イヴニング・ニューズ

放送局: CBS

放送日: 9/5/2006 (Tue) 18:30-19:00

ホスト: ケイティ・コーリック


トゥデイ

放送局: NBC

放送日: 9/13/2006 (Wed) 7:00-10:00

ホスト: マット・ロウアー、メレディス・ヴィエイラ

共同ホスト: アン・カリー

天気予報: アル・ローカー


内容: ケイティ・コーリックがアンカーを担当するCBSの「イヴニング・ニューズ」と、メレディス・ヴィエイラが新ホストの「トゥデイ」。


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米3大ネットワークによるワールド・ニューズ関係番組は、一昨年から昨年にかけ、ことごとくアンカーが代わるという激変期を経験した。トム・ブロコウからブライアン・ウィリアムズに代替わりしたNBCの「ナイトリー・ニューズ」、ピーター・ジェニングス、ボブ・ウッドラフ/エリザベス・ヴァーガス、そしてチャールズ・ギブソンと短期間にアンカーが二転三転したABCの「ワールド・ニューズ」、そしてダン・ラザーの跡を継いだケイティ・コーリックがアンカーを務めるCBSの「イヴニング・ニューズ」である。これ以外にも、深夜のニューズ・マガジンであったABCの「ナイトライン」でもホストのテッド・コッペルが引退を表明するなど、ネットワークの報道体制は大きな転換期を迎えていた。


なかでもコーリックをアンカーに迎えた「イヴニング・ニューズ」がもっとも注目されていたのは、まず、前任のダン・ラザーは本当はもっと続けていたかったのに、自身の舌禍事件がもたらしたスキャンダルで辞めざるを得なくなったための後任探しという点で注目が集まっていたこと、その後、CBSがその人選に時間をかけて念入りに候補を絞っていたこと、決まったアンカーがコーリックというNBCの朝の人気トーク/ニューズ番組の「トゥデイ」のホストであり、それをライヴァル・チャンネルから引き抜いた上に、ネットワークの夕刻のワールド・ニューズとしては史上初めての女性単独アンカーとして据えたこと、これらのアンカー交代劇の掉尾を飾ったために注目されていたこと、等の話題性が豊富だったためである。


コーリックがホストを務めていた「トゥデイ」は過去10年、朝の時間帯のこの手の番組で一度も視聴率1位の座を奪われた試しがない。近年、ライヴァルのABCの「グッド・モーニング・アメリカ」が一時的にせよ差を詰めてきたことがあったが、結局ひっくり返すには至らなかった。その万年トップの「トゥデイ」の最大の功労者がコーリックであることは誰もが認めるところで、彼女の愛嬌のある笑顔を見てから一日を始めるという視聴者は非常に多かったはずだ。男性にも女性にも人気のあるコーリックが、史上初めてネットワークのワールド・ニューズで単独アンカーを務めるという話は、話題性としては充分以上のものがあった。


コーリックが番組を辞め、CBSの「イヴニング・ニューズ」に移るという発表をしたのは今春のことで、その後5月には「トゥデイ」の最後のホストを担当した後、3か月ほど充電期間を置き、コーリックがアンカーの「イヴニング・ニューズ」は9月5日のレイバー・デイが終わった翌日、つまりアメリカでは年度変わりの新学期が始まる日と時を同じくして始まった。


とはいえ、それまでコーリックがレーダー下に隠れていたわけではなく、取材/巡業でアメリカ各地を転々としてニューズ・ネタを拾ったり、あるいは自分がニューズ・ネタになったりして、時折マスコミを騒がせていた。その中でも最も話題を提供したのが、コーリック売り込みに余念がないCBSのPR部が、最近気持ち肥えてきたコーリックの見場をよくしようと勝手にデジタル修整して、痩せて見えるようにしたコーリックの写真を同社のPR誌に載せてしまったことにある。


元々コーリックは、アメリカの女性アンカーの中で最も脚線美を誇るということで定評があった。だからこそいつぞや深夜トークの「トゥナイト」のジェイ・レノと一度限りのホスト交換をした時も、彼女はわざわざデスクの下の覆いを取っ払って自分の足を見せびらかしていたのだ。なのに今この大事な時に、その足や可愛い顔によけいな贅肉がついてしまったことに対して、CBSが歯軋りして悔しがったことは想像に難くない。その思いが、PR部によるコーリックの容姿のデジタル修正というあるまじき行為となって噴出してしまったのだ。


これが他の番組だったら、また誰それが先走って、と鼻であしらわれてそれで終わりだったろうが、コーリックは、何よりも中立と正確が重んじられるニューズ番組のアンカーである。それなのに勝手に事実を歪曲するというこの行為が、コーリックにとっては大きなイメージ・ダウンになってしまったのは致し方ないところだ。当然他のマスコミはCBSを糾弾した、というよりも嘲笑したが、誰よりも憤慨したのがコーリック自身であったことも間違いないだろう。今さらながらCBSのPR部も自分らの仕出かした失態の大きさに気づいただろうが、覆水は盆に返らない。コーリックの「イヴニング・ニューズ」は、スタート以前に大きな傷を負った。


そのコーリックがアンカーの「イヴニング・ニューズ」の第1回は、依然として火種の尽きないイラク関係、ガソリン価格といった時事問題と共に、新しい試みとして、視聴者に自分の思っていることを吐き出させる場を提供する「フリースピーチ」コーナーが新設された。その栄えある第1回に登場したのは、「30デイズ」のモーガン・スパーロックで、彼の言いたいことは、マスコミは政治関係の報道をする時、ほとんど画一的に民主党、共和党と二分割して、誰もがどちらかに所属して相手とは相容れないみたいな報道の仕方をするが、事実はまったくそんなことはなく、マスコミは単純に事態を報道しやすく、また、世論を煽りやすいように単純化しているだけだ、というものだった。一応業界人であるスパーロックが一般視聴者と言えるかどうかはともかく、この意見には私も同意する。第1回最後のニューズは、世界の孤児たちに彼らの似顔絵を描いてプレゼントするという運動をしているアーティストの紹介で、番組はこういったヒューマン・タッチの特集を今後も続けていくことが予想される。


コーリックに代わってからの「イヴニング・ニューズ」は、最初の一週間は記録的な視聴率を獲得して、これまで常に「ナイトリー・ニューズ」、「ワールド・ニューズ」の後塵を拝して万年3位の座に収まり続けていた「イヴニング・ニューズ」が連続して視聴率トップに立ち、関係者を喜ばせた。しかし事前の注目度から言ってこうなることは当然であって、一時的な視聴率アップは誰もが簡単に予測できた。問題はその後である。10月末現在、「イヴニング・ニューズ」は当初の興奮も落ち着き、視聴率も沈静化して、また元の定位置である第3位に収まっている。


とはいうものの、三者間の差は以前ほど歴然としたものではなく、順位自体は変わらないとはいえその差は限りなく狭まっており、ちょっとした拍子に順位が入れ替わったりしている。その平均でいまだに「イヴニング・ニューズ」は3位とはいうものの、番組自体の視聴者数は以前に較べて増えており、少なくともこの展開はCBSにとっては文句はないはずだ。視聴者はまだ自分のひいきの番組を決めかねている状態であり、たぶん、三者間の評価が定まり、視聴者数が安定するのは、まだあと数か月はかかると思われる。少なくとも今回のコーリック移籍を巡る話題は、一般視聴者の目をワールド・ニューズに向けさせることに充分貢献しており、CBSにとってだけでなく、ABCにとってもNBCにとっても充分メリットはあったと言える。


コーリックは最近、デイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」にゲストとして出演していたが、そこで当然のようにレターマンから上記のデジタル修正写真について突っ込まれていた。コーリック自身、どこかでそのことについて釈明なり弁明なりせざるを得ないと思っていただろうが、まさかその話を「イヴニング・ニューズ」でするわけにも行かなかったところ、思わぬところからその機会を与えられたという感じだったのだろう。さもなければ今、劇的に忙しいに違いないコーリックが、わざわざ「レイト・ショウ」まで出張ってくるとは到底思えない。


コーリックはその写真を見せられて、自分で自分も悪くないじゃないと思ったと言っていたが、そういう風に笑いをとりながら、自分が意図したことではなかったことを視聴者にわからせ、さらにこの話題に自分で幕を引くことにも成功しており、こういう反応の仕方というか、しゃべり方はお手のものという印象を強く受けた。やはり彼女もヴェテランのプロである。考えたらレターマンは、こちらはほとんどクビのような扱いを受けたからとはいえ、コーリック同様、NBCからCBSに移ってきてんだよなあ。なんとなく共感を持っているのかもしれない。それにしてもコーリックって、アメリカ人にはわりと多いが、ストレスがかかると食うタイプなのだな。


蛇足ながら付け加えておくと、CBSはABCと並んで、深夜にニューズ番組を編成しているネットワークのうちの一つである。NBCとFOXが深夜ニューズを持たないのは、既にMSNBCやCNBCを持つNBC、FNCという現在CNNよりも人気のあるニューズ専門チャンネルを持つFOXは、深夜の時間帯といえども貴重な基幹ネットワークでわざわざニューズを編成する必要性を認めないからだろう。実際、これ以上深夜にニューズを持ってきても共食いになるだけだと思う。


そのCBSの深夜ニューズ「アップ・トゥ・ザ・ミニット (Up to the Minute)」であるが、しかし、これが実に首をひねらざるを得ない編成をされている。ニューヨークでは3時半スタート (深夜ニューズは地域によって放送時間帯が異なる) の「ミニット」は、3時開始のABCの「ワールド・ニューズ・ナウ」に較べて、多少不利だ。深夜、ただでさえ人々は半醒半眠の状態でいるのに、そういう時にニューズを見ようと思った場合、通常、アンカーが誰かということよりも、都合のいい時間にやっている番組を優先するだろう。つまり3時半から4時半までの「ミニット」より、3時から5時まで放送している「ナウ」の方が、視聴者をつかまえるチャンスは大きい。


さらに、ここが一番ネックなのだが、CBSの場合、通常放送は深夜2時に終わり、「ミニット」の始まる3時半までは、ペイド・プログラム、つまりその時間帯を第三者に売りわたした宣伝番組が放送されるのだ。近年、私がこの時間帯にたまたまCBSにチャンネルを合わせた時は、だいたいいつも、十年一日の如く株の買い方 (利殖の増やし方)、調理用品、生活便利用品、毛髪移植等の宣伝番組をやっており、しかも毎回同じ内容だ。つまり、基本的に一般的視聴者はこういった番組 (といえるのか) は見ない。したがって、その直後から始まる「ミニット」をそのまま惰性で見るという視聴者もほとんどいない。「ミニット」がニューズ目的の深夜視聴者を新規開拓できる見込みはほとんどないのである。


実は私は、毎日のローカル・ニューズは、CBSかNBCの11時からのニューズを見る場合が多い。アーニー・アナストスがCBSからFOXに移る前までなら、ほとんどアナストスとデイナ・タイラーが共同アンカーを務めるCBSのニューズを見ていたといってもいい。それでそのまま11時半からのデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」、クレイグ・ファーガソンの「レイト・レイト・ショウ」と続き、他に見るものがなければそのままだらだらとシットコムの再放送 (現在やっているのはテッド・ダンソン主演の「ベッカー」だ) を見る。


そこまではいいのだが、その後、どんなにながら視聴であろうとも、植毛法の番組なんか金輪際つけておく気になんかならない。そこでチャンネルを換えてしまうのだ。私が深夜ニューズでABCの「ナウ」ばかりを見ているのには、こういう理由がある。CBSは、たぶんいい金を出してくれるからその時間帯をスポンサーにそのまま使用させているのだろうが、この形態を改めない限り、「ミニット」に将来はないと思う。


さて、一方、コーリックの抜けた後に「ザ・ヴュウ」から引き抜かれたメレディス・ヴィエイラがホストを担当する「トゥデイ」は、9月13日にスタートした。少なくとも注目度、話題性は「イヴニング・ニューズ」と同じくらいあったはずなのに、それでも特にヴィエイラがどこで何をしているかとか、新「トゥデイ」についてコーリックほど浮いた話が伝わってこないのが、いかにもヴィエイラのキャラクターという感じがした。チャールズ・ギブソンが新しく「ワールド・ニューズ」のアンカーに就いても、誰も特にそれについて話題にすることがあまりなかったのと似たようなものだ。得なのか損なのかよくわからない。


とはいえその日の「トゥデイ」は、ヴィエイラ初登板ということで直前のニューズのキャスターたちによるカウント・ダウンで始まるなど、それなりに皆が張り切っていることが知れる。マンハッタン上空を歓迎の横断幕を掲げたセスナが飛んでヴィエイラを迎えるが、しかし、NYヤンキースのコーリー・ライドルが自家用機の事故でマンハッタンの高層ビルに激突して死亡した事故があった今では、マンハッタンの上をセスナが飛ぶのは禁止されている。その意味でもこの歓迎ぶりは記憶に残る。


ヴィエイラ自身もさすがに注目されているのがわかっているので、緊張しているのがありあり。朝のトークである「トゥデイ」は、どちらかというとホストが笑ったり泣いたりの感情を出すことによって視聴者の共感を得たりするから、特にヴィエイラもそういう昂ぶりを隠さずに共同ホストのマット・ロウアーとやりとりする。見た感じではヴィエイラは皆から歓迎されており、緊張はしているものの、既に仲間意識を確立しているという印象を受けた。元々ヴィエイラはそういう、誰とでも仲良しになれる友達作りの才能に長けたようなところがあったから、「トゥデイ」でもきっとうまくやっていけるだろう。


番組では途中、かなりの時間を割いてヴィエイラの経歴を紹介していたが、しかし、ロウアーが、昔ヴィエイラがエスクワイア誌で挑発ポーズをとった写真を持ち出してきたのにはびっくりした。80年代のヴィエイラは、実はかなりそういう進取の気性で知られていたらしい。今でこそ働く女性が妊娠すると、長期休暇をとることが当たり前になっているが、アメリカだって最初からそういうシステムになっていたわけではなかった。最初にそういうことを要求した女性に対しては当然風当たりも強かったわけで、その先陣を切った女性の一人がヴィエイラで、当時の女性はヴィエイラから大いに勇気を与えられていたということだ。ふーん、そうだったのか。私としては今の聞き上手のキャスターという印象の方が強かったわけだが、当時のヴィエイラあってこそ今の落ち着いたヴィエイラがあるんだな。


初回の内容としては、ヴィエイラは同じNBCの時事解説番組「ミート・ザ・プレス (Meet the Press)」で知られるティム・ラッセル (よく「サタデイ・ナイト・ライヴ」でパロディの対象になる) にインタヴュウするのが唯一の大きな仕事で、あとはロウアーやカリー、その他の面々との顔合わせやおしゃべりが中心だった。ロウアーの方は、教え子とセックスしたとしてスキャンダルになったどこぞの学校の女性教師に独占インタヴュウと大々的に銘打たれていたが、こちらは元祖誘惑教師のメアリ・ケイ・ルトーノーという唯一無二の存在がいるので、ほとんど興味が持てない。歳の差、本人の顔、環境、スキャンダル性、どれを見ても今後ルトーノーを超える女性教師は現れないだろう。


実はヴィエイラ、ロウアーの二人とも、3時間枠の「トゥデイ」の後半の1時間はいなくなった。最初からそういう予定だったのだろう。実際、毎朝3時間の生放送はかなり大変だろうと思う。トイレに行く暇もないくらいなのだ。それなのにNBCは今、朝のドル箱番組である「トゥデイ」を、来年から4時間枠に拡大しようとしている。実際NBCとしては、製作費をほとんど上乗せすることなく、ある程度の視聴率は最初から約束されているわけだから、そうしたくもなろう。もしそうなった場合、ヴィエイラとロウアーは最初と最後だけ出てきて、途中は交互に引っ込んで休んだり進行の点検をしたりしながら番組を進めることになるんではないか。


既にヴィエイラが新ホストに就任してから一と月半が経つわけだが、3大ネットワーク間における朝のトーク/ヴァラエティ・ショウの視聴率には、ほとんど影響が見られない。これはコーリック効果で大きく変動があった夕方のワールド・ニューズとは大きな違いだ。コーリック時代から万年1位の「トゥデイ」は、ヴィエイラ時代に入ってもやはり1位の座をキープし、続いてABCの「GMA」、大きく離れてCBSの「ジ・アーリー・ショウ (The Early Show)」という構図に、この数年間まったく変化は見られない。前シーズンに「GMA」が一時的に「トゥデイ」との差を詰めてきたという状況があっただけだ。


これは、たとえコーリックが「トゥデイ」人気を高めようとも、番組自体は半世紀も続いている長寿番組であり、既に固定視聴者層が確立していたことが大きい。むろん、その地盤をより強固にしたコーリックの手腕は認められてしかるべきだろうが、伝統の力は大きい。私の見る限り、今後も当分はこの構図はまず変わらないだろうと思う。むしろまた、ヴィエイラの「トゥデイ」が「GMA」にじりじりと差をつけ始めるんじゃないかという気がする。


ところで、ここでもCBSの「アーリー・ショウ」は‥‥なんとか梃入れしないとやばそうだ。メイン・ホストのジュリー・チェンを中心に、特に女性キャスターを揃えて女性視聴者にアピールしようと考えているのはわかるし、逆の意味で男性視聴者にもアピールするかもしれないなど、いいところついていると思う。しかし、現在、ギブソンが去ってダイアン・ソウヤーとロビン・ロバーツの二人で女性色が強い「GMA」と較べると、やはり分が悪いことは否めない。


実は「アーリー・ショウ」前身の80年代の「CBSモーニング・ニューズ」の時代に、ホストを務めていたキャスターこそヴィエイラとソウヤーであり、99年に「アーリー・ショウ」と改名した時に大枚はたいてNBCから引き抜いてきたホストは、「トゥデイ」でコーリックと共同ホストを担当していたブライアント・ガンベルだったのだが、不発に終わっている (ガンベルは2002年に番組を去っている。) ソウヤーが「GMA」に大奥然として居座り、コーリックが「トゥデイ」からいなくなった現在、少なくとも朝のニューズ/ヴァラエティで男性視聴者にもアピールしそうなのは、最も若く美形のチェンの「アーリー・ショウ」という気もしないではないのだが、そうは問屋がうまく卸さないらしい。 






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Evening News
イヴニング・ニューズ   ★★1/2
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