放送局: ABC

プレミア放送日: 8/4/07 (Sat) 22:00-23:00

製作: スターズ・メディア、インダストリー・エンタテインメント、リユニオン・ピクチュアズ

製作総指揮: キース・アディス、アンドリュウ・ディーン、ブラッド・メンデルスゾーン、ジョン・ハイド

共同製作総指揮: ミック・ガリス、サム・イーガン

ナレーション: スティーヴン・ホーキング


「ア・クリーン・エスケイプ (A Clean Escape)」原作: ジョン・ケッセル; 監督: マーク・ライデル; 出演: ジュディ・デイヴィス、サム・ウォーターソン

「ジ・アウェイクニング (The Awakening)」原作: ハワード・ファスト; 監督: マイケル・ペトローニ; 出演: テリー・オクイン、エリザベス・ローム

「ジェリー・ワズ・ア・マン (Jerry Was a Man)」原作: ロバート・ハインライン; 監督: マイケル・トールキン; 出演: アン・ヘイシュ、マルコム・マクドウェル

「ザ・ディスカーディド (The Discarded)」原作: ハーラン・エリスン; 監督: ジョナサン・フレイクス; 出演: ブライアン・デネヒー、ジョン・ハート、ジェイムズ・デントン


以下未放送

「リトル・ブラザー (Little Brother)」原作: ウォルター・モーズリー; 監督: ダーネル・マーティン; 出演: クリフトン・コリンズJr.、キンバリー・エリース

「ウォッチバード (Watchbird)」原作: ロバート・シェックリー; 監督: ハロルド・ベッカー; 出演: ショーン・アスティン、ジェイムズ・クロムウェル


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通常、アメリカではネットワークにおいて新番組が土曜夜に編成されることなぞない。数年前まではそういうこともあることはあったが、少なくとも現在では、わざわざ大金をかけて製作した番組を、週で最もTV視聴人口の少ない土曜夜にわざわざ編成しようと考える者はいない。ケーブル・チャンネルですら、最近では土曜に新番組を編成しようとは考えない。


その土曜夜10時という、考えうる限り最も虐げられている時間帯に編成されたこの「マスターズ・オブ・サイエンス・フィクション」がどれほどABCから期待されていなかったかは、最初から火を見るより明らかだった。作ってみたはいいが、できあがったものに落胆し、しかし、放送しないままお蔵入りさせたり、ホーム・ページでストリーミング提供するだけではもったいないと考えたネットワーク幹部により、なんとかあてがわれたのがこの土曜夜10時枠だったのだろう。


それだけでも番組関係者にとっては結構屈辱だと思えるのに、この番組、一話完結の6話ものオムニバスとして製作されているのに、放送されたのはそのうちの4話だけだった。実際の話、あの視聴率では救いようがあるまいと思えはしたが、しかし、実のこの番組、内容や製作者/関係者の名前を見ると、かなりそそるものがあるのだ。


番組は著名なSF作家の短編を映像化したものであり、放送された4話の原作は、ジョン・ケッセル、ロバート・ハインライン、ハワード・ファスト、ハーラン・エリスンとなっている。実は私はそれほどSFは得意というわけではなく、ハインラインとエリスンしか知らなかったのだが、それでもハインラインは十代の頃にわりと読んだし、エリスンは、こちらは逆に二十歳を越えてから読んだ。いまでもハインラインの「夏への扉」は傑作と思っているし、文体だけできりきりするヴァイオレンスを感じさせてくれたエリスンには衝撃を受けた。さらに放送されなかった分には、アメリカではかなり有名なハード・ボイルド作家のウォルター・モーズリーなんて名前も入っている。やはり気になるのだ。


その上、番組内に姿を現すわけではないが、あの人工音声でナレーションを担当しているのは、かの世界的宇宙物理学者のスティーヴン・ホーキングなのだ。本物である。ホーキングの写真を番宣用としてABCが利用しているくらいだから偽者ではあるまい。あのホーキングがTVのSF番組でナレーションをしている。これには結構本気で驚いた。せいぜい番組の冒頭と仕舞いに一言二言警句めいたものを述べるだけだが、しかしいったい誰が口説いたものやら。どうやら製作者がかなりマジであることだけは間違いあるまい。因みに、私は「ホーキング、宇宙を語る」でホーキングをいったい何を言っているのかさっぱりわからなかった。



さらに各エピソードに出ている面々、演出もなかなかのメンツを揃えている。第1話「クリーン・エスケイプ」は基本的に主人公二人による室内劇という印象が濃厚なのだが、その二人を演じているのはジュディ・デイヴィスとサム・ウォーターソン、演出は「ローズ」のマーク・ライデルだ。デイヴィスは今夏もUSAの「スターター・ワイフ (Starter Wife)」でエミー賞のTV映画/ミニシリーズ部門で助演女優賞を獲得したばかりだし、ウォーターソンも相変わらずNBCの「ロウ&オーダー」で健在だ。


そのデイヴィスが演じるのは精神科医、ウォーターソンはどうやらその患者であることが見ているうちにわかってくる。どうもある時を境にウォーターソンの記憶はぷっつりと途切れてしまったらしい。一方、デイヴィスの方はどうやら不治の病に冒されているようで、これ以上時間をかけてウォーターソンを見る余裕のないデイヴィスは、ショック療法に出て、ウォーターソンが実は何者でなぜここにいて、なぜデイヴィスと相対しているのかということを理解させようとする。そこで明らかになった真実とは‥‥という話だ。デイヴィスは最近の得意技で首筋引き攣らせての熱演、一方ウォーターソンは近年、「ロウ&オーダー」の印象しかなかったから、ふうん、こんな役もできるのかと改めて感心した。



第2話「アウェイクニング」に出ているのは、これまたABCの「ロスト」で今年のエミー賞ドラマ部門の助演男優賞をとったばかりのテリー・オクインと、これまた「ロウ&オーダー」のエリザベス・ロームだ。イラクで米軍兵士が地球外生命体と遭遇するという話である。もちろん番組が放送された時点ではデイヴィスもオクインもまだエミー賞を受賞してはいないが、期せずして受賞者が二人も入ってしまうところが、ちゃんと旬というか実力のある出演者を選んでいると言える。



第3話「ジェリー・ワズ・ア・マン」には、アン・ヘイシュとマルコム・マクドウェルが出ている。裕福なカップル、というかヘイシュが人間のように接している雑事用アンドロイドが犯罪者として糾弾される。果たしてアンドロイドが自らの意志で犯罪に加担するのかという話で、ハインラインのオリジナルではチンパンジーだった主要キャラクターをアンドロイドにしているというのが今風。


しかしこの話で最も印象的なのはアンドロイドのジェリーではなく、共にあんたたちの方こそのっぺりしてそのままでもアンドロイドみたいだという印象を禁じ得ない、ヘイシュとマクドウェルの二人が人間というところにある。要するに主要キャラクターは皆人間であろうとアンドロイドみたいなのだ。どう見てもこのキャスティングは意図的だろう。



第4話のエリスン原作の「ディスカーディド」は、視覚的には最も強烈だ。なんせその内容というのが、畸形のために宇宙船に幽閉されたまま宇宙を彷徨う者たちの話なのだ。主人公のブライアン・デネヒーは腕がむちゃくちゃ変形して太い。ポパイというか、最近の例では「ファンタスティック・フォー」のリーダー格のリードが腕をでかくしてハンマーにしたという感じか。しかしデネヒーはまだいい。一応主人公格だから体型はまだしも顔はまだ普通だ。これが他の者になると身体中ハリネズミ状態だったりうろこが覆っていたりする。


極めつけはジョン・ハートで、なんと肩に自分とまったく同じ顔をした人面瘡を担いでいる。しかもそいつが本人同様にしゃべるのだ。本気で気持ち悪い。「エイリアン」といい今回といい、よほど体内に異物を抱える役をあてがわれやすいらしい被虐的体質を持つ俳優の筆頭だ。因みに「デスパレートな妻たち」のジェイムズ・デントンも、顔はともかくお腹にみみずばれを抱えた異形の者として登場する。エリスンは脚色も自分自身で行っているのだが (共同脚色は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のジョシュ・オルソン)、当然、決してハッピー・エンドになんかならない。



以上、放送されたものだけでも、できや好き嫌いはともかくとして、誰でもなんらかの興味は惹かれると思う。放送されなかった2本の「リトル・ブラザー (Little Brother)」と「ウォッチバード (Watchbird)」も、前者の主演は「カポーティ」「シーフ」「バベル」等で脇ではあるが印象を残したクリフトン・コリンズJr.、後者は「ザ・ロード・オブ・ザ・リングス」のショーン・アスティン主演といえば、それなりの磁力を発揮するだろう。それなのにこの2本は未放送のままお蔵入りになり、今後も放送される見込みはない。すぐにDVDが発売になるとは思うが、SFファンはがっかりだろう。


この番組、最も印象が似ているのは、かつての王道を行くSFドラマの先駆けであり頂点でもあった「トワイライト・ゾーン」、および「アウター・リミッツ」だ。毎回、謎が解明され一つの事件が終わったりしても、それで話は終わりではないみたいな印象や、考え落ちのような余韻がそっくりだ。特に近年、ペイTVのショウタイムが製作したリメイク版「アウター・リミッツ」は、カラー版、1時間枠と同じ体裁なこともあって、非常によく似ている。ついでにそのショウタイムが2年前に製作したホラー・アンソロジー・シリーズの「マスターズ・オブ・ホラー」ともなにやら感触が似ている、と思っていたら、その「ホラー」製作のミック・ガリスが「サイエンス・フィクション」でも製作を務めていた。


思うに、現代ではこういう、アクション重視ではない思索型SFというのは向いてないのだろう。放送されたエピソードを見ての印象を挙げるとするならば、現代文明に対する皮肉とか将来に対するペシミズムとかになると思う。「クリーン・エスケイプ」や「ディスカーディド」に横溢しているのは、まずなんといっても舞台となる一室や宇宙船からカメラがほとんど出ることのない閉塞感なのだ。印象としては実は舞台劇を見ている感覚に近い。これではTVに娯楽を求めている視聴者はまず見まい。いったん見始めると、先が気になって途中で止められないんだが。 






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Masters of Science Fiction


マスターズ・オブ・サイエンス・フィクション   ★★★

 
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