Guiding Light

放送局: CBS

プレミア放送日: 6/30/1952

最終回放送日: 9/18/2009 (Fri) 10:00-11:00

製作: プロクター&ギャンブル・プロダクションズ、RDFテレヴィジョン、CBS

番組クリエイター: イルナ・フィリップス


内容: 半世紀以上続いた最長寿TVドラマ (ソープ・オペラ) の最終回。


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アメリカには日中の暇のある奥様方を相手にする、ソープ・オペラと呼ばれる特殊な番組の形態がある。要するに色恋沙汰、恨みつらみ復讐劇や裏切り立身出世等の、ハーレクイン的題材を描く毎昼放送のドラマのことだ。そういう番組だから、奥様連中相手の日用品や化粧品を製造販売する企業が番組スポンサーにつきやすい。特に石鹸 (ソープ) のブランドが多いため、この種の番組は総じてソープ・オペラと呼ばれる。


毎日新エピソードが製作放送されるから、時間をかけてじっくりとストーリーを練ったり演技をつけたり撮り直したりなぞしている暇は到底ない。撮影は基本的にスタジオ内にセットを組んで、その中でマルチ・カメラ撮影で一気に撮る。さもなければ毎日1時間、もしくは30分のエピソードを撮り続けてなぞいられない。むろん、だからこそでき上がったものは雑で、少しでも目の肥えた者、できのいい番組を見たいと思う視聴者にはアピールしない。とにかく粗製濫造を絵にしたのがソープだ。


私は正直言って、ソープ・オペラにはネガティヴな印象しか持っていない。たまに昼間にチャンネル・サーフしてソープが映ると、ほとんど反射的にチャンネルを替える。ほんの少し、ながら視聴するだけでもつまらない、くだらないと思うし、これだけ見る価値のない番組に金と人材を投入することに対して、腹が立つというよりも悲しくなってくる。どんなに低俗なFOXやVH1が放送するリアリティ・ショウでも、まだソープよりはましだと思う。


ただし、ソープは番組としては見る価値はないが、まだ芽の出ない俳優の修行の場としても機能しているので、番組自体に見る価値はないが、存在価値がないわけではない。「ガイディング・ライト」を例に挙げると、番組からはケヴィン・ベーコン、ジョベス・ウィリアムス、ジェイムズ・アール・ジョーンズ、アリソン・ジェニー、ブリタニー・スノウ、メリーナ・カナカレデス、最近ではNBCの「ヒーローズ (Heroes)」のヘイデン・ペネティエなんて俳優が世に出ている。


私が曲がりなりにも何度か見たことのあるソープは、かつてNBCが放送していた「パッションズ (Passions)」と、ABCの「ポート・チャールズ (Port Charles)」くらいだ。両者とも話に異界の者や異形の者、魔術や呪い、超常現象が絡んでくるというところがポイントで、デイヴィッド・リンチに通じるある種のうさん臭さがわりと気に入っていた。とはいえ、どちらかというとそういう話は正統的ソープからは見れば異端であり (まあ、どこから見たって異端だろうが)、一般的ソープ・ファンには気に入られてもらえず、あえなくキャンセルされた。


因みに現在、ネットワークで放送されているソープは下記の8本だ。この中では「ザ・ボールド・アンド・ビューティフル」のみ30分番組で、あとは全部1時間番組だ。


「ガイディング・ライト (Guiding Light)」CBS

「ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス (The Young and the Restless)」CBS

「ボールド・アンド・ビューティフル (Bold and Beautiful)」CBS

「アズ・ザ・ワールド・ターンス (As the World Turns)」CBS

「デイズ・オブ・アウア・ライヴズ (Days of our Lives)」NBC

「オール・マイ・チルドレン (All My Children)」ABC

「ワン・ライフ・トゥ・リヴ (One Life to Live)」ABC

「ジェネラル・ホスピタル (General Hospital)」ABC


近年、ネットワーク全般の番組の人気が低下しているが、それは当然ソープにも及んでいる。というか、元々質の点では劣るソープがその他のケーブル・チャンネル番組の台頭によっててきめんに視聴者を失うのは、自明のことだった。そしてついに、この度その中でも最も歴史の古い「ガイディング・ライト」のキャンセルが発表された。


この番組、史上最長の放送記録を誇る番組で、その歴史はそのままTVという媒体の歴史に匹敵する。もとい、番組のそもそもの発端はそれ以前から放送されていたラジオ番組から始まるから、TVの歴史を軽く凌駕する。公式にはTV番組「ガイディング・ライト」が始まったのは、1952年6月30日のことだ。既に私の生まれる前の話である。しかし、番組としてそもそもの「ガイディング・ライト」が始まったのはさらにそれを遡ること15年、1937年1月25日にラジオ番組の第1回が放送されている。TV放送の始まった1952年から1956年までは、ラジオとTVで同時放送していたそうだ。


以来72年間の長きにわたって放送されていた番組がついに最終回を迎えた。公式発表によると全エピソード数は15,762話に達するそうだが、その数字が本当に正確かどうかはもはや確かめる術はないものと思われる。たぶん台本の通し番号とか、単純に放送が予定されていた日を足し算した結果だろうが、これまでの月日の間には、不測の事態で放送されなかった日もあるだろうし、色々とあったに違いない。


とにかくこれだけの歴史があると、様々な記録や逸話がある。なんせ番組が始まった時のオリジナル・キャストの多くは既に故人となっている。番組に出演中に亡くなった者もいる。そうすると番組の中でも死亡したことになり、新たなキャストを追加してまた番組は続いていく。一方、話の中で死亡したキャラクターが生き返るというのもよくある話で、エンタテインメント・ウィークリーによると、死亡したはずだがなぜだか生き返ってまた話に絡んだ者が15人いるそうだ。「メルローズ・プレイス (Melrose Place)」の比じゃない。話の中で3回も同じ相手と結婚離婚を繰り返したカップルもいる。半身不随や身体が麻痺して回復の見込みがなかった者が、奇跡的に回復したという例も7回あるそうで、そういう話を聞くと、正直言ってますますこんな番組見てなくてよかったとしか思えない。


最終回では番組のオープニング・クレジットで昔のタイトル・ロゴも合わせて放送していたのだが、タイトルが「ザ・ガイディング・ライト」の時も、定冠詞なしの「ガイディング・ライト」の時も両方ある。どちらかが正しいのではなく、どちらも正しいのだろう。一つしかないはずの固有名詞が一つに留まらないというのも、歴史の長い番組ならではだ。


本当なら上で番組の内容や話の流れを書くべきとも思ったのだが、なんせ70年超の番組である。ざっと話をさらうことすらほぼ不可能だ。あらすじなんてまず書けない。それでも一応は挑戦してみようと思ってそもそもの番組の発端を調べてみた。なんでも最初はシカゴ郊外のドイツ-ユダヤ系の人々が住むファイヴ・ポインツを舞台に、牧師一家を主人公とする、ソープというよりはわりと真面目な宗教色の強いドラマだったらしい。それが今では、番組のオープニング・クレジットに登場する町の名はスプリングフィールドだ。ファイヴ・ポインツから移ったのだろうか。いずれにしてもこれではまったく話を追えないので、あらすじを書くことは断念した。主人公だって二転三転しているだろうし。


番組出演者は軽く1,000人は越えているだろうし、主要登場人物ですら3桁だろう。ちょい役も含めれば出演者が万単位になるのも間違いない。それでキャラクター/俳優を書くのも諦めた。因みにIMDBを見ると、キャストの真っ先に記されているリーヴァ・シェイン役のキム・ジンマーが562エピソードに出て現在では最もヴェテランだが、それでも1983年からの登場に過ぎない。25年間番組に出ていても、やっと3分の1だ。


結局番組最終回を見ていても、誰が誰やらわからないので、何がなんだかさっぱりわけがわからなかったというのが正直なところだ。最終回ということで話の辻褄を合わせるためにいきなりこの回だけ顔を見せている者もいるに違いない。だからよけい初心者には話はわかりづらい。


おかげで目が技術的なところばかりに向かってしまい、そのため、やはりソープって安いという印象ばかりが強く残った。ソープの基本はスタジオ撮影で、そこでマルチ・カメラで時間を節約しながらどんどん撮る。しかしそれだと目の肥えた視聴者にはアピールしないので、昨年、「ガイディング・ライト」は範を破って屋外ロケーションを多用するという製作方針に改めた。これが効果ないどころか、むしろ逆効果になっている。


屋外撮影では基本的に三脚か手持ちでシングル・カメラ撮影だろうが、時間がないためにカメラの位置を変えて何度も撮り直すことができない。つまり切り返しのショットを撮っている暇がない。そのためせっかく屋外で撮影しているのに、全員をカメラ・フレームに入れるために登場人物が横一線に並んでいたり、いったん人物が配置につくと、動きがなくなる。最低限のカメラの切り返しだけで時間を切り詰めて撮影していることがよくわかる。


いったんライティング決めたらもうライト動かせないんだろうなという正面から主体の平板な照明が画面を支配しているために、絵に奥行きもない。これではわざわざ屋外に出ている意味がない。むろんセットだけとは違う背景があることの意味はゼロではないだろうが、だからといってそのあるべきメリットを充分に駆使しているかというと、それは否と言うしかない。


一方、意外に思ったのが、大人の男女の愛憎劇という先入観があったソープだが、「ガイディング・ライト」にはわりと子供も多く出てくる。歴史があるために必然的にそうなったのかもしれないし、元々がまじめな家族ドラマだったそうだから、その伝統もあるのかもしれない。番組最終回に関連した記事を読むと、最後の撮影の時は出演者全員涙涙だったそうで、それはそうだったろうなと思う。主演者なんてもう全員本当の家族のようなもんだろう。むしろ本当の家族より長い付き合いの者も多いと思われる。


最後、主要登場人物が車に乗って画面から去り、そして「The End」という70年の伝統に終わりを告げる。その時に彼等が乗っているのはメルセデスやレクサスといった高級車ではなく、古い型のフォードのピックアップ・トラックだ。どうしてもアメリカを代表する車じゃなければならなかったんだろうと思う。








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ガイディング・ライト   ★1/2

 
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