イーサン・ハント (トム・クルーズ) は女医のジュリア (ミシェル・モナハン) を見初め結婚するが、ジュリアには自分の本当の仕事の内容はまだ話していなかった。一方、死の商人オーウェン・デイヴィアン (フィリップ・シーモア・ホフマン) の組織に潜入していたかつてのハントの部下リンジー (ケリ・ラッセル) が、デイヴィアンに拘束される。ハントは仲間と共にリンジー奪回作戦を開始する‥‥


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ついに夏の大作シーズン到来である。この時期になると金をかけたハリウッド大作の新作が毎週のように大挙して公開されるので、楽しいっちゃ楽しいが、その分インディ映画が見れなくなって逆に鬱憤が溜まることもある。要はバランスなんだが、やはり人は開放的になる夏は、こう、スカッと頭を使わずに楽しめる娯楽作を見たいという気になるのだった。


ちょっと見てみただけでも、5月はまず第1週に「M:i:III」が公開された後、来週は「ポセイドン」、再来週は「ダ・ヴィンチ・コード」、最終週は「X-メン3: ザ・ラスト・スタンド」と、もうそれだけで5月の予定が埋まってしまう。この中ではまず「M:i:III」と来週の「ポセイドン」は外せないし、「ダ・ヴィンチ・コード」も見たいと思う。最もプライオリティの低いのが「X-メン3」なのだが、これだって他の時期にやってたら真っ先に見に行くだろう。実は「Promise」も始まるんだが、こういう作品の間に挟まれたんじゃ、霞んじゃうよなあ。


さて、何はともあれまずは「M:i:III」である。エンタテインメント・ウィークリーの今週号によると、なんでも主演のクルーズはこれで出演料1億ドル貰っているらしい。まったく想像の埒外のギャラで、これだけの額になると、もういったいどのくらい多いのかよくわからなくてコメントすらできない。


一応ビジネスとして、それくらいもらっている人間にはやらなくてはならないことがあることくらいはわかっているクルーズは、現在、公開に合わせての全米での作品プロモーションに忙しい。全米有数のマーケットであるニューヨークにも当然現れて、たった一日といえども海の上やらサブウェイやら色んなところに出没し、トーク・ショウにゲスト出演するなど、休む間もなく宣伝して回っていた。いくら商売とはいえ、人目にさらされている間はたとえどういう気分だろうといつものクルーズ・スマイルで、にこやかに笑ってファン・サーヴィスを惜しまないところなんか、さすがプロだという感じだ。


しかし、もちろん、そういう超高給とりの大金持ちの常識が、一般市民とは離れていきやすいのはどうしようもない。既にそういう兆候は昨年には現れていて、「宇宙戦争」公開時に様々なところで常軌を逸したパフォーマンスで人々を脅えさせたり逆に失笑を買っていたりした。今回はクルーズの子を妊娠していたガール・フレンドのケイティ・ホームズに、なんでもお腹の中の子の容態をスキャンするソノグラムという産婦人科の専用器械をプレゼントしたそうで、いったいいくらしたのかわからないが、当然やり過ぎとあきれられていた。あれは一応医療器械であって、素人が勝手に使いすぎると母体にも子供にもよくないのだそうだ。当然そうだろうと思う。本当に、それくらい常識を働かせてくれよ。私は特に俳優やスターのプライヴェイトの生活には興味はないのだが、このくらいのレヴェルになると誰もが話題にするので、嫌でも耳に入って来る。スーパースターも楽じゃない。


さて、第1作のブライアン・デ・パルマ、第2弾のジョン・ウーに続き、今回の「M:i:III」を監督するのは、ABCの「ロスト」、「エイリアス」等で、今やTV界のナンバー2ヒットメイカーと言って差し支えないJ. J. エイブラムスだ (ナンバー1はやはりどう見ても「CSI」フランチャイズのジェリー・ブラッカイマーだろう。) 「ロスト」や「エイリアス」では、「24」も真っ青の先の読めない展開で視聴者の頭脳に挑戦しているエイブラムスが、「M:i:III」ではそういった斬新な内容をさらにパワー・アップして観客に提出する。


実際、秘密諜報機関IMFと、そこで働く秘密エージェントのイーサン・ハントという設定は、特に「エイリアス」の、秘密機関SD-6で働くシドニー・ブリストウ (ジェニファー・ガーナー) という設定を彷彿とさせる。というか、「エイリアス」の、組織の中でも裏切り者や腹にいちもつ持つ者がいて、家族で同じところで働きながら、誰が味方で誰が敵かわからないという設定は、はっきり言って「ミッション・インポッシブル」よりさらにこんぐらがっていてわかりにくい。


実のところ、「エイリアス」はわかりにくいこの種の番組の中でもその入り組み方は群を抜いていて、途中で一度でもエピソードを見逃すと、とたんに何がなんだかわからなくなるという視聴者泣かせの番組だ。「ロスト」もある意味そうだが、確か前回見たエピソードではこいつとこいつは敵同士のはずだったが、いったいいつの間に味方同士になっているんだ? なんて極端な混乱を引き起こす点では、現在アメリカで放送中の番組で、「エイリアス」より頭を悩ませる番組はないだろう。いったい、作り手は登場人物の人間関係を本当に把握しているのかと勘ぐりたくもなる。


そういうもつれた人間関係やストーリー・ラインは、しかし、一部の熱狂的なファンにはいいが、一般的な視聴者にとっては、番組離れを起こしやすい。いったい何がどうなっているのかさっぱりわからなくなるから、それも当然だ。「エイリアス」の人気が、ある時から番組の質とは無関係に低下していったように見えるのも、そのことと無縁ではないだろう。実際、私もある時期から番組を見ることがかなり長期間にわたってぷっつりと途絶えた。いったん見なくなると、しばらくぶりに見ても何がなにやらほとんど読めないから、たぶんいったん見なくなったファンが番組に帰ってくることはないだろう。そんなこんなで結局「エイリアス」は今月最終回を迎えるというのに、視聴率的には芳しくなく、話題作りには失敗している。


とまあ「エイリアス」について長々と書いているのも、「M:i:III」が、まさしく「エイリアス」の映画版を見ているような気分にさせるからだ。主人公をガーナーではなくてクルーズが演じているだけで、ほとんど同じ作品を見ているような気にさせる。冒頭、拷問を受けるクルーズなんて、そもそもの「エイリアス」のプレミア・エピソードでそういう展開があったし、拉致された仲間の奪回なんて何度もそういうシーンを見たような気がする。飛行機を使うのも得意だし、世界中を飛び回ってのアクションの連続というのもいかにもだ。特に中国とドイツは「エイリアス」の舞台としても何度も登場している。要するに、金をかけてヴァージョン・アップした「エイリアス」が今回の「M:i:III」という印象が濃厚だ。


もちろん、そのことに対して不満はまったくない。元々クルーズ作品、特に「ミッション・インポッシブル」シリーズに対して観客が求めているものが、そういう、劇場でしか見ることのできない豪華な金をかけたアクションであるからで、しかもアクション・スターとしてかなりの部分をスタント・ダブルを使用せずに自分でこなすクルーズのアクションは、これぞいかにも生身のアクションという感じで、見ていて小気味よい。特にクルーズは、走らせるとめちゃくちゃ速く走っているように見えるという点では、間違いなく世界最速に見える。カール・ルイスよりもモーリス・グリーンよりもクルーズの方が速く走っているように見えるという希有の俳優なのだ。あのスピードだと100m6秒フラットくらいでは走っているように見えるんだが。チータと一緒に走らせてもいい勝負するんじゃないか。


出演者ではクルーズ以外に唯一全シリーズに出ているヴィング・レイムズの他、新チーム・メンバーにマギーQと、昨年のCBSのミニシリーズ「エルヴィス」でエルヴィス・プレスリーに扮した他、ウッディ・アレンの「マッチ・ポイント」と、最近なにかと見る機会の多いジョナサン・リス-マイヤーズ、それにエイブラムスの出世作となった「フェリシティの青春」に主演していたケリ・ラッセルが出ている。悪役を演じるのは「カポーティ」の記憶もいまだに新しいフィリップ・シーモア・ホフマンで、嫌らしさを前面に出させると、相変わらずうまい。今回ハントのラヴ・インテレストとなるジュリアに扮しているのは、「スタンドアップ (North Country)」の鉱夫 (婦) 役も悪くなかったミシェル・モナハン。


最近、ハリウッド映画だけではなく、TVですら中国や香港、シンガポール等の東南アジアを舞台とするシーンをよく見る。ただ舞台とするだけでなく、街中でアクションも撮っていることが特色で、今回も上海の繁華街でのカー・チェイスや、高層ビルを舞台とした派手なアクションがある。こういう映画の舞台として登場することで、中国はだんだんと開かれ、映画先進国として確立していきそうな印象を受ける。たとえ「SAYURI」が上映禁止になろうと、思ったより速い速度で中国映画界は前進している。要するに、やはり街中での撮影が危険だとか困難だとかいう理由で撮影許可の申請をすべて却下していたら、進歩はあり得ないのだ。


かつて紛うかたなき映画大国だった日本が過去30年くらい沈滞していたのは、スタジオ・システムの崩壊というよりも、その結果としてゲリラ撮影以外街中で映画を撮影することができなくなり、作り手の身動きがとれなかったことが最大の理由だったんじゃないかと私は思っているのだが、「M:i:III」を見て、またそんなことを思った。少なくともほんの少し自治体と一般の人々が理解を示してくれれば、日本はまた復活するんじゃないか。その一端が、今夏公開される日本を舞台とした「ワイルド・スピードX3 Tokyo Drift」で、いったいトーキョーがどれくらい被写体としての魅力を巻き散らしているかによって判明するはずと思っているのだが、さてどうなるか。トーキョーを舞台とした派手なアクションを、「ゴジラ」のミニチュア製のトーキョー以外で見たいと思っているのは、決して私だけではないと思う。







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M:i:III   ミッション・インポッシブル III   (2006年5月)

 
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