放送局: NBC

プレミア放送日: 9/18/2006 (Mon) 22:00-23:00

製作: ワーナー・ブラザースTV、シュー・マニー・プロダクションズ

製作総指揮: アーロン・ソーキン、トマス・シュラミ、エリ・アッティ

製作: マーク・ゴフマン、ディラン・マッシン、パトリック・ウォード

クリエイター: アーロン・ソーキン

監督: トマス・シュラミ

撮影: トマス・デル・ルース

美術: ケネス・ハーディ

出演: マシュウ・ペリー (マット・オールビー)、ブラッドリー・ホイットフォード (デニー・トリップ)、アマンダ・ピート (ジョーダン・マクディア)、スティーヴン・ウェーバー (ジャック・ルドルフ)、ティモシー・バスフィールド (キャル・シャンリー)、サラ・ポールソン (ハリエット・ヘイズ)、D. L. ヒューリー (サイモン・スタイルズ)、ジャド・ハーシュ (ウェス)


物語: かつて多大なる人気を博したスケッチ・コメディ・ショウ「ステュディオ60」は、今では落ち目で製作者の士気も上がらなかった。ほとんど燃え尽きたエグゼクティヴ・プロデューサーのウェスは生放送が始まる寸前にぷっつんと切れて、ステュディオのマイクを奪って番組ジャックしてしまう。番組は生放送であり、ブース内ではコマーシャルに行くかどうするかで騒然となる‥‥後日、ネットワークのボス、ジャックと、新しく幹部に就任したジョーダンは番組の梃入れを図り、マットとデニーを新しくエグゼクティヴ・プロデューサーとして抜擢するが、彼らにはまた彼らの問題があった‥‥


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今シーズン、シーズン開始前に最も注目されていた番組といえば、この「ステュディオ・シックスティ・オン・ザ・サンセット・ストリップ」に止めを刺す。「ホワイトハウス (The West Wing)」が終わって新しい番組に力を入れたアーロン・ソーキン、その「ホワイトハウス」に出ていたブラッドリー・ホイットフォードと、「フレンズ」終了後、初の大きな仕事となるマシュウ・ペリーの初顔合わせ、そして誰が見ても明らかに「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」とすぐわかるスケッチ・コメディ・ショウの舞台裏を描くという刺激的な題材が、事前に圧倒的な注目を集めることに貢献した。


番組内番組である「ステュディオ60」は、長年人気のスケッチ・コメディ・ショウだったが、その人気も今では下火だ。番組プロデューサーのウェスはほとんどバーン・アウトした燃え尽き症候群だったが、なんとも煮えきらず、惰性でギャグを飛ばして続いているような番組に対して、発作的に感情を爆発させる。


本番生放送直前、ステュディオに乗り込んで出演者からマイクを奪ったウェスは、感情の赴くままに出演者を叱咤し、檄を飛ばす。最初はこれもギャグのうちかと思っていた観客もなんか様子がおかしいと思いはじめ、コントロール・ブース内では目前に迫った番組時間に、そのままこの状態を流すか急遽ヴィデオに切り換えるか、それとも力ずくでもウェスをカメラの前から引きずりおろすかの選択を迫られる‥‥


という冒頭のシークエンスは、アクション・ドラマもかくやというくらいのスリルとサスペンスだ。どうにかしないといけないが、問題を起こしている相手は番組プロデューサーだ。セキュリティだってプロデューサーが相手では強気な態度には出れない。生半可な対応をすれば首が飛ぶのはこちらだ。さて、どうする‥‥と、本番直前の秒読みの中、対応を迫られるスタッフの右往左往ぶりが手に汗握らせる。単純に本編に入る前のつかみでしかないのだが、私はこの冒頭のシークエンスで完全につかまれてしまった。やはりうまいわあ、ソーキン。


プレミア限りの特別出演でウェスに扮しているのが、アメリカのTV界の大ヴェテランであるジャド・ハーシュだ。ハーシュは現在、CBSで中程度の人気番組として確立している、リドリー・スコット/トニー・スコット製作の刑事ドラマ「ナンバーズ (Numb3rs)」に、出番が特に多いわけではないとはいえレギュラー出演中であり、そのハーシュが「ステュディオ60」のプレミア・エピソードの最も印象的なシーンに出てきたのには驚いた。まさか二股かけるわけではないよな。いくら「ナンバーズ」での役柄がそれほど大きいものではないとはいえ、ネットワークのシリーズ番組にかけもちなんて、普通どう考えても無理だろう。


その、本番前にとち狂って醜態をさらしたウェスは、番組を降ろされる。たとえ番組プロデューサーといえども、既に軌道に乗った番組のプロデューサーの首のすげ替えなんか簡単に利いてしまうという事実が怖ろしい。実際、アメリカのTV番組ではそういうことは日常茶飯事だ。昨年も、なかなか好調に推移していたジーナ・デイヴィスがアメリカ初の女性大統領に扮した「コマンダー・イン・チーフ」が、途中で揉めて番組クリエイターのロッド・ルーリーがABCから首を切られるという事件があった。たとえ自分が一から企画して製作した番組であろうとも、金を出すのはネットワークであり、プロデューサーの首のすげ替えはネットワークの一存でどうにでもなる。


いずれにしても結局ハーシュの出番はそこだけで、番組はそれから後の、新しいプロデューサー探しと、その再構築に奮闘するスタッフの姿が描かれる。そして選ばれた新プロデューサーがホイットフォード扮するデニーとペリー扮するマットで、要するに彼らこそが番組主人公であり、その後番組は彼ら二人を中心に展開する。実のところマットだって結構燃え尽きていたりするのだが、そこをネットワークのボスに叱咤激励され、仲間からも励まされ、番組再建に向かって一歩踏み出すところで番組第一回は終わる。


とにかくそこまでを見ての私の印象は、ソーキン、やはりうまいという一言に尽きる。ソーキンというとすぐに思い浮かべる印象的な演出といえば、登場人物を移動撮影で追いかけるというショットだろう。途中で追う人物が入れ替わる場合もあるが、だいたい会話しながら移動する複数の人間を追うという体裁がとられる。別にそういう演出がソーキンの専売特許というわけではなく、群像劇ではよく見かけるやり方であり、事実「ER」なんかではよくこういうシーンを見る。しかし、それを最も印象的に用いるのは、やはりソーキンだろう。「ホワイトハウス」で毎回ほとんどお約束のように現れた、ホワイト・ハウス内を登場人物が慌ただしく会話しながら移動する様をとらえるショットは、ホワイト・ハウス内の喧騒をとらえて非常に印象的だった。


この演出法は、ソーキンの出世作となったやはりTV局の内幕を暴いたシットコムの「スポーツ・ナイト」で既に使用されており、そしてもちろん、「ステュディオ60」でも、ステュディオの中を縫って歩きながら喧々諤々と議論を交わすデニーとマットをとらえるシーンでも何度も多用される。そうやって秒殺される慌ただしいステュディオの中の雰囲気を出すと共に、さりげなく舞台背景を案内する一石二鳥の効果も上げている。考えるとソーキンの作る番組って、TV局だとかホワイト・ハウスだとか、表裏のある舞台の内幕を描くっていう番組ばかしだな。


その後の話では、番組内で用いられたギャグが、どこかで誰かが使っていたギャグだということが後に判明するというエピソードが、最も印象に残った。その時には既に東海岸では番組は生放送済みだったが、時差のある西海岸では番組が放送されるのは3時間後だ。その間にこれが盗作だったと気づいたため、そのスキットを差し替えるなり陳謝のテロップを入れるなり対応策を練らなければならない。気づいているくせにほっておいたら、オリジナルの作者に訴えられたらまず負ける。そこでまた喧々囂々議論百出でああでもこうでもないとすったもんだし、タレントに読ませる草稿を本番3秒前まで書いては直し書いては直す。ほとんど胃が痛くなるようなプレッシャーの中でとにかくまがりなりにも西海岸向けのエピソードも無事放送を終えたと思った直後、そのギャグのそもそもの大元の出所は何あろう「ステュディオ60」の昔のエピソードで、著作権は番組が持っていたことが判明する。誰からも訴える怖れなどまったくなかったのだ。


「ステュディオ60」は、そういう時間に追われる関係者たちが、ああでもないこうでもないと追われまくりながらなんとか急場を凌いでいくという展開になる回が、現場の熱気と緊張感が感じられて最も面白い。それ以外のエピソードも面白くないことはないんだが、やはり熱中するという点ではちと譲る。番組が、放送開始当初はかなり高い視聴率を稼いでいたのに今ではそれほどでもなくなってしまったのは、こういう面白いエピソードと、特にそうでもないと感じられるエピソードの差がかなり大きいと感じられるからというような気がする。強力に面白いエピソードを見せられた後に普通に面白いくらいのエピソードを見せられても、それでは視聴者は満足しないのだ。


NBCは今シーズン、同様にTV番組の舞台裏を描いた、こちらはコメディの「30ロック (30 Rock)」も編成している。こちらは別に「SNL」に題をとった番組というわけではないが、番組クリエイター兼プロデューサー兼主演のティナ・フェイが、現実にその「SNL」出身であるというところがミソだ。共演がまた、その「SNL」でゲスト・ホストとして最多登場の記録を持つ (確か12、3回くらいだったと記憶している) アレック・ボールドウィンや、やはり「SNL」繋がりのトレイシー・モーガンが出ている。しかしそれにしては、ニューズ・アップデイトのコーナーでフェイと長い間コンビを組んでいたジミー・ファロンの名が見えないことが少し気にかかる。本当は仲良しでもなんでもなかったとか。


「30ロック」の場合、視聴率の上では「ステュディオ60」よりも苦戦しており、この数字では近々キャンセルは避けられないように思える。で、実は「30ロック」は、「ステュディオ60」と同じくらいシーズン前の批評家受けはよかったのだ。結局、TV界を描いた2本の質的に評価の高かった番組が、2本とも視聴者獲得には苦戦している。視聴者の見たいものはTV界の舞台裏なんかじゃなかったということか。







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Studio 60 on the Sunset Strip


ステュディオ60・オン・ザ・サンセット・ストリップ   ★★★1/2

 
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