長らく連絡もとっていなかった妹ポーリーン (ジェニファー・ジェイソン・リー) の結婚式に出席するために、マーゴ (ニコール・キッドマン) は息子のクロード (ゼイン・パイス) を連れて帰郷する。しかし一目妹の婚約者のマルコム (ジャック・ブラック) を見たとたん、マーゴはこの結婚に気に入らないものを感じてしまう。それだけでなく、マーゴは自分自身の結婚生活でも問題を抱えていた‥‥


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たまたまニコール・キッドマンの出演作「マーゴ・アット・ザ・ウェディング」と「ライラの冒険 黄金の羅針盤 (The Golden Compass)」が同時公開されている。ファンタジーものには近年ほとんど食指をそそられないのだが、なんとなく「ライラ」なら見てもいいかなと思っていた。クラシック作品の映像化とか先端技術の粋を凝らしたゴージャスなCGによる映像美だとかいうよりも、「インベージョン (The Invasion)」で共演しながらも足蹴にされたが「カジノ・ロワイヤル」でスターの仲間入りを果たしたダニエル・クレイグが、今回は役の上でもキッドマンとタメを張っているっぽく、さて、どのようにキッドマンとやり合っているかということに興味を惹かれたのだ。


実はたとえクラシック作品といえども「ライラ」は読んでなく、どうしてもCGではなく生身の人間の駆け引き、演技、表情の方にこそ関心がある。そしてやはり、いざ公開が始まって予告編がTVで流れるようになると、「ライラ」は段々見る気が失せてきた。本当に近年、ファンタジーものには惹かれない。それで結局、「ライラ」と「マーゴ」、どちらにしようかと軽く悩んだ末、やはり「マーゴ」になった。「マーゴ」が特に誉められているとかいうわけでもないのだが、「マーゴ」監督のノア・バウムバックの「イカとクジラ (The Squid and the Whale)」はわりと評価が高かったのだが見てなかったので、今回はでは見てみようかなと思ったのだ。


それにしても「ザ・スクイッド・アンド・ザ・ホエール」だと何も感じないのに、「イカとクジラ」だとまったく別の作品のように感じてしまうのはなぜか。別に意図的に意訳したとかいうのでもなく、単純に日本語に置き換えただけでこれだけオリジナルのタイトルと印象ががらりと変わってしまうのも珍しい。イカとクジラは日本ではどちらかというと酒の肴的な印象があるからか。


話を元に戻して「マーゴ」だが、主人公のマーゴはそれなりに知られた作家であり、著作もいくつかある。そのマーゴの長らく連絡を絶っていた妹のポーリーンが結婚することになり、マーゴは一人息子のクロードを連れて帰省する。連絡はしたものの、本当に来るとは思っていもいなかったマーゴが帰ってきたのでポーリーンは喜び、マーゴも久しぶりの再会を祝うが、しかし、むろん二人の喜びは長くは続かず、いたるところで衝突を繰り返すマーゴの性癖は、やはりここでも問題を引き起こすのだった‥‥


主人公マーゴを演じるのがキッドマン、妹のポーリーンを演じるのがジェニファー・ジェイソン・リーだ。因みにリーは実生活ではバウムバックの奥さんでもある。そのポーリーンの結婚相手マルコムに扮するのがジャック・ブラックで、基本的にドラメディのこの作品の多少は捻った笑いの大部分はブラックが担っている。実はそれ以外にも、ほとんどノー・クレジットに近い扱いで、マーゴの旦那さん役でジョン・タトゥーロ、出版関係者としてシアラン・ハインズが顔を出しており、結構驚いた。特に今年はTV、映画を問わずかなり色んなところでタトゥーロを見ており、色々と頑張っているようだ。


この作品ではマーゴの帰省する田舎が、背景に海を持つなど視覚的に印象的であるだけでなく、独特の気だるさ、開かれた雰囲気を持つなど、重要な舞台装置となっている。フェリーに乗って向かったりするところを見ても、たぶんマーサズ・ヴィンヤード近辺だと思うのだが、この辺には実際に行ったことがあるわけではないのでよくわからない。それよりもそのことで思い出すのは、フェリーで島と行き来するというほとんど似たような背景の作品「黙秘 (Dolores Claiborne)」にリーが出ていたことで、かなり両作品が被る。


「黙秘」はスティーヴン・キング原作ということもあり、基本的にミステリ仕立てで「マーゴ」とは異なる。しかしリーが「黙秘」では作家、というかライターを演じ、今回はキッドマンがやはり作家であるなど、重要な設定で共通する部分があるために、どうしても思い出さざるを得ない。両作品で二人ともほとんど故郷を捨てたような形で長らく帰っていなかったものが、しばらくぶりで帰省してくるのだ。そこはたぶん夏の盛りには避暑客で混雑するだろうが、そういう時期も過ぎてそういった観光地に特有の祭りの時期が去った後の気だるい雰囲気が漂っている。その感触がそっくりだ。避暑地での出来事、ポーリーンという名前からして、バウムバックがエリック・ロメールの「海辺のポーリーヌ」を多少なりとも意識したことはまず確実だと思うが、それよりも類似性は「黙秘」の方にこそ多いと思う。


キッドマンは相変わらず売れっ子の所を見せており、ここ数年、ずっとハリウッド大作とインディ実験作に交互に出る、という感じが続いている。「マーゴ」と「ライラ」以前は、ハリウッド大作の「インベージョン」、その前が「毛皮のエロス (Fur)」、その前が「奥様は魔女」、「ザ・インタープリター」「記憶の刺 (Birth)」と、だいたい交互に大作と小品が並ぶ。こういう風に選べるのも、途切れなくオファーが舞い込んでいる証拠だし、キッドマン自身にとっても色々と冒険ができて幅を広げられる上に、インディ製作側としては知名度の高い人気俳優を使え、ハリウッドとしても、それでキッドマンが今度は何かの賞でも受賞したりしてくれると箔がついて、こちらも願ったりかなったりだ。とはいえ、理論上はいいこと尽くめだが、やろうと思ってもそれを実現できるのは、ハリウッド広しといえどもキッドマンと、男優ではジョージ・クルーニーくらいしかいまい。


「インベージョン」、そして「マーゴ」と来て気づくのは、あのキッドマンがここでは2作連続して共に男の子の母親役を演じていることで、可愛いキッドマンという印象が濃厚だったキッドマンが、母親役をやるようになった。もちろんそれこそ二人の子の母親役だった「アザーズ」という作品もあったわけだが、ここへ来て、子供がいるのが当然という感じで連続している。


それも「インベージョン」の場合は子供はまだいたいけという形容詞がつくような可愛い男の子で、キッドマンが母性本能を全開して子供を守る、みたいな役だったが、「マーゴ」では息子はロウ・ティーンくらいで、ちょっと色気がつきかけてきた息子から、「昨日マスターベーションしてたでしょ」と問いかけられ、一方でその息子に対し、エッチする時はちゃんとコンドームを使いなさいよと注意する母でもある。キッドマンがそういう年頃の息子を持つ親の役をやるようになったかと驚いた。あのキッドマンが、どんなしかめ面をしようと可愛い女優は得としか思えなかったキッドマンが、うざい可愛くない表情も垣間見せるのだ。


その子クロードは、ああいう美しい母親がいることが結構自慢でもあり、一方でうざくもある。そしてまた、実はマーゴもまだ子離れができていない。冒頭、たぶんニューヨークからマーゴとクロードの二人が帰省先へと向かう列車に乗っているシーンから作品は始まるのだが、その列車の中で既にマーゴは多大なストレスとプレッシャーをクロードにかけていることが見てとれ、クロードは連結器のところで大声を出してストレスを発散しなければならない。それなのに自分は息子のことを愛して息子のためになら何だってやると思っている。「イカとクジラ」も自己欺瞞、自己満足の親とそのために苦しむ子供たちを描く作品であったらしいのだが、どうやらバウムバック自身の過去が投影されているのは間違いないような気がする。


私はこれが初めてのバウムバック作品だったので彼の顔はまったく知らなかったのだが、なんとなく捻ったユーモアの使い方が、特に似ているとはいえないがなんとなくウェス・アンダーソンを思い出させるなと思っていた。そしたら、後で調べてみると、実際に彼らは顔がかなり似ている。ついでに言うとアレクサンダー・ペインにもどことはなしに似ている。フィジカルに顔だけでなく、なんだか彼らって名前まで似ているような気がするのは気のせいか。  







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Margot at the Wedding   マーゴ・アット・ザ・ウェディング    (2007年12月)

 
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