Surrogates


サロゲート  (2009年10月)

近未来、人々は自分の時間を有効に使うために、自分とそっくりな代理アンドロイド (サロゲート) を購入して日常の仕事や雑事は彼らに任せ、自分は家の中から一歩も外に出ることなくほとんどの用を足していた。ある時深夜クラブで若い男女のサロゲートが破壊される。刑事のトム・グリアー (ブルース・ウィルス) とピーターズ (ラーダ・ミッチェル) (のサロゲート) は事件を捜査しているうち、今度は本物の殺人事件が起きる。事件の裏には、サロゲートを開発したが今では企業を追われ、隠遁していたカンター (ジェイムズ・クロムウェル) が関わっていた‥‥


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ある意味究極の怠惰生活を描いた作品が、「サロゲート」だ。何事も自分の代理アンドロイドに任せるというシステムが定着してしまった近未来、人間のやることは歯医者の椅子のようなカウチに寝そべって、自分の代理で動いているアンドロイドの行動を遠隔で知覚操作するだけだ。自分は本当に瞬き一つすらする必要がなく、外の世界を代理体験できる。


たぶん本当にこういう世界になってしまったら、世の中のほとんどの人間はデブになってしまい、外で自分の身体を動かしてスポーツを楽しんだりするというのは、一部の金持ちの道楽ということになってしまうかもしれない。あるいは逆に、怪我かなんかで外に出ることのできない人間が、疑似体験をするために代理アンドロイドが必要になるかもしれない。


実際サロゲートを開発したカンターは今では車椅子生活であり、そのためにこそサロゲート開発を急いだというのは説得力がないこともない。また、他にも別の理由でサロゲートに依存している者もいる。いつ身に危険が迫るかもわからない職業 –- それこそ例えば刑事がサロゲートを利用するのも理に適っている。


しかし、映画がそれ以上の説得力を欠くのは、ごく一般的な人々は、たぶんサロゲートなんか必要としてなく、自分で身体を動かすことが好き、あるいは自分自身の皮膚で、五感で物事を体感することを選ぶだろうということに対する反証がまるでないことにある。人が遊びに行く時に、それもサロゲートに頼むというようなことがあるわけがない。自分自身が遊んだり休養したりするためにサロゲートを利用しているのだ。大抵の人間はたとえ休みといえども一日中家の中で寝転がっていたら、それだけで煮詰まってしまう。


むろん映画の中でもサロゲート嫌いの人間は大勢おり、そういう人間が集まってコミュニティを構築してたりもする。過激な対サロゲート政策で支持を集める急進的カルトの指導者もいる。いずれにしても、大多数の人間はほとんど引きこもり状態でサロゲートにすべてを任せている。そんな中で、とあるサロゲートが殺される (破壊される) というのが「サロゲート」の発端だ。


冒頭からしばらくは作品の登場人物はほぼ全員がサロゲート、つまりアンドロイド/サイボーグ/ロボットだ。人間そっくりだが人間ではない。そのため、例えば主人公のグリアーをブルース・ウィリスが演じているのだが、微妙なメイクと意図的に作り物めいた表情で人間じゃない風を装う。特に禿げ頭のウィリスがサロゲートだとふさふさの髪になってしまうのは思わず笑いをもたらし、彼がよくゲスト出演するCBSのデイヴィッド・レターマンがホストの深夜トーク「レイト・ショウ (Late Show)」に登場する時は、ギャグではあるが毎回必ずと言ってもいいくらいかつらを被っている時が多いことを知っていると、さらに笑いを誘う。あの禿げ頭は似合っていると思うのだが、やはり禿げてしまうと、なんとなくふさふさの頭が恋しく思えるのかもしれない。


グリアーの相棒のピーターズを演じるラーダ・ミッチェルも、もちろん刑事活動はサロゲートが行っている。ウィリスもミッチェルも、本人が本人を演じていながら微妙に本人ではないように見せる演技をしているわけで、これがなかなか見ていて楽しい。表情だけでなく、手足も微妙にわざとぎこちなく動かしており、芸コマだと思わせる。ウィルスの妻役を演じるロザムンド・パイクもいかにもロボットじみていて、なるほどこれでキャスティングされたなと思わせる。


「アイ、ロボット (I, Robot)」を見た時は、ロボットでしかない人工物が微妙に人間的な表情を見せるのにうまいなあと感心したものだが、それから数年しか経っていないのに、今度はロボットの振りをする人間の表情を見て上手上手と感心したりする。よく考えたら今回は別に特に人間の表情がCGというわけではなく、その点ではテクノロジーとはあまり関係ないのであるが。


特撮は表情ではなく、アクションの方で前面に出てくる。捜査の段階でサロゲート嫌いの人間の住むコミュニティを訪れたグリアーはそこで襲われ、犯人を追跡する。その時、捨てられてある車やバスの上を飛び跳ねて犯人を追う。人間じゃないから何十メートルというような距離をひとっ跳びする。実はその時にグリアーがバスの屋根から屋根に飛び移るのをとらえるカメラの角度というのが、「ディストリクト9 (District 9)」で、エビ型エイリアンが同様に屋根から屋根に飛び移るのとのほとんど同じなのだ。ロボットの振りしてアクションするウィリスがエビ・エイリアンの姿と重なり合ってしまい、私は結構アクションの山場で一人噴き出しそうになってしまった。


人間のように見えて人間ではないという設定でもう一つ思い出すのは、ニコール・キッドマンが主演した「インベージョン (The Invasion)」だ。これも本人が本人を演じていながら本人ではないという設定だったが、どうもこういう微妙なずれというのは、ホラーにもなりSFでもあり、さらに微妙な一瞬にギャグにもなったりして、視覚的に痛く好奇心をそそる。


ところで「サロゲート」とまったく時期を同じくして、ABCで「ロスト (Lost)」系の超常SF新番組「フラッシュフォワード (FlashForward)」が始まった。「フラッシュフォワード」は、全世界の人間が同時に数分間ブラックアウト – 意識を失って倒れ、その間に6か月先の未来を予見するという内容のサスペンス・スリラーだ。


よく番宣コマーシャルが流れていたのだが、その中に、道を歩いていた人々がある瞬間に一斉に電池が切れたように地面に倒れるという印象的なシーンがある。世界中の人々が全員同時に意識を失うわけだから、当然起こり得る光景だ。そしたら、まったくそれと瓜二つのシーンが「サロゲート」にもあった。こちらはサロゲートがパワーの指令系統を失って全員同時に倒れたからで、意味は違うが、視覚的に受ける印象はまったく同じだ。


て、2本のかなり似ているイメージが期せずして同時にTVで流されていた。シンクロニシティというわけではないが、要するに「サロゲート」も「フラッシュフォワード」も、これが撮りたかったのだろうと思う。イメージが先行している。「サロゲート」演出は「ターミネーター3 (Terminator 3)」のジョナサン・モストウで、考えたらこれも人間の姿形をしたマシーンを描くものだった。








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