放送局: ショウタイム

プレミア放送日: 11/7/2004 (Sun) 22:00-23:00

第2シーズン・プレミア放送日: 4/2/2006 (Sun) 22:00-0:00

製作: ソニー・ピクチュアズTV、ショウタイム

製作総指揮: ボブ・ロウリー、スコット・ウィナン、マイク・ニューウェル、キャメロン/ジョーンズ

共同製作総指揮: タニア・セントジョン

製作: ロリ-エッタ・トウブ、ハンク・アゼリア、ナンシー・サンダース

クリエイター/脚本: ボブ・ロウリー

監督: スコット・ウィナン

撮影: ロイド・アハーン

美術: リチャード・ハドリン

編集: ブライアン・ロンドン

音楽: W. G. ウォーデン

出演: ハンク・アゼリア (クレイグ・「ハフ」・ハフスタット)、ブライス・ダナー (イジー・ハフスタット)、オリヴァー・プラット (ラッセル・タッパー)、ペイジ・ブリュウスター (ベス・ハフスタット)、アントン・イェルチン (バード・ハフスタット)、アンディ・コーノー (テディ・ハフスタット)、スウィージー・カーツ (マデリーン・サリヴァン)


物語: 精神科医のハフは実は自分の私生活に問題が山積みで、本当は人の話を聞く余裕はほとんどなかった。妻のベスは最近何かと冷たいし、弟のテディも分裂病で行動に問題がある。母のイジーはほとんどアル中で、ベスの母マデリーンはガンで余命いくばくもなかった。ハフはある日、よりにもよって親友のラッセルがイジーとベッドを共にしているシーンを目撃してしまう。ラッセルと取っ組み合いになったハフは、ラッセルを階段から突き落として危うく殺してしまうところだった‥‥


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ペイTVのショウタイムが製作放送するオリジナル番組群は、ライヴァル・チャンネルのHBOに較べると、はっきり言ってどうしても見劣りがする。HBOの「ザ・ソプラノズ」、「Sex and the City」、「シックス・フィート・アンダー」、「デッドウッド」、「アントラージュ」、「ローマ」といった堂々たる番組群と、ショウタイムの「ハフ」、「ザ・L・ワード」、「ウィーズ」といったオリジナル番組群を並べてみると、そのことは一目瞭然だ。


気がついてみると、いつの間にか始まっていつの間にか終わっているという番組が多く、そのせいもあって、私は近年ショウタイム番組にわりと無沙汰していた。そのため昨年、そのようにして見逃していた「ハフ」が、エミー賞ドラマ部門の主演男優賞 (ハンク・アゼリア)、助演男優賞 (オリヴァー・プラット)、助演女優賞 (ブライス・ダナー) の3部門でノミネートされているのを見た時には、かなり驚いた。


だって、ニールセン発表の視聴者数とかを見ると、「ハフ」は全米でいいとこ2、30万人くらいしか見ていなかったりするのだ。因みに、アメリカのナンバー・ワン番組「アメリカン・アイドル」は、毎回だいたい3,000万視聴者前後を獲得している。つまり、「ハフ」を見ている視聴者の数は、その100分の1程度に過ぎない。「ソプラノズ」だって毎回1,000万人弱の視聴者を獲得しているのだ。それなのに、「ハフ」のようなほとんど関係者しか見ていないんじゃないかと思える番組がいきなりエミー賞で数部門にわたってノミネートされると、これには驚いてしまう。


もっとも、こういう業界関係の賞は、できがよくてもあまり知られていない番組を世に知らしめるという目的もあるから、それはそれでよい。実際、関係者しか見ていなくても、できさえよければこうやって賞賛を集めて陽の目を見る可能性はあるわけだし、それによって一般視聴者がこの番組に気づき、ファンが増えるのならば、それこそご同慶の至りというものである。


ただし、業界内部の賞の弊害の一つとして、エミー賞はアカデミー賞等と同様、実際にその作品/番組の質とは関係なく、演者や作り手の業界への貢献の度合いに対して票が集まる場合がある。どんな作品にどんな役で出ていてもアカデミー賞にノミネートされたりするメリル・ストリープなど、その例の最たるものだろう。あるいは、既に賞をもらっててもいい実力があるのにまだだったりする過小評価されている役者だと、とにかく賞をもらうまでは新作が公開/放送される毎にしつこく票が入ったりする。こういう場合は、ノミネートがその人がどれだけ信頼されているかを判断する物差しとはなるが、実際に関係した作品/番組の質とはあまり関係がない。


特に「ハフ」の場合、それくさいのが助演女優賞にノミネートされたブライス・ダナーだ。周知の通り、ダナーはグウィネス・パルトロウの母であり、亡夫のブルース・パルトロウもまたTV界のヴェテランだった。ダナー自身のTV界への貢献も大きく、尊敬され親しまれている存在である。とはいえ、2002年のTV映画「ウィ・ワー・ザ・マルヴェイニーズ」でのエミー賞の主演女優賞ノミネートは、これはちょっと無理がありすぎるんじゃないのという感じが強くした。ダナーが出演するシーンはほんのわずかしかないのだ (同様にノミネートされていたボー・ブリッジスにもそれは言える。) あの番組でダナーがノミネートされるなら、さらに強い印象を残したタミー・ブランチャードがノミネートされなかった理由がまったくわからない。要は、なんとかしてダナーに賞を上げたいという意志が働いたからとしか思えなかった。


そういう業界の気持ちが最も強く出たのが、昨年のエミー賞だったと断言してしまってもいいだろう。なんせダナーは、この「ハフ」で念願の助演女優賞を獲得しただけでなく、アン・タイラー原作を映像化したCBSのTV映画「バック・ウェン・ウィ・ワー・グロウンアップス (Back When We Were Grownups)」でも主演女優賞でノミネートされており、さらにゲスト出演したNBCの「ウィル&グレイス」でもゲスト・パフォーマンス賞でノミネートされるなど、一挙に3部門で同時ノミネートされたのだ。3つとも非常にできがよかったというよりも、とにかくダナーに賞を上げておきたかったという業界の意志が働いたと考える方が無理がない。もちろん異なる3つの番組で同時にノミネートされるというのは長いエミー史上でも初めてのことであり、あまりのことにダナー自身も「ちょっと恥ずかしかった」とインタヴュウで述べていたくらいだ。


いずれにしても、そのダナーだけでなく、主演男優のアゼリア、助演男優のプラット等、主要な面々が揃ってノミネートされた「ハフ」が、エミー賞以降かなり注目を集めたのは間違いない。これは実際にある程度質もいいのは間違いないだろう。いきなり見たくなった。とはいえ、一応は録画してあった番組のプレミア・エピソードはとうの昔にリサイクルに回されていて残っていない。とはいえDVDを買うかレンタルしてまで予習復習しようという気にもならず、結局この第2シーズンが始まるのを心待ちにしていたのだった。


番組タイトルの「ハフ」は、主人公クレイグ・ハフスタットの苗字を縮めた愛称だ。彼は患者に高額の治療費を請求する精神科医なのだが、実は患者よりも自分の方が私生活に問題は多い。実際、父 (第1シーズンでトム・スケリットが演じている) はある時家族を捨てて出て行き、母はほとんどアル中同然で、弟は分裂病で発作的に母を殺そうとしたこともある。しかも無二の親友と思っていた男は母とベッドを共にしてしまう。妻は妻で義母がガンに犯され、残された時間が少ないのが明らかなためにハフにかまっている時間はない。これでは自分の方が誰かに話を聞いてもらいたいくらいだ。


母イジーを演じているのがダナーで、親友のラッセルを演じているのがプラット、そしてタイトル・ロールのハフを演じるのがアゼリアだ。要するにこの登場人物設定で連想するのは、FOXの「アレステッド・デヴェロップメント」である。あれも問題ばかり起こす周囲の者に主人公が振り回されるという内容で、結構裕福な家庭、中年の男の主人公、身勝手な母、ネジが外れている兄弟、唯一まともなのは息子だけ、という家族環境がかなりそっくりだ。特に、批評家からは誉められているけれども、視聴者からはあまり受け入れられていないというところまで瓜二つである。「アレステッド・デヴェロップメント」は結局キャンセル (正式発表はまだない) されたが、「ハフ」の行く先もちと不安になる。


「ハフ」はエミー賞効果も当然あったのだろう、第2シーズンは大物俳優のゲスト出演も予定されていて、その第2シーズン第1話のゲストは、なんとシャロン・ストーンだ。アル中で禁酒中の、いかにも西海岸にありがちな人材エージェントかなんだかの経営者で、経営詐欺がばれて訴訟沙汰になっているのを助けてもらいに弁護士であるラッセルのところに相談に来たという設定である。ストーンは昨年のジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」でもそういうコメディエンヌ・タッチの演技を見せていたが、ここでも印象としては近い。


こないだ、「氷の微笑2 (Basic Instinct 2)」で、何を今さらと批評家からも一般観客からもこてんぱんに叩かれて散々な目に遭っているストーンだが、どちらかというとこういうコメディ・タイプの役柄の方が彼女には合っているんじゃないかと思える。ただし、ここでのストーンは結局レストランでマティーニを3杯飲んでべろんべろんになり、大トラになってしまうのだが、あそこまでやるとちょっとやりすぎかという気もしないではない。これがシットコムならあのくらいやってもかまわないのだが、一応半分はシリアスなコメディ・ドラマでああいうちょっと常軌を逸した振る舞いをされるとちょっと‥‥どうせやるなら、おっぱい見せるとかパンツ見せるとかしてくれるならこちらも楽しいが、酔っているはずなのに実は右手はしっかりとスカートのすそを押さえてたりしてたんじゃ、ちょっと興ざめだ。


総じて「ハフ」に言えることは、質は高いかもしれないがちょっと地味 (ストーンが登場するシーンを除いて) ということだ。これまた「アレステッド・デヴェロップメント」を彷彿とさせる。これがHBO番組なら、もうちょっと大衆受けをする要素も加味するんだがなあと思ってしまう。要するに、こういうコメディ・ドラマはバランスのさじ加減が難しい。第2シーズン・プレミアでは、大袈裟すぎてバランスを失したと感じたストーンの出演シーンより、ガンで段々弱ってきて余命いくばくもないハフの義母マデリーン (スウィージー・カーツ) に対し、ハフがセックス・ジョークで大笑いさせるというシーンの方が、おかしくもあり感動的でもあった。もちろん、だからこそ地味と感じさせるのだが。番組には志を高く持ったまま頑張ってもらいたい。






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Huff


ハフ   ★★★

 
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