放送局: サンダンス

プレミア放送日: 6/21/2007 (Thu) 22:00-23:00

製作: マイケル・グリーソン、ピーター・ヴァン・フック

監督: A. J. ジャンケル


内容: 世界のミュージシャンをロンドンの伝統あるアビー・ロード・ステュディオで演奏させる。


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ロンドンのアビー・ロードといえば、誰でも真っ先に連想するのはビートルズだろう。解散直前のビートルズが録音した同名アルバムは、クラシック・アルバムとしていまだに人気があるし、ビートルズが録音に使用したEMIステュディオは、その後アビー・ロード・ステュディオとして世界的に有名になった。ビートルズの4人がステュディオ前の横断歩道を歩いているアルバム・ジャケットを見たことのない者は、ほとんどいないと思われる。


アビー・ロードという名の威光は、当然ミュージシャンにだっておよぶ。たぶん世界中のミュージシャンのほとんどは、この伝統あるステュディオでプレイしたいと思っているだろう。少なくともここでプレイしてみないかという誘いがあれば、まず断る理由はあるまい。そういうわけで企画され、実現したのが、この「ライヴ・フロム・アビー・ロード」だ。


視聴者にとってこの種の企画の最大のメリットは、それまではほとんど耳にすることのなかったミュージシャンを発見する機会があることにある。だいたい、私も含め一般的な音楽ファンというものは、音楽のリスニング・パターンができ上がっている。私の場合、既に自分が持っているCDおよびiPodシャッフルを繰り返し聴くか、TVの音楽チャンネルを聴くことが最も多い。車に乗っている場合はプリセットしてあるFMステーションを順繰りに聴く。それに深夜のMTV系のミュージック・ヴィデオを加えたくらいが、基本的な私の音楽ソースだ。


最近ではインターネット・レイディオのパンドラを覚え、これは便利だと、オフィスで私以外誰もいない時などに聴くようになった。特にパンドラは、iTunes/iPodに勝るとも劣らぬこの10年で最大級の音楽関係の発明だと思う。便利な世の中になったものだ。


それまではこれまで知らなかった新しいアーティストの発掘には、アマゾンでさわりだけを聴くか、特に日本の曲を聴きたいという場合、ブック・オフのCDの3ドル安売りコーナーに行って、とにかく手当たり次第に10、20枚くらいをまとめ買いし、それを地道に聴いて当たりを探すという手間隙時間のかかるアナログ的な方法が関の山だった。なんせ他に日本の曲を聴く伝手というものがほとんどなかったのだからしょうがない。


この、手当たり次第CD購入方式のデメリットは、まるでカン頼みなので一曲目の出だしの3秒を聴いただけで失敗した、もう聴きたくないという大外れをつかむ時がままあることだが、数多の失敗を経て当たりを手にした時の喜びは非常に大きいものがあるので、こういうアナログ的音楽漁りもやめられない。こうやって具島直子も大木彩乃も櫛引彩香も中谷美紀も発見した。


いずれにしても、CD1枚3ドルというのはでかい。30枚買っても90ドル、1万円しない。失敗してもほとんど懐は痛まない。こうやって知ったアーティストは次からちゃんと本人に印税も入るようにできるだけ定価で買おうと努力しているので、こういう二次転売店の存在価値はちゃんとあると思う。ニューヨークのブック・オフが潰れないことを祈る。


TVに目を転じた場合、こういう様々なアーティストをピックアップして紹介してくれるという点で私にとってこれまでで最も役立ったのは、以前PBSが放送した「セッションズ・アット・ウエスト・フィフティフォース (Sessions at West 54th)」で、特にこれまで一度も耳にしたことがなかったルーファス・ウェインライトをこの番組で発見して以来、この種のアーティスト紹介ガラ的な番組は、時間の許す限り見るようにしている。どこに私にとっての宝物が転がっているかわからないからだ。


ほとんど終盤に近づいた「ライヴ・フロム・アビー・ロード」をここまで見ての感想を言うと、この番組は、私にとってはほとんど未知のアーティストを発見する番組とはならなかった。その最大の理由は、やはりパンドラやアマゾン、iTunes等の普及により、好みの音楽を聴く機会、新しいアーティストを発見する機会が以前とは比較にならないくらい増大したために、ほとんどのアーティストを既に知っていたということがまず第一にある。最初に「セッションズ・アット・ウエスト・フィフティフォース」を見た時に、ほとんど知らないアーティストばかりで楽しんだのとは、今回はかなり印象が違う。


第二に、現代の音楽環境ということを抜きにしても、番組の人選がかなり既に知られている有名どころに集まっていたということもある。どちらかというと、そういうある程度は知られているアーティストに、アビー・ロードでプレイする機会を与えるというのが番組の趣旨だろうから、それは当然とも言える。それはそれで番組として面白いのも確かだ。


番組はだいたい、毎回3、4人ずつをフィーチャーし、アーティストによっては1曲、だいたい2、3曲を歌わせ、短いインタヴュウというかモノローグが挟まるという構成をとっている。アーティストによってはゲストが加わったりもする。番組第1回の最初に登場するのはジョン・メイヤーで、それで既になんとなく番組の人選の方向性といったものが見える。メイヤーなら私も「ルーム・フォー・スクエアス」と「コンティニュアム」を持っているが、メイヤーって、不思議と聴くともなく曲が耳に入ってくるとすごく面白いと思えるのに、さあ聴くぞと思って真面目にCDに耳を傾けたりすると、特に面白いとも思えなかったりする。こういう風に感じるのはオレだけかと思って女房に訊いたら、彼女も私とまったく同じように感じていたそうだ。メイヤーが最も新鮮に聞こえるのは、シャッフルで聴いてまったく予期しない時に曲が聞こえてきた時、ということで私たち夫婦の意見は一致した。まったく不思議なアーティストである。


第1回の二人目のアーティストがリチャード・アシュクロフトで、これはいかにもロンドンのアビー・ロードで撮っているという感じの人選だ。3人目がノラ・ジョーンズで、やはり埋もれている才能あるアーティストというよりも、既に名の売れた中堅どころに目配せしているという印象が強い。それはそれでもちろん面白いし、こういう番組では、普段はピアノを弾いている姿しか見たことのないジョーンズが、ギターを抱えて歌うのを見れるのもうれしい。しかも身体に較べてギターの方がでかいと感じさせ、その格好がしっくり来ないのもおかしい。本人がギターがそれほどうまくないのを認めており、ピアノの弾き語り用の歌を作る時に較べて、ギター用の曲を作る時はコード進行が簡単なものになると言っているのを聞いて、さもありなんと思う。


番組第2回はスノウ・パトロール、マデリーン・ペイルー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズで、ペイルーが実際に歌っているのを見るのはこれが初めて。それよりもスノウ・パトロールのゲスト・シンガーとしてルーファス・ウエインライトの姉のマーサが出てきた時は驚いた。レッチリはもう大御所という感じ。


第3回はザ・ズートンズ、ショーン・コルヴィン、ネリーナ・パロー、レイ・ラモンターニュ。ズートンズも実際にプレイしているのを見るのは初めてで、いや、あのサックスのねーちゃん、綺麗だなと思ってしまった。コルヴィンは何年か前の「サニー・ケイム・ホーム」しか知らないが、またその曲を一曲だけ歌っていた。パローも「アイダホ」一曲だけで終わらなければいいが。ブルーズ/カントリー系のラモンターニュはまったく知らなかった。こういう新しい発見こそ醍醐味。


第4回はナターシャ・ベディングフィールド、ジプシー・キングス、アイアン・メイデン。ベディングフィールドもレイディオだけでしか曲を聴いたことがないので、これを見るまでは「アンリトゥン (Unwritten)」を歌っているのがこういう人だとは知らなかった。わりと今風の人だったんだな。ジプシー・キングスって、世界中を回ってツアーしているはずなのに、いまだに英語をしゃべらない (しゃべろうという気がない?) というのが不思議。彼ら以外のヨーロッパのアーティストならまずほとんど誰でも片言くらいは英語しゃべるのに。アイアン・メイデンは、まあわからないではないが、いくらなんでもオールド・タイマー過ぎないかと思っていたら、演奏が始まったら楽しんでしまった。私の場合はたぶんにかなり郷愁も入っているが、今の若い人にも結構受けているようなことを言っていた。


第5回はエイモス・リー、ジョー・サンプル/ランディ・クロウフォード、デイヴィッド・ギルモア。リーも知らなかった。ラモンターニュもそうだし、次の回に登場するリアン・ライムズもそうだが、結構アメリカのソウル、ブルーズ、カントリー系にも目配せしている。舞台がロンドンでも製作にアメリカのサンダンス・チャンネルがタッチしていることも人選に関係しているのだろうか。特にカントリーってアメリカだけの音楽だと思われがちだが、英国でもよく聴かれているようだ。考えたらニック・ドレイクだって私の耳から聴くとカントリーに聞こえるが、彼はイギリス人であるわけだし。カントリー・ポップというよりもフォーク・ポップという感じで浸透しているんだろう。


ところでサンプルは、クロウフォードと一緒になんと懐かしの「ストリート・ライフ」をプレイしていた。かれこれ20年くらい前、クルセイダーズとして来日してよみうりランドで公演した時もこの曲をやっていたのを思い出した。うわあ懐かしい。考えたらあれは今流行りのサマー・フェスの走りみたいなもんだった。サンプルは今マイケル・ブブレが歌ってヒットしている「フィーリング・グッド」もやっていたのだが、派手にアレンジしていたため、一瞬この曲だと気づかなかった。本人も楽しそうだったがクロウフォードはもっと楽しかったみたいで、もっとやろうもっとやろうとしきりに訴えていた。ギルモアの人選も、まあ場所柄もあろうが、こないだのライヴ・アースではアメリカのニュー・ジャージーでのコンサートにロジャー・ウォーターズが出てきたりしていたので、いまだにピンク・フロイドの後光というのは強いようだ。


番組のその後の人選を記すと:

第6回: Dr. ジョン、リアン・ライムズ、マッシヴ・アタック

第7回: ジェイムズ・モリソン、クレイグ・デイヴィッド、デイヴ・マシュウズ

第8回: ジャミロクワイ、ダミアン・ライス、グー・グー・ドールズ

第9回: クークス、ウィントン・マルサリス、ミューズ

第10回: カサビアン、ジョシュ・グローバン、ザ・グッド・ザ・バッド・アンド・ザ・クイーン

第11回: ポール・サイモン、コリンヌ・ベイリー・レイ、プライマル・スクリーム

第12回: ザ・フィーリング、ナールス・バークレイ、ザ・キラーズ


という風になっている。こないだライヴ・アースを見て発見したパオロ・ヌティーニあたりが入ってれば面白いと思ったんだが、彼はニュー・フェイス過ぎるようだ。現時点では第8回まで放送されており、それ以降の回では、これまた初めて聞くカサビアンってのはバンドか? ジョシュ・グローバンなんてのがここにいる理由は? ポール・サイモンのゲストとしてアート・ガーファンクルがいれば面白いのに、などとやはり興味は尽きない。


トリがキラーズってのは、まあわからないではない。しかし第1回でアシュクロフトを出したからには、オエイシスとか、それこそコールドプレイを呼んでもよかったのでは、あるいはもう彼らは大物過ぎるか、そういえばライスはいまだに昔使っていたと思われるぼろぼろの古いギターを弾いていたが、こないだNBCの「トゥナイト」を見ていたら、今夏アメリカで「ONCE ダブリンの街角で」がヒット中のグレン・ハンサードが、やはり映画でも使われていたぼろぼろのギターを抱えて共演のマルケータ・イグロワと共に出ていたな、などと連想は留まるところを知らないのであった。どんなにインターネット・レイディオやCDを聴き込んでいても、音楽にも百聞は一見にしかずという点は確かにある。    









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Live from Abbey Road


ライヴ・フロム・アビー・ロード   ★★★

 
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