Take the Lead   レッスン! (テイク・ザ・リード)   (2006年4月)

元プロのボールルーム・ダンサーであるピエール・デュレイン (アントニオ・バンデラス) はある日、素行に問題のあるティーンエイジャーを見て、彼らにボールルーム・ダンスを教えることを思いつく。ほとんど半信半疑の学校の校長 (アルフレ・ウッダード) は落ちこぼれ生徒たちの補習授業として、ピエールに生徒たちにボールルーム・ダンスを教えることを許可するが、もちろん生徒たちは古くさいボールルーム・ダンスに興味を示すはずもなかった‥‥


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そもそもアメリカにおいてすら、周防正行の「Shall We ダンス?」がなければ、ここまでボールルーム・ダンスがブームになることはなかっただろうと思える。もちろんそれ以前にバズ・ラーマンの「ダンシング・ヒーロー (Strictly Ballroom)」があり、「テイク・ザ・リード」だって実話を基にしていることを考えると、それなりにボールルーム・ダンスは市民権を得て地道にファン層を開拓していたろうが、大きなブームになる一つのきっかけとして、やはりオリジナルの「Shall We ダンス?」の存在は大きかった。


「Shall We ダンス?」の成功と現在のボールルーム・ダンスのブームは、「チャレンジ・キッズ (Spellbound)」とスペリング・ビーの関係を連想させる。既に熱狂的なファンがいたとはいえ、知る人ぞ知るという存在に過ぎなかったスペリング・ビーがお茶の間で気軽に話される普通名詞になったのは、「チャレンジ・キッズ」の成功なくしてはあり得なかった。それがさらに「綴り字のシーズン (Bee Season)」、「アキーラ・アンド・ザ・ビー (Akeelah and the Bee)」のようなハリウッド映画となって、今ではスペリング・ビーを知らない者を探すことの方が難しい。


さらにボールルーム・ダンスとスペリング・ビーとの類似が意識される理由として、スペリング・ビーに挑む子供たちをとらえた「チャレンジ・キッズ」同様、ボールルーム・ダンスに挑戦する子供たちをとらえた「ステップ! ステップ! ステップ! (Mad Hot Ballroom)」なる作品が注目を集めたことも挙げられる。両作品とも複数の子供たちが主人公の作品であり、ドキュメンタリーとしてはまず通常はあり得ない劇場公開で話題となるなど、映画を媒介に市民権を獲得した経緯が非常に似ている。


そして今「テイク・ザ・リード」だ。この作品もボールルーム・ダンスに挑戦する高校の生徒たち、しかもこちらは落ちこぼれの生徒たちが主人公、しかも実話を基にしているとなれば、やはりドキュメンタリーとして注目された「ステップ! ステップ! ステップ!」や「チャレンジ・キッズ」あたりをどうしても連想してしまう。


とはいえ「テイク・ザ・リード」の場合、そういう背景なぞ気にせずとも楽しめるハリウッド・ムーヴィになっている。落ちこぼれの生徒、問題のある家庭、気難しい校長という背景に、名のあるボールルーム・ダンサー を加え、それをハーレムという衣に包んで提出したらこうなりましたという、正直言って定石通りの予定調和の展開なのだが、そこはそれ、この手の作品はこういう展開を文句言わずに楽しむことにこそ醍醐味がある。実際、ミュージック・ヴィデオ出身の監督のリズ・フリードランダーの演出はちゃんと勘所をはずさず、ツボをきっちりと押さえており、ところどころ笑いも絡め、クライマックスのダンス・コンペティションまで飽きさせずに見せる。


難を一つ言うと、実はもうちょっとバンデラスが踊ってみせてくれるものと思っていたが、バンデラスはここでは一応は主役という建て前だが、本当は生徒たちが主人公の作品の狂言回しに過ぎない。それにしてもバンデラスってだんだん角がとれてきて、ここではどんな女性が通りかかっても、立ち上がってドアを開けて支えてあげるジェントルマンだ。それはそれで板についているところを見ると、うまく歳を重ねていると言えるのだろう。


で、実はこの作品、典型的なハリウッド映画でありながら、よおく見ると、主演クラスに白人らしい白人はいないという多人種混成ムーヴィであることがわかる。一応白人ヅラしているバンデラスだってたった数年前までは英語はまったく喋れなかったわけだし、ニューヨークの落ちこぼれの生徒に、私立学校で教育を受けている白人子女がいるわけがない。全員黒人かラテン系かアジア系だ。唯一登場する白人の女の子は名門家系からの落ちこぼれであり、白人ボールルーム・ダンサーたちは、全員敵役として登場するのだ。学校の校長も黒人だし、やはり白人教師は肴のツマである。この手の作品では必須であるはずの、可愛い子系の白人の男の子女の子が一人もいない。


事実を基にしているということは、たぶん実際にそうだったのだろうと思えるが、しかし映画化を考えた場合、ここでティーンエイジャーの足を劇場に運ばせるためにも、可愛い子系の白人のキャスティングは欠かせないところだろう。そこをあえて無視したところにこの作品の戦略が窺える。クライマックスのダンスを踊るのは、黒人の男の子、ラテン系の女の子、アジア系の男の子なのだ。つまり、「テイク・ザ・リード」は徹底して白人を蔑視しているのだが、予定調和的フィール・グッド・ムーヴィという作品のテーマのため、それに気づきにくい。それなのに典型的なハリウッド映画として出来がいい作品になっているという、なかなか深読みのできる作品として仕上がっている。ハリウッドって、やはりなかなか懐が深いと思わせてくれるのだ。






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