航行中の超豪華旅客船ポセイドンで新年を迎えるパーティが開かれていたその時、大波がポセイドンを襲い、横っ腹にまともに波の直撃を食らった船は、こらえきれずに転覆する。ディラン (ジョシュ・ルーカス)、元NY市長のロバート (カート・ラッセル)、娘のジェニファー (エミー・ロサム)、そのボーイ・フレンドのクリスチャン (マイク・ヴォーゲル)、株ですって一文無しになったリチャード (リチャード・ドレイファス)、マギー (ジャシンダ・バレット)、その息子のコナー (ジミー・ベネット)、エレーナ (リナ・マエストロ)、ラリー (ケヴィン・ディロン) らは、逃げ道を求めて船の奥深くへと進んでいくのだったが‥‥


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「M:i:III」に続き、今夏のハリウッド大作の第2弾となる「ポセイドン」、なんといってもオリジナルの「ポセイドン・アドベンチャー」の知名度は抜群であり、また、数年前に世界中で大ヒットした「タイタニック」に記憶も新しく、しかも演出は海洋ものとしては第一人者のウォルフガング・ペーターゼン、既に昨年から劇場で中身を小出しに宣伝するティーザーは何度も目にしている。


こういう時宜に乗じたのかそれとも偶然か、昨年末はNBCまでTVでミニシリーズ版「ザ・ポセイドン・アドヴェンチャー」をリメイクして放送、おかげでかなり注目されていたはずなんだが、その「ポセイドン」、一番稼ぐはずの公開初週の興行成績は既に公開済みの「M:i:III」にまったく及ばず、翌週は今度は「ダ・ヴィンチ・コード」公開のせいもあって、さらに沈んだ。


実際「ポセイドン」は、いざ公開となって批評家評がメディアに乗る段になると、ほとんど好意的な意見をもらっていない。一般観客の意見もよくない。あの公開前の盛り上がりと思えたものはいったいなんだったんだろう。とはいえ、見た後の意見を言うと、「ポセイドン」は巷で言われているほどできが悪いわけではない。ただし、リメイクとしてオリジナルを超えたかというと、それは確かに難しいだろう。


今回のリメイクがいったいどういう経緯で具体化したかは知らないが、ペーターゼンという演出家と、「タイタニック」のヒットという2本の柱がなければこの企画は実現しなかったものと思われる。「Uボート」、「パーフェクト・ストーム」「トロイ」の海洋シーンを撮ったペーターゼンが「ポセイドン・アドベンチャー」のリメイクを撮る。もしかしたら「タイタニック」級のヒットになるかもしれない。これは確かにそそられる。ハリウッドだってその気になるだろう。


一方、ペーターゼンが「タイタニック」を冗長すぎると感じていたのは明らかである。実際私も「タイタニック」の前半は退屈と思っていた。だからペーターゼンは、よけいな枕はできるだけ取り去り、いきなりアクションに入った。「タイタニック」では船が氷山と衝突するまで2時間かかっていたものが、「ポセイドン」では必要最小限の人物紹介が終わると、すぐに大波が船を襲う。その間、わずかに15分くらいである。


それも地下で海洋火山が蠕動して、とかの前振りや思わせぶり、理由づけがあるわけではない。船長がふと顔を上げると波がもうそこまで迫っていたという感じで、本当にいきなり、ほとんどあっけないくらいの感じで大波が起こり、そして船を襲う。「タイタニック」で退屈と思うくらいじらされた経験から言うと、このあっけなさは感動的なくらいで、転覆シーンそのものよりも、見ているこちらが気持ちの準備をして身構える暇もなく、気がついたら船が転覆していたというそのことにほとんど感動してしまう。


とはいえ、そのことが一つの作品として物語を語る上で貢献しているかというと、実は疑問というのが「ポセイドン」の難しいところだ。どんなに「タイタニック」の最初の2時間が退屈といえども、その待たされてじりじりした反動で、いざ船が氷山にぶつかって傾き始めると、観客はそのアクションに釘付けになる。後半の面白さは無類なのだ。「ポセイドン」では転覆した後、生き残った乗客の一部が巨大客船の内部を右往左往しながら出口を探すというのがポイントとなる。もちろんそのシーンだって面白いのだが、オリジナルと比較すると、今度はそれらのキャラクターがいま一つ描き込まれていないため、観客は登場人物に感情移入しにくいという事態が起こる。要するに、すぐにアクションに移行して観客の興味を持続させようとした狙いが裏目に出ているのだ。


実際、オリジナルの「ポセイドン・アドベンチャー」では、アクションもそうだが、かなり人間が前面に出ていた。既に30年以上前に見たきりでそれから一度も目にしていないのだが、それでもオリジナルのシェリー・ウィンターズを忘れることのできる者はいないだろう。ほとんど見るこちらまで窒息しそうになりながらも、頑張れ、おばさんと思わなかった者はいないはずだ。そういう感情移入できるキャラクターが今回はいない。悪ぶった主人公格のディロンも、ヒロイックな元NY市長のロバートも今イチ完全にバックアップする気になれないし、クリスチャンも弱いし、事業に失敗して一度は船から海の上に身を投げようとしたリチャードは、うまく描けば頑張って再生してくれと思わせることができるのだろうが、ここではどうせあんたは一度は死んだ身なんだからと、投げやりな印象しか持つことはできない。


むろんペーターゼンのことであるから、転覆シーンそのものはかなりエキサイティングだ。それまで足の下にあったものがひっくり返って上下逆さまになってしまうという設定こそがアクションとしての「ポセイドン」の最大の魅力の一つであることはもちろんだから、そこはさすがにないがしろにはしない。ただし、転覆自体はNBCの「ポセイドン・アドヴェンチャー」あたりに較べると金をかけて念入りに描いているとはいえ、やはりそのシーン自体は数分で描き終わらざるを得ない。


また、徐々に船が傾いてきて沈没し始め、カタストロフに向かって突っ走る「タイタニック」と比較してみると、話の前半で起こってしまった転覆の後のそれからの船内行がポイントとなる「ポセイドン」では、その魅力的なシーンが前半の数分で終わってしまい、他方キャラクターに魅力がない分、後半の面白さが減殺されてしまうということは言えるかもしれない。しかし、それだって実はかなり頑張っているのだ。オリジナルを知らなければ充分楽しめることは保証する。


ところで、NBC版では、上下逆さまになった船内で、見上げると今は頭上にある床に固定されたテーブルの下に女の子が置き去りにされたままといったシーンが、ここではコナー少年を起用して同様のことをやっていた。TV版でももうちょっと一工夫すればいいのにと思ったのだがここでもほとんど同じ描き方をしていたところを見ると、たぶんでオリジナルでこういうシーンがあったんだろう。このシーンはちょっと覚えていない。


そのコナー少年であるが、実は彼を演じているジミー・ベネットを最近よく目にする。しかも結構大作に連続して出ている。昨年の「ホステージ」ではブルース・ウィリスと丁々発止とわたり合い、今年は既に「ファイヤーウォール」でハリソン・フォードと共演しているなど、誰も話題にしないが、「ポセイドン」で最も顔が売れているスターは間違いなく彼であり、文句なしに今ハリウッドで最大の売れっ子という感じだ。あの、ちょっと生意気そうなところが受けているのであろうことは間違いあるまい。


NBC版リメイクでは、船の転覆は大波によるものではなく、テロリストが船内に仕掛けた爆発物によるものである。だから転覆シーンそのものはこちらにもあるが、波が襲ってくるなどというシーンはない。一方NBCは、今月、同様のパニック大作ミニシリーズである「10.5 アポカリプス」も放映した。これは別に旅客船の転覆ものというわけではなく、大型直下型地震が米西海岸を襲うという番組なのだが、災害を描くシーンの一つとして、こちらに旅客船を大波が襲って転覆させるというシーンがある。実はこのシーンが、捨てエピソードの一つに過ぎないわりには結構よくできていた。


「ポセイドン」と何が違ったかというと、「アポカリプス」では地震のせいで大波が盛り上がってから船を襲うまでかなりの時間がある。それまでに船側でも事態に気づき、波を避けようと右往左往したり、波が徐々に船に近づいてくるというシーンが描かれる。超ロングでほとんど点景にしか見えない船に遠くから波が近づいてくる。最初は乗客の誰もそれに気づかない。だんだん近づいてくる波を移動撮影! で波と共にカメラが横移動していく。もちろんCGであり、正直ハリウッド一線級のCGと較べるとちと劣るが、それでも充分な効果を出していた。


そして波が船を直撃する瞬間には、波が船の窓を圧し破る。常套っちゃあ常套であるが、「タイタニック」で船長室の窓ガラスを突き破って海水が浸入してきた瞬間や、ヒッチコックの「海外特派員」で、やはり海に墜落する飛行機の窓を海水が圧し破った瞬間のエキサイトメントを考えると、ここは「ポセイドン」でも、船内から見た大波が襲ってくる瞬間というのが見たかったと思う。


また、今回の、大波が徐々にではなく無から突然現れたというような描き方も当然わざとで、ペーターゼンとしては、波が徐々に押し寄せてくるシーンをロングでとらえて徐々に盛り上げるというのは、彼自身が既に「パーフェクト・ストーム」でやっているからまた同じことを繰り返す気になれなかったのであろうということはよくわかる。同じことを二度やることは、彼のプライドが許さなかっただろう。とはいえ、それを言うなら「ポセイドン」そのものが昔あった作品のリメイクであるという最大の矛盾がある。


アンチ「タイタニック」として、3時間の「タイタニック」に対したったの1時間40分で同様のアクションを提出することだけに傾注したと思われる「ポセイドン」は、これらの理由のため、でき上がった作品の効果が当初予定した通りであったかは疑問であり、批評家や観客からもあまり好意的に迎えられているわけではないということになってしまった。しかし、それでもやはり見ている最中は熱中させる。成功したとは必ずしも言えないとはいえ、よけいなヒモなしでどれだけアクションを描けるかということだけに注力したペーターゼンに、実はかなり共鳴してしまうのだった。 






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Poseidon   ポセイドン   (2006年5月)

 
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