放送局: CBS

プレミア放送日: 9/19/2006 (Tue) 22:00-23:00

製作: ジョン・ウェルズ・プロダクションズ、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: ジョン・ウェルズ、ブルック・ケネディ、クリストファー・チャラック、スコット・ジェミル

製作: パトリック・ウォード

監督: クリストファー・チャラック

クリエイター/脚本: ジョン・ウェルズ

撮影: ジョナサン・フリーマン

編集: アダム・ウルフ

美術: ヒルダ・スターク

出演: レイ・リオッタ (ボビー・スティーヴンス)、ヴァージニア・マドセン (ホープ・スティーヴンス)、エイミー・スマート (エイミー)、サイモン・ベイカー (ジェフ)、ジョニー・リー・ミラー (トム)、フランキーG (ジョー)、クリス・バウアー (ドッド)、ショーレー・アグダシュルー (チャーリー)、マイク・ドイル (ショーン)


物語: ボビーはプロの泥棒だが、妻のホープは夫はそういう稼業からは足を洗ったものと思っている。しかしボビーはホープに内緒でまた仲間を集め、表向きはまともな職に就いている振りをして、新たな犯罪の計画を練っていた。短気なジェフ、腕っ節の強いジョー、刑務所帰りのトム、紅一点のエイミーらと共に、ボビーは美術館を襲う計画を立てる‥‥


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どうしても自分がマイナー志向だと意識せざるを得ない時というのがある。自分が面白いと思ったTVや映画や本を誰も評価しなかったりする時などで、それが本や映画の場合だと、自分だけが知っている隠れた名作という感じで、むしろひねくれた優越感すら感じたりするものだが、それがTVだとそうも言っていられない。誰も見ていない番組はすぐさまキャンセルされてしまうからだ。


昨シーズンも、私がそれなりに面白いと思ったCBSの「スレッシュオールド」やABCの「ナイト・ストーカー」、WBの「リレイテッド」等は数回放送されただけでキャンセルの憂き目を見ており、ABCの「インヴェイジョン」は一応1シーズンは持ったが、それが精一杯。


FOXの「プリズン・ブレイク」のように、いち早くこれはいけると思った番組が徐々に人気を獲得していくと、してやったりと思うが、一方でABCのダンス・リアリティ「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」のように、こんなのを見るくらいならFOXの「ソー・ユー・シンク・ユー・キャン・ダンス」を見る方が確実に数倍は面白いとしか思えない番組が放送の度に記録を塗り替えていったりするのを見るのは、かなり歯痒い。


今シーズンは、私が面白いと思った番組では、NBCの「ステュディオ60・オン・ザ・サンセット・ストリップ」の人気は今ひとつだが、NBCのSFドラマ「ヒーローズ」はシーズンのナンバー・ワン・ヒットだ。一方、それに続く人気番組のABCのハート・ウォーミング・コメディ「アグリー・ベティ」は、今度は私が見る気がしないなど、やはり私の嗜好と一般視聴者の嗜好は一致しないのであった。多かれ少なかれそれは当然とはいえ、しかし、それなりに面白いと思う番組が続け様にキャンセルされたりすると、やっぱり多少がっかりする。


今回、特にそういう気分を味わわせられたのが、CBSの「スミス」だ。ちょっと見でも製作陣の豪華さはかなりのもので、番組クリエイターは「ER」のジョン・ウェルズ、主演は「グッドフェローズ」のレイ・リオッタ、共演が「サイドウェイズ」のヴァージニア・マドセン、「ザ・リング2」のサイモン・ベイカー、「ジョニー・ゼロ」のフランキーG、「イーオン・フラックス」のジョニー・リー・ミラー、「フェリシティ」のエイミー・スマート、「砂と霧の家」のショーレー・アグダシュルーと、かなりそそられる。実際、プレミア・エピソードを見ての私の感想は、こいつはいける、だったのだが、実際にはたった3回放送されただけでキャンセルされてしまった。面白いと思ったんだけどなあ。


舞台設定は、足を洗ったはずの元プロフェッショナルの泥棒ボビーが、妻の目を盗んでまた人を集め、せっせと泥棒稼業に精を出すというもので、妻には完全に更生して真っ当な仕事に就いていると思わせている手前、ボビーは毎日同じ時間に家を出て職場に行く振りをし、結局次のヤマの段取りを考えてから帰宅していたりする。妻は妻で、内心夫の素行に疑いを抱いている。それで夫が家を出た後に夫の持ち物を調べたりしているのだが、もちろんボビーはそんなヘマは犯さない。それで二人とも、お互い疑惑を持ちつ持たれつしながら、表面上は仲のよい夫婦を演じている。主人公のボビーを演じるのがリオッタ、妻ホープを演じるのがマドセンだ。


この内容で当然連想されるのは、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの「ミスター・アンド・ミセス・スミス」だろう。TVの「スミス」では実際の主人公の名字はスミスではなく、また、妻は秘密エージェントでもなんでもない一般人であるわけだが、夫婦がお互い疑惑を持ちながら、表面上は仲のいい振りをして夫婦生活を続けていくという土台は同じである。たぶんウェルズが「ミスター・アンド・ミセス・スミス」からなにがしかの番組のヒントを得たのは間違いないところだという気がする。それにしても最もリラックスできるはずの家庭で、最も心を許せないのが伴侶か。こういうやつらにとっては人生は戦い騙し合いで、自分が欲しいものをどれだけ手に入れることができるかが人生の最大の目的なんだろう。


いずれにしても、この設定だけでもそれなりに面白いものはできるはずだが、「スミス」ではボビーの裏の稼業を支えるメンツが、また曲者揃いでいい。ボビーを筆頭に、武闘派のジェフとジョー、切れると怖いトム、紅一点で欲の点でも人後に落ちないエイミーらが、それぞれ自分のエゴ丸出しで泥棒稼業に精を出す。一応全員プロなのだが、現場ではプロらしく各々に課せられた役目に徹するというよりはどうしても自分の欲目が勝ってしまい、すぐにぼろを出しそうになったりもする。そこをまた乗り切っていくところがプロのプロたる所以であるのだが、チーム・ワークが完全にとれているとは到底言い難い。


特に私がいいと思ったのがエイミーで、実は彼女が最も金に執着しており、ボスのボビーが一仕事の後、ほとぼりを冷ますために冷却期間を置こうとしているのに、自分から金になる話を持ってきてボビー抜きでも次の仕事にとりかかろうとする。まったく人のことなぞ考えちゃいない。プレミア・エピソードでは、美術館を襲撃しようとする直前に、よりにもよってエイミーが幼い時の顔見知りの女性から声をかけられてしまう。エイミーの役割は美術館前で誰かに襲われた振りをし、怪我をして泣きわめいて人目を引くことで警備の目をそらすというものであったため、知人と旧交を温めあっている暇なぞない。計画実行の予定時間は目前に迫っている。


そこでエイミーは知らぬ存ぜぬを装ってその女性を振り切り、路地裏で暴漢に襲われたという設定の演出のため自分でブラウスを引きちぎり、鼻の下には血糊を引いていたところ、その女性がエイミーの跡を追って来ていた。もう時間がないと判断したエイミーは、テイザー・ガンをとり出すと躊躇なくその女性に向けて引き金を引き、気絶させる。そして助けてと叫び出しながら路地から姿を現すエイミーに人々の視線が集まった後、ボビーらはマスクを被って美術館襲撃に移るという作戦だ。しかしここでボビーらは計算外の応戦に遭い、仲間が撃たれ、ほとんど収穫なしで撤退せざるを得なくなる。エイミーは計画が失敗に終わったことを知るが、そこへ意識を取り戻した女性が再びふらふらと姿を現す。エイミーは動揺している女性を壁際に押しつけ、「動くな (stay)」と一言言うと、歩きながらブラウスの襟元を直し、鼻の血糊を拭きながらその場を去る。


いや、計画遂行のためなら手段を選ばず、まったく良心のかけらも見せないエイミーがいい。鼻血出しながら (もちろん偽の血だが) 颯爽と歩く女性って格好いいぞと思ってしまった。エイミーを演じるエイミー・スマートは、ボビーの妻ホープを演じるマドセンを別とすると、仲間内では紅一点のため、目立つというのは確かにありはする。しかし特に美人と思える女性でもなく、癖のある顔立ちで、アメリカのTV番組の主演級の女性としては、顔に明らかににきび痕、どころか今現在にきびがあったりする唯一の女優じゃないかと思えるのだが、そういうことも含めて存在感がある。負けん気の強そうなところもいい。


もちろんリオッタを筆頭とするスマート以外の男優陣も個性派実力派を揃えている。家に帰れば騙しあいの夫婦、外に出ると泥棒稼業、結構面白いじゃないかと思った「スミス」なのだが、思ったよりも成績が伸びなかったのは、それこそ人々がまだ「ミスター・アンド・ミセス・スミス」をよく覚えており、それならもう見たからいいやと思っていたからではないだろうか。結局「スミス」は、今シーズン最初のキャンセルされた番組という汚名を着せられた番組となってしまった。うーむ、残念。 






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Smith


スミス   ★★★

 
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