ネヴァダ州リノの警察にマイアミで開かれる警察機構のためのコンヴェンションの招待状が舞い込む。トラヴィスを筆頭とするリノ警察の面々は勢いこんでマイアミに乗り込むが、ホテルはとれてない、コンヴェンションでは中に入れてくれないと散々な目に遇う。そんな時、コンヴェンション会場内のアメリカのベストの警察の面々が謎のガスで中毒状態に陥る。マイアミが無法の街となるのを防ぐために、今こそリノ警察の精鋭が立ち上がる時が来た‥‥


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アカデミー賞を睨んだシリアスな作品が続け様に公開される年末から年初にかけて。もちろんそういう大作、良作、問題作を見ることこそ劇場通いの醍醐味なのだが、そういう時に限って、その一瞬の空白をついて、どうでもいい、頭を真っ白にしたいおバカ作品を見たいという誘惑が頭をかすめたりする。まさしく今回がその時であって、本当ならシリアスもシリアスなドイツ映画の「善き人のためのソナタ」を見るつもりでいたんだが、今週からうちのところで公開される「善き人のためのソナタ」は、アカデミー賞ノミネート効果もあって混みそうだなと考えているうちに、ほとんどふらふらと街灯に誘われる蛾のように「リノ911: マイアミ」を見てきてしまった。


そもそもの「リノ911 (レノ911)」は、ケーブル・チャンネルのコメディ・セントラルが2003年から放送しているTV番組で、その大元のオリジナルは、FOXがサーヴィス開始以来放送している、今では老舗となったドキュメンタリー/リアリティの「コップス (Cops)」だ。「コップス」は、全米各地の警官がパトロールしている、そのパトカーに同乗して、悪いやつら、というよりもほとんどカン違いの小悪党のにーちゃんねーちゃんジジババどもが逮捕されたり説教されたりする現場をとらえる番組だ。一応体裁はドキュメンタリーなのだが、ほとんどお笑い系のリアリティ・ショウとして機能している。


それを脚本をつけてパロディ化したのが、「リノ911」だ。「リノ911」はそれなりに視聴者をつかみ、現在まで続いている。確かに時々チャンネルを合わせたりすると、あまりに下らないので笑わされてしまうというのはあり、「サウス・パーク」や「デイリー・ショウ」、「シャペルズ・ショウ」ほどの人気や知名度があるわけではないが、今ではコメディ・セントラルの中核番組として確立している。とはいえ、それが映画化するほどのものかという疑問がないわけではないが、製作してみてTVの方も人気が上がり、映画の方も興行収入が稼げれば万々歳には違いない。そうやって「サウス・パーク」も劇場版が製作されたわけだし、やってみる価値はあろう。というわけで製作されたのが、この劇場版「リノ911: マイアミ」だ。


「マイアミ」では冒頭、リノでテロリスト・シチュエイションの現場で活躍するリノ警察の面々、という冗談めかしたイントロダクションで始まる。そこに登場するのは、こないだ、ABCの「ザ・ヴュウ」で徹夜でジョージ・クルーニーと飲み明かした後、ほとんど休息をとらずに番組出演し、放送禁止用語を連発して話題を提供したデニー・デヴィートだ。そういうことをしても本人には非難が集中せず、番組が槍玉に上げられるところがいかにも業界から好かれているデヴィートらしいが、そのデヴィートがいかにもわざとらしい大仰演技でカメオ出演している。


実は「マイアミ」で、一応金をかけてそれらしい製作規模でハリウッド映画らしさを出しているのはこの冒頭の部分と、クライマックスでマイアミのフリーウェイ上でヘリからミサイルぶっ放す二つのシーンしかない (別にクライマックスをばらしても誰の迷惑にもなるまい。) 最初と最後だけ一応金かけたような感じを見せて、実は中身はいつもの「リノ911」である。しかもどちらかというとその金をかけたシーンではなく、いつもの安上がりなパトロール・シーン的な部分の方が笑えるというのが、映画版コメディ/パロディとしての「マイアミ」の欠点と言えなくもない。別にわざわざマイアミくんだりまで来て、いつもと同じことをすることもなかったのだ。


とはいえそういういつもとは違う部分ばかりだと作品としては成り立ちにくいだろうし、痛し痒しである。また、マイアミに来てホテルがとれてないことが判明し、安上がりのモーテルに滞在せざるを得なくなったリノ署の面々が、やることがなくてモーテルで部屋を割り当ててから各自自分の部屋で一斉に同時にマスターベイションを始めるまでを1シーン1ショットのロングの長回しで収めたシークエンスだけは、なかなかやるなと思わせたが、あとは思い切り尻すぼみであることは否めない。なんてったってストーリーはばればれだし、そうなると中盤のパトロール部分で笑わせるしかない。実際にその部分で笑わされたことは確かではあるのだが、しかし、それだったら別にわざわざ金払って劇場まで来てスクリーンで見なくても、TVで見てる分で充分だ。


つまり、「リノ911」が面白い理由であるキッチュなパロディとしての味は、特に映画化する必要があるわけでもないのだ。観客にそう思わせてしまう「マイアミ」は、TV番組としてはともかく、やはり映画として見るには物足りない。しかもそういう時に限って、こちらは普段利用する日中の割引の利くマチネーじゃなくて、10ドル50セントという正規の料金を払って見ているのだった。いつも払っている7ドルという料金よりも高い入場料金で見た映画がこれかと思うと、金捨てたと思ってしまうのはいかんともし難い。そりゃあそれでもまだ日本の映画料金よりは安いだろうし何度かもちろん笑いはしたが、一笑い1ドルか、これならうちで女房とおしゃべりしたり飼い猫と遊んでいる方がまだ笑えるぞと、いかにも庶民的な発想をしてしまうのだった。これで金払って見る今年のコメディは打ち止めか。







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