放送局: シンジケーション (NY地域ではABC)

プレミア放送日: 9/18/2006 (Mon) 10:00-11:00

製作: ウォッチ・エンタテインメント、スクリプス・ネットワークス、ハーポ・プロダクションズ、キング・ワールド

ホスト: レイチェル・レイ


内容: セレブリティ・シェフ/パーソナリティのレイチェル・レイがホストの日中トーク・ショウ。


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「アイアン・シェフ」を抜きにして考えた場合、セレブリティ・シェフという言葉を定着させた第一人者は、誰はともあれ英国のジェイミー・オリヴァーだろう。むろんそれ以前にも、元祖カリスマ主婦マーサ・スチュワートもいたし、業界内に限って言えば、近年物故したジュリア・チャイルドという大物の存在もあった。しかし本職のシェフが、一般人の誰もが知っているセレブリティとしてその名が流通し始めたのは、やはりオリヴァーと、フード・ネットワークで自分の番組「エメリル」を持っている、エメリル・ラガッシの存在がその嚆矢だと思う。


こういったセレブリティ・シェフや番組、ネットワークにより、今や実力のあるシェフは、かなり注目される存在となった。一昔前までは、5大ネットワークのプライムタイムに勝ち抜きシェフ養成番組が編成されるなんて考えることもできなかったのに、今ではゴードン・ラムジーがホスト役の「ヘルズ・キッチン」はFOXのドル箱番組の一つだし、これを真似たブラヴォーの「トップ・シェフ」なんてのもある。


当然クッキング番組を揃えるフード・ネットワークはそれらのセレブリティ・シェフの宝庫だ。ラガッシを筆頭に、「料理の鉄人」だけでなく自分の番組も持つボビー・フレイ (「フードネイション」) やマリオ・バタリ (「モルト・マリオ」)、「エヴリデイ・イタリアン」のギアダ・デ・ローレンティスら、数多の著名シェフが名を連ねる。


そしてフード・ネットワークの名を出した場合、忘れてはならないのがこのチャンネルきっての人気者、レイチェル・レイの存在だ。レイは元々はニューヨーク近辺で食関連商品のバイヤーをしていたが、それらの機材/食材を用いて手軽に料理を作る講習会を定期的に開いていたところ、それが評判となった。30分という短時間でいかにうまく手を抜きながらしかもおいしい料理を作るかに主眼を置いたレイの著作「サーティ・ミニット・ミールズ (30 Minute Meals)」は、瞬く間に版を重ね、レイ自身も人気者になった。そこに目をつけたフード・ネットワークがレイをホストに据えて2001年から放送を開始したのが、同タイトルの番組、「30ミニット・ミールズ」だ。この番組は、うまく人々の嗜好をとらえたその内容だけでなく、レイその人のチャーミングな人柄で瞬く間に人気番組の仲間入りをした。


「30ミニット・ミールズ」の成功に気をよくしたフード・ネットワークは、即座にその姉妹編番組とも言える「フォーティ・ダラーズ・ア・デイ ($40 A Day)」を製作する。こちらはクッキング番組ではなく、40ドルという予算でいかにうまいものが食えるかを実地に試す食い歩き番組だ。ネットワークはさらに、レイがセレブリティと共に食事を楽しむ「インサイド・ディッシュ (Inside Dish)」、アメリカ中の食べ歩記「テイスティ・トラヴェルズ (Tasty Travels)」等を矢継ぎ早に製作、今では露出度という点ではレイは、エメリルや出たがりのボビー・フレイを凌ぐ、フード・ネットワーク一の売れっ子だ。その一方で著作も増え、今では十指に余るクッキング本だけでなく、ライフ・スタイルにまで手を伸ばした雑誌「エヴリデイ・ウィズ・レイチェル・レイ」も発行と、現在、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気を誇る。


こういったレイ人気に目をつけて製作されたのが、このシンジケーション版のトーク・ショウ、「レイチェル・レイ」だ。これまでだってきっと寝る暇もないくらい忙しかっただろうに、たとえ収録は一日で何本分もこなす生じゃない番組とはいえ、こんな毎日放送の自分の番組なんか持っちゃっていいのかという気もする。こないだ芸能情報番組の「アクセス・ハリウッド」か「エンタテインメント・トゥナイト」を見ていたら、レイに密着取材していて、レイはほとんど夜明けから深夜まで、寝る暇もないくらい忙しいと言いながら仕事をしていた。さもありなん。しかしそれにしてもタフだ。


「レイチェル・レイ」はステュディオ内に観客を入れてのトーク・ショウであり、これまでのようなステュディオの中外で観客ではなくカメラ相手にしゃべっていたのと同じスタイルの番組ではない。そのステュディオ内の観客席は中央にしつらえられており、その周りを囲むように、キッチンやリヴィング、ダイニングといったセットが組まれている。レイがやることに合わせてセットを移動すると、それに合わせて中央の可動式の観客席も回転して、常にレイを正面に見ることができるという仕掛けになっている。


トーク・ショウということで、番組はレイ得意のクッキングだけで1時間持たせるわけには行かない。もちろんそれが番組のメインであることは確かではあるが、ちゃんとゲストを招いてのおしゃべりコーナーや、その他のアクティヴィティのコーナーもある。因みに番組第1回のゲストは、なんと現在、アメリカを代表する日中ニューズ/ヴァラエティ番組の一つである「グッド・モーニング・アメリカ」ホストを務めているダイアン・ソウヤーで、レイとソウヤーが顔見知りだったというのは意外だった。考えたらこの番組、製作はアメリカ最大の人気を誇るトーク・ショウ「オプラ」のホスト、オプラ・ウィンフリーが代表のハーポ・プロダクションズである。ソウヤーがゲストに招かれたのは、顔の広いオプラ繋がりだろう。実際その後オプラ自身もゲストの一人として番組に登場し、話題提供に一役買っていた。


その他にも、高所恐怖症の女性と一緒にレイがスカイ・ダイヴィングに挑戦するというコーナーがあり、その女性もステュディオに招かれていた。しかし、やはりレイに対して人が持っている印象は、クッキング指南のパーソナリティであり、それなくしては番組は成り立たない。当然の如く番組の随所でレイがぱっぱと数分でできる簡単なつまみの作り方を実践していたりする。そしてこの日のメイン・ディッシュは「バルサミコ・チキン・ウィズ・ペスト・グレイヴィ」で、要するにチキン・ソテーだ。レイのクッキングは、いかに手を抜きながらおいしい料理を作るかというところに主眼があり、それはここでも変わらない。今回のポイントは、なんと7分でメイン・ディッシュを作るというものだ。そりゃもちろん、不精の人間にとっては早く料理ができることはありがたいが、早ければ早いほどいいってもんでもないと思うが。


その料理であるが、チキンをバルサミコに絡めてソテーし、ペスト・グレイヴィをかけるわけだが、そこでレイはいきなり後ろを振り返ると、作り置きしてあった自家製のペスト・ソースを取り出すのだ。それはないんではないか。フレンチとかイタリアンではペストやトマト・ソース等のソース類は重要な料理の一部のはずであり、その場で作ってもらわなければ意味がない。味の決め手となるそのソースの作り方こそを知りたいと思っている者も多いはずなのだ。今日の料理はトマト・ソースのスパゲッティですといって、シェフが瓶詰めのトマト・ソースを取り出したんでは、そんなの料理とは言わないだろう。それなのにレイは、市販で様々な種類のペストを売っているといってそれを視聴者にも勧めるのだ。むろん一晩だとか寝かしておかなければならないソースやマリネの類いというものもあるだろうし、それを作り置きしてあるのを取り出す分はしょうがないともいえるが、なんだかなあ。ちょっと違う気がする。


あとはそのペストと、バター、小麦粉を合わせて炒めてグレイヴィを作り、焼き上がったチキンの上にかけるだけで一丁上がりである。つけ合わせの野菜も、事前に洗浄されて売られているトリプル・ウォッシュのパック入りアルギュラを取り出してレモンを絞り、塩コショウしてトスするだけというお手軽さで、確かにそれだと準備は早い早い。最後にアルギュラの上にパルメザン・チーズを削りかけ、一応は見た目にも料理と言える一品が、7分どころか6分弱ででき上がってしまった。


レイのクッキングは、いかに手を抜きながら手早く見た目にもおいしそうな料理を作るかというところに特長があり、視聴者は短時間でできる料理のレシピを欲しているということは確かにあろう。しかしそれでも、肝心要のところを市販のもので間に合わせていたら、こういう番組を見る意味はないと思う。もちろんレイの他のすべてのレシピがこういう早さだけに重点を置いた手抜きレシピではなく、実際にレイがペストをはじめとする様々なソースやドレッシングを作っているのを他の番組で何度も目にしている。要するに今回は番組第1回ということで、特に早さに重点を置いたクッキングをポイントにした結果なんだろうが、しかしここまで手を抜いたなと思える料理を持ってくることもなかっただろうに。


実際の話、専門的に料理を勉強したわけではなく、自己流のレイのクッキングに対しては、業界内ではレイに対する風当たりは強かったりする。我流過ぎるというのだ。確かに訓練を受けたプロのシェフが、料理指南をする時にペストを市販のもので間に合わせるなんて考えはまずしないだろう。しかし、そうやって手を抜き、短時間でいかにもうまそうに見える料理を作るレイのやり方が受けていることも、また確かなのだ。つまり、人々が求めていたのはペストの作り方よりも、市販のペストを用いた応用例なのであり、レイのクッキング・ショウの成功は、その潜在的需要にうまく応えたからと言うことができる。


なんでも短縮して時間を節約するというレイのクッキングは、料理指南中のおしゃべりでも同じであり、わざわざエキストラ・ヴァージン・オリーヴ・オイル (Extra virgin olive oil) と何度も言うのを端折ってイー・ヴィ・オー・オー (E.V.O.O.) とする言い方がいつの間にか人々にほとんど定着してしまったのは、ひとえにレイ一人の功績である。そうやって多用する名詞を短縮することで儲けた時間で少しでも多く他のことをしゃべりまくっているという感じで、本当によくしゃべる。TVシェフは実際のシェフと違って腕だけでなく口も立たないと仕事にならないが、彼女ほど舌が回るシェフもめったにいない。


そして実際、レイがここまで広く人気を勝ち得た理由は、そういうおしゃべり好きでよく笑う彼女のパーソナリティにこそあると私は思っている。レイは、確かにいつもにこにこと陽気で可愛いが、多少オーヴァーウエイト気味だ。このくらいなら充分許容範囲、むしろぽっちゃりと可愛いと思う者も多いだろうが、スレンダー好みの私から見ると、はっきりと体重過多である。背も高くなく、正直言って服のセンスがいいとも思えない。しかしそういう些細な欠点など簡単に吹き飛ばしてしまう笑顔の魅力こそが、レイの人気の本質だろう。彼女がアメリカ人から圧倒的人気を得ているのもわかる。要するに、彼女は人をハッピーな気分にさせるのだ。あの笑顔がある限り、当分はレイの人気は安泰だと思われる。






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Rachael Ray


レイチェル・レイ   ★★1/2

 
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