Friends with Money   セックス・アンド・マネー (フレンズ・ウィズ・マネー)  (2006年4月)

中年にさしかかった4人の女友達、フラニー (ジョーン・キューザック) は金銭面、家族、共に最も恵まれていたが、脚本家のクリスティ (キャサリン・キーナー) は最近少し同業の旦那と意見が食い違い、デザイナーのジェイン (フランシス・マクドーマンド) は何かにつけてイライラしており、オリヴィア (ジェニファー・アニストン) にいたっては失業中でメイドとしてなんとか生計を立てている有り様だった。生来お人好しで頼まれたら嫌とは言えないオリヴィアに、フラニーはブラインド・デートの相手を見繕ってやるが‥‥


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問題は今週から公開の「ユナイテッド93 (United 93)」である。今秋にはニコラス・ケイジ主演の「ワールド・トレード・センター」も公開が予定されているなど、ついに9/11を題材にした映画が公開され始めた。TVでもついこないだケーブル・チャンネルのA&Eでまったく同じ題材の「フライト93 (Flight 93)」が放送され、ほとんどチャンネル記録を塗り替える視聴率記録を達成したばかりだ。


とはいえ、基本的に面白そうだから、見たいから、興味あるから、つまりエンタテインメントというスタンスで映画を見ている私にとって、この題材は実はまだ興味本位で見るには、ちょっときついものがある。もう4年半、しかしまだ4年半なのだ。現在では生活していて特に思い出すこともなくなったが、それでも記憶はいまだにヴィヴィッドである。率先して思い出して反芻したい記憶ではない。別に知人が死んでいるわけではない私ですらそうなのだから、実際に身内や知り合いを亡くした人の場合はなおさらそうだろうと思う。うちの女房は、この映画の予告編がTVに流れるだけで目を背ける。多くの人にとって特に見たいと思える題材ではないのだ。


実はわりと批評家からは好評で、誉められていたりするのだが、しかし、本当に事件の関係者が見て発言していたりするだろうか。カリフォルニアの映画批評家とニューヨークやペンシルヴァニアに住んでいる一般市民とでは、作品の受け止め方に雲泥の差があるような気がする。私が実際に知っている人間が亡くなっているわけではないとはいえ、知人の知人くらいにならニューヨーク市民の誰でもこの事件で亡くした者を知っているはずだ。ある知人はたまたま当日トレード・センターの近くを通りがかって、火の勢いに耐えられなくなって自ら飛び降りる人間を何人も見たショックで自分の家から出られなくなり、仕事を辞めざるを得なくなった。いまだに後遺症を引きずっている人間は多い。私のオフィスがそういう細かいところまで見えるほどトレード・センターに近くなくて本当によかったと思う。


結局、私はこの映画を本当に見たいのだろうかと自問してみた結果、答えは否ということになった。悲劇的な事件だと誰もが知っていて、最後には主要登場人物の全員が犬死にしてしまうことがわかっている作品を見ようという気には、少なくとも現時点ではやはりなれない。これがケイジ主演の「ワールド・トレード・センター」なら、主要登場人物が全員死ぬわけではなく、きっといくぶんかはヒーローものになっているだろうと思え、これならまだ見れそうだと思う。しかし、よりにもよってリアリティに徹したと喧伝している「ユナイテッド93」を見て、パニック・アタックになって帰ってくる気にはほとんどなれないのだった。


というわけで、一転まるで関係のない、ハリウッドの、どちらかというと上流階級の女性4人組を主人公にした「セックス・アンド・マネー (原題: フレンズ・ウィズ・マネー)」を見に行くことにする。他にもホラーの「サイレント・ヒル」だとかアクションの「ザ・センティネル」とかいう選択肢もないこともなかったんだが、「ユナイテッド93」を見るか見ないかで悩みすぎた結果、まるで関係のないところの関係のない、怖くない話を見たくなったのであった。


実際「フレンズ・ウィズ・マネー」は西海岸のかなり裕福な4人の女性を描く話であり、ほとんど違う世界の話といっていい。みんなして寄付を募る集いで1,000ドルのディナーを食べていたりする。その中で最もお金とは縁遠いオリヴィアは、教師を辞めてから家のクリーンナップをするメイドとして働いて糊口を凌いでいるが、それだって別に生活に窮しているという感じはしない。西海岸では生活必需品とはいえちゃんと走る車を持っているし、一回の仕事で得るメイド料は50-60ドルで、せいぜい1時間、かかっても2時間しかかけていないように見える。一日数件掛け持ちすれば、楽勝以上で食っていける。しかも税金の申告するやつなんていまい。ノー・タックスだ。それで仕事場の家のベッドで、仕事そっちのけでボーイ・フレンドとセックスしていたりするのだ。同じ西海岸で、「ライズ」なんかに現れる黒人やラテン系の本当の貧窮家庭の人間から見れば、オリヴィアはまったく生活の心配のない上流の人間にしか見えまい。


しかし、ここが面白いところだが、人間の仕合わせ不仕合わせは、金のあるなしに関係ない。金は仕合わせになるために必要最小限の手段かもしれないが、それがあることが必ずしも仕合わせになることを約束するものではない。夫婦で脚本家のクリスティンとデイヴィッド (ジェイソン・アイザックス) の仲はこじれる一方だし、ジェインが最近いつも苛立っているのは、実はどうも夫のアーロン (サイモン・マクバーニー) がゲイにしか見えないことと関係あるようだ。金があればあるで、やはり生きている限り悩みの種は尽きず、その重さは金を持っているかどうかとは関係なかったりする。その一方で、4人の中で最も金持ちのフラニーは、夫のマット (グレグ・ジャーマン) および子供たちとの間に過不足なく満足のいく関係と生活を築いている。なんやかや言いつつ、やはり金はないよりはあった方がいい。


女性4人組が等分に主人公であるはずの「フレンズ・ウィズ・マネー」であるが、当然と言うか、最も仕合わせな生活を送っているフラニーに最も焦点が当たらない。不自由なことのまるでない生活にはドラマがないため、それも当然だ。そこでフラニーが、何も問題がなく不満のないというそのこと自体を不自由に感じていたら、そこからまた新しいドラマが始まるんだろうが、演じているのがジョーン・キューザックである限り、そこからコメディには行っても彼女のシリアスなドラマにはならないだろう。


そのため残り3人、クリスティンとジェインとオリヴィアに焦点が当たっている時間が多く、その中でも特にジェニファー・アニストン演じるオリヴィアにスポットライトが当たりやすいのは、やっぱり知名度というものだろう。現実に「フレンズ」というアメリカきっての人気シットコムに出演し、ブラッド・ピットというたぶん世界で最も人気のある俳優と結婚していたアニストンの知名度は、他の3人とは比較にならない。因みにマクドーマンドとキーナーは、それぞれ「スタンドアップ (North Country)」「カポーティ」で期せずして二人とも昨季のアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされているのだが、そのことを知らなくても、賞にはほとんど関係のないアニストンを知らないという者はいまい。


実際、作品のオープニングは、どこかの家でメイドの仕事をしている誰かをとらえるのだが、しばらくの間は顔を映さず、いったいこの人物は誰かと思わせといて、やっとスクリーンに現れたその人物がアニストンだったとあっと言わせる設定は、この作品を見ている観客の全員がアニストンがいったい誰かということを知っていなければまったく効果はない。むろん「メイド・イン・マンハッタン」ではジェニファー・ロペスがメイドをやっており、なにも有名女優がメイドをやることが初めてというわけではないが、しかしこの演出の仕方は、本来なら有名俳優が出るわけがないインディ映画としては反則なんではないか。


とかいう、ちらほらとこれはちょっと賛成しかねるかな、みたいな視点や演出はあっても、結局最後までつき合ってしまうのは、ここそこに共感できる部分も多いからだ。いくら最近金持ちになってきた日本人とはいえ、フラニーほどの金持ちはそうはいないと思えるが、クリスティンやジェイン・クラスの小金持ちなら結構どこにでもいるだろう。フリーターの増えた現代では、オリヴィアのような体験をしている者も多いと思われる。そのため、実はこの作品、今の日本人にはかなり通じるものがあるんじゃないだろうか。そのことを考えると、知名度のあるアニストンを起用したことは、これまで「ウォーキング・アンド・トーキング (Walking and Talking)」、「ラヴリー&アメイジング (Lovely & Amazing)」等で、アメリカではインディ作家としてはかなり知られているニコール・ホロフセナーが、やっと日本でも紹介される機会が巡ってきたという気がする。 






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