デザイヤ

放送局: マイ・ネットワークTV

プレミア放送日: 9/5/2006 (Tue) 20:00-21:00

製作: カークウッド・プロダクションズ

出演: ネイト・ヘイデン (ルイス)、ザック・シルヴァ (アレックス)、ミシェル・ベレグリン (アンドレア)、トミー・ダンスター (ジョージ)


物語: ニュージャージーで家族営業のレストランを開店したその日、長男でマネージャーのルイスはそれとは知らず地元のギャングのボスの愛娘とベッドを共にしてしまい、命を狙われるはめになる。命からがらLAにやってきたルイスとシェフである弟のアレックスは、母の伝手を頼ってレストランで働き始めるが、二人ともよりにもよってオーナーの娘のアンドレアに一目惚れしてしまう‥‥



ファッション・ハウス

放送局: マイ・ネットワークTV

プレミア放送日: 9/5/2006 (Tue) 21:00-22:00

製作: 20世紀FOX、ステュー・セガール・プロダクションズ

出演: ボー・デレク (マリア・ジアニ)、モーガン・フェアチャイルド (ソフィア・ブレイクリー)、ナタリー・マルティネス (ミシェル・ミラー)


物語: ミシェルは最近毎日帰りの遅い夫のランスとの間が冷め始めていると感じていた。今日も約束をすっぽかされ、モデルで友人のニッキの誘いでファッション・ショウに出かけたミシェルは、そこで一大ファッション企業のジアンニの女性社長マリアから声をかけられただけでなく、その息子で画家のルークからも見初められる‥‥


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アメリカのTV界には、創業の古いABC、CBS、NBCの3大ネットワークがある。それに比較的新参のFOXを足して4大ネットワークと言う時もあり、さらに新しいWBとUPNを足して6大ネットワークと言う時もある。厳密にはさらに、PAXやスペイン語放送のユニヴィジョンやテレムンドもネットワークなのだが、一般的にネットワークという場合、6大ネットワークまでを指した。


指した、と過去形で言うのにはわけがある。今秋、視聴者獲得に苦しんでいたWBとUPNが合併して、CWという新しいネットワークを作ったからだ。そのため現在ではネットワークという場合、通常、ABC、CBS、NBC、FOX、そしてCWの、5大ネットワークを意味する。


視聴率に苦しむTV局が合弁したり共同したりするのは当然であるが、しかし、ネットワーク同士の合弁の場合は問題が起こる。つまり、UPNもWBもこれまではライヴァル局として、同じマーケットで競い合っていた。ところが両ネットが合弁した場合、同一マーケットに同じ設備を持つ二つのTV局は要らない。どちらか一方は仕事にあぶれることになる。


そこに現れたのがFOXで、FOXはあぶれた方のTV局、ほとんどがUPNの系列局だったのだが、それを再統合して、またさらに新しいネットワークを構築した。それがマイ・ネットワークTVだ。元々UPN系列局の多くはFOX傘下だったという、部外者にはよくわけのわからない事情があったことが大きい。いずれにしてもそのためマイ・ネットワークTVは、急遽新しい自分たちの番組を構築する必要に迫られた。その結果生まれたアイディアが、アメリカ版テレノヴェラである。


テレノヴェラとは、要するにスペイン語版ソープ・オペラのことだ。アメリカ版ソープの場合だと、放送は日中で、視聴しているのはほとんどが暇を持て余している奥様方だ。テレノヴェラの場合、いくばくかの男性視聴者もついているそうだが、基本的な構造はほぼ同じと考えてもらって差し支えない。私が受ける印象としては、基本的にスタジオ内にセットを組んだマルチ・カメラ撮影のアメリカ版ソープに較べて、テレノヴェラの場合はもう少し屋外撮影も多く、話の骨格も大きいといったところか。つまり毎昼放送のソープほど安くないが、もっと金と時間をかけたプライムタイム・ソープほど高級ではない、その中間といった感じである。


いずれにしてもこの場合、製作する番組は基本的に夜8時台と9時台の2本の番組だけで事足りる (マイ・ネットワークTVのネットワークとしての番組が編成されるのは夜8-10時のみ。) そこでこれが成功してくれれば万々歳ということで企画されたのが、「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」の2本だ。両番組共、テレノヴェラを真似しているということもあるだろうが、主人公の女性にスパニッシュを起用しており、あわよくばラテン系の視聴者を取り込もうという意図が窺える。因みに「デザイヤ」の場合、コロンビアで大ヒットした番組のリメイクだそうだ。


日替わりの「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」は、毎日新エピソードが放送される。基本的に月曜から金曜まで新エピソードが放送され、土曜はその週の総集編が放送される。日曜はマイ・ネットワークTVとしての番組の放送はなく、系列局独自の番組が編成される。私が見たところ、週末は土曜にベイスボール中継があった場合は日曜に総集編が放送されたりしており、その辺の編成は柔軟に対応しているようだ。曜日がずれても、こういう番組に別に文句を言う視聴者もいないだろう。


常識で考えて、新エピソードを毎日日替わりで提供していくことは、ほとんど殺人的スケジュールであろうことは想像に難くない。週一本60分のエピソードですら、普通はどう考えても撮れるものではないのだ。だからこそアメリカのTV番組は、せいぜい年間のエピソードが20数本程度に抑えられている。むろん日中のソープは日替わりだが、スタジオ内でのマルチ・ヴィデオカメラ撮影によって何度も同じ演技をする必要がないソープと、たぶんフィルム撮影でなく時間を節約できるHDTV撮影だろうが、少なくともシングル・カメラで撮影していると思われるテレノヴェラではこの辺が異なる。どう見ても、セットもテレノヴェラの方ができがいい。


そのため「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」の場合、どんなに人気が出ようとも、番組は13週間で終わることが既に決まっている。プロデューサーやディレクター、撮影その他の製作陣は複数で持ち回りで担当するが、出演者は代役が効かないため、どこかで打ち止めせざるを得ないからだ。主人公格の出演者の場合、文字通り寝る暇もないだろうし、それ以上撮影が続いたら、どんなに若くてスタミナがあってもたぶん病院送りになるだろう。


「デザイヤ」は二人の男性の兄弟が一人の女性を愛してとり合いになるという物語だ。兄がマネージャー、弟がシェフという分担で家族経営のレストランを開店したその日、下半身のしまりのない兄が寝た相手はよりにもよってギャングのボスの愛娘だった。怒ったボスは彼らの命を狙って執拗に追いかける‥‥近年、人気のあるレストランのシェフは2流のハリウッド・スターなんかよりよほど知名度があるが、ここでも主人公は一人がシェフ、もう一人がマネージャーという設定だ。


一方「ファッション・ハウス」は、読んで字の如くファッション業界を舞台とする。前宣伝を見ていると、この種の番組ではかなりヴェテランのモーガン・フェアチャイルドとボー・デレクの二人が主人公という印象を受けるのだが、そうではなく、主役は若い俳優が勤め、要するにフェアチャイルドとデレクは知名度を利用しての客寄せ的な印象が強い。実際、いじめ役で出番の多いデレクはともかく、フェアチャイルドの方はプレミア・エピソードには一度も登場しない。この二人以外では、私が事前に名前を知っていた俳優は一人もいなかった。


この種の番組はテーマや舞台設定が使い古されているために、筋金入りのソープ・ファンを除いては、よほどうまくやらないと視聴者の新規開拓は望めない。元より私のような中年男性などターゲット視聴者層には入っていないだろうが、それにしても初めて見る番組でも、1時間もしないうちに飽きる。両番組共、主要登場人物の濡れ場から話が始まるのだが、こうまで常套であってもいいのか、せめてもう少し、なんか技巧や工夫を凝らしてもいいのではないかと思うが、やはり毎日新エピソードを製作し続けていかなければならない番組に、そこまで注文するのは無理なんだろう。


私個人の嗜好から言うと、「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」では、まだ「デザイヤ」の方が多少は面白く感じた。ギャングが絡むドンパチがあるため、少しはアクションも楽しめるからだ。それにしてもそもそもの最初の舞台がニュージャージーに設定され、そこのレストランにギャングが現れるというのは、明らかにニュージャージーのギャングを描いた「ザ・ソプラノズ」の影響だ。これが一昔前だったら、ギャングだったらマンハッタンのリトル・イタリーか、少なくともブロンクスかブルックリンあたりが相場だったのに。


一方、「デザイヤ」で致命的と思われるのは、主人公の女の子を演じるミシェル・ベレグリンがそれほど魅力的とは思えないことだ。これで相方のハンサム兄弟から同時に惚れられるというのは、かなり無理がある。この点だけは、「ファッション・ハウス」の方で主人公を演じるナタリー・マルティネスの方がポイント高い。むろん人の嗜好はそれぞれであるが。


それから、再放送がないとはいえ、両番組共、新エピソードになるとかなりの部分で前回からのクリップを多用している。時間や労力の節約になる上、いくらなんでも本当に毎日見ることのできる視聴者は限られているだろうから、見逃した部分の確認という意味でも視聴者サーヴィスになるだろう。もっとも、そういう忙しい現代人のために、最初から一週間分の総集編というのも毎週用意されてはいる。


いずれにしても、元々この種のソープソープしたものをほとんど受けつけない私から見ると、両番組共時間潰しどころか、単純に見るのが苦痛である。まだ日中のソープよりは見るべきところもあるとはいえ、それでも全体を覆うチープさ、安易さはいかんともし難い。FOXが得意とする金と時間をかけたプライムタイム・ソープのような番組にするのは最初から考えていなかったろうから、その点をあれこれ言っても詮ないが、しかし、このくらいのレヴェルの番組を毎夜見たい視聴者が大勢いるとは到底思えない。実際、これまでの視聴率を見る限り、数字は私の意見を裏書きしている。


「デザイヤ」と「ファッション・ハウス」の後、マイ・ネットワークTVは既に次のテレノヴェラとして、「アート・オブ・ビトレイヤル (Art of Betrayal)」 (のちに「ウィキッド・ウィキッド・ゲームズ (Wicked Wicked Games)」と改題) を放送することを発表している。主演はテイタム・オニールで、現在FXの「レスキュー・ミー」でトウの立ち始めたやや淫乱気味の女性を好演しているオニールが主演のテレノヴェラというと、多少は気にならないこともない。しかし、それでも、誰が主演しようと、この手の番組が視聴者を獲得するのは困難を極めるだろう。マイ・ネットワークTVは、一応代替案としてゲーム・ショウ等のリアリティ・ショウも企画しているそうだが、来年の今頃はテレノヴェラの代わりにリアリティ・ショウが編成で幅を利かせているような気がする。






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ファッション・ハウス   ★1/2

 
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