The Colony   ザ・コロニー

放送局: ディスカバリー

プレミア放送日: 7/21/2009 (Tue) 22:00-23:00

製作: ディスカバリー

製作総指揮: ソム・ビアーズ、フィリップ・デイヴィッド・シーガル


内容: 地球がなんらかの理由によって壊滅的打撃を受けたという設定の元に参加者をサヴァイヴァルさせるリアリティ・ショウ。


参加者:

ウラジミール・ベック (62歳) メカニカル・エンジニア

ジョン・コーン (50歳) サイエンティスト

ジョージ・フォリエラス (34歳) 医者

モーガン・フッカー (23歳) 航空エンジニア

マイケル・レインズ (47歳) ソーラー・テクニシャン

ジョーイ・シアッカ (37歳) 大工

リーラニ・スミス (36歳) マーシャル・アーツ・インストラクター

ジョン・ヴァレンシア (37歳) 機械工

エイミー・ウエスト (34歳) 海洋科学者

アリソン・ホワイト (29歳) ナース


_______________________________________________________________


最近、参加者やホストをサヴァイヴァル体験させる番組が増えている。CBSの「サバイバー (Survivor)」を嚆矢とするリアリティ・ショウの延長線上でとらえられるブームかもしれないし、近年の様々な自然災害やテロ事件を反映しているのかもしれない。ここ1、2年の危険な職業系リアリティとも関係あるかもしれない。


因みにここ数か月で始まったこの種のサヴァイヴァル・リアリティ・ショウだけでも、


・アラスカでの勝ち抜き差ヴィヴァル・リアリティの「アウト・オブ・ザ・ワイルド: アラスカ・エキスペリメント (Out of the Wild: Alaska Experiment)」(ディスカバリー)

・スタンリーとリヴィングストンのアフリカ行を再現する「エクスペディション・アフリカ: スタンリー&リヴィングストン (Expedition Africa: Stanley & Livingstone)」(ヒストリー)

・子供たちのサヴァイヴァル・リアリティ「サヴァイヴ・ディス (Survive This)」(カートゥーン)

・アラスカに何か月も一人で置き去りにする「アローン・イン・ザ・ワイルド: キャナイ・サヴァイヴ? (Alone in the Wild: Can I Survive?)」(ナショナル・ジオグラフィック)


等、それのみに焦点を絞った番組だけでも結構ある。番組の進行上なんらかのサヴァイヴァル的要素を含むものやサヴァイヴァル系の従来番組まで含めると、それこそ枚挙に暇がない。


その中で、最も異色というかその設定上の特殊さで目を引いたのが、「ザ・コロニー」だ。この番組、サヴァイヴァル・リアリティといっても徹底している。舞台は現代というか近未来で、なんらかの理由により人類が滅亡の危機に瀕する壊滅的打撃を受けたという状況下で、生き残った人間だけでサヴァイヴァルしていくことができるかを試すリアリティ・ショウなのだ。


番組は集められた10人のヴォランティアが、LA郊外の巨大倉庫に移動するシーンから始まる。そういう場所をわざわざ選んで歩かせているからだろうが、実際に外を人がほとんど歩いてなく、なんとなく人類の死に絶えた廃墟、みたいな印象が既に醸成されている。番組では要所要所で心理学者や人類学者、エコロジスト等の専門家が現れて、コメントを述べたり状況を説明したりする。


ヴォランティアはそれぞれが特殊な、サヴァイヴァルに必要な技術を持っているということで人選された。つまりエンジニア、医者、元軍人、サイエンティスト等だ。現実に人類が滅亡の危機という事態に陥ったら、サヴァイヴァルに必要な能力を持つ者がこういう風にうまい具合に一か所にまとまって生き延びているなんてことはかなりあり得なさそうだが、それでもそういう者が集まっていればサヴァイヴァルできるかという実験の検証には、これらの人々は欠かせない。


番組第1回で指定された倉庫に到着したヴォランティアの面々がまず最初にやらなければならないことは、食料、なんといっても水の確保だ。水があるのは近くの川、というか限りなく下水路に近い川で、水がここでしか手に入らない以上、なんとかしてこの水を濾過して飲めるようにしなければならない。ヴォランティアたちは砂や炭を樽の中に何層にも積み重ねて簡易濾過器を製作する。一応濾過された水は綺麗にはなったようだが、本当に飲めるのか。しかし飲まなければ死ぬだけだ。胃が弱い人、敏感な人は既にここでアウトだろう。


むろん人類はほとんど滅亡したとはいっても、すべてを一からやり始めるのは無理がある。それで番組収録に際し、多少の便宜は図ってある。必要最小限の食料品の缶詰、機械や医療品等は最初から倉庫の中に用意されているし、ガス・ボンベもある。水の濾過器製作に使用した炭や砂も最初から用意されている。近くには廃墟と化した病院等があり、そこでも必要器材や用品等を調達できる。パワー・ジェネレータやレイディオ、通信機なんかは自作しないといけないとはいえ、ゼロからやり始めるわけではない。


とはいっても基本的にやることは自給自足だ。これが10週間と日程の決められた実験でなかったら、ヴォランティアたちは農作物を育てることも考えなければなるまい。それにしてもその時にウシやウマブタ、トリといった家畜類はいるのだろうか。番組ではヴォランティアが外を歩いていても面白いくらい他の生物の痕跡がなく、本当に人類が滅亡したような雰囲気を醸し出していた。CGも何にも用いてないんだが。


さらにたった1日で既に入浴や排泄といった生理的な要請は大問題となる。好きに水を使うわけにはいかないのだ、倉庫を清潔に保つのは難題だ。そして4日目。雨が降る。慌ててあらゆるバケツ類を使って水を溜めるために奔走するヴォランティアたち。そのうちの一人の科学者のおっさんは素っ裸になって外で久しぶりのシャワーを浴びる。なんと幸せそうなこと。


「コロニー」は人類滅亡後という設定の先鋭さのために、流行りのサヴァイヴァル・リアリティの一亜種というよりも、実は近未来SF、もしくはホラーというカラーの方が強い。「コロニー」を見て連想するのは、映画では戦場サヴァイヴァルの「戦場からの脱出 (Rescue Dawn)」というよりも、SFホラーの「ドゥームズデイ (Doomsday)」「ブラインドネス (Blindness)」「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」「28週後 (28 Weeks Later)」だったりする。あるいはマンガの「ドラゴンヘッド」か。


実際番組では、なんとか一応水の確保のめぼしもついてほっと一息も束の間、すぐに同様にカタストロフを生き延びて暴徒化したギャングの集団がヴォランティアたちのねぐらの倉庫を取り囲む。がんがんと壁を叩く音や侵入しようとしてくる気配に脅えるヴォランティアたち。こんなものまで用意してあったか。事態はどんどんSFホラー化していく。


私が最も驚かされたのは、番組の何回目かで、近くの病院の廃墟に探査に行ったヴォランティアたちの一人で医者の男性が、いきなり消息を絶っていなくなってしまうというシチュエイションだ。もちろんプロデューサーの意向による筋書き通りなのだが、いなくなると決められていた当の医者以外にはそのことは知らされておらず、他のヴォランティアの間に動揺が走る。なんでいなくなったのかこれからどうすればいいのか、医者がいないというのは、現在、アメリカの高い医療保険のために医者にかかりたくてもかかれない人間が大勢いるのより、やはりもっと悪いだろうなという考えが浮かぶ。番組ではその道の専門家が、こういう非常時には人は簡単に行方不明になったりいなくなったりするものだと、したり顔で述べる。残された面々にとっては冗談じゃないだろう。


食料の面でも、ついにヴォランティアはネズミを捕まえて食べる決心をする。ネズミならいたか。ニューヨークのサブウェイの線路上を我が物顔で走っているネズミを見ると、こいつらは人類が死に絶えても生き延びるだろうなとは思うが、こいつらを食うか。病気にはならないのか。ヴォランティアは罠を仕掛けてとらえたネズミをさばき、火を通し、口にする。


既に窮乏生活一と月を超え、たぶん動物性たんぱく質を細胞が要求しているんだろう、見てる感じじゃ、たとえ数切れでも、みんな文句言わずに口にしたようだ。吐くかと思ったが別に不味くないという感じだった。私はヴェジタリアンなんだけど、といいながら口にした者もいた。この状態じゃ野菜しか食べないという贅沢は言っていられまい。ヴェジタリアンというのは、窮乏生活による結果か、さもなければ贅沢な選択肢の一つかという両極端の生活スタイルの現れなのだった。


番組製作総指揮はソム・ビアーズで、近年の危険な職種系リアリティ・ショウは、ほとんどこの人が一人で牽引している。この分野の先駆けであり、いまだに最も人気のあるアラスカのカニ漁の模様をとらえたディスカバリーの「ベーリング海の一攫千金 (Deadliest Catch)」を筆頭に、氷上のトラッカーを追うヒストリーの「アイス・ロード・トラッカーズ (Ice Road Truckers)」、山奥で森林伐採に従事する男たちに密着する「アックス・メン (Ax Men)」、石油発掘の現状を記録するトゥルーTVの「ブラック・ゴールド (Black Gold)」、そういった危険な仕事を勝ち抜きリアリティに仕立てたNBCの「アメリカズ・タフスト・ジョブス (America’s Toughest Jobs)」等、この種の番組はほとんど彼が仕切っているという印象がある。ディスカバリーで、今度はカジキマグロ漁の実際をとらえた「スウォーズ: ライヴズ・オン・ザ・ライン (Swords: Lives on the Line)」も始まったばかりだ。


つまり「コロニー」は、ビアーズ得意の危険な仕事系リアリティと、サヴァイヴァル系リアリティのおいしい部分を統合して作った、この種の頂点を極める番組と言える。ヴォランティアたちは危険でいつ何が起きるかわからない状況に身を置いたまま、日々を乗り切っていかなければならない。かなりハイ・テンションなのだ。やはり人類滅亡という事態は発生してもらいたくないと思うのであった。








< previous                                    HOME

 

The Colony


ザ・コロニー   ★★★

 
inserted by FC2 system