Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest   

パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト   (2006年7月)

ウィル (オーランド・ジョーンズ) とエリザベス (キラ・ナイトリー) が婚約の儀を交わそうとしていた直前、ベケット卿が横槍を入れに現れる。英国に対して罪人であるジャック・スパロウ (ジョニー・デップ) を逃がした罪で縛り首だと言うのだ。それが嫌ならジャックを捕まえろという指令でジャック探しに赴くウィルだったが、ジャックはなぜだか人食い族の首長に収まっており、ウィルはその他の手下と共に捕らわれの身となってしまう‥‥


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「パイレーツ・オブ・カリビアン」の新作「デッドマンズ・チェスト」の予告編は春先から劇場でかかるようになっていたのだが、最初それを見た時、女房と一緒に唖然としてしまった。前作が予想外の大ヒットになってしまったからだろう、今回はまったく潤沢な予算をふんだんに使えたと見えて、ちょっと見だけでも金のかけ方が半端じゃないことがよくわかる。このゴージャスさはいったいなんだ。


一方、この豪華さは一抹の不安も感じさせる。いったい、ヒットした前作は、キッチュでチープな味がかなりはまっていたからこその快作になったという感が強くあった。あれでもうちょっとマジでストーリー・ラインに力を入れ、役者がマジになって演技し、監督がマジになって演出していたら、逆にあの雰囲気を壊してしまいそうな微妙なバランスがあった。金をかけたことによってそのバランスが崩れて逆に面白くなくなったのではという懸念は決して小さくないものがあったのだ。


もちろん前作も今回も作り手は当然真面目に作っていはいるわけだが、この種の作品はそういった思い入れが勝ちすぎると、だいたいにおいて失敗する。どこかで力を抜いてもらいたいのだ。それがないと逆に笑えなくなってしまう。理想としては慢性的な資金難で問題山積みの撮影を、その場その場で機転を利かしてなんとかしのぎながらやっとのことで撮影を終えました、なんていう感じなら最高である。実際の話、前作はかなりそんな感じに近かった。ついでに言うとディズニー・ランドの「パイレーツ・オブ・カリビアン」の楽しさも、そういうキッチュでチープ (実際にかなり金はかかっているだろうが) なテイストによるところが大きい。


それが今回は金をかけた上映時間2時間半の大作になってしまった。これでは不安になろうともいうものだ。そして公開直前となり、批評家評が各種媒体を賑わすようになると、ほとんどその懸念が的中してしまったことが判明する。だいたい、どの媒体もアルファベット評価ではCかD評価、4つ星評価では★★かよくて★★1/2といったところで、そういう気がしたんだよ。私はエンタテインメント・ウィークリーのリサ・シュワーツバウムと映画を見る視点が結構似ているため、わりと彼女の意見を参考にすることが多いのだが、彼女曰く、「不愉快なくらい刺激過剰で、しかもそれから逃れる術がない -- D+」と、そこまで言うのかというくらいコケにしていた。


とはいうものの、では評が悪いから見ないかというと、この種の息抜き映画はそういう風にはならない。最初からそういう質はあまり期待していないし、この種の作品は、見終わった後でどんなにくだらなかったかということを論議し合うのも楽しかったりするからだ。もちろん本当のことを言うとできがいいのに越したことはないが、それでも見所がないわけではない。


というわけで期待半分怖さ半分、というよりも、ほとんどこれはダメだろうなと思いつつも見に行ったわけだが、うーん、案の定というか何というか、ほとんどシュワーツバウムの意見に賛同せざるを得ない。元々内容といいテーマといい、チープであるのを無理に背伸びさせたようなところにこそ魅力があった作品に、本当に金をかけると、その魅力の本質がどこかへ雲散霧消してしまったと言わざるを得ない。


その上、上映時間2時間半は、ガキ向きにしては長過ぎる、こんな展開ではガキは途中でむずかり出すはずだ、と思いながら見ていたのだが、それにしては今回は、わりと混んでいる劇場で、しかも半分以上はガキが占めているにしては、かなり場内は静かだった。最も記憶に残っているのがかまびすしいガキの泣き声だったという「ダ・ヴィンチ・コード」に較べると、この静けさは不思議にすら感じる。と思って場内を見渡してみると、ほとんどのガキどもは寝ていた。要するに、完全に最初から意味のわからなかった「ダ・ヴィンチ・コード」の場合は、最初からむずかっていたのだが、「デッドマンズ・チェスト」の場合、それなりにガキでも楽しめたりするので、最初の方のアクションとかを見て満足すると、あとはそのまま寝てしまうらしい。そう思って隣りを見ると、私の女房もすやすやと寝ていた。


もちろん金がかかっているということは、それなりに見所がないわけではなく、一つ一つのシーンだけを見ると、その絵のゴージャスさに感嘆したりもする。アクション・シークエンスも、崖っぷちで網の中に吊るされたのから逃れるところとか、あと、最後の方の転がる水車輪の上での格闘シークエンスだとか、共にどこかで見たことがあるなとは思っても、面白いことには変わりない。スティーヴン・スピルバーグだったらもっとうまく演出するだろうになんてこともこの際置いておこう。


たぶん「デッドマンズ・チェスト」の意義は、作品そのものの面白さという点ではなく、金をかけたことによってまたCGや撮影テクノロジーの進歩に貢献したことにこそあるのではないかと思える。ビル・ナイが演じたデイヴィ・ジョーンズなんて、これをわざわざナイが演じることになんの意味があるのかとすら思わせるCG厚塗りだ。近年、「キングダム・オブ・ヘブン」のエドワード・ノートン、「Vフォー・ヴェンデッタ」のヒューゴ・ウィーヴィングのように、誰が演じているかさっぱり見当もつかない役を、それ相応の役者が演じることが多い。その点、どこからがメイクでどこからが地か区別をつけにくいというか、どんな周到醜悪なメイクをしてもその人だとわからせるバルボッサを演じるジェフリー・ラッシュは、さすがと言ってしまってもいいのかどうか。


ところで、「デッドマンズ・チェスト」は公開直前にはこれまでもかというTVコマーシャルの大攻勢があったわけだが、それではオーランド・ブルームと海賊一味が命からがら人食い族から逃げ出して波打ち際でジョニー・デップを待っているシーンが使われていて、そこでブルームはデップが来るまでは待つぞと言っておきながら、そのデップの後ろを人食い族が大挙して追いかけているのを見ると、「Never mind」と大声で言って船を出そうとする。あまりにも何度もコマーシャルで見せられるので覚えてしまった。


それが実際の作品では、そのシーンではブルームは小さく「Time to go」みたいなことを呟くだけなので、おおっと思ってしまった。たぶん予告編ができた後で本編では別のテイクに差し替えられたのだろうが、ほとんどのシーンを何テイクも撮ってんだろうなと思わせた。ただでさえ2時間半の作品なのに、これではDVDは未収録部分も含めた8時間ヴァージョンになるんだろう。いずれにしても「Never mind」と「Time to go」では、私は「Never mind」の方がよかったと言ったら、うちの女房は「Time to go」のさりげなさの方がよかった、と言っていた。要するに、製作者の間でも同様の意見の交換があったに違いない。


さて、「パイレーツ・オブ・カリビアン」はオリジナルが全世界でヒットした結果、3部作として構成し直され、今回に続いて第3話の製作も決まっている。そのため、「デッドマンズ・チェスト」は話の途中で、「続く」、みたいな形で終わってしまう。私はここで「スター・ウォーズ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」よりも、「マトリックス」を思い出した。特に「マトリックス」が、第2話公開後に貶されていた展開までそっくりだ。実際の話、あれじゃあなあと思う。ディズニー戦略に乗せられて興行成績は記録を作ったようだが、しかしこれじゃあ次は大人は見に来まい。それとも子供だけを乗せることができれば、少なくとも引率する大人も劇場に足を運ばざるを得ないから、そんなことはどうでもいいのか。私としては、まず、第3部が2時間を切るかどうかが第一のポイントだな。2時間前後で仕上がっていたら、それから見るかどうかを考えよう。






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