Michael Jackson Memorial Service   マイケル・ジャクソン追悼セレモニー中継

放送局: 全ネットワークおよび主要ケーブル・チャンネル

放送日: 7/7/2009 (Tue) 14:00-17:00


内容: LAのステイプルズ・センターで行われたマイケル・ジャクソン追悼メモリアル・サーヴィスの中継。


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人はいつかは死ぬものだし、これまでにも早逝したセレブリティやアーティストの類いは枚挙に暇がない。しかし去った6月25日のマイケル・ジャクソンの訃報ほど、青天の霹靂という形容が当てはまる事件はなかった。


その日、我々夫婦は外食して、FOXの「アメリカン・ダンスアイドル (So You Think You Can Dance)」の第5シーズンのトップ16の結果発表に間に合うようにと、速攻で帰った。ほとんど9時きっかりにうちに着いて、やった、間に合ったと慌ててTVをつけると、番組プロデューサー兼ジャッジのナイジェル・リスゴーが、ファラ・フォーセットの死に関し、追悼の意を表していた。


フォーセットの訃報は既にこの日の日中には伝えられており、フォーセットとダンス番組に特に関係があるような気もしなかったが、フォーセットも芸能界の大物であったに違いなく、それはそれでまあ謹聴していた。それが段々、マイケル・ジャクソンがどうのこうのという話になり、私がダンスの魅力に憑かれたのもひとえにマイケルという存在がいたから、彼のレガシーはこれからも生き続ける云々と続くに連れて、私と女房は、なに、もしかしてマイケルに何かあった? と思わず女房と二人してTVの前に立ったまま顔を見合わせた。


そしてナイジェルのスピーチが終わり、画面が切り換わって「マイケル・ジャクソン1958-2009」と表示が出て、思わず息をのんだ。何これ、本当にマイケル死んだの? またなんで? マイケルが病気って話はまったく聞いたことなかったけど? 事故? と、いきなり今度はTVも見ながらマックを立ち上げてインターネットにアクセスする。ほとんどどの主要なニューズ・サイトは当然ながら既にマイケル死亡の記事がトップに来ている。本当にマイケルは死んじゃったのか!


それ以降のマイケルの死亡に関するニューズは、世界中のマスコミが挙ってとり上げ、世界中の音楽ファンの耳目を集めたからわざわざ私が詳述するまでもあるまい。結局死因は急性ドラッグ中毒ということで落ち着きそうで、マイケルの主治医の動向が注目されている。それにしてもまさかマイケルまでがドラッグか。死を誘引してしまうほど強いドラッグを服用しないと寝られないなんて。昨年のヒース・レッジャーといいマイケルといい、まだ若いやつらが強い睡眠薬をのんでそのまま永遠の眠りについてしまう。


その後、アメリカのTV局は地上波ネットワークだけでなく、ケーブル局も挙ってマイケル特番を放送した。それらの番組の数を見ると、マイケルへの関心の高さはオバマ大統領へのそれを軽く凌ぐと言わざるを得ない。あるいはそういう視聴者の欲求を満たすことのできるフッテージやミュージック・ヴィデオの数が多いということもある。それこそ数年前に放送されて当時かなりの話題を提供した「リヴィング・ウィズ・マイケル・ジャクソン (Living with Michael Jackson)」を筆頭に、その番組に追随して製作放送された二番煎じ番組もまた放送され、深夜はMTVやVH1、フューズ (Fuse) 等でマイケルの過去のミュージック・ヴィデオが垂れ流し状態になった。


深夜、それらのヴィデオを見るのは感慨深いものがあったが、私にとっての発見は、マーティン・スコセッシが演出した「バッド (Bad)」が、音楽になる前に冒頭に10分くらいのモノクロのドラマがあったのを初めて見たことで、知らなかった。こうやって見るとスコセッシ演出は、やはり音楽部分より冒頭のドラマ部分の方が味わい深い。


今回新しく製作放送されたマイケル関連番組の中では、NBCが朝のニューズ/ヴァラエティ「トゥデイ (Today)」ホストの一人マット・ロウアーをホストに起用し、マイケルの兄ジャーマインにインタヴュウした他、ネヴァーランドの豪邸の中の隠し部屋まで紹介し、さらにマイケルのキャリアを回顧して見せた「デイトライン (Dateline)」の2時間の特番が最もできがよく、参考になったように思う。ただしジャーマインは、ロウアーがマイケルの死因について突っ込んだ質問をすると、うまく答えをはぐらかして言質をとられるような受け答えをしなかった。とはいえ兄としてマイケルを愛している気持ちはよく伝わり、人間的にもできたキャラクターのように見受けられた。それでもマイケルを守ってやることはできなかったんだな。


黒人番組専門のBET (Black Entertainment) は毎年、恒例の黒人エンタテイナーを表彰する「BETアウォーズ (BET Awards)」を放送する。今回はこういう時期に重なったこともあって、ほとんどマイケル追悼みたいな番組になった。ホストのジェイミ・フォックスはマイケルのトレード・マークのホワイト・グローヴをはめてマイケルの曲を歌い、トリは驚いたことにジャネット・ジャクソンが出てきて謝意を述べた。


いずれにせよ、音楽性、フリーク性、数々のスキャンダルなど、どれを見ても今後マイケルを超える存在は簡単には出てきそうもない。要するに彼を超えるスターはいないということだろう。少なくとも突然の死の衝撃度という点で、唯一ジョン・レノンとは比較できるかもしれないが、せいぜいそれくらいしか思い浮かばない。


私がマイケルに親しみ始めたのは、だいたいの一般的ファンと同じく、「スリラー」からだ。とにかくあれは以降のポピュラー・ミュージックのあり方を根本的に変えた。「スリラー」以前と「スリラー」以降は、ほとんど目に見えるくらい確実に音楽のあり方が変わった。マイケルなくして今のMTVはないし、今のミュージック・ヴィデオもない。とにかくマイケル以降、その影響を受けていないミュージシャンは存在しないとさえ言える。


私が社会に出て働き始めて間もない頃、マイケルがワールド・ツアーで日本に来たことがある。今の東京ドームではなく、屋根のない後楽園球場でコンサートを行った。もうこれはマイケルを生で見るっきゃないなと思って、ちょうどその時可愛いなと思っていた女の子を誘って見に行った。その子は今頃どこでどうしているやら。コンサート自体は音楽やムーンウォークより、泣き真似をするマイケルに対して女の子がきゃー、マイケル泣かないでーと叫ぶ、どこのコンサートでもやっていたはずのシーンや、マジックもどきの消失トリック演出とかの方をいまだによく覚えている。そういう生の臨場感の方が記憶に残るのだ。それも今では20年以上も前の出来事だ。月日の経つのは速い。


マイケルは「スリラー」以降も充分魅力的なミュージック・ヴィデオで我々を楽しませてくれたが、しかしそれよりも数々の不穏当なスキャンダルの方でより耳目を集めた嫌いがあるのは、いささか残念だ。幼い頃より学校にも行かずスーパースターとして活躍してきたマイケル、望むものは金で買えさえするならほとんどなんでも手に入ったマイケル。時に信じられないほどピュアだったり変人だったりした。歪むなという方が無理だったかもしれない。


さて、マイケルの告別式/メモリアル・セレモニーは7月7日火曜日に行われた。その日は朝からどのネットワークもほぼマイケルのセレモニー一色で、特にFOXなんかは、東海岸ではまだ午前中の、マイケルの遺体を載せた霊柩車がプライヴェイトの慰霊をしていた墓地を出てセレモニー会場のステイプルズ・センターに到着するところ辺りから完全にマイケル報道のみになって、他の番組は全部キャンセルされた。


そして東海岸時間午後2時にセレモニーが始まると、4大ネットワークがすべてコマーシャル・フリーで式次第を最初から最後まで生中継した。本当にオバマの大統領就任式の時みたいな総力を挙げての中継だ。それにしても一個人の告別式のためにフリーウェイを閉鎖してパトカーの先導で会場入りする。そのための費用は当然シティ、つまり我々の税金から出ているわけで、一部やり過ぎという意見があったことは確かだが、しかしそれでもそれだけのことが必要とシティに考えさせただけでも、マイケルの影響力が知れる。


マイケルの遺体が会場に着き、セレモニーが始まってその冒頭では、まず、スモーキー・ロビンソンが壇上でダイアナ・ロスは今日姿を見せないとして、彼女から届いた弔辞のようなものを読み上げる。マイケルとロスのラヴ=ヘイト的な関係はよく知られるところであり、実際マイケルにとって実の母よりもロスの方が近しい時もあったろう。だからこそ「ダーティ・ダイアナ (Dirty Diana)」みたいな曲も生まれたのだろうが、私生活的なこと、というか個人的恨みつらみを歌にしてそれがヒットして金が入るなんて図式は、いかにもハリウッド的だ。


そのロスが式に出席しないと、周囲からまたあることないこととやかく言われることが容易に予想される。それを防ぐために、ロスが出席しない理由を認めた私信を届け、ロビンソンがそれを読み上げたのだろう。もしかしたらマイケルの母辺りと何か確執があったのかもしれないとも予想されるが、まあ部外者が人のプライヴァシーを想像してもなんの益もない。


それ以降の式次第は下記の通り:


アンドレ・クラウチ・クワイヤ「We are going to see the King」

ルシャス・スミス牧師

マライヤ・キャリー、トレイ・ロレンツ「I’ll be there」

クイーン・ラティファ

ライオネル・リッチー「Jesus is love」

ベリー・ゴーディ

スティーヴィ・ワンダー「Never dreamed you’d leave in summer」

コービー・ブライアント、マジック・ジョンソン

ジェニファー・ハドソン「Will you be there」

アル・シャープトン導師

ジョン・メイヤー「Human Nature」

ブルック・シールズ

ジャーマイン・ジャクソン「Smile」

バーニス・キング、マーティン・ルーサー・キング3世

シーラ・ジャクソン・リー議員

アッシャー「Gone too soon」

スモーキー・ロビンソン

シャヒーン・ジャファゴリ「Who’s lovin’ you now」

ケニー・オルテガ

コンサート・バック・シンガーズ「We are the world」、「Heal the world」

ジャーマイン・ジャクソン

マーロン・ジャクソン

パリス・マイケル・キャサリン・ジャクソン

ルシャス・スミス牧師


この中で私個人が特に印象に残ったのは、元NBAスター、マジック・ジョンソンの故人との逸話で二人でケンタッキー・フライド・チキンを食べに行ったという話で、この二人でケンタかというのも驚きで笑えたが、しかしケンタでチキンを食ったというのが特別なエピソードになるほど、マイケルは普通の人とはかけ離れた生活を強いられていたんだなあということもある。好きな時にファスト・フードで外食もできないような生活が、豊かで満ち足りた生活だとは到底思えない。


幼い頃から芸能界にいたために同様にそういう生活を強いられたブルック・シールズが、二人が小さかった頃の思い出を披露した弔辞もなかなか印象に残った。ジョン・メイヤーがギターのみで披露した「ヒューマン・ネイチャー」もよかった。明らかにエモーショナルだったスティーヴィ・ワンダーもまた然り。弔意の席でただ一人、生を感じさせた妊娠中のジェニファー・ハドソンも印象的だった。


しかしこの日最も印象的だったのは、マイケルの兄ジャーマインが、マイケルが一番好きだった曲だといってアカペラで歌った「スマイル」と、最後に壇上に出てきて素顔をさらして父マイケルに感謝した娘パリスのスピーチであったのは、たぶん誰にとっても同じだろう。元々ジャクソンズの一員であるジャーマインが歌がうまいのは当然だが、しかしやはりマイケルの兄なんだなと思わせられた。


パリスはこれまでほとんど一般の目から隠されていたわけだが、この日堂々と人々の目の前に現れたのは、皮肉だがマイケルが死んだことで、彼女が営利目的で誘拐される可能性がほとんどなくなったこと、パパラッチの目を気にする必要がなくなったこととも関係があろう。父が死んだことで初めて世の中と向き合えるようになったのだ。私たちにとって素敵な父でしたと言っておばジャネットに抱きついたパリスの姿は、世界中のファンの目に焼きついたことだろう。しかしジャネットがおばと言われる年齢になっていたか。


ただし、もちろん法律上はマイケルとパリスは親子だが、血が繋がっていないのは、これはもう誰の目から見ても一目瞭然だ。白人のようになったとはいえマイケルはやはり黒人だが、パリスにはその血は入っていない。マイケルの前妻デボラが人工的に妊娠したのを引き取って育てているだけだ。しかし先頃、なんとあのかつての名子役マーク・レスターが、私がパリスの本当の父だと名乗り出てきた。精子提供者として自分の実の娘の行く末が気になったらしい。マイケル絡みのメディア・サーカスを目の当たりにすれば、自分の娘がその中に巻き込まれればそりゃ誰だって気になるだろうとは思う。とにかく部外者としては、パリスと二人の兄弟が今後、普通に、すくすくと成長していくことを願うのみだ。


式次第としては、限られた時間の中でこれだけのものを作った関係者には敬意を表したい。生放送で、予行演習なぞたぶんほとんどかなわなかった中で、よくこれだけのメンツを集めてこれだけのものを作ったと思う。何よりも派手になり過ぎず、かといって暗くもなり過ぎず、自己満足に陥ることなく、敬虔な雰囲気のわりには適度のユーモア、時には前向きの印象さえ与えて締めくくった。アメリカ音楽界の底力を見た気がする。それぞれのパフォーマンスやスピーチの間が、毎回結構開いてしまったのは致し方ないところだろう。


私は式が始まってからはFOXだけを見ていたのだが、この式典は4大ネットワークがすべてコマーシャル・フリーで生中継した。後日の新聞によると、NBCはともかくABCとCBSは、メイン・ニューズ・アンカーのチャールズ・ギブソンとケイティ・コーリックがここぞとばかりに起用されて、かなりしゃべりまくっていたらしい。しかしたぶんFOXの場合はその辺に詳しいアンカーの都合がつかなかったと見えて、ほとんど解説なしで3時間をただ中継に費やした。むろんところどころ説明がないと壇上の誰が誰だかわからない時もあり、その辺は確かに説明が欲しかったところもあった。しかし大統領就任式じゃないんだから、視聴者がそれぞれ各自勝手に思うところがあってもいいじゃないか。そのことが逆に好結果を生んだように思う。








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