督: スティーヴ・シル

脚本: ジェイムズ・デモナコ

撮影: アルバート・ダンク

美術: ポール・ピーターズ

出演: ジョン・レグイザモ (Mr. ウルフ)、ドニー・ウォールバーグ (ホースト・キャリ)、ジェレミー・デイヴィッドソン (Mr. ラビット)、リオ・フィッツパトリック (Mr. マウス)、フランク・グリロ (Mr. ピッグ)、J. D. ウィリアムズ (Mr. キャット)、マイケル・ハイアット (コニー・ルーベンス)、マイク・マッグローン (アブラミ)、クリスティン・エヴァンジェリスタ (アシュリー・ベック)、ジェフリー・カントーン (エイブ・シェルトン)


物語: 黒覆面を被り、武装した男たちがピッツバーグのスリー・リヴァース銀行を襲う。すべてはスムーズに運び、無事に金を強奪して待たせてあった車で逃走できるかと思ったのも束の間、たまたま客の中にいた女性FBIエージェントが発砲、そこへ警官も駆けつけ、銃撃戦になる。男たちは銀行内に引き返さざるを得なくなり、警官が銀行を包囲、男たちは行員や客を人質にとって籠城する。ネゴシエイターのキャリが交渉説得を開始し、男たちは元アメリカ軍兵士だったという身元が割れる。SWATに突入の指令が下されるが男たちはそれを撃退、一方、急いで車やヘリコプタを要求するのはむしろ逆効果と判断した男たちのボスのMr. ウルフは、持久戦に持ち込もうと画策する。キャリは銀行の電源を切ってプレッシャーをかけるが、Mr. ウルフは電源を回復させなければ人質を一人ずつ殺すと脅す。本当に人質を殺す気かそれともブラフか、時間は着々と進み、Mr. ウルフが設定したタイム・リミットまであといくばくもなかった‥‥


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「ザ・キル・ポイント」を放送したスパイクTVといえば、日本人には何はともあれ「風雲! たけし城」吹き替え版の「MXC」の放送で知られている。日本産のキッチュな番組がアメリカでも受け入れられたため、スパイクはその後「トリビアの泉 (Sping of Trivia)」も編成、アメリカ版の製作まで考えていたようだが、こちらの方は特に人気が出たわけではなかったため、この案はご破算になったようだ。


結局、今でもスパイクといえば、まず第一に格闘技中継の「アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ (UFC)」、次に「CSI」と「スター・トレック」の再放送だ。とまあ、このようなことを3年前に「トリビアの泉」について書いた時にも書いているのだが、その時以来特に付け加えるようなこともないというのが現状だ。そのスパイクが今回編成して注目されたのが、この「キル・ポイント」である。


通常アメリカのケーブル・チャンネルは、ネットワークがオフ・シーズンの夏場に新番組を投入して視聴者を獲得しようとする。近年はそれがシリーズ番組だけじゃなく、ミニシリーズにまで拡大してきたことが特徴だ。昨年のAMCの西部劇ミニシリーズ「ブロークン・トレイル」の記録破りの大成功が貢献しているようにも思われるし、それがなくてもそういうご時世というのもあるかもしれない。


いずれにしても、今夏はほとんど泣かず飛ばずでほとんどなんの話題も提供できなかったネットワーク番組とは裏腹に、ケーブル・チャンネルはミニシリーズだけでもUSAのデブラ・メッシング主演の「ザ・スターター・ワイフ (The Starter Wife)」、TNTのCIAドラマ「ザ・カンパニー (The Company)」、ESPNのベイスボール・ドラマ「ザ・ブロンクス・イズ・バーニング (The Bronx Is Burning)」等、注目作、話題作を続けて提供した。もちろん「キル・ポイント」もその一つだ。


「キル・ポイント」は、銀行強盗に失敗して籠城した男たちと、それを取り巻くネゴシエイターや警官、SWATやFBI等の丁々発止のやりとりを描くドラマだ。この手の話ではクラシックの「狼たちの午後」をすぐに思い出すし (途中で主人公を演じる強盗一味の首領ジョン・レグイザモが外に出てきて、逆に市民からやんやの喝采を受けるところなんかまったくおんなじだ)、昨年のスパイク・リーの「インサイド・マン」という作品もあった。要するに舞台立てとしてはクラシックの部類に入る。金、人質、ネゴ等、ドラマを盛り立てる小道具や筋立てには事欠かないし、それにさらにヒューマン・ドラマを組み込むことも可能だ。作り手の腕の見せ所が満載なジャンルなのだ。


とはいえ銀行強盗というと、なによりもアメリカに住んでいる視聴者にとっては、昨秋、批評家からは最も高い評価を得ていたという印象がありながら、結局は成果を収めることができずに中途でキャンセルされたABCの「ザ・ナイン (The Nine)」を思い出す者が多かろう。「ナイン」は銀行が強盗にあった時にたまたまその場に居合わせ、その後無事解放された9人の人間のその後を描くもので、彼らの行動を通して、いったいその時、銀行内で本当には何が起こったのかを徐々に明らかにしていくというドラマだった。この番組が昨シーズン、新番組では最も高く評価されていたことに異を挟む関係者はいないと思うが、しかし、視聴者はついてこなかった。結局番組は昨年末の段階でいったん棚上げされたが、もちろんメインの謎は解明されないままで、大いに欲求不満の溜まった視聴者が多く残された。


その不満に対応するため、ABCは今夏、未放送の番組エピソードの放送を始めたのだが、それが昨秋に輪をかけてひどい視聴率で、ほとんど誰も見ていないことが明らかになった。そのため、ABCはまたもや結末を見せることなく、今度は完全に放送を取り止め、キャンセルが発表になった。あれだけ間が開いちゃうと、やはりねえ、真面目に見ていた者でも興味が半減してしまうのはいたし方あるまい。実際、私も全エピソード見ていたわけではないとはいえ、さすがにまた見る気にはなれなかった。その後ABCは結末をホームページでストリーミング提供したのだろうか。いずれにしてもそれが6月のことで、その記憶がまだ冷めやらぬうちにまた編成される銀行強盗テーマの「キル・ポイント」は、番組の質自体とはまた別のところでも注目されていたことは確かである。


番組では初っ端から本題、というか主人公の男たちが銀行強盗を企てる。ここで成功してしまってはもちろん話にならないから、強盗は失敗、男たちは人質をとって銀行内に立てこもる。そこからの強盗一味と包囲網との丁々発止のやりとりが醍醐味であるのは言うまでもない。強盗一味は最初は黒マスクを被り、素顔をさらさないが、すぐに失敗に終わってもう一度行内に退却を余儀なくされた後は、マスクをとって包囲網と交渉に当たる。もちろん目撃者も多く、一味の首領はすぐに面が割れ、仲間内でMr. ウルフと呼ばれていた元海兵隊のジェイク・メンデスがその首謀者であると判明する。彼は10年以上も国のために働いていながら、その奉公に対するあまりもの非人間的な仕打ちに我慢できなくなったのだ。そして強盗一味は、戦場でそのジェイクに命を助けられたことのある元部下の面々だった。


とはいえ、皆ジェイクに恩がある身とはいえ、本気で人を殺そうと思っていたわけではなく、当初の予定では犠牲者を出さずに仕事は完遂できるはずだった。しかしもちろん事はそう予定通りには運ばず、たまたま行内に女性FBIエージェントがいたために撃たれたことから銃撃戦となり、彼らは行内に立てこもらざるを得なくなる。犠牲者は出さないはずだったのに、ジェイクが撃ったその女性は海兵隊仕込みの緊急手当ての甲斐なく息を引き取る。


一方、包囲陣からはネゴシエイターとしてキャリが任命される。まずは食い物を提供するがそちらは人質を一人解放、と地道に交渉に当たるキャリに対し、上司であるアブラミは犯罪者の要求を聞き入れるのはもってのほかと強硬突破を主張する。地下からのルートが確保できたためSWATが突入するが、先を読まれ銃撃戦となり、SWATの一人が撃たれて死亡、強盗一味にも負傷者が出る。キャリとジェイクは銀行の前で一対一で対面し、ジェイクは着ているものを脱ぎ捨てて国が彼らに対して行ってきたことを弾劾する。見物人はジェイクに歓声を送り、いったんは休戦が成立する。しかしキャリらは今度は銀行の電源をカットして揺さぶりをかける。ジェイクは電源を回復させなければ一人ずつ人質を殺していくと宣言する‥‥


とまあ、これが番組第1回の大まかなストーリー・ラインなのだが、これ以外にも登場人物小さなエピソードが満載だ。強盗仲間一人一人の行動もそうなら、彼らを包囲する者たちの間でも誰が指揮権を発動するかでパワー・ゲームが展開する。人質も窮地を逃れようとそれぞれが胸に思惑秘めている。隠れていちゃいちゃしていた行員のカップルは強盗が起こった時にたまたま機械室でことに及んでいたため、うまく人質になることからは逃れたが、しかしかといって行動の起こしようがない。人質の中には政界の大物の娘もおり、交渉次第ではこの子が切り札になることも考えられる。セキュリティの一人はうまく拳銃を植木の中に隠しており、オタクの子はラップトップを使ってジェイクに誰にも知られずに外界とコミュニケートをとらせることに成功する、等々、まだまだ番組が続いていく伏線が張り巡らされる。クリエイター/脚本は「交渉人」のジェイムズ・デモナコ。


主人公のジェイクを演じるのがジョン・レグイザモ、一方のキャリを演じるのがドニー・ウォールバーグだ。レグイザモは、バズ・ラーマンの諸作や「アラビアン・ナイト」等、脇に回ると非常にいい味出すのだが、気張って主演すると「ドラッグ・ディーラー (Empire)」みたいな自己陶酔しすぎなところを見せるのでやや心配していた。実はここでも多少その気があるのだが、他にも登場人物が大勢いることもあってうまい具合に相殺され、なかなか見応えがある。一方のウォールバーグも結構いい。最近は派手な活躍は映画の方で弟のマークの方に独占されているという感じだが、ほぼTVで頑張っているドニーも、出演作が長続きしないという不運はあるが、わりといい番組に連続して出ている。昨シーズンはCWの「ランナウェイ (Runaway)」に出ていたし、数年前のNBCの「ブームタウン (Boomtown)」なんてそのシーズンのベストに推してもおかしくないくらいのできだったんだが、共に短命に終わっている。


とまあ、非常に楽しませてくれる番組なのだが、一、二苦言を言わせてもらうと、やはりいささかレグイザモは時に演技過剰というか、自分に酔いすぎになる嫌いがある。そしてそれを演出で締めるには、ほんの僅かではあるが、こちらも緊迫感を完全に盛り上げきれていない。例えば、ボスであるジェイクは時々仲間に人質の様子を見させて自分一人個室に引き上げたりするのだが、その頻度が多すぎるし長すぎる。ここは第一線の現場なのであり、指揮者はむしろ常時先頭に立つべきであろう。人質がどういう行為に走るか予想できないからなおさらだ。その戦士たちも、誘う方も誘う方だが、人質の女から色仕掛けで迫られたからといって、こういう状況でそういう誘いに乗るかあ、普通。


それに一番気になったのは、籠城してしばらくしてSWATに強行突入の指令が下るのだが、その、突入するSWAT隊員がたったの3人というのは、どう考えても何かの間違いとしか思えない。相手が5、6人以上いるのは既にわかっているのに、なぜ突入するSWATが3人しかいないんだ? 考えとしてはまず少数で突入して相手に動揺を与え、その隙に今度は正面から本隊が突入して一網打尽という筋書きなのだと思うが、それでもこいつはかなり納得しがたい。たとえSWATが精鋭揃いだとしても、相手だって戦闘のプロなのだ。その上相手の位置を正確に把握できているわけでもなく、人質もいる。10人くらい揃えて一瞬の勝負にかけるならまだわかるが、たった3人で突入指令が降りるというのは、どう考えても筋が通らない。本当の人質籠城シチュエイションで3人で強行突入なんてことをさせる指揮官がいたら、即刻左遷されるだろう。


そしてそういうもろもろの筋書きを、あとほんのわずかタイトに演出できればとても引き締まったいい番組になったのに、と思ってしまうのだ。これをリドリー・スコットやマイケル・マンが演出したら、と思わせてしまうところが、「キル・ポイント」の限界と言えるかもしれない。実際の話、「キル・ポイント」の最終回の終わり方は、実はまったくマンの「ヒート」を彷彿とさせる。おかげで逆にマンほどのレヴェルには達してはいないことを露呈してしまうのだ。


という些細な欠点はあるが、しかし、「キル・ポイント」は面白い。こういうのを見ると、「ナイン」もシリーズ番組にして謎で引っ張ることなんかしないで、最初から6時間だか8時間だかのミニシリーズとしてきっちり終わりを考えて製作した方がよかったのにと思える。「キル・ポイント」はプレミア・エピソード2時間、最終話を2時間で放送し、間に1時間エピソードが4回挟まるという変則スケジュールで放送されたのだが、長すぎもせず短すぎもせず、緊張を維持したままうまくまとめたと思う。普通、8時間ものの全エピソードなんてよほどのことがない限り見ないんだが、こいつは見てしまった。これはもしかしたら来年のエミー賞に絡んでくるかもしれない。 






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The Kill Point


ザ・キル・ポイント   ★★★

 
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