放送局: MNTV (マイ・ネットワークTV)

プレミア放送日: 9/4/07 (Tue) 21:00-21:30-22:00

製作: ラングリー・プロダクションズ、コートTV

クリエイター/製作総指揮: ジョン・ラングリー、モーガン・ラングリー


内容: アメリカ各地の刑務所の中にカメラを送り込んで囚人の様子をとらえる。


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FOXは1986年に放送を開始した、アメリカではどちらかというと新参の部類に入るネットワークだ。今でこそ「アメリカン・アイドル (American Idol)」みたいな大型人気番組があって若者に人気があり、UPN、WB (後に統合してCWとなった) なんてFOXより新しい新ネットワークができたため、既にヴェテラン・ネットワークのような印象を受けたりもするが、しかしやはり今でもアメリカのマスコミや古い業界人からは、この青二才、みたいな言われ方をされたりする。


その放送開始時になにはともあれFOXを牽引したのが、お下劣シットコムとして名高い「メアリード・ウィズ・チルドレン (Married with Children)」(だからFOXがバカにされたりもするのだが) とアニメーションの「ザ・シンプソンズ (The Simpsons)」、そして90年代に入ってからは「ジ・X-ファイルズ (The X-Files)」、そして21世紀に入っての「アメリカン・アイドル」が、FOXを代表する番組と言えよう。


そしてここで忘れてならないのが、FOXを陰で支えてきた縁の下の力持ち的存在である2本のリアリティ・ショウ、「アメリカズ・モスト・ウォンテッド (America's Most Wanted: AMW)」と「コップス: 全米警察24時 (Cops)」だ。「AMW」が始まったのが1988年、「コップス」が1989年であり、両番組共視聴率では常に上位にいる番組というわけではないが、非常に根強いコアのファンを持ち、現在でも途切れることなく放送が続いている。これに同様に89年から放送されている「シンプソンズ」を加えた3番組が、FOXの長寿三羽烏番組だ。


このうち「AMW」と「コップス」は、「AMW」が犯罪を犯して現在も逃亡中の人間についての情報提供を視聴者にお願いするというもので、聞いただけだと単なる時間潰しのワイド・ショウ的な印象を受けるのだが、実際にこの番組を見た視聴者からの通報や情報提供、タレ込みにより逮捕される犯罪者が跡を絶たず、番組はその筋から表彰されていたりする。ちゃんと真面目な番組なのだ。実はこの番組は、かつて自分自身も犯罪に巻き込まれたことがあるホストのジョン・ウォルシュの存在が大きくものを言っている。ウォルシュはその後シンジケーションでもトーク・ショウの「ザ・ジョン・ウォルシュ・ショウ (The John Walsh Show)」のホストを一時期務めていたが、こちらの方は短命に終わっている。


そしてもう一方の「コップス」は、こちらは癖のある脱力お笑い系のリアリティ・ショウとして、これまた根強い人気を誇る。全米のパトカーや警らの警察官にカメラマンを同道させ、彼等が犯罪者、と言うにはおこがましいほどのけちな法律破りの小者を逮捕したり諭したりする様を追う。ごくごく稀にいかにも真面目な捕り物やアクションを見せないこともないが、だいたいはしょうもない犯罪者のずれ具合を見て、罵倒して楽しんでいる視聴者の方が圧倒的に多い。この番組を基にコメディ・セントラルがパロディの「リノ911 (Reno 911)」を製作し、さらに映画の「リノ911: マイアミ (Reno 911: Miami)」すら公開されているくらいだ。ウィル・スミス主演の「バッド・ボーイズ」だって、「コップス」の影響なしでは考えられない。本家本元の「コップス」がどれだけ視聴者に定着しているかがわかる。


そして今、その「コップス」のプロデューサーらが新しく製作するのが、この「ジェイル」だ。もう、そう言っただけで、「コップス」を見たことがある者ならほぼ番組の中身が想像できると思うが、実際その通りである。たぶんあなたが想像したそのままの番組が、この「ジェイル」だということにほぼ間違いない。掛け値なし、「コップス」でやっていることを単純に刑務所の中に持ち込んだ番組、つまり、今度はカメラが全米の刑務所の中に入っておマヌケな囚人の模様をとらえるのが、ずばり「ジェイル」なのだ。


とはいえ、刑務所の中をとらえるとはいっても、本当に何年も収監中の人間だとか、いわゆるデス・ロウと呼ばれる死刑判決を受けた者がいるようなところまでカメラを持ち込むわけではない。そうなると「コップス」のような軽い笑いをもたらすような番組ではなく、かなり重たいムードをまとってしまうだろう。第一、そこまでは許可が下りるとも思えない。そうではなく、「ジェイル」では、もちろん短期長期で収監中の囚人にも時にはスポットは当たるが、だいたいは刑務所というよりは拘置所、あるいは留置所に近い感じの場所で撮影されている。要するに、大トラとなったり暴れたりして警察に逮捕されたやつらが、一時的に頭を冷やすために連れてこられた、というシチュエイションが多い。実際に番組の冒頭にも、「逮捕され裁判で有罪が確定するまでは、すべての被疑者は無罪である」というテロップも挟まる。やはり番組を見て受ける印象は、「コップス」の延長線上にあるのだ。


番組プレミア・エピソードの最初に登場するのはフロリダのオリエンタル・ロード・ジェイルで、ストリップ・ショウで飲みすぎて踊り子に絡んだという若い白人の男が連れてこられる。この男は既に黒人の男が入っていた6畳ばかりの個室に一緒に入れられるのだが、そこで二人は喧嘩になってしまい、何人もの職員によって取り押さえられる。面白いのは、彼等が喧嘩している個室の隣りに職員が立って別の囚人と話をしているのだが、完全防音の個室のすぐ隣りで大騒ぎになっていても、その職員はまったく気がつかないのだ。逐一ヴィデオで個室の模様をモニタしていた職員が慌ててやってきてやっと騒ぎに気がつくのである。こういうところであまりプライヴァシーを尊重しても意味はないようだ。あるいはあまりにも騒がしいやつらが多いので、職員のために防音になっているのかもしれない。


その次のテキサスのグリーン・ベイ・ファシリティは、こちらは拘置所ではなく完全な刑務所で、そこで服役中にタトゥー、刺青を入れた囚人がいることが問題になる。当然だろう。刺青を彫るためにはそれなりの用具、特に針が必要だが、そういうものを獄舎内に持ち込むのが許されるわけがないのは当然だ。抜き打ちで一斉に大部屋の所持品チェックが行われ、ベッドの下等に隠されていた針や刺青用のインク等が没収される。しかし、そんなのいったいどうやって持ち込んだんだ。


3番目に登場するクラーク・カウンティ・ディテンション・センターはラス・ヴェガスにあり、これまで見たところでは、ここで撮影されたエピソードが最も面白い。やはりギャンブルの街ヴェガスに集まる者は、ヘンなやつが多いのだ。薬物の影響下で車を運転していたというケバい白人の中年女性は、なにやら職員に疑惑を持たれ、女性職員と共にカーテンを引いた中で服を脱がされて調べられる。カーテンの中で職員が、で、あんたは男なのね、という声が聞こえると、しわがれた声で、‥‥男です、と受け答えるのが聞こえる。ケバいとは思ったが、男だったのか、おまえ。しかもおっぱいつけてかつらつけて化粧して、ちんちんはそのままなのか。うーん、よくわからん。


次のやつはロシアから来たというやつとその友人というやつが二人してなにやらしょっ引かれてくる。このロシア人、ここを休憩所かなんかとカン違いしているようで、既に何度も留置の経験があるらしく、ロシアに較べればここはパラダイスだと終始へらへらしている。調書をとる段階で、どこか身体に悪いところは? 歯の調子は? と訊かれるのだが、そいつ、上の歯は右側の糸切り歯が1本金歯になっているだけで、あとは歯がまったくない。それで自分自身でその質問に受けて、「うへへ、歯に問題はないかだってよ、金歯が1本あるだけなのによ、だはははは」と一人で受けまくっていた。


また、別のエピソードでは、どうしても職員の命令に服従しなければならないことを悔しいと思っているのがありありの男が、黙って言われる通りにしていればいいものを、つい鉛筆やら何やらをそのへんに投げ捨てたのを見咎められて、おまえ、今、何やった、何投げた? と詰問され、え、オレ、何もやってないよと白を切り通そうとして態度悪しということでやはり押さえ込まれ、拘束椅子に縛りつけられて、頭を冷やすためにしばらく個室送りになった。もう、こちらもつい苦笑せざるを得ないのだが、こういう脱力笑いこそ、「コップス」-「ジェイル」の独壇場と言える。


ヴェガス編では特に女性がフィーチャーされる場合も多く、その点でもヴァラエティがあって面白い。ボーイ・フレンドに殴られたせいで暴れてDVで連れてこられた若いそれなりに綺麗なねーちゃんは、なんで私が殴られたのに逮捕されないといけないんだと暴れて、やはり手錠足枷で拘束椅子に縛りつけられる。頭から血を流しているブロンドねーちゃんは、何もしていないのに警官に殴られたと言い張り、それを確かめにいくと、案の定、酔っぱらったかなんだかで警官相手に武器を持って大立ち回りを演じて暴れたために、警官も彼女を力で押さえつけざるを得ず、その時に怪我したと知れる。しかし、番組に登場するやつらは老若男女を問わずまず第一に共通していることに、まず全員が全員、ワタシ (オレ) はなにもやっていないと言い張るのだ。本当に全員そうなのである。もちろん相手もそれは心得ているから、わかったわかった、で、何やったの、実は‥‥みたいな感じで取り調べが進む。やっぱみんなずれている。


「ジェイル」は、昨年からサーヴィスの始まった小ネットワーク、マイ・ネットワークTV (MNTV) で放送されている。MNTVは、実は昨秋、アメリカに住むスパニッシュ層相手にテレノヴェラを製作して毎夜放送するという計画を立て、手始めに「デザイヤ」、「ファッション・ハウス」なんて番組を放送、その後3サイクルばかりテレノヴェラを放送したのだが、たぶん成功は無理なんじゃないかと危ぶまれたそのままに、計画は1年も経たないうちに頓挫した。その想定視聴者層であるスパニッシュがスペイン語放送のテレノヴェラの方ばかり見て、英語版の方には見向きもしなかったためだ。


結局MNTVは針路変更を余儀なくされ、たぶんそうなるんじゃないかと最初から思われていたように、現在ではこの「ジェイル」、士官養成学校の模様をとらえた「アカデミー (Academy)」、それにプロレス中継や映画放送にコンサート中継、その他もろもろのリアリティ・ショウの再放送なんかで現在お茶を濁している、というか、立て直しを図っている最中だ。実際の話、安いテレノヴェラよりは、連続して見る必要がなく、途中から見ても楽しめるこの種の番組の方がまだましだと私も思う。






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Jail


ジェイル   ★★1/2

 
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